463 薬の出所は
俺としては気を遣ったつもりである。
比較的常識的に見えるであろう方法で残骸やらを処分したのだ。
実行した魔法は3段階に分けられるかな。
まず、地魔法で深く穴を掘って対象物を落とした。
遠巻きに見ている野次馬にはこれで見られる恐れがなくなった訳だ。
衛兵はもうしょうがない。
それでも深く掘ったから高所恐怖症の人間は近づかないだろう。
後は小隊長に部外者への口止めを依頼するくらいか。
四つん這いになって覗き込んでたけど怖いんなら見なきゃいいのに。
……報告する義務があるか。
些か憐れではあるな。
それで穴の深さを変えたりはしないんだけど。
次に結界を張りつつラーヴァフロウを穴の底で実行。
結界は溶岩の接している穴に対してだ。
溶鉱炉がわりなので穴が拡張してしまっては意味がない。
あと上に熱が伝わるのもどうかと思ったのでね。
覗き込む衛兵も少なからずいたからさ。
熱気で魔法の凄まじさを体感されるとヤバそうな気がしたんだよ。
で、対象物が溶けるのを確認したら溶岩は消して穴を綺麗に埋めたという訳だ。
それなりに手間がかかっている。
なのに、覗き込んでいた衛兵たちは茫然自失状態なんだよな。
『あれで自重したことにならんのか』
俺にどうしろというのか。
せっかく面倒を厭わずにあれこれと手をかけたというのに。
『マジで勘弁してくれ』
いっそ泣きたいくらいだよ。
『いや、落ち着け』
ここはポジティブに考えよう。
手数をかけたから、このぐらいで済んだのだと。
幸いにしてギャラリーは何が起きたのか分からず、ほとんどが首を捻っている。
中には衛兵の様子を見てドン引きしているのもいるが。
そういうのは一部の冒険者だ。
俺かうちの面子の試験の様子を見たことがあるのだろう。
その記憶を元に何か凄いことをやらかしたと想像している訳だ。
『それは仕方がない』
想像は他人に伝わるものではないから良しとしよう。
本当の意味でドン引きしているのは衛兵だけだ。
口止めしておけば、ある程度は噂の拡散も抑えられる。
発信元の絶対数も頻度も少ないとなれば伝わる話には尾ひれがつきやすい。
まともに信じる奴なんてそうそういないだろう。
そう考えれば、ここにいるギャラリーに目撃されて広げられるよりは遥かにマシだ。
『手っ取り早く始末しなくて良かったー』
分解の魔法なんて使って終わらせていたらどうなっていたことか。
『寒気すら覚えるな』
これで良かったのだ。
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さて、処理は完了した。
それで「はい、さようなら」とはいかないのが悲しいところである。
「誠に申し訳ありませんが──」
小隊長に呼び止められて衛兵の詰め所へ同行することになった。
事情の説明とか面倒くさくて御免被りたいのだが。
だが、身内が関わった以上はしょうがない。
詰め所でもケニーに「わざわざお手数おかけします」と言われたし。
説明責任を放棄して逃げる訳にもいかないだろう。
それに説明自体はそんなに時間のかかることでもなかった。
半時間ほどで終了である。
最初にくどいほど礼を言われたから、実質的にはもう少し短いだろう。
まあ、隊長であるケニー自らの聴取ということで気を遣わせた部分はあると思うが。
「協力していただいたということで少ないですが報賞金です」
最後に革袋に入った硬貨を出された。
「いや、それは不要だ」
「ですが──」
ケニーの反論を遮って言葉を続ける。
「代わりに押収品を改めさせてくれ。
あと、奴らの関係先を確認しておきたい」
「それは……」
ケニーが即答しかねるのも無理はない。
危ない所に加勢して助けたというのとは違う。
捜査業務に首を突っ込んでくる訳だからな。
邪魔にも思うだろうし、実際そうだ。
「ま、まだ何かあるのでしょうか?」
「……………」
どうやらそうでもないらしい。
少なくともケニーは問題の発生を懸念している。
『これで一件落着だと思ってたのかね』
まあ、そう思うのも無理はないかもな。
一味の首魁も手下も捕らえるか倒すかした訳だから。
「ムハ・エコップは魔人化薬の作り方までは知らなかっただろ」
奴は商人であって研究者でも錬金術師でもない。
「え、ええ、そういう報告は上がっていません。
奴が雇っていた人間の取り調べは終わっていませんが……」
「そちらも知る者がいるようには思えないと」
「はい、使用人はほとんどが必要以上を知らされていないようです」
情報の漏洩には気を遣っていたようだな。
これはまあ普通の対応だろう。
後ろ暗いことがあるなら特にな。
「側近も何人かいますが、金儲けのことしか頭にない連中です」
御しやすい者を重用した結果と思われる。
「じゃあ、誰が調薬しているんだ」
「あ」
そこまで指摘してようやく気付いたようだ。
『まったく……』
それくらいは自分で気がつけよとツッコミを入れたくなる。
だが、捜査のノウハウがないだけなのかもしれない。
この程度は確かに考えれば分かることだ。
が、そういう事件の経験がなければ目先のことに気を取られてしまう。
故にそこまで考えようという発想にならない。
大抵の犯罪者がそこまでする必要のない連中だからだ。
検挙率が高ければ必死にならない訳で。
元日本人からすると未成熟と感じることも、こちらではそうではない。
そんな訳だから少しでも巧妙な連中は潜伏しやすいのかもな。
逆に、だからこそ今回逃げ出した連中は罠にかかったとも言えるのだろう。
こういうことが続けばどちらもノウハウを蓄積していくのかもな。
なかなかそうはならないとは思うが。
やはり情報伝達手段が限られているのがネックだろう。
どうにかしたいとは思わないが。
「では、調薬している者の手掛かりが証拠品の中にあるということでしょうか」
「あるかもしれないという程度だがな」
「帳簿を見れば材料の入手先は追えるでしょうが……」
「特殊な材料を使っていれば、それだけで判明することもあるな」
「おお、そうですね」
そんな風に話を進めていき俺も押収品や白豚の関係先を確認することができた。
時間がかかるので俺だけが残って皆は宿の方へ向かわせたのは言うまでもない。
実に面倒なことだが、嫌な予感がするんだよな。
放置してはいけないと俺の勘が告げている。
が、楽な作業じゃないんだ。
「この薬草はもっと北の方でないと入手不可だ」
「隣国ということですか」
「まさか、もっと北」
「なんてことだ。
我々の手が届かない所にまで……」
こんな具合に、捜査権の及ばない国外にも野郎の立ち寄り先が判明。
相手は商人だから不思議ではないんだけど。
そのせいで俺が裏で動かざるを得なくなったり。
まあ、斥候型自動人形を投入するだけなんだが。
「帳簿のこの部分は意図的に間違えてるな。
他にも同じ間違いの個所がいくつか見受けられる」
「それは、どういう?」
「このページ丸々を裏帳簿と置き換えるんだろうな」
「符丁がわりですか」
「まだ見つかってない帳簿があるんじゃないのか」
「っ! 探させます」
「あ、俺が行くわ」
鑑定すれば一発だろうと関係先を全部回った。
で、空振り。
押収品の中に隠されていたというオチなんだ、これが。
『マジ、ふざけんな!』
そんなこんなで芳しい成果を得られなかった。
開発者に繋がる情報を得るという点ではね。
その代わり、裏帳簿の方で禿げ豚に売りさばいたのは確認できた。
どうやら基礎研究をした人間は別にいるようだ。
禿げ豚の方が発展させた訳だけどな。
あるいは研究の方向性が違うのかもしれない。
禿げ豚は自分で使うことを念頭に置いてより強化されるようにしていた。
だが、こちらは量産を視野に置いている気がするんだよね。
帳簿の上では安い材料を片っ端から購入し、中には定期的に購入している物もあった。
そこから代用材料を探しているように感じたのだ。
ほとんど俺の勘ではあるがな。
故にこの辺りの話はケニーにはしていない。
一通り確認が終わった時点でその日は終了となった。
翌日に尋問で情報を得ようということで解散した訳だ。
『なーんで、俺が捜査に加わってんだろうな』
自分で首を突っ込んだからだな。
己の勘に従った結果だが、成果が芳しくないと愚痴のひとつも言いたくなる。
既に宿屋でくつろいでいる皆の前だから言わないけど。
『RRRRR』
電話だ。
脳内スマホではなく俺のお手製スマホの方から。
相手はガンフォールである。
宿屋の部屋に結界を張ってからスマホを引っ張り出した。
「よう、どうした?」
『問題発生じゃ』
思わず回線を切りたくなった。
「えー、そっちでもかよぉ」
『なんじゃと!?』
ガンフォールが驚くのも無理はない。
こちらでも問題が発生しているとは思っていなかっただろうしな。
俺としちゃあミズホ国に帰って引きこもりたいところである。
まあ、そんなことも言っていられないがな。
そんな訳で情報共有することになった。
まずは俺の方から先に今回の一件について説明する。
「──という訳なんだ」
俺の話が終わると沈黙が訪れた。
ガンフォールの反応を待つ。
しばらくすると、まず溜め息が返された。
『あの薬に関わる話がここで浮上してくるとはの。
ワシはあの男が死んだことで終わったものと思っておったんじゃが』
俺も同感だよ。
「それで、そっちの問題ってのは何なんだ?」
こちらの案件ほど酷いものでないことを願う。
多分無理だと思うけど。
読んでくれてありがとう。




