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498 2人を巻き込んでみることにした

修正しました。

魔導句 → 魔道具


「「なんじゃこりゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!」」


 ジジイ2人分の絶叫が階段前で響き渡る。


「どこだ、ここっ!?」


「どうしてこうなった!?」


『あー、うるさい』


 とりあえずギャーギャー騒ぐのをスルーして放置すること数分。

 ようやく静かになってきたので俺も喋る気になった。


「いい年したジジイどもが、みっともないったら」


「いや、そうは言うが……」


 ゴードンが消沈して縮こまっている。


「これは賢者殿の仕業か……」


 髭爺が落ち着いた振りで誤魔化そうとしている。

 が、動転したままなのは拡張現実の表示で明らか。

 それでも論理的には考えることができているようだ。


「聞かれたからには答えないとな」


 俺はポーチから薄緑の魔石を取り出して転送の魔道具である旨を説明する。


「これ、転送の魔道具の試作品。

 同じものを使って、1層の階段前まで来た」


「「なにぃいいいぃぃぃいぃぃぃぃぃっ!?」」


 ゴードンも髭爺も両目と口を開ききって絶叫するように驚いていた。


「いちいち煩いんだよ」


 両手で耳を塞ぎたくなるくらいにね。


「いい年してって言ったばっかだろ。

 驚くにしたって騒ぎすぎなんだよ」


 俺の指摘に2人してショボーンと肩を落とす。

 イタズラを見つかって教師に説教されている小学生か。


『まあ、いいさ』


 話を進めておかないことには帰れない。

 2人には転送魔道具を知ってもらった上で地元に帰ってもらわんとな。

 今後、普及させるときに宣伝してほしいから説明するんだし。


「こういうのを作らせたから実験してたのさ」


 よくよく考えたんだが流通は冒険者ギルドを通じて行うことにした。

 商人だと人を見てぼったくる奴とかいるだろうし。

 冒険者ギルドで販売するなら冒険者たちも安心して購入するはずだ。


 もともと、これで利益を出そうなんて考えていないし。

 とにかく生存率を上げたいというのがある。

 冒険者の死亡原因としてダンジョンで引き返すときに力尽きてというのが多いからな。


 アレに近いかもな。

 海水浴で沖の方へ泳いでいったら浜辺に戻るだけの体力がなくて溺れるパターン。

 己を過信している奴だけが、こんな目にあう訳じゃない。

 帰るときは倍の体力を使うという事実を実感できていない者も少なくはない。

 頭では理解していてもね。


「「いつの間に……」」


 使っていたのか、という言葉が尻すぼみに出てこなくなったのも無理はない。

 2人の前で使ったのは転送するときだけだ。

 その瞬間も梅干しの攻撃でまともに俺の方なんて見ていなかったし。

 魔道具が派手に発動し始めてようやく気付いたくらいだからな。


「俺が最後尾を歩いてたのは、このためだ」


 わざとらしいことを言って誤魔化しておく。


「なぜ言わなかったんだ。

 知ってたら、ここまで騒がんかったぞ」


 ゴードンの抗議じみた言い分に思わず溜め息が漏れてしまった。


「あのなぁ……

 これのことを知っていたら慎重に行動しなかったろうが」


「そんなことは、ないと思うぞ……」


 歯切れ悪く口を尖らせながら答えている時点でダメだろう。

 自分で認めているようなものだ。


「まったく、よく言うよ。

 今回はただでさえ暴走気味だったじゃないか」


「うっ」


 たじろぐゴードン。


「特に最後の戦闘は遭遇直後に撤退を選択するべきだったよな」


「やぶ蛇じゃ……」


 髭爺がボソリと呟いている。


「まあ、説教はパスだ」


 俺が被害を被った訳じゃないしな。

 面倒事はゴメンである。

 あからさまにホッとしている両名には些かイラッとするものもあるのだが。

 そこから簡単に使い方と注意点を説明しておいた。


「──という訳だ」


「信じられん……」


 ゴードンは呆然としていた。


「体験した以上は事実なんじゃろ」


 口では認めるようなことを言っている髭爺だが、表情は呆気にとられたときのそれだ。


「とにかく、これが完成したら冒険者ギルドで販売してもらうから」


 俺がそう告げた時の両者の反応は正反対とも言えるものだった。


「な、なにぃっ!?」


 ゴードンは目を白黒させ。


「……それがええかもしれんのう」


 髭爺は少し考え込んでから納得する言葉を呟いていた。


「おいおい、暴風の。

 それはないんじゃないか?

 魔物から剥ぎ取った素材の買い取りとは違うんだぞ。

 物を売るってのは商人ギルドに喧嘩を吹っ掛けているようなものだろう」


 ゴードンが賛同しない理由はそれだ。

 常識的な判断をしているからこそ反対している訳である。


「普通のブツはそうじゃろうて。

 じゃが偽物を掴まされたときのことを考えてみるんじゃな」


「む?」


 ゴードンが怪訝な表情を浮かべた。

 そして何かに気付いたように呆然とする。


「そういうことか……」


 不機嫌さを隠そうともせずに大きく溜め息をついた。


「そっちの方が商人ギルドと揉めそうだな。

 血の気の多い奴らが殴り込みに行きかねん」


 ゴードンも馬鹿じゃないから髭爺の言ったことが何を意味するのか理解したのだろう。


「そういうことじゃ。

 偽物を掴ませようとする輩が一定数おるからの。

 冒険者ギルドなら、その心配も無用じゃろうて」


「それにしたって揉めるだろうな」


「揉めねえよ」


 2人の会話に割り込む。


「そんな訳なかろう」


「そうじゃな、そこは解決すべき難関じゃ」


 どちらも悲観的に考えている。


「魔道具職人が商人に売らんからな。

 商人ギルドがケチをつけてきたら俺が矢面に立つし」


「「あー……」」


 ハモった2人にジトッとした目で見られてしまった。

 何をやらかすつもりか気になってしまうのだろう。

 ゴードンなどは俺が矢面に立つと聞いて顔が引きつり気味である。

 髭爺の方は、ある程度は予測していたようではあるが。


「どうせ賢者が手を回したのだろう」


「ナンノコトカナ~」


 わざとらしく棒読み風に答えておいた。

 これで今回の魔道具を作った職人は別にいると2人は思うだろう。

 なんといっても、ここは根っからの職人であるドワーフたちの街だからな。

 本当は俺が作ったものだと知ったら、どんな反応が見られるんだろうね。


 まあ、教えるつもりはないけど。

 勝手に誤解してくれる方がありがたいし都合がいい。

 ただ、問題がいくつかある。

 ここから先は【多重思考】でもう1人の俺に考えてもらうとしよう。

 俺の方は会話に戻らないといけない。


『という訳で俺よ、任せた』


『安心しろ、俺よ。

 問題点の解決案検討は任された』


 という訳で向こうの俺が考えている間に話の続きだ。


「ドワーフが売らんと言うなら商人は引っ込むしかなかろう」


 ゴードンが頷きながらそういった。

 しかしながら表情は険しい。


「だが、不満は蓄積していくぞ。

 がめつい連中なら圧力をかけてくるだろうな」


「心配いらないよ」


「なんでだ?」


「そういう連中は冒険者が輸送の護衛を引き受けなくなるからな」


「どういうことだ?」


「少しは考えろよ。

 ダンジョンで命張って戦っているのは冒険者なんだぞ」


「そりゃあな」


 考えろと言われたせいか歯切れが悪い。


「この魔道具は間違いなく命綱になる」


 重々しい雰囲気を出して頷いているが、あれは深く考えていない顔だ。


『まったく……』


 面倒なので指摘せず、話を先に進めることにした。


「安価で間違いのない品を手に入れるルートが潰れると知って黙っていると思うか?」


 簡易転送の魔道具は武器や防具、その他の消耗品とは訳が違う。

 そういった品々にも粗悪品が混じることは少なくないが見極めることはできるからな。

 変なものを掴まされるのは二流以下と見られても仕方ないという風潮もあるし。


 だが、それらとは異なり透かしだけが見極める手段となれば話は変わってくる。

 誰にも見極められない転送の魔道具だけは特別扱いになるだろう。

 己の命が掛かっているのだ。

 安心できる所から購入したいと思うのは当然のことである。

 妨害者に手を貸す者がいれば潰されるのがオチだ。

 金がなくても護衛は断るだろう。


「それを知った他の商人は冒険者の方につくだろうな」


 冒険者が顧客の大半を占める商売人は多い。

 彼等が丸々いなくなると利益を出せなくなる所なら、ほとんどがそうだろう。

 考えなしにゴネるような輩は商人ギルドさえ敵に回すことになりかねないのだ。

 そういう連中は犯罪者であることが多いから俺が潰すという手も使えそうだし。


「おまえ、えげつないな」


 ゴードンは呆れのこもった溜め息をついていた。


「心外だな。

 まるで俺が策を巡らせたみたいじゃないか。

 向こうが勝手に自滅していくだけで俺は何もしないぞ」


「………」


 沈黙と共にジト目で見られてしまう。


「そういう訳だから細かいことは考えなくていいんだよ」


「大物だよ、おまえ」


 呆れのこもった視線を向けられながら言われても嬉しくはない。


「そんなことより冒険者ギルドで販売してもらうからな」


「決定事項かよっ」


「当面は試作品だからここでしか売らんがな。

 そのうちブリーズの街でも売ってもらうようにはなると思うが」


「なんで、うちなんだ!?」


 ツッコミを入れ気味に聞いてくるゴードン。


「ここ以外でもっとも近い場所だから試験運用には都合がいいんだよ」


「ぐっ」


 今にも唸りだしそうな犬顔でゴードンが小刻みに震えている。


「断る理由はないじゃろ。

 現役の連中が大勢助かる手段なんじゃ。

 ゲールウエザー王国内ではワシが責任を持とう」


 いつになく真剣な表情で暴風のブラドは決断した。

 こうして簡易転送の魔道具は冒険者ギルドで販売されることが決定されたのである。


読んでくれてありがとう。

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