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467 因果応報でしっぺ返しを始めよう

「あのー……」


 いかにも自信がありませんといった感じでフェルトが小さく手を挙げてきた。


「どうした?」


「こんなに証拠品を集めてたらバレて騒ぎにならないでしょうか」


「日記がなくなったり薬がなくなったりで気付かれると?」


「はい」


「あからさまに物が無くなっていればそうだろうな」


「なるほど、偽装工作か」


 トモさんが俺の意図に気付いたようだ。


「偽装……ですか?」


 よく分かっていないのか、フェルトが小首を傾げている。


「ダミーを設置するだけの簡単なお仕事です」


 簡単とは言ったが、それなりに手間はかかっている。

 まず、地魔法で同じ重さになるように調整した石の箱を用意。

 形状は幻影魔法を上掛けするので、おおよそ似せるだけである。


「偽物とすり替えたのですか?」


「そうだね」


「それだと触ればバレるのでは?」


 すぐに気付くとはさすがだ。

 大森林にいた頃は幻影魔法でヒューマンとの接触を避けてきたのは伊達じゃない。

 利点や弱点を熟知している。


 ただし、幻影魔法も極めれば触れたくらいでは違いに気付かないようにもできる。

 それについては知らないようだ。

 まあ、そこまでするのは魔力の無駄遣いだ。

 しかも制御が少し面倒になるからやらないけどね。


「参謀本部内は人が少ないから大丈夫。

 そもそも誰でも触れるような代物じゃないしな」


「でも所有者であれば……」


 フェルトが懸念を口にするのも無理はない。

 触れさえすればバレるのは確実だからな。

 フェルトが言うように所有者の行動を制限する魔法までは使っていないんだし。


 その上、俺たちは証拠品を押収した建物内にはいない。

 相手にバレて騒ぎ出される前に封じ込めができないと危惧しているのだろう。

 ただ、そこまで考えて俺が無策だと思うのが不思議である。


『詰めが甘いよ』


「そこはホラ、因果応報でしっぺ返しにしてあるから」


「え?」


 怪訝な表情が返される。


「見れば分かるさ。

 論より証拠ってな」


 有無を言わさず、俺は転送魔法を使った。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 いくら警備が厳重でも一瞬で中に乗り込めば関係ない。

 外の警戒ぶりが嘘のように人がいないからな。

 むしろ、参謀本部の建物から人払いをしているかのようだ。

 俺たちは他者からは見えない聞こえない状態を維持してるから、あんまり関係ないけど。


 そんな俺たちの前にはちょっと虚ろな目をした黒豚がいる。

 華美な服を着てソファーに踏ん反りかえっているのがミスマッチというか何というか。

 そのおかげで人間に見えると言っても過言ではない。

 まあ、髪の毛には不自由していないようなので間違えることはないのだけど。

 ちなみにヅラではない。


「似てるね」


「似てるニャ」


 ルーシーとミーニャがひそひそ話をしていた。

 他の子供組も、うんうんと頷いている。

 黒豚が白豚ことムハ・エコップにそっくりだからだろうな。

 鑑定できない面子でも親族だと確信できる程である。


「さすがは兄弟だねぇ」


 シェリーが感心したように言うと、皆が口々に同意した。

 日に焼けて黒々としている以外は大きな違いがないからな。

 ついついアレを思い出してしまう。

 格闘ゲームの2P。


 ブヨッとしただらしない体型だから、あんまり強くなさそうだけど。

 足腰が丈夫で頑丈なら肉弾戦法の強者としての道もあり得たんだろう。

 その場合は強敵たり得たと思う。

 生憎と格闘ゲームで黒白豚兄弟が強い状態で採用されたとしても俺は使わないな。

 強弱以前にキモくて使いたくない。


 実際の黒豚は自重を支えるのがやっとの脚とたるんだ腹が主要装備である。

 重い金属鎧を着込めば1歩も動けないのは誰の目にも明らか。


『これで将軍なんだもんなぁ』


 正直、コイツに指揮される軍隊が精強と言われても信じることができない。


「でもさぁ、これでも将軍だよ」


「ぜんぜん見えないニャ」


 ルーシーとミーニャの見解も辛辣である。


「馬子にも衣装って言うけど限度があるよね」


 シェリーもなかなか手厳しい。

 俺もそう思うけどな。


 着ている服が決定的に似合っていない。

 中世ヨーロッパで貴族が着ていたジュストコールを派手にした感じの服なんだけどね。

 軍服っぽく改造してたりして怒り肩に見せたりしてるけど、すべて裏目に出ている。

 何処からどう見ても滑稽としか言い様がない。

 皆もシェリーの意見に同意するだろうと思っていたら……


「それは馬方に失礼だと思うの」


「引き合いに出す以前の問題だと思うの」


 ハッピーとチーが更に手厳しかった。

 悪党相手には、みんな遠慮がない。


「ところで、ハルさんや」


 ここでトモさんが呼びかけてきた。


「何かな?」


「向かいに座っている超猫背なオッサンは誰?」


 指差しながらトモさんが聞いてきた。

 存在感だけは圧倒的な黒豚のせいで、今までまるで注目されていなかった。

 決して影の薄いバスケットボール部員の少年ではない。

 こちらは見るからにオッサンだし、トモさんが評したように超猫背だ。

 とても運動神経に恵まれているようには見えない。

 コイツはコイツで存在感がある。

 超猫背男の背が低いのと黒豚の白豚ソックリ度に目を奪われて目立たなかっただけだな。


『……………』


 なんか超猫背男って呼びにくいのでドブネズミと呼称することにした。

 今まで色んなドブネズミがいたけどコイツは丸まった背中がそれを連想させるタイプだ。

 まあ、こんなのでも名前はちゃんとあるんだけどな。


「名前はトーラ・プーツ」


 皆の視線が「名前は聞いてない」と言ってきている。

 鑑定できない面子のためと思って詳細を語ろうとしたら却下の空気が流れていた。

 しょうがないので簡潔に説明することにする。


「表向きは黒豚の参謀だ」


 フンフンと皆が頷いている。

 今度は大丈夫なようだ。

 その調子でお願いという視線が送られてきた。


「でもって裏の顔はヤバイ薬の開発担当」


「「「「「おお─────っ」」」」」


 何故かパチパチと拍手が数度。

 そんなに感心することだろうか。

 どう考えても、このシチュエーションならここに居て然るべき相手だと思うのだが。


「なるほどねー」


 トモさんが唸った。


「背が低くて軍人っぽくないと思ってたら、コイツが薬師だったのか」


「だったのかって……

 トモさんは鑑定スキル持ってるでしょ」


 皆の意識をドブネズミに向けさせるために質問という形を取ったのかと思っていたのに。


「あー、ごめーん。

 使うの忘れてたー」


 実は鑑定していませんでしたのパターンである。


「こういう時は使わないと、いざという時に後れを取ることがあるからね」


「わかった。

 気を付けよう」


 神妙な面持ちで頷いていたかと思うと沈黙すること数秒。


「なんだか状態異常がついてるね」


 さっそく【鑑定】スキルを使ったようだ。


「ドブネズミの薬を使ったからね」


「ドブネズミ?」


「トーラ・プーツのあだ名。

 本名で呼ぶのが不評だったから」


「……唐突すぎやしないかね」


「俺もそう思う、すまぬ」


「いや、ドブネズミっぽいのは認めるけどね。

 何かそのまま過ぎて嫌だな。

 ……禿げネズミでいいんじゃないかな」


 確かに頭頂部は不自由している。


「何でもいいよ」


 分かり易くて呼びやすければね。

 反対意見もなかったのでドブネズミ改め禿げネズミとなった黒豚の参謀プーツであった。


「あだ名を決めても意味ないんだよね」


「それは何故に?」


 トモさんが何を根拠にそう言っているのか分からず思わず聞いていた。


「すぐにあの世へ行ってもらうんじゃないの?」


「だったら、こんな手の込んだことはしないよ」


「薬を使って[催眠]の状態異常にしたのは単に騒がせないためだけじゃないと?」


「それなら禿げネズミの毒薬で消えてもらう方が手っ取り早いよ」


「ここから何かをするつもりなんだ」


 腕組みをして考え込み始めるトモさん。


「もうすぐ目を覚ますから、そしたら勝手に始めるよ」


 ヒントになることを言ってみたが変化がない。

 耳に届いているのか怪しいところだな。


「もしかして自白するような暗示をかけているのですか?」


 トモさんの様子を見てフェルトが聞いてきた。


「んー、そんなものかな」


 黒幕どもに犯罪自慢の小芝居をさせるつもりなのだ。

 そのために禿げネズミの薬を使い意識を朦朧とさせて暗示をかけた。

 自動人形経由でな。


「もしかして、これが陛下の仰っていた因果応報でしっぺ返し……」


「まだまださ。

 コイツらの悪事を暴いてすべてを終わらせるまでが因果応報だよ」


 なんだか「家に帰るまでが遠足です」みたいなノリになってしまった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 黒豚と禿げネズミが意識を取り戻した。

 俺たちがスマホを手に囲んでいるが、気付く様子はない。

 見えない聞こえない状態だからな。

 そこに「パチン!」とフィンガースナップの音を響かせる。

 これが小芝居開始の合図だ。

 もっとも、本人たちにとっては悪行自慢大会でしかないがね。


「いよいよ翌朝ですな、閣下」


 禿げネズミに閣下と呼ばれた黒豚は「ブハハハ」と下品な笑い声を上げた。


「ゲールウエザー王国の奴らめ、恐れ戦くが良いわ。

 迷宮の暴走でも滅多に見られぬというオーガの大軍が押し寄せる悪夢をとくと味わえ」


「それにしても閣下のアイデアは素晴らしいですな。

 役立たずや犯罪奴隷どもを最強兵団に変えてしまうのですから」


「それも貴様の魔人化薬と暗示薬あってのことだ、プーツよ」


「恐れ入ります」


 丸い背を更に丸めて頭を下げる禿げネズミ。

 そして2人はどちらからともなく高らかに笑い始めた。

 さて、滑り出しは順調。

 この調子で暗殺の件とかもガンガン喋ってくれよ。


読んでくれてありがとう。

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