464 友達に喧嘩を売る奴を見過ごす訳がない
「宣戦布告ぅ!?」
思わず声がデカくなる。
結界を張っておいて正解だった。
まあ、室内にいる一同には丸聞こえなんだが。
「「「「「なんですとぉ!?」」」」」
てな具合に驚いている。
子供組やトモさんは瞬間的ではあるが変なポーズで固まってしまったくらいだ。
反面、ツバキやハリーなんかは動じていない。
色々と連れ回した上に何度も騒動に巻き込まれているからだろうか。
その割にドルフィンの中の人は興奮が抑えきれないようなんですが……
寡黙なキャラは守っているんだけど、シャドウボクシングを始めてるし。
『えらい騒ぎじゃな』
「結界は張ってあるから外部には漏れないよ」
それはいいとしても、この電話が終わった後を考えるとドッと疲れがのし掛かるようだ。
きっと前のめりになって説明を求めてくる。
それこそ根掘り葉掘りでね。
実に面倒くさい話だ。
付き合ってられそうにないので皆にも聞こえるようにスピーカーホンの状態にした。
「それで何処が何処に喧嘩を売ったんだ」
こんな状況下で入る知らせだ。
間違いなく俺たちも巻き込まれる。
タダでさえ面倒なことになっているのに引っかき回してくれる訳か。
詳しい話を聞く前からイライラさせられる。
『布告したのはブレット王国じゃな』
惑星レーヌ上では小国中の小国じゃないか。
国土面積ではうちよりずっと狭い。
本国の島だけで見ても何倍もの差がある。
元はバーグラー王国の辺境伯領だったから無理はないか。
ちなみにあの盗賊国家とはとっくの昔に縁が切れている。
百数十年前の辺境伯が離反し独立したのだ。
割とまともな人物であったらしい。
しかしながら強か者でもあったようだ。
他の地方領主に独立を促し、結果としてバーグラーの東側に小国が4つできた。
これだけでもバーグラーの怒りの矛先が分散する訳だ。
もちろん発端となったブレット王国がもっとも恨まれる。
だが、矛先を直接向けようにも国境は離れてしまった。
同時期に自国以外にも独立国ができたためだ。
直接、国境を接しているのは2ヶ国。
後方の2ヶ国と連係して攻めてきたバーグラー国軍を退けたとなっている。
もちろん後方の国がブレット王国だ。
ズルいというか、ちゃっかりしている。
単独での独立なら開戦直後に敗戦ということもあり得ただろうに。
他の周辺国の情勢も見ていたらしく、小規模な衝突で戦争は終わっていた。
バーグラーは昔から敵が多い国だったからな。
その当時から盗賊国家として名を馳せていたのには感心させられるが。
まあ、すでに無い国のことをとやかく言ってもな。
今はブレット王国である。
【諸法の理】の歴史的な資料によれば比較的まともな部類に入る国家なんだが。
最近はそうでもないのだろうか。
『相手はゲールウエザー王国じゃ』
「……アホだろ」
国力差がありすぎる。
奇襲を仕掛けても一時的な勝利しか得られないだろうに。
『ワシもそう思うんじゃが、堂々と開戦を告げる書状を送ってきおったからな』
まるで見てきたかのように言うガンフォール。
王都方面に行かせたのはクラウド王にもダンジョンができた旨を伝えるためである。
この機会にジェダイト王国がジェダイトシティになったことも説明するためでもあった。
まあ、ガンフォールが行けば、あそこの王が会わぬはずはないからな。
そこで宣戦布告の話を聞かされたとなれば……
「書状を見たのか?」
『この目で確と、な。
気持ち悪いくらい自信に満ちた文面じゃった』
「ほう?」
『明日の開戦を皮切りに連戦連勝で王都に迫るとあったわ』
連戦連勝とは確かに大した自信だ。
「自信の割には小心者だな。
軍を編成して送り込むまでの猶予は与えないってことだろ」
『まあ、そうじゃな。
書状が届くギリギリを見極めて日付を指定しておった』
「それが明日か」
『周辺国に不意打ちでないと言い訳する気が満々じゃ』
「セコい手を使いやがって」
『同感じゃ。
が、それでも王都に迫れるほど勝ち進めるとは到底思えぬ』
普通に考えるなら捕虜を大量に確保して身代金を確保するのが目的と見るべきところだ。
強気に出ているのはハッタリ半分、周辺国への牽制半分だろう。
戦の結果次第では強力な軍事国家であると思わせることができる。
ゲールウエザー王国に痛手を負わせるほどなら他国にとっては脅威だからな。
「本命の目的は他にある、か」
『王も宰相もそう見ておった』
なかなか冷静なことだ。
これなら大敗を喫することはないだろう。
「ガンフォールはどう思う?」
『案外、本気かもしれぬ』
「というと何か根拠があるのか?」
『いいや、ほとんど勘じゃよ』
「そういうのは大事だぞ。
俺も嫌な予感がするからな」
そう言って先を促すと、きな臭い話をし始めた。
曰くブレット王国のお家騒動のようだ。
国王が高齢で寝たきりの状態でありながら王太子が病弱。
他に継承権のある成人が男女を問わずいないという。
いや、近年までは居たのだが次々と流行病で病没したそうだ。
残っている継承権者は側室が産んだとされる幼い王子のみ。
この状態でブレット王国の貴族は二分。
宰相が中心となっている王太子派。
軍事部門を取り仕切る将軍が率いる王子派。
前者が穏健派で後者がタカ派。
数の上では王太子派の貴族の方が多いが、力では王子派に敵わない。
そこは財布の紐を王太子派が握ることで何とか御している状態だとか。
典型的なテンプレパターンじゃねえかよ。
「よく今まで暴走させずに来られたな」
宰相の苦労が忍ばれる。
後は財務系の貴族が踏ん張ったと見るべきだろう。
それでも戦争になろうとしているのだけど。
『やはりハルトはそう見るか』
「書簡は国王の署名でもしてあるのか」
『いや、将軍のものだ』
「誰が見ても将軍の暴走じゃね?」
『じゃな……』
「クラウドたちは違うのか」
『そこは問題視しておらんのじゃ。
他国の政治には介入しないのは不文律じゃからな』
「ガンフォールはどう見る?」
『ワシは将軍と取り巻きをどうにかすれば解決するとは思っておる』
「じゃあ、そうしよう」
『おいっ!』
ガンフォールがツッコミを入れてくる。
「心配しなくても先に裏ぐらいは取るさ」
『また無茶苦茶なことを考えておるのじゃろう』
「俺にとっては普通のことだがな」
『何処が普通なんじゃ』
「連中は俺の友達に喧嘩をふっかけた」
『っ!!』
俺が冷ややかな目をして発する言葉は電話の向こうのガンフォールを凍り付かせたようだ。
別に俺の姿が見える訳ではないし殺気立ったりはしていないんだがね。
一方で電話の話に耳を傾けていた皆も妙に騒がしい。
「ハル様が怒ってるニャ」
「うん、怒ってる」
「友達に手を出されて黙ってる訳ないよね」
「「将軍、卑怯な奴」」
と子供組が話し合っているのを見てフェルトが落ち着かない様子を見せている。
「もしかして陛下はお一人で他国と戦うおつもりでは」
「まさかー、加勢くらいはしそうな雰囲気だけど」
フェルトの懸念をトモさんが軽い調子で否定する。
「甘いですね、貴方たち。
ハル様はクリスへの求婚を断るため盗賊国家に殴り込みをかけたことがあるのですよ」
カーラの言葉にフェルトが目を見開いて息をのむ。
「ルーリア以外の月影の一同も以前に被害を被ったという経緯もありましたからね」
「無茶するなぁ」
目を丸くしているトモさん。
「同行したのは20人に満たないメンバーでしたか」
「そうだな、ほぼ飢饉対策の時の面子であった」
「「え?」」
カーラとツバキの会話に怪訝な表情を浮かべる若夫婦。
もっと大軍を引き連れて戦ったと誤解しているようだ。
国を相手取ると聞かされると普通はそう考えるか。
「私も留守番ではなく同行したかったです」
「だが、我々は少し手伝っただけのようなものだぞ。
ノエルたちは禿げ豚に復讐できて満足していたようだが」
「現場が見たかったです」
「ああ、臨場感は確かに違うな。
城をあっと言う間に瓦礫の山に変えたのは圧巻であった」
「「ええっ!?」」
シヅカがさらっと言ったひとことに目をむく若夫婦。
「何を驚いているのです?
ハル様は一夜のうちに盗賊国家を滅ぼしたのですよ」
「またまたー」
ハハハと笑いながら混ぜっ返そうとするトモさん。
真顔でジッと見つめ返すツバキとカーラ。
「マジで……?」
2人の視線の重さにたじろいでいるところに淡々と畳み掛ける2人。
「その時の記録映像がありますよ」
「稼働していた自動人形の視点になるから膨大な量の記録になるがな」
「私も全部は見ていませんね。
というより諦めました」
「どれも似たような映像だからな。
城をぶっ壊した時の映像の方が見応えがある」
「良かったら見てみます?」
「ホントにそんなのあるんだ……」
絞り出すようにトモさんが呟いた。
フェルトは声も出ないらしい。
どうやら一夜で国を滅ぼしたというのが酔いが回るように効いてきたようだ。
「うちの亭主は家族や友達に害をなすバカには厳しいからな」
フフンとドヤ顔で笑みを浮かべるツバキ。
「それはまあ分かるんだけど。
いくら何でも規模が違いすぎでしょ……」
「信じられんなら今回、連れて行ってもらうといい」
「あ、それはいいですね。
私も行きたいです」
「「「「「行きたいでーす」」」」」
ツバキの提案にカーラが乗ったかと思うと子供組まで乗ってきた。
『ワシは行かんぞ』
ガンフォールまで俺が皆を連れて行く前提かよ。
コソッと1人で行ってくるつもりだったんだがな。
読んでくれてありがとう。




