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470 宰相だけの上映会

『残るはトモさんとハリーだな』


 実はこの2人の状況は把握できていたりする。

 宰相の部屋には事前に斥候型自動人形を送り込んであったからな。

 決して信用していないから監視していた訳ではない。

 決して──

 大事なことだが2回も言うと逆に嘘くさく聞こえそうなのでやめておこう。


 それで室内でどんなことが行われていたかというと、プレゼンテーションかな。

 黒豚たちの小芝居を幻影魔法で見せながら解説を入れていく感じ。

 幻影魔法を見やすくするための工夫も忘れていない。

 室内を真っ暗にしたり。

 音響結界で外部に音が漏れないようにしたり。

 もちろん外からの音も入ってこない。


 誰だ? 監禁なんて言ってる奴は?

 確かに理力魔法を使って執務室の椅子から立てなくはしてるさ。

 でも手足は動かせるようにしているぞ。

 イメージ的には2点式のシートベルトみたいなもんだ。

 自家用車なんかの後部座席のやつね。


 それで充分に身動き取れなくなるからと事前に2人に伝えておいた。

 だから喋ることだってできる。

 そのせいで宰相も最初は「曲者だ、出会え!」とか騒いでいたもんな。


『何処の時代劇なんだか』


 ふと、懐かしいと感じてしまった。

 祖父の影響でこの手のを片っ端から見る感じで育ったせいだろうか。

 時代劇と違って、どちらも悪ではないのだけれど。

 それに声が届かないから何時まで待っても誰も来ない。

 宰相がそれを理解すると、ふて腐れて押し黙ってしまったが。

 そこから強引にプレゼンテーションである。

 途端に態度が変わりましたよ。


「こっ、これはっ!?」


 初っ端から引き込まれていたさ。

 そりゃあ政敵が映し出されてベラベラ喋り始めるんだからね。


「何の真似だ!?」


 最初から信じたりはしなかったようだが。


「我ラノ親方様ニ敵対シタ愚カ者ニ天誅ヲ下ス。

 汝ト王太子ニハ、ソノ証人ニナッテモラオウ」


 トモさんノリノリだな。

 誰が親方様だよ。

 シノビに扮しているから時代劇風の設定を脳裏に描いているっぽいけど。


「親方だと?」


「我ラ、シノビノ長、シノビマスターダ」


「殿下に仕事をさせるとは不敬だぞ」


 こんな風に言っているが本気でないのは声音で分かる。

 本気なら質問の前に注意してくるはずだ。

 要するに探りを入れている訳だな。

 俺たちの正体を知るために。


「我々ハ、コノ国ノ者デハナイ。

 我ラガ敬ウノハ、親方様ダケダ」


 対するトモさんは完全に芝居モードだ。

 ボイスチェンジャーで変換された声でも渋いと感じるもんな。

 この国の宰相に正体がバレることなんてないのは分かるけど遊んでるね。


 それだけ余裕がある態度を取られると、宰相も余裕をなくすらしい。

 どうやら見当をつけていた相手がいるようだ。

 それが誰なのかまでは俺たちには分からないけれど。

 当てが外れたようで微妙に表情を引きつらせていた。

 トモさんも気付いているようだ。


「白々シク正体ヲ探ルノハヨスノダナ」


 そう言って宰相を牽制する。

 返事はない。

 ないからこそ肯定しているようなものだったがね。

 下手なことを喋らないだけ上出来だろう。

 表情だって、あからさまな動揺を見せたりしなかったし。


 色々と封じられても話ができる相手ならと切り替える頭もある。

 ガチガチに凝り固まった奴だったらどうしようかと思っていたけど柔軟性はある。

 あまりに非常識な出来事に対応し切れていない部分はあるけれど。

 ゲールウエザー王国の面々と交渉するなら、このオッサンしかいないな。

 アラフォーだから体力的な面でも問題にならんでしょ。


 もし、黒豚みたいなのが宰相だったら最悪だった。

 情報収集とか思いつきもしないよ。

 それ以前に自分のことしか考えないはずだ。

 口を開けば解放しろの一点張り。

 きっと怒鳴り散らしまくっていたことだろう。

 そういう意味では疲れずにすむ相手で助かった。


「汝ガ大人シクシテイルブンニハ危害ハ加エヌ。

 コノ映像ニ関連スル情報モ渡ソウ」


「そこまでするのか。

 敵対とはどんなことをしたのだ」


「答エル義務ハナイ」


「……仕方あるまいな。

 続きを見せてもらおうか」


 判断と決断も早い。

 見終わらなければ解放されないと理解しているからこそか。

 盆暗でなければ、それくらいは分かるだろう。

 が、決断を下せるかどうかは別問題だ。

 疑心暗鬼になったり不安感を抱いたりと阻害する要因はある。

 そういった部分がないのは胆力があるということだな。

 王太子の補佐も大丈夫そうだ。


「ヨカロウ。

 心シテ見ルガイイ」


 停止していた小芝居の映像が最初から再開された。

 さっそく宰相の顔が顰められる。

 オーガの大軍なんて言葉を耳にすれば嫌でもそうなるわな。

 加えて魔人化薬に暗示薬と不穏な単語が続くからな。

 不愉快さを隠そうともせず「クズ共が」と吐き捨てるように呟いていた。

 でも、まあこれでも余裕がある方だったんだよ。

 具体的に次々と語られていくうちに、それも無くなっていったけど。


 薬とオーガにどのような繋がりがあるか。

 どれだけの準備をしているか。

 裏で行っていた犯罪行為。

 資金の集め方。

 宰相も最初こそ戦争に負けた場合を想定していたらしく険しい表情を見せていたけれど。

 入念な準備によって行われる戦争の勝算を聞いて、さらに顔色を失っていた。

 もちろん、その話だけで信じた訳ではない。


「人が魔物になるなど、にわかには信じられん」


「ダロウナ。

 我ラモ言葉ダケデ信ジロナドトハ言ワヌ」


「ならば、どうする?」


「先日、アル犯罪組織ガ街ノ衛兵ト門前デ戦闘ヲ始メタ」


「なに?」


「我ラモ追ッテイタ連中ダ。

 一足違イデ検問ニ引ッ掛カッタユエニ記録シタ」


「記録だと?

 どういうことだ」


「コレハ組織ニ属スル者ノ言葉トハ思エヌナ。

 我ラニモ報告ノ義務ガアルノダ。

 自ラノ手デ消セバ首ト所持品ホカヲ持チ帰レバ証明ニナル。

 他人ガ始末スレバ、ドレモ入手ハ困難。

 ナラバ記録映像ヲモトニ報告スルシカアルマイ」


「その記録映像とやらを私も見られるのか」


「イカニモ」


 その言葉と共に一時停止されていた小芝居の映像に別の映像が差し込まれた。

 場面はブリーズの門前。

 先日の一件の映像であるが、そのものではない。

 アレを元にそれっぽく仕上げた代物だ。


 現代日本で実現させるならフルCGということになる。

 カメラアングルもドルフィンの視点とは異なっているからな。

 音声は全カット。

 後は介入後の戦闘シーンを苦戦しつつ勝利したように変更しておいた。


 シノビの正体が俺たちであると推測されないようにな。

 一種の保険であるが、これで誤魔化せるかどうかは未知数である。


「こっ、これはっ!」


 魔人化薬を飲んでオーガへと変身していく人間の姿を目の当たりにして宰相は驚愕する。


「なんと、おぞましいことよ……」


 この時点で顔色は相当に悪くなっていた。

 ショックを受けるのは無理もない。

 皮膚が裂けたり血が飛び散ったりは当たり前だし。


 ただ、変身しただけで終わりじゃないからな。

 映像はここから数に勝る衛兵との戦闘シーンへと変わっていく。

 大勢の衛兵でオーガを囲むが、相手は人間をやめた魔物だ。

 それくらいで抑え込めるはずがない。


「なんと……」


 食い入るように目を凝らす宰相。

 自分が無意識に呟きを漏らしたことさえ気付いているのか怪しい。


「5人がかりで1体を抑え込めぬとは……」


 映像を見る顔が引きつっている。


「何という膂力……

 拳を振り下ろすだけでハンマーを振るったようだ」


 こういう立場の人間だと魔物の戦闘力を知らないか。

 文献などで確認はしているだろうが、本物の迫力に想像は追いつけまい。

 まあ、作り物の映像なんだけど。

 特にここからは半ばでっち上げになっていくからな。

 衛兵が大苦戦する中、助太刀が入る。


「おおっ、冒険者か」


 ドルフィンを筆頭とするうちの面々である。

 前衛職が止めている間に水魔法でダメージを与えていく。

 それまでダメージをほぼ受けていなかったオーガが始めて痛がる様子を見せる。

 その痛がりようも尋常ではない。

 手がつけられないほど無茶苦茶に暴れるのだ。

 自らの体を掻きむしってでも痛みから逃れようとするかのように。

 これを距離を置いて弱るのを待つ。

 弱ると筋肉が弛緩するのか剣でもまともにダメージが入るようになる。

 そうやって1体ずつ仕留めていった。


「魔法が有効なようだな」


 それまで物理では有効打を与えられなかったが故の誤解である。

 魔法を受けて痛がる姿を見れば誰でもそう思うだろう。

 今までは少々傷つこうが平然としていたからな。


「ソレハ間違ッタ認識ダ」


「どういうことだ?」


「衛兵タチガソレナリノ仕事ヲシテイルカラ魔法使イハ楽ガデキテイルニ過ギナイ」


「言ってる意味がよく分からない」


「魔法使イハ、ドンナ魔法ヲ使ッテイル?」


「水魔法だろう」


 何を当たり前のことをと宰相が問いたげな目をしている。


「アレハ塩水ダ」


「っ!?」


 宰相が顔を顰めていた。

 傷口を狙って魔法が使われていることに気付いたな。

 まあ、拷問でも使われる手だから無理もない。


「衛兵もわずかとはいえオーガを傷つけていたのだな。

 それであの魔法を受けて痛がるのか」


「イカニモ」


 身震いする宰相。

 痛みを具体的に想像してしまったのだろう。

 まあ、それは自己責任だ。


読んでくれてありがとう。

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