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484 あんたも来るのかよ!

 暴風のブラド。

 本名はブラドルクス・フォーゲルだったか。

 とんがり帽子にローブ姿という、何処から見ても魔法使い然とした白髭の爺さんだ。


 それを見て俺が勝手に髭爺呼ばわりしたら定着してしまったらしい。

 最初は嫌がって食って掛かってきたっけ。

 存在すら不明だった孫を出しにしたら話を逸らすことはできたけど。

 割と面倒くさい性格をしていると思う。


『シチィボーイを自称するくらいだしなぁ』


 俺に言わせればミスター死語である。

 そんな人物がジェダイトシティ支部のギルド長をサポートするべく来るのだという。

 ガブローの元に先触れが出されたから数日のうちに来るはずだ。


『面倒くさいことにならなきゃいいけどな』


 ノリが軽いのはともかく、子供っぽい性格をしているのがなぁ。


『まあ、邪魔はしないだろ』


 そう思っていたのだが、問題がひとつ発生した。


「いよう、視察に来たぞ」


 事前の連絡なしで筋肉髭ダルマがジェダイトシティ支部に顔を見せた。


『何処が視察だよ』


 いつものギルド長としての雰囲気が薄い。

 仕事はとりあえず後回しって面にしか見えないんだが。


「何しに来やがった、ゴードン」


 アポなしは俺もやるからとやかくは言わない。

 だが、よりにもよってこのタイミングで来るか。

 視察と言うからには日帰りではあるまい。


 髭爺と知り合いだというゴードンが、このタイミングで来たのが嫌な予感を呼び起こす。

 ゴードンの方は本部から人が来ることさえ知らないから気楽なものだ。


「酷え言われようだな」


 故に口にした台詞とは裏腹な調子で宣ってくれる。


「視察だと言っただろう」


『しれっとした顔で言いやがるな』


 完全に浮かれた調子だったらギルドから追い出したんだが。

 そのあたりは空気を読んだようだ。

 伊達に年は食ってない。


「そういうのはギルド本部の人間がやるものだろ」


「向こうと俺じゃ視察のポイントが違うからな」


 そう言われると納得するしかなかった。


「本部は業務がこなせるかのチェック。

 ゴードンは近隣のギルドの様子を確認。

 確かに視察のポイントはまるで違うか」


「おうよ、さすが賢者は分かってんじゃねえか」


 聞きようによっては物見遊山ともとれるゴードンの目的。

 だが、それは本当に真面目なものだ。

 近隣のギルドの状態を把握する。


 これもギルド長として大切な仕事である。

 状況によっては応援を出したり要請したりもすることになるが故に。

 これでは遊びに来るなと追い返す訳にもいかない。

 普通は信用のおける人物を使って確認するみたいだからモヤッとするものはあるがな。


『自分で来るとか興味半分じゃねえかよ』


 物見遊山というのも完全には否定できないだろう。

 表向きは絶対に認めないはずだが。


『こういうときに髭爺と鉢合わせするとなぁ』


 俺の予感では最低でも、いがみ合いだ。

 最悪の場合は周囲を巻き込んだ乱闘騒ぎ。

 うちの面子は加わらないが、ゴードンは護衛に冒険者のパーティを連れて来ている。


 それは恐らく髭爺も同じだろう。

 部外者まで御するとか無茶振りもいいところである。

 下手に怪我させる訳にもいかないし。

 何かしら対策は考えておいた方がいいだろう。


『面倒くせえ』


 タイミングをずらして来いと言いたくなる。

 まあ、向こうにしてみれば知らぬが仏なんだが。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ゴードンはこちらの状態を納得いくまで確認していくつもりだと言った。


『勘弁してくれよ』


 数日で帰るなら、あるいは髭爺と遭遇することもなかったかもしれないのだ。

 内心で愚痴りたくもなるというものである。

 そして数日が経過し、夕刻となった。


「うーし、今日も絶好調ぉ」


 ゴードンが護衛と共にダンジョンから帰ってきた。


「なぁにが絶好調じゃ。

 ゴブリンを何体倒したところで自慢にゃならんぞぉ」


「んだと、ゴルァ」


 挑発を受けて条件反射でゴードンが応じた。


『最悪だ……』


 もう少し早く戻ってきていたなら俺たちは巻き込まれずに済んだのに。

 よりにもよってギルド内で鉢合わせとは。


「しばらく見ない間に随分と耄碌したもんじゃの」


 フォホホとわざとらしく笑う白髭の魔法使い。

 そう、暴風のブラドこと髭爺である。

 ゴードンたちが戻ってくる少し前に到着したのだ。


『アレは忘れたくても忘れられんよな』


「フォーホホホ」


 ギルドに入ってくるなり高笑い。

 それだけで皆の注目を集めてしまった。


『相変わらず体はジジイで心は子供だな』


 もちろん、それだけで終わる髭爺ではない。

 タップリ注目を集めたことで気をよくしたのかテンション高く語り始める。


「イエ~イ!」


 人差し指を頭上高くに突き上げて、その場でクルリと1回転。

 ジジイとは思えぬ体のキレでポーズを決めた。


「ナウでプリチーでチャーミングゥ!」


 ここでバチッとウィンクをかまして数秒の間を置く。

 本人としては自分の言った言葉を周囲に浸透させたいのだろう。

 みんな呆気にとられて誰も言葉を発しない。

 そういう意味では浸透させられたとは言えるのだろうが。

 逆にこう思ってしまう。


『なに言ってんだコイツ』


 ナウは自分が今風で格好いいと言いたいのだろう。


『ダサいけどな』


 だが、言いたいことは理解できなくもない。

 問題は後の単語2つだ。

 どちらも可愛いって意味だろうに。

 特に後者は女性に向けて言う言葉である。


『せめてスマートとかクールみたいな単語を使えよ』


 それを言わないのは自分の年寄り然とした姿には似つかわしくないと思っているのか。

 真相は本人にしか分からない。


『そんな下らねえこと、いちいち聞いてられるかよ』


 聞いたら聞いたで延々と話し続けそうだしな。


「ゲールウエザー王国の冒険者ギルド本部長にして魔法の風使い」


 ここで突き上げていた人差し指を前に突き出してポーズを変える。

 曲げた左脚でリズムを取っている。


「髭爺こと暴風のブラドだぜぇ~い」


 そしてガッツポーズ。

 ノリノリだ。

 本人だけだがな……


「ギルド本部よりただいま推参!」


 踊るようにして決めポーズ。

 完璧にドヤ顔である。

 喧噪から一転して静まりかえったギルド内の様子に御満悦のようだ。


『子供じゃなくて、ただの馬鹿だな』


 後ろに控えている護衛の冒険者たちが気の毒だ。

 しばらくは同じような目で見られるだろうからな。

 それを理解しているらしく能面のような無表情で突っ立っている。

 絶対にそのノリには付き合わないと全身で抗議していた。


「およよ?

 そんなにワシ格好良かったかのう」


 ポーズを解いて普通に歩いてきた髭爺が受付のオバちゃんに聞いている。


『あーっ、聞く相手を間違えてるぞ』


 そう思った時は手遅れだった。


「全然」


 たった一言でバッサリ。

 さすがオバちゃん、相手が誰かなど気にしていない。


「OH NO!」


 ショックを受けて四つん這いになる。


「馬鹿やってんじゃねえよ」


 俺が歩み寄って声を掛けるとすかさず立ち上がった。


「おおっ、誰かと思えば賢者ではないか」


 両手を広げたオーバーアクションで再会を演出しようとしている。


「久方ぶりよな。

 元気にしておったか?」


「あー、久しぶり。

 元気は今さっき奪われた」


 ジジイのハグなど断固拒否だ。

 代わりに髭爺を指差す。


「おおっ、何じゃ?」


「そういうダセえポーズとか、いらねえから」


「Really!?」


 再び四つん這い。


「仕事する気ねえなら帰るか?」


 先程よりも素早い動作で立ち上がった。


「フォホホ、変なことを言うのう。

 仕事する気なら漲るほどあるぞい」


 白々しい作り笑顔で言われても説得力がない。

 まあ、いつまでもこの話を続けていられるほど暇でもない。

 だから早々に奥の部屋へ連れて行くつもりだった。


 後はガブローに丸投げしようとか考えていたらゴードンが帰ってきたのである。

 上機嫌なゴードンを見るなり髭爺のこめかみに青筋が立つのが見えた。

 既に精神的ダメージを受けていたところへ気に食わないものを見たって感じだったな。

 心底嫌っているという感じではなかったけどね。


 ライバルに出し抜かれて悔しいって感じかな。

 人によっては嫌みも言いたくなるのだろう。

 だからこそ髭爺も挑発的な物言いになったのだと思う。


 ゴードンが声のした方を見て固まった。

 普段は見るはずのない知り合いを目撃したからなのは間違いなさそうだ。


「テメエか、暴風の」


 相手の姿を確認するなり喧嘩腰である。

 嫌みを言われたんじゃ無理もない。


「なんじゃ肉弾」


『それがゴードンの異名か』


 筋肉髭ダルマを端的に言い表していると思う。

 2人が接近し額を押し付け合うようにしていがみ合う。


『マズいな……』


 放置すると確実に喧嘩になってしまいそうだ。


「喧嘩するなら訓練場でやってくれ」


 俺のこの一言で2人が我に返る。

 ホッと胸をなで下ろしたのも束の間。


「訓練場ならば思いっ切り決着がつけられるわい」


「それはこちらの台詞じゃ」


「だから訓練場でやれと言っているだろうが」


 訓練場に向かう間もずっとこの調子であった。

 やれやれだ。


読んでくれてありがとう。

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