490 ダンジョン開き
修正しました。
何なから何まで → 何から何まで
決闘騒ぎの翌日。
俺はダンジョンの中にいた。
連れの面子はジジイが2人。
言わずと知れたゴードンと髭爺である。
ジジイとパーティを組むとか嫌すぎるが、向こうは実に楽しげだ。
昨日の決闘のことなどなかったかのように談笑すらしている。
『どうしてこうなった』
こうなるまでを振り返ってみる。
今朝は正式にダンジョン開きをするというセレモニーが行われた。
それまではプレオープンということで許可なく部外者が入ることはできなかったのだ。
今日から本格始動である。
ガブローが挨拶で色々とアピールしていたな。
この日のために色々と街の準備をしていること。
宿屋に食堂なんかは相場のような細かい情報まで。
武具店なんかはあっさりしたものだったのにな。
『何処に気合いを入れているんだか』
他にも冒険者ギルドだけでなく小規模ながら商人ギルドも開設したこと。
もちろんシャーリーがギルドマスターだ。
短い時間でガブローといろいろ話し合ったらしい。
細かな話はノータッチなので分からんが、シャーリーは骨を埋める覚悟だとか。
『そこまで気合いを入れるのか』
ある意味、疲れる女である。
おそらくは食堂3姉妹がジェダイトシティにいるからだろうけど。
そんなに心配しなくても今なら襲撃してきた連中程度なら返り討ちにできる。
魔法の修行をさせてレベルを上げてから本国のダンジョンを攻略させたからな。
虚弱だったミーンもダンジョンに入る前にレベルアップの恩恵でステータスが上昇。
長時間の立ち仕事にも耐えられるようになった。
耐えられるというか、体力は一流冒険者級である。
1日まるまる働いても疲れを残さないだろう。
言っておくが俺が何から何まで指導した訳じゃないぞ。
最初の魔法修行は俺が担当したけどな。
後は皆で分担して交代でって感じだ。
『それにしても、よくもまあこの短期間で……』
そんな風に思っていたら食堂3姉妹も進化していた。
そりゃあ虚弱体質なんて無くなるよな。
気になったのでベリルママに電話したさ。
『もうっ、ハルトくん!
ダメじゃないのー』
第一声がお叱りの言葉でした。
俺、何かしたっけと困惑していると。
『もっと連絡してくれないとお母さん泣いちゃうよ』
一瞬で震え上がってしまった。
最悪だ。
誰が何と言っても最悪だ。
泣かれちゃ敵わん、ヘルプミー。
『すんませんしたっ!
以後、気を付けますっ』
思わず土下座してしまったさ。
……その場にいたミズキとマイカ、それにトモさんたち若夫婦がいたのにだ。
思わず奇異の目で見られてしまったのは言うまでもない。
後でちゃんと説明したよ。
ベリルママに叱られたって。
我が妻たちは苦笑してたな。
俺が半死半生のときからの話もすべて聞いてるみたいだから。
俺が無茶してレベル4桁になった話もベリルママに泣かれた話も全部知っている。
必然的にどうして土下座しているかも気が付いたようだ。
で、トモさんたちはというと普通に驚かれた。
特にフェルトなんかはガクブルしてた。
ベリルママが怖いとか思われてしまったようだ。
誤解されたままは非常にマズい。
そうさせたのは俺だから、またベリルママを泣かせてしまいかねないからな。
ベリルママに泣かれるくらいなら恥をさらす方がマシである。
最初に泣かれたときの話をして納得してもらったさ。
代償としてトモさんには大笑いされてしまったけどね。
くそぅ、プチ黒歴史じゃないか。
できれば忘れたいが、連絡することまで忘れそうだ。
以後は日記代わりに数行程度のメールを送ることにした。
そればかり続けていたら今度は『声も聞きたいのっ!』と叱られてしまったけどな。
また別の日の話である。
とにかく3姉妹の進化について確認してみた。
『うん、そうね。
ミズホ国の国民に加護を与えた影響かな』
『は? どういうことですか』
『私が加護を与えた結果、国民と正式に認められた人は進化しちゃうのよ』
『ええ~っ!?』
どういうこっちゃねん。
エセ関西弁が出てくるほど驚かされた。
『なんだか、思い入れが強すぎたみたい』
『それは……』
果てしなく嫌な予感しかしない。
『俺に対する思い入れってことですか』
自意識過剰と言われるかもしれないが、聞かずにはいられなかった。
そこをスルーしてしまうと夜も眠れない日が続きそうだったのでね。
『もっちろん!』
実に楽しげに肯定していただきました。
俺はガックリです。
究極の依怙贔屓だもんな。
なんか他所の国の真面目に生きている人たちに申し訳なくなってしまったよ。
『ちなみに修正することは……』
恐る恐る聞いてみた。
たぶん無理だとは理解しつつも聞きたくなってしまう。
『かなり難しいわねぇ。
システムの方に申請を出さないといけないし。
審査を受けて承認されないと加護って修正されないから。
今から申請を出すと修正されるまで早くて数千年かな』
『……………』
これ、もしお願いするとベリルママの負担は相当なものだと思う。
それだけ審査に時間をかけるということはシステムへの負荷が大きいのではなかろうか。
軽々しくお願いできそうな話ではないな。
『やっぱり申請した方がいいかしら』
『いえっ、必要ありません。
念のために聞いてみただけですから』
国民に対して注意喚起する方がよほど手間がかからない。
外部で活動するときは誤魔化すための魔道具の使用を徹底させるようにしよう。
そんなこんなで二重に疲れる脳内スマホによる電話であった。
何にせよ3姉妹の進化にお墨付きをもらったのは事実である。
今後は街中で働く程度ならミーンも倒れたりする心配はないだろう。
という訳で今後はジェダイトシティの新市街でも働く予定がある。
あくまでメインは内壁の内側である本市街にある自宅兼食堂。
そちらで国民相手の食堂経営をしつつ新市街では屋台販売を行う予定。
メニューが決定していないので予定だ。
ファーストフードにすることだけ決めて食堂で試作品を試食で提供中である。
近いうちに決定すると思う。
材料確保のためにダンジョン攻略も行っている。
割と浅い階層で旨い肉や野菜を確保できることが確認されているのでね。
己を鍛えつつ食材の一部を確保する方針のようだ。
割と無茶なことをしているとは思うが本人たちの希望である。
もう弱者のままでいるのは嫌なんだと。
無茶はしないように制限はつけてるけどな。
完全休養日を週1でとるとか。
ダンジョン攻略は特に許可や指示がない限り週に2日までとか。
でないと店の営業を週2日で残りをダンジョン攻略しかねない意気込み振りだった。
「本末転倒だろう、それじゃあ」
「「「うっ……」」」
3姉妹そろって言葉に詰まるとかね。
「店舗営業を2日にしてダンジョン攻略するんなら屋台はどうするんだよ?」
「「「ううっ」」」
「ダンジョンに5日かけたいんだろ」
休みなしとか無茶である。
レベルが上がったとはいえ3桁にはまだまだ遠い。
無休では疲労するだろう。
疲労はミスを生む。
食堂でのミスならよほどのことがない限り生き死ににはつながらない。
だが、ダンジョンでのミスは命取りになることが多い。
疲労が原因で体を壊すこともある。
そうなればミス云々を言う前に死んでしまうことだってある。
「1日も休みなしとか、アホのすることだ」
だからこそ、あえて厳しくなるように言ってみた。
「いずれ疲労が蓄積して死ぬことだってある。
そういうのを過労死って言うんだ。
そこまでいかなくても、疲労はミスを生む。
肝心なときにミスをするとアウトだろ」
何がアウトなのかは、あえて言わなかった。
青ざめた顔を見れば理解しているのは疑いようがない。
「仮に1日休むことにしたとして」
休むことに対する拒絶反応は見られない。
そのまま話を続ける。
「ダンジョン攻略は週4になるよな。
重ねて言うが屋台に使う時間はどうするんだ?」
返事はない。
「まさか食堂の営業日に屋台もするとか言うんじゃないだろうな?」
殺気立っている訳ではないが3姉妹はタジタジだ。
「暇なときならそういうことだってできるだろうさ。
だが、もう妨害は入らない。
前に食べたときは手抜きだったんだろ」
タダ飯を喰らう相手がいるのに本気で仕込みなんてしない。
「本気でやったら、週に2日の営業じゃ客からクレームが来るくらい繁盛するぞ」
3人は完全に萎んでいた。
自分たちの見通しの甘さには気付いていたのだ。
焦りすぎて周囲が見えていなかっただけ。
物事には順序ってものがあることを教え込んで納得させた。
俺が提示した条件も素直に受け入れたよ。
あとは自動人形を従業員として入れて休みの日をずらせば休業日が週2日で済む。
そこまでは良かったのだ。
が、ダンジョン攻略の方でテコ入れしたのがマズかった。
一緒にいるところを偶然ゴードンに目撃されてしまったのだ。
「なんで賢者が一緒なんだ?」
実にシンプルな質問だが苦しい訳をせざるを得なかった。
オブザーバーが近かったが、俺も攻撃に参加していたからな。
口出しどころか手も出ているんじゃオブザーバーとは言えない。
「あまりに奥へ進もうとするからヤバいことを分からせるために来た」
取って付けたような言い訳だ。
「ほうほう、そりゃあいい。
ワシも限界より少し先を見ておきたいから、そのときは頼む」
ゴードンとの付き合いを考えれば断り切れなかった。
ギリギリのラインを見極めてから1回だけと条件をつけたのだが。
そうなると護衛は実力的に無理があるので同行できなくなった。
『まさかダンジョン開きの日に重なるとは』
しかも髭爺のオマケ付きである。
実に面倒だ。
『さっさと終わらせたい』
読んでくれてありがとう。




