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466 証拠と言えば例のアレ

「その様子だと既に証拠を掴んでおるか」


 呆れたと言わんばかりの目を向けてくるツバキ。


「先に参謀本部へ斥候を放っておいたからな」


「あちらの物々しい警備の方が本命か」


「参謀本部ですか?」


 ハリーが聞いてくる。


「この国の軍隊の中枢だな」


 その説明だけで納得がいったらしく頷いている。


「将軍がどのような人物か分かったような気がします」


 それは今更な気もするが、より確信を持ったということなんだろう。


「それで証拠ってなんだい?」


 今度はトモさんが聞いてきた。

 妙に期待感のこもった目をしている。

 漫画だったら「ワクワク」とか書き文字が書かれていることだろう。


「日記だよ」


「「「「「だあ─────っ」」」」」


 若夫婦以外がずっこけた。

 ローズも「くう─────っ」とか言って皆に同調しているほどだ。


「な、なんですか!?」


 フェルトがオロオロとずっこけた一同を見渡す。

 視線に落ち着きがないのは、それだけ動揺したってことだろう。


「なんか関西人のノリをしてるなぁ」


 妙に感心しているトモさん。

 このあたりはテレビとかで色々見てきた経験の差が出ているんだと思う。


「で、日記だと何か問題あるの?」


「問題はないけど悪党の思考パターンが似通っていることに呆れたんだと思うよ」


「そんなに似てるの?」


 ずっこけた一同が2度頷く。


「日記に犯罪の内容が克明に記されているとか?」


 皆が俺を見た。

 どうなんだと問いかけてきているのは間違いない。


「20年くらい前からの犯罪自慢がこの数十冊に」


 転送魔法で引き寄せたハードカバーの日記を積み上げる。


「犯罪自慢って、そんなに?」


 トモさんが苦笑気味に聞いてきた。

 犯罪自慢は内容の一部だけだと思っていたんだろうな。


「代表的なのは王族の毒殺の数々」


「数々って……、えぇ─────っ!?」


「今更驚くかい?」


「だってさあ、毒殺でしょぉ?

 何人も暗殺って簡単にできないでしょうが」


「徐々に症状を悪化させて病没ということにしてるみたいだよ」


「それにしたってさぁ、疑う人もいたでしょうに」


「いたけど暗殺されてるね。

 こっちはもっと直接的に斬り殺されたりしてる」


「うわぁ」


 色々とツッコミを入れてきたトモさんだが「やられた!」って顔して仰け反った。

 ギブアップということらしい。


「他にも誘拐して地下施設に監禁して実験台にしたり」


「実験台って何の?」


「色んな薬の」


「……それって魔人化薬も含まれるとか」


 恐る恐るといった感じで聞いてくる。


「半分くらいは、そっちで実験してるみたいだね」


「マジかぁー」


 2度目の仰け反りである。

 なんでショックなのかはよく分からないが。


「残りの半分は毒殺用の薬ですか?」


 今度はカーラが聞いてきた。


「それは日記の中では10年くらい前までで終わってるみたいだな」


「では、それ以降はどのような?」


「毒薬の開発終了と前後して研究され始めたのは自白剤だな」


 自白剤の単語に真っ先に反応したのがトモさんだ。


「何それ、怖い!」


 実体験はなくても、間接的に怖さを理解しているのかね。

 仕事に限らず色んな作品を見てきているのが大きいんだろうな。

 俺も外国の映画なんかで見たことがある。


 後は異星人との戦争に巻き込まれた子供たちのアニメかな。

 アニメの方は脅すために用意されただけで使われなかったけど。

 使えば廃人になるなんて揺さぶりをかけられていた。

 そこから考えるとハッタリなんだとは思うけど。


 ただ、こちらは本物だ。

 初期に開発されたものは毒薬でもあったらしい。

 情報を聞き出し終わる前に息絶えることも多々あったと日記に記されている。


『胸糞悪い話だ』


「そこから改良を重ねて暗示にかかりやすくなるようにしていったとさ」


 皆が「ん?」という怪訝な表情になった。


「旦那よ、何処かで聞いたような話なのだが」


 皆も頷いている。


「幻覚を見たりとかあるですか?」


 とシェリー。


「日記の記述にそうあるな」


「量しだいで自由意思まで奪うとか?」


 続いてルーシー。


「大量摂取すると、そうなると書かれている」


 皆が互いに顔を見合わせている。


「じゃあ使い続けると脳神経が破壊されるのでしょうか……」


 これはカーラだった。


「日記ではそういう記述はないな。

 西方人は脳神経なんて言葉自体を知らんだろうし」


 あれは俺が鑑定した結果、得られた情報だ。


「あー、そうでした。

 もう一息だったんですが」


「何がもう一息なのかよく分からんが、死亡事例なら最初からあるぞ」


「そうなのですか?」


 最初は使えば確実に死ぬような危険薬物だったことも説明した。


「シャレにならない薬ですね」


「まあな」


「ということは、現在のものって改良品だよね」


 トモさんにそう聞かれて俺は頷く。


「そういうことだね。

 ここ2年ほどのものは使用条件を守れば死ななくなっているようだ」


「使用条件って?」


「短期間のうちに大量摂取を続けないこと」


「劇薬みたいなものか」


 初期のものに比べれば大人しくなってるけどね。


「まあ、そういうことだ。

 ちなみに割とスプラッターな死に方をするみたいだな」


「というと?」


「グロ注意だけど、いいのか?」


 全員を見渡して聞いてみたけど誰も耳を塞いでいない。

 タフだよな。


「目や耳などからの出血を伴うんだと。

 出血はそれなりの量があって直視しづらいってさ」


 沈黙が訪れる。

 なんだか想像しているようだけど。


『そこまでする必要はないんじゃないかな』


 俺としては見たくもなければ想像したくもない死に様だ。


「ここまで聞けば」


 ツバキが呟いた。


「ん?」


「将軍であることは間違いないという訳か」


「探そうと思っていた相手が向こうから飛び込んできましたね」


 ツバキの言葉にハリーが追随した。

 飛び込んできたというか、俺たちが飛び込んだんだが。

 何にせよ2人の発言で皆が気の抜けたような雰囲気になっていた。


「将軍の名前を聞いた時点で、そうじゃないかとは思っていましたが」


「例の薬物の出所はここで間違いないようだな」


 ツバキの言う例の薬物とはゴードンの養子を助けた時に発見したものだ。

 何故かハリーとツバキが両肩を落として溜め息をついていた。


「そんなに落胆するようなことか?」


 それこそハリーの言ったように将軍の名前を聞いた時に分かりきっていたことだ。


「犯人が減ると、そのぶん暴れられぬではないか」


「同感です」


「くうくっくー」


 暴れさせろーって、無茶を言うなよ。


「あのなあ……」


 どんだけローズの影響を受けているんだか。


「暴れるために来ているんじゃないんだぞ」


「えっ、だって友達に手を出す奴らには天誅じゃなかったの?」


 トモさんまで、そんなことを言い出す始末だ。


「天誅とは言ってない」


「またまたぁ、そこまでやるつもりでしょうに」


「……………」


 完全に読まれているな。


「いずれにしても、ここで大暴れはしないし、させないよ」


 それでも宣言しておかないとな。

 暴走でもされたら敵わん。


「「「「「ええ~っ」」」」」


 何故かほぼ全員から抗議された。

 不満の声を出さなかったのはフェルトだけ。


「朝まで我慢しなさいって。

 こんな所で暴れると問題になるんだから」


 派手にやると冗談ではなくヤバいはずだ。

 例えば参謀本部詰めの連中全員を眠らせただけでもヤバいと思う。

 ブレット王国側は犯人捜しに躍起になる。

 王城の敷地内に不法侵入者が現れて好き放題されたんだからな。

 王族の面子が丸つぶれである。


 それだけに必死になるだろうさ。

 鬱陶しいことこの上ない。

 少なくとも表立って指名手配されないラインで終わらせたい。

 とするなら証拠を王太子派の宰相に届けて将軍を始末するぐらいまでが精々だろう。


「くうくー、くくっくぅーくう」


 仕方ない、それで手を打とうって、何様だよ。

 しかも手の先から鉤爪伸ばして言う台詞じゃないでしょうが。

 ローズの発言に皆もそんな雰囲気になっているし。


『まったく……』


 後々の面倒事は極力回避したいっていうのに欲望を優先しようとするんだから。


「ところでさ」


 トモさんが声を掛けてくる。


「これから将軍の所に乗り込むとして変な薬とか使われないかな」


 なかなか用心深いことで。


「世間に出回らないように回収済みだよ」


 レシピのような資料も含めてね。


「それに俺たちには効かないよ。

 レベル30くらいから効きにくくなる程度の代物だから」


「そうなんだ。

 問答無用で効果があるのかと思ってたよ」


「抵抗力は誰にでもあるからね。

 レベル50以上だと何の変化もないまま体外に排出されるだろうね」


「はー、ステータスが上昇すれば毒にも勝てるのかー」


 納得してくれたようでなによりである。


読んでくれてありがとう。

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