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482 ハルト研修初日を参観する

少し遅くなりました。

すみません。


32話を改訂版に差し替えています。

こちらもお待たせしてしまいました。

申し訳ないです。


 さて、すっかり忘れられているドワーフの研修生たち。

 彼等の予定を決めなければならない。


 決して忘れていた訳じゃないぞ。

 この場にいないから失念していただけだ。

 え? 同じだって?

 これは失敬。

 なんにせよゴードンも分かっていたのだろう。


「ところで、話は変わるが」


「ん?」


「連れて来た10人ってのは宿屋に向かわせたのか?」


 ようやく本題である。


「いいや、下にいる」


「それもそうか。

 ここじゃ狭っ苦しいだろうしな」


「いや、単に待たせるよりはと仕事を見学させてるんだが」


「早速かよっ」


 この展開は予想していたのか唾攻撃はなかった。


「相変わらず容赦がないというか何というか」


「おいおい、せめて無駄がないと言ってくれよ」


「お前の場合は、それの一段上だ」


 酷い言われようである。


「別に構わねえだろ」


 少し考えるような素振りを見せたゴードンだったが。


「ま、いいか。

 早く仕事を覚えるに越したことはないからな」


 あっさりOK。

 この辺がゴードンのいいとこだよな。

 仕事が忙しくて余裕がないとか言いながらも面倒見がいい。


『伊達に年は食ってないか』


「よろしく頼むわ」


「おうよ」


 そんな訳で連れて来た日から研修が始まることになったのである。

 ただ、このまま俺だけサヨナラするのはどうかと思う。


 ガブローにはできる人間をと頼んでおいたので大きなヘマはしないだろうけど。

 先に帰ってしまうと薄情な気はする。

 そんなことを言うとゴードンからは「過保護だ」とか言われる気はするがね。


 まあ、他にも理由はある。

 今日の様子から研修期間がどのくらい必要かを見当つけるくらいはしたい。

 残り数時間程度ではシミュレートしようにも誤差の振り幅が大きくなるだろうけどな。

 データ不足は斥候用自動人形を明日から張り付かせて補えばいいさ。


 後はそれを元にこちらでマニュアルを作るか。

 マニュアルの仕上がり具合によっては追加人員の研修を独自に行ったりもできるだろ。


「悪いが、今日だけ参観させてもらうわ」


「ふむ、構わんぞ」


 断られることも考慮していたが即座に了承を得られた。

 ダメなら自動人形を張り付かせたが、正直ありがたい話だ。

 現在時刻からすれば皆を追いかけてダンジョンに行くのは無駄が多いし。


 時間が微妙すぎて他にすることを思いつけないというのもある。

 たまにはブラブラするのも悪くないかもだけど。

 皆が働いている時に休むのは気が引けるんだよな。

 それなら直に冒険者ギルドの仕事を見て、あれこれを吸収する方が気が楽だ。


「自分が連れて来た人員の出来は気になるだろうしな」


「その辺はあまり心配していない」


 気にならないと言えば嘘になるが、全部がそうという訳ではないし。


「……お前のとこは本当に人材がインフレしてるよな」


 ゴードンに呆れたような目で見られた。


「研修生はそこまでピーキーな面子じゃねえよ。

 客あしらいが上手いのと計算とか事務処理が得意なくらいなのがいる程度だ」


 レベルも冒険者のボリュームゾーンは超えてはいるけど、飛び抜けて高い訳じゃない。

 平均すると2桁半ばくらいだもんな。

 近いうちに少なくとも倍ぐらいには上げておきたいところだ。

 新しいダンジョンで鍛えるのを推奨するか。

 その前に特別魔法講座を開いておく必要はあると思うけど。


「賢者の評価でそれなら充分すぎるだろ」


 贅沢言うなという目で見られてしまった。


『なんだかなぁ……』


 俺の評価が妙に高いせいか、周囲の人間にまで影響している気がするんだけど。


『今回の10人、苦労しないといいが』


 急に心配になってきた。

 だが、命の危険は少ないはずと思い直す。

 今回の面子は初対面な相手ばかりだからな。

 変に構い過ぎてこれが普通と思われても困る。


 【多重思考】で俺を何人にも増やすことはできても、体はひとつだからな。

 すべきことが増えていけば、どこかで誰かに任せる必要が出てくるはずなのだ。

 ならば、今それをしておこう。

 明日からは直接は見に来ないことにする。


『健闘を祈る』


 俺は心の中で今回の研修生10人にエールを送った。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 研修生の見学を更に見学するというのは傍目には奇異に映るらしい。


「おい、あの奥にいるの賢者だろ」


「ホントだ」


「へえー、アレがそうなの?

 若いって聞いてたけど、本当に若いな」


「何してんだ?」


「俺に聞くな」


 などとギルドに入ってくる冒険者たちに注目されてしまう。


『やっぱり自動人形に任せておけば良かった』


 この時間帯はラッシュ時の駅構内に近いものがある。

 嫌でも耳目を集めてしまうのだ。

 暇な時間帯なら気にされたとしても、あからさまに話題にされたりはしなかっただろう。

 待ち時間というものが発生しないからな。


 しかも俺がいるお陰で、研修生たちは多少目立つ程度で済んでいる。

 話題にされる時間も俺の2割程度か。


『なんか不公平だ』


 本来ならドワーフということで目立つはずなのに。


『まあ、愚痴ってもしょうがない』


 少しでも注目されぬよう【気力制御】で気配を可能な限り薄めておく。

 本来なら完全に消したいところなんだけどね。

 それをしてしまうと受付内で動きがあった時にぶつかってこられたりするのだ。


 狭いから躱しにくいし。

 あまり派手に避けたりすると目立ってしまうので本末転倒ということになる。

 という訳で、冒険者たちの耳目を集める数時間となってしまった。


『拷問だ……』


 それでも耐えて参観を続ける。

 ゴードンに受付ラッシュの波が引くまでいると言ってしまったからな。

 自業自得である。


『アホだ、俺』


 これで収穫がなければ踏んだり蹴ったりの気分を味わったことだろう。

 幸いにして得るものはあった。

 早い段階で気付いたことがある。


『役所の受付業務に近いな』


 そのものとまでは言わないがね。

 窓口業務なんてものは何処でもそう大差ないのだろう。

 役所以外の社会人経験がないからなんとも言えないけれど。


 後でトモさんに聞こうかと思ったが、多分無理だ。

 学生時代から声優の仕事をしてるからアルバイト経験もないんだよね。

 下積み時代はアルバイトとかしてそうなものだけど。

 その時期が学生だったという訳だ。

 後はミズキやマイカなら分かるだろうか。


『そこまでする程のことでもないか』


 なんにせよマニュアル化はしやすそうだ。

 問題や齟齬があるなら、修正していけばいい。

 ネットワーク上に流してスマホで閲覧できるようにすれば手間もかからないし。


 とりあえずベースになりそうな仮のものを作り始める。

 公開できる代物になるまでは俺の手元だけで編集するようにしておこう。


 そうやって、あーだこーだと考えを巡らせている間に受付内で変化があった。

 うちの面子が徐々に手伝い始めたのだ。

 窓口の数は限られているから直に立つ訳じゃないけれど。


 手続きに必要なものを用意して渡したり。

 逆に提出物を受け取って奥へ持って行ったり。

 そのうち受付の外に出て整列や誘導まで始めた。


「本当に素人を連れて来たんだろうな」


 ゴードンが訝しげな目を向けてくる。

 ジト目もいいとこだ。


「ああ、ギルド関連の業務に関しちゃ間違いなく素人だ」


「とてもそうは見えないんだがな」


「そりゃあ悪かったな」


 悪びれずに言うと「ふん」と鼻を鳴らされた。


「初日なんかベソかいてる奴の方が多いんだぞ」


 そんなことを自慢げに言われてもな。

 まあ、就業経験がない人間なんて忙しいところを見せればそんなものである。

 特に複雑な判断を要求される業務でスピードを要求されるとな。

 初心者はパニックを起こすことが多い。


 俺が連れて来た面子は就業経験ありだから驚きも慌てもしない訳だ。

 それを説明しようと思ったら──


「ここまでできる新人なんて今まで1人しか見たことねえ」


 ゴードンが前例があると言い出した。


「居るんじゃねえかよ」


 だったら、そこまで目くじら手立ててくることないじゃないか。

 そんな反論をしようと思ったら。


「例外中の例外だ」


 そんな風に言われてしまった。

 そこまで言われると思い当たる節ってのが嫌でも浮上してくる。


「あー、エリスのことか」


「おうよ」


 確かにエリスは天才肌だからな。

 普通じゃないと認識されても仕方がない。

 そういう存在と同格の人間がそうそういるものではない訳で。

 10人も同時に存在したら己の目を疑ってかかるレベルの話だ。

 普通はそんなことあり得ないのだから、経験者だと疑われるのも無理はない。


『……ある意味では経験者なのか』


「言ったろ、ギルド関連については素人だって」


「む?」


「分からんか?

 こうも言ったはずだ。

 客あしらいが上手いのと事務処理が得意なのを連れて来たって。

 ギルドとは関係ないが、実務経験があるんだよ」


「なにぃ!?」


 目を丸くするゴードン。

 そんなに意外だっただろうか。


「おいおい、大丈夫なのか?」


「なにがだよ」


「何がって、お前……

 これだけ目端を利かせることができるなら相当だろうに」


 ああ、余剰人員じゃないと思ったか。


「心配するな。

 ドワーフだって馬鹿じゃない。

 それだけ新しいダンジョンに危機感を抱いてるのさ」


「そ、そういうことか」


 俺の説明に納得したようだ。

 チョロい。


読んでくれてありがとう。

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