495 こんなはずじゃなかった?
修正しました。
あるだろうy → あるだろう
「ちくしょおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
カウンターでオーガにパンチを決めるゴードン。
その一撃で数メートルばかり吹っ飛ばす。
景気よくやっている割には聞き慣れた気合いの入れ方と違うのだが。
「話が違うじゃねえかあああぁぁぁぁぁぁっ!」
などと憤慨しているからだろう。
何がどう話が違うのかはじっくりと問い詰めたいところではある。
まあ、向こうにその余裕はないけどな。
喋りながら飛び掛かってきた次のオーガに前蹴りをかましているくらいだし。
体をくの字に折り曲げてオーガが飛ばされていく。
殴られた個体が起き上がろうとしている所に突っ込んでいった。
もつれるようにして転がっていく。
『なんだかんだ言いながら狙い通りの攻撃ができているじゃないか』
隙も少なくなるようにしている。
前蹴り直後に無理やり姿勢を低くして両手を地面につけ、かき出すように後ろへ跳ぶ。
その程度では大した距離は跳べない。
それでも跳ぶ前にいた場所に殺到するオーガから逃れることはできた。
『なかなかやるじゃないか』
この調子で全てを倒せればレベルアップするだろう。
2桁中盤を超えたあたりなら3か4くらいかな。
『すべて倒せればだけどね』
仕留めたオーガはまだない。
ダメージは与えているが、数を相手にするために一撃必殺とはいかないようだ。
「俺は聞いてねえぞぉ────────っ!!」
人聞きの悪いことを言う男である。
『そんなことを言っている暇があれば体勢を立て直せばいいのに』
低い姿勢のゴードンが立ち上がる前にオーガが突っ込んできた。
「いや、普通にオーガが出ると言ったじゃないか」
俺は嘘を言った覚えはない。
御覧の通り、オーガの群れが襲いかかってきているしな。
『些か数が多いか』
押し寄せること怒濤のごとし。
そこまで言うと言い過ぎかもしれないが。
『多いと言っても30体程度だしな』
湧き部屋から出てきたにしては少ない方だろう。
この程度ならレベル100以上あるうちの精鋭組は簡単に終わらせる。
魔法なしでも全て仕留めるのに数分とかからない。
まあ、でもゴードンたちからすると決して言いすぎではないのか。
次から次へとオーガが湧いて出てきているように感じている恐れはある。
「これの何処が普通なんだぁ!」
オーガにボディアッパーをかましながら反論してくる。
『どうやら、そう見えているようで』
ゴードンが浮き上がったオーガの脚を取った。
そこから足首を掴むと回転しながら反動をつけて振り回す。
さながらハンマー投げである。
『即席のハンマーってところか』
飛び込んでくるオーガを巻き込むようにして当てている。
狙って当てている訳ではないので与えるダメージの程は様々だ。
「普通だよ」
「なんだとぉ!」
怒った様子でそれだけ言ってくる。
回り続けているので、それが精一杯のようだ。
それでもオーガたちにダメージを与えたり弾き飛ばしたりできている。
『考えなしに群がってくるだけだからな』
脳筋すら通り越している本能の塊だ。
連係も何もあったもんじゃない。
「ゴブリンとかで見たことあるだろ」
「なにをぅ─────っ!」
まだ回っている。
『あんだけスピンして目も回さないとかフィギュアスケーターか』
あまりにゴツすぎて、とてもではないが結びつかない。
無理に想像しようとすれば吹く自信がある。
『あのなりで氷上を華麗に舞うとかねえわ』
今でも腹筋が刺激されて結構ヤバイ。
だが、この状況で笑い出すのは不謹慎だろう。
いくらオブサーバー的立場で見守るに止めているとはいえな。
故に我慢した。
笑うのは帰ってからでもいいだろう。
「見たってぇ───っ!?」
意地で喋ってるっぽいな。
『戦闘に集中しろよ』
それでも聞いてくるなら答えるけどさ。
「湧き部屋から出てくるのをさ」
「んだとぉ!?」
前例は幾らでもあるだろう。
オーガでの目撃例はないとは思うけど。
ゴードンは驚きのあまり掴んでいたオーガを手放してしまった。
たまたまだが、通路奥へと飛んで行く。
数体のオーガを巻き添えにして。
「おー、見事見事」
パチパチと拍手をする。
だが、それを聞いている余裕などゴードンにはない。
フラフラと体が揺れている。
『そりゃあ、あれだけグルグル回ってればな』
三半規管も大いに揺らされたことだろう。
足元が覚束無い状態だ。
オーガが次々と向かってくる状況でこれだから結構ヤバそうだ。
本人は敵の襲来に備える余裕もないらしく足元を見ている。
己の意思に関係なく足が動いてしまうせいだろう。
「んぎぎっ」
足が予想外の方向へ動くたびに踏ん張ろうとするゴードン。
ふらついているときに踏ん張ると上半身が大きく泳いでしまう。
そのせいで踏ん張りきれない。
だが、悪いことばかりではなかった。
動きがあまりにもトリッキーで殴りかかろうとしていたオーガが空振りしてしまう。
『何が幸いするか分からんな』
風切り音をともなった拳が間近を通り過ぎれば、さすがに視線は前を向く。
ただし反撃する余裕はない。
「こなくそぉっ」
それどころか大きくバランスを崩してしまう。
また空振り。
だが、際どい。
当たりそうで当たらないせいかオーガたちの興奮が増していくようだ。
そんな変化を見ている余裕はゴードンにはなさそうだがな。
「ぬおおっ」
本人に回避している自覚があるのかは不明だが必死の形相だ。
そして踏ん張ろうと無駄な努力をする。
その無駄な努力は、まぐれくさい回避という形で実を結ぶ。
端から見ていると偶然当たらなかったとしか言い様がないのだけれど。
そして外れた拳を見てゴードンが反応した。
フラフラと体が泳ぐ中で懸命に踏ん張ろうとしている。
回避しようとしているのか反撃しようとしているのか。
腕を動かすだけでバランスを崩すものだから大変だ。
「があっ」
結果として蹈鞴を踏むように本人すら予測しない方へ足が出て体が泳ぐ。
それがまた奇跡的な回避を呼び込む。
「ふぬあっ」
また躱す。
『回避だけなら酔拳だな』
まるで攻撃できていないけど。
問題は三半規管の機能が戻ったときだ。
恐らく棒立ちになるだろう。
当たり所が悪いと即死もあり得る。
『その状態で殴られたら厳しいものがあるな』
俺がストップをかけねばならないだろう。
ギリギリまで待つつもりだがタイミングが重要だ。
そんな風に考えていたその時。
「伏せるんじゃ!」
それまで風壁を重ね掛けして防御に徹していた髭爺が叫んだ。
『ようやくかよ』
大技の呪文をムニュムニュと詠唱していたので放置していたのだが。
土壇場のタイミングで詠唱が完了したようだ。
ところがゴードンは体の自由が利かない状態である。
とてもではないが伏せるのは難しい。
「無茶言うなぁっ!」
本人も自覚があるのか覚束無い足取りで動くのが精一杯のようだ。
「何とかせいっ」
俺が手を貸せば伏せさせることもできるだろう。
だが、俺はあくまで見届け人である。
案内もしてきたが、手出しをする時はジジイたちの敗北だと最初に言ってある。
『諦めていない者がいるときに中断させると恨まれそうだしなぁ』
人命優先ではあるが、さてどうしたものか。
『しょうがない。
バレないように処理しよう』
ゴードンの足の踏ん張りが利かない間に魔法を使う。
簡単な地魔法だ。
ゴードンが踏み込む瞬間を狙って、その場に砂利を呼び出す。
発覚しないように範囲も量も最小限。
そして髭爺に見られないようにタイミングもギリギリ。
制御も動きの予測も難易度が高い。
【多重思考】を使い複数の俺でシミュレーションすれば予測の方は難しくなくなるがな。
そんな時間的余裕があるのかって?
【多重思考】は複数のスキルが統合された神級スキルだからな。
【高速思考】も含まれているのだ。
制御も【魔導の神髄】があるから、この程度なら楽勝である。
『そらっ、今だ』
ゴードンが踏み込む瞬間を見極めて地魔法を発動。
「おわあっ!!」
ズルリと盛大に足を滑らせてゴードンが転倒した。
「ぐべっ!」
前のめりに転倒したせいか肺から押し出された空気が奇妙な声を絞り出させていた。
際どいタイミングで前受け身が間に合っただけでも良しとしておくべきだろう。
不意打ちで投げられたようなものだからな。
多少のダメージはあるだろうが、頭を打ったりなどはしていないようだ。
「今じゃ!」
髭爺が長杖を前に突き出す。
「ストームプレッシャー!!」
長杖から水平方向に細い竜巻状の風が水平方向に向かって発生する。
左右に杖を振ると渦を巻く風もしなりながら追随する。
その強風に触れたオーガたちが次々に吸い込まれていく。
それだけではない。
巻き込まれたオーガたちは錐揉み回転しながら通路の奥へと飛ばされていった。
『なるほどな』
暴風と呼ばれるだけはある。
オーガの巨体を何体も遠くへ飛ばしたのだから。
ゴードンが蹴り飛ばした飛距離など比べ物にならない。
少なからず投げのダメージが入っているだろう。
おまけに強制的に回転させられたことで目を回しているようだ。
『すぐには動けまい』
だが、それは2人にも言えることだ。
ゴードンはかなり疲労しているし、髭爺はMP残量が心許ない。
2人とも脅威が去った直後から座り込んでしまっているしな。
「ここで限界と判断するが認めるか?」
力なく俺の方を見た2人が怠そうに頷いた。
読んでくれてありがとう。




