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476 後始末らしきものをする?

31話を改訂版に差し替えました。


『結局、無傷で済んだのは5人か』


 堅物騎士と3人の従者は、まあ分かる。


『だけどなぁ……』


 意外なことに司令官の副官が悪事に荷担していないとは予想外。

 凶悪犯罪はもちろんのこと軽犯罪にも手を染めていない。

 あの司令官の側近だぞ。


『どういうことだ?』


 司令官の後を金魚の糞のようにくっついていた男がクリーン?

 王太子派のスパイというなら分からんでもないが、そういう雰囲気はない。

 むしろ見るからに頼りない男だ。

 些かスパイに幻想を見過ぎているのかもだが。


 俺が思い描くスパイ像といえば数々の映画で活躍する7番目の男だ。

 あるいは不可能な任務のやつ。

 どちらもスパイを題材にしているだけあって主人公のメンタルはタフだ。

 アクションも派手だと思う。

 かといって戦争映画とも違うから主人公はゴリマッチョなタイプじゃない。


 そこから考えるとスリリングでスマートというのが俺のイメージするスパイだ。

 本来のものとは大きく掛け離れているのは分かっちゃいるがね。

 とにかく、そのイメージと正反対なのが副官のオッサンだったりする。

 全身から出来る男ならぬ出来ない男のオーラを発しているからなぁ。


『……嫌なオーラだな』


 もしもスパイだったら、かなりヘマを繰り返しているだろう。

 正体なんてとっくの昔にバレていてもおかしくない。

 幸薄そうにも見えるから運だけで乗り切ってきたというのもなさそうだ。


 逆にこれらすべてが芝居なら主演男優賞ものだ。

 どんな役でもこなせそうだよな。

 まあ、そういうことはないんだけど。


 詳しく鑑定してみたら納得がいった。

 このオッサン、物凄く気が弱い。

 ただ、それだけなのだ。

 気が弱いから悪事が働けない。


 人殺し?

 論外にも程がある。

 血を見て卒倒しそうになるんだから。

 オッサンなら錯乱して「ムリムリムリィのカタツムリー!」とか言い出しかねん。

 つまり、それくらい無理な訳だ。


 強盗?

 全然まったくもってできません。

 喧嘩だってできないのに。

 刃物を持って相手を脅すとかハードル高すぎ。

 しかも血が流れると考えただけで震えが止まらなくなるって解説文があったぞ。

 どう考えたって無理無理。


 かつあげ?

 それも無理。

 喧嘩もできないオッサンがどうやって脅すんだよ。

 凄みきかせて恫喝なんて気の弱いオッサンにできる訳ない。


 盗み、スリ?

 うまくいけば暴力沙汰にはならないだろうけど。

 それをイメージできないからオッサンには無理。


『筋金入りの気の弱さだな』


 これで副官になれたのが不思議なくらいだ。

 そんな風に疑問に感じたけど、押し付けられたっぽい。

 最低評価の男が司令官だからな。


 もちろん表立っては、もっともらしい理由をつけている。

 頭がいいからとか。

 剣の腕も悪くないとか。

 気が弱いのに剣の腕が悪くないってどういうことよって思ったけど。

 このオッサン、守るだけならかなりの腕前だ。

 怪我をするのが怖いから必死で躱したり防御したりするみたい。

 攻撃はからっきしだけど。


 で、この男の最大の特徴は長いものに巻かれるということ。

 気が弱いなりに追従したりするのは得意なようだ。

 修羅場に巻き込まれそうになっても、どうにか難を逃れたりしてきたらしい。

 こういうタイプも虎の威を借る狐と言えるかもな。


 諺の狐は虎を騙す度胸があるけどな。

 このオッサンが狐だったら虎に捕まった時点で失神してるんじゃなかろうか。

 そんなだから誰かが手を下すまでもなく気を失っていたよ。


『もし戦争が始まっていたら、どうなっていたんだろうな?』


 そういう意味では運がいいのか。

 今まで生き延びてこられた訳だしな。

 そんな訳で目を覚ました後は撤退を決断。

 堅物騎士に指揮を執らせて引き上げましたとさ。


『なかなかやるなぁ』


 小隊長にすらなったことのない男だとは思えない。

 千人からの兵士を堂々と率いている。


『指揮経験がないとは思えないな』


 薬のせいで眠らされていたこともあって兵士たちは状況を理解できていない。

 目覚めた直後などは騒然としていたからな。

 それすら短時間で静めてみせた。

 いくら従者を3人抱えていたとはいえ、規模が違う。

 おまけに派閥も違う。


『今後は出世しそうだな』


 誰がどう評価するかしだいなんだろうけど。

 足を引っ張りそうな連中は最後尾をトボトボと歩いていた。

 そこだけ見れば敗残兵って感じがありありとうかがえる。

 怪我は治しておいたけど後遺症があるような状態だからなぁ。


 もともと百に満たない頭数が半減以下になったから意気消沈もいいところだ。

 自分が仕えていた騎士は死んでしまったことも、それに拍車をかけているのだろう。

 帰れば主を守れなかった不忠者とか責められるのは目に見えているからな。


 相手が悪かったと言えばそれまでだが反論の余地がない。

 どう言い繕おうとも無傷の兵士が千人もいる時点で誰も信じないだろう。

 おまけに騎士で生きているのは堅物で知られる騎士だけだ。


『何故あの男だけ生き残らせたとか言われるんだろうな』


 間違いなく同じ派閥の人間から責められるはずと当人たちは思い込んでいるだろう。

 憂鬱な気分にもなるというものだ。


 そんな調子だから堅物騎士の妨害なんて思いつく者もいない。

 いたとしても実行に移せないだろう。


 騎士は人柄や態度から対立派閥の人間から尊敬されるような人物である。

 妨害行動を行えば千人からの兵士が黙っているとは思えない。

 数が圧倒的に違う上に体が不自由な状態だ。

 冷たい視線を浴びせられても黙って後ろをついて行くしかなかった。


『同情の余地などないがな』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 王都に帰り着くにもそれなりに時間がかかる。

 いつまでもそれに張り付いている訳にも行かない。

 とはいえブレット王国にこれ以上介入するつもりはない。

 今後どうなっていくかなど俺の知ったことじゃないのでね。

 他所の国のことまで面倒見てられないよ。


 まあ、ゲールウエザー王国が黒豚の宣戦布告をどう扱うかで国の命運が決まるな。

 滅ぼされても文句は言えない。

 そういう意味では宰相は黒豚をよく止めなかったものだ。

 ゲールウエザー王国なら攻めてこないと考えたのだろうか。

 そんなことはないと思うのだが。


『永遠の謎だな』


 興味を失った俺はゲールウエザー王国の王都ゲールへ向かうことにした。

 シノビマスターとしてではなくミズホ国の王として。

 着替えて輸送機を使って王宮に乗り付けるわけだ。


『勝手知ったる他人の王城、なんてな』


 到着すると、さすがに騒ぎになる訳だ。

 誰が来たのかは理解していても先触れとかないからな。

 諦めた表情の宰相ダニエルがなかなか印象深かった。

 その後で面会したクラウド王は愉快そうに笑っていたけど。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「あ、これお土産ね」


「おおっ、煎餅ではないか!」


 上機嫌で受け取るクラウド。

 呆れたように溜め息をついているダニエルも眼中にない様子だ。

 で、通された部屋には宮廷魔導師団ジョイス総長もいた。

 ニコニコして当然のように席に座っている。

 この場にいるのは些か疑問なんだが。


『相談役なのかね』


 そう考えれば不自然ではないか。

 知恵も知識もある婆さんだからな。

 で、こっちの面子は今回の引率メンバーとガンフォール。

 ガンフォールは朝一番で面会に訪れて手紙を渡したらしい。

 既に一通り対応を協議し終えた後のようだ。


『そんじゃ、こっちもさっさと用件を済ませるか』


 まあ、でも初対面の面子が多いから先に紹介していった。


「相変わらず不思議な人材を抱えているな」


「そりゃ、どうも」


 土産の煎餅をバリバリかじりながら、そんな感想を漏らされてもな。


「それより伝言を頼まれてるんだよ」


「ヒガ殿を使者にする者がおるとはな」


 ゲールウエザー組の面々が目を丸くしていた。


「あんまり忍び込んでると下の連中が無意味に駆り出されて可哀相だからだってさ」


「なっ……」


 ダニエルは誰だかすぐに分かったらしい。


「お察しの通り、シノビマスターだよ」


 ここでシノビマスターのことを知らない総長に説明するため時間を若干とられた。

 その流れでシノビマスターからの伝言についても説明する。

 黒豚と敵対して潰したってだけなんだが、詳細を語ると時間がかかった。

 一応、魔人化薬のことも説明はしておいたからな。

 そこからクーデターを目論んでいたことやら王族の暗殺やら。

 もちろん俺たちに繋がる情報は外している。


「……なんとも呆れた男だ」


 説明が一通り終わって真っ先にそんな感想を漏らしたのはダニエルだった。


「それでシノビマスターは何と言っているのですか」


 伝言はそれだけではあるまいと総長が聞いてきた。


「判断のための材料は渡したから好きにしろってさ」


 この言葉を額面通りには受け取らないだろう。

 向こうの宰相からの手紙を届けたのもシノビマスターだからな。


「何がしたいのやら」


「ブレット王国だかの国民に負担がかからないようにしたいんだろ」


「戦争をすると思われているのか」


 クラウドがあり得ないとばかりに頭を振った。


「向こうが引いたのなら、こちらは何もしない。

 国費を無駄に消費するなど愚の骨頂というもの」


 ダニエルもクラウドに続いた。

 どうやら何もしない方針のようだ。


『大人の対応ってやつだな』


 絡まれたからって本気で相手を潰すのも体面上、問題がある。

 しかも相手は国力差が国民総生産で考えて2桁は違うであろう小国。

 下手をしなくても国内の地方領主レベルの相手だ。

 そこの一将軍を相手に目くじらを立てるなど、みっともないってことか。


 周辺諸国の反応とかも視野に入れないといけないのだろう。

 攻め込まれてもいないのに相手国を滅ぼしたりしたら過剰反応されかねないし。


『大国ってのも大変だなぁ』


読んでくれてありがとう。

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