454 ランクを上げる
26話を改訂版に差し替えました。
流れは変えていませんが、ガラッと変わっている個所もあります。
以上、お知らせでした。
「さすがは先生のお弟子さんですね」
商人ギルド長のシャーリーが声を掛けてきた。
「話があるんだっけ?」
気乗りはしないが再び土下座されてもかなわんし。
ほとんど脅迫されている気分だ。
「はい、是非とも聞いていただきたいお話があります」
実に面倒くさそうな空気が漂っている。
このまま商人ギルドに連行されるのは真っ平なので牽制しておこうと真っ先に思った。
「手続きのついででいいなら聞かせてもらおうか」
俺も暇じゃないから変なことに巻き込むなよアピールである。
そしたらゴードンがジト目で見てきた。
手続きは試験を受けた人間だけだと言いたいようだ。
百も承知だと睨み返しておくと何も言ってこなかった。
殺気を込めるまでもない。
模擬試験の手配で不手際があったからな。
これで今日の分の貸し借りはなしだ。
が、それで問題が解決した訳じゃない。
シャーリーのお話とやらは、まだ聞いていない。
向こうのペースに引き込まれないよう向こうの土俵に入らぬようにしただけだ。
「はいっ、お願いします」
だからシャーリーに凄くいい笑顔で返事をされてしまうと嫌な予感しかしない。
なにより食堂の姉妹まで残っているのがね。
この2人、もう用がないはずだ。
模擬戦を見学したかっただけなら、挨拶して帰っているだろうし。
そもそも店の方はほったらかしにして大丈夫なのか?
昼から営業を始めるにしても仕込みとかあるだろうに。
三女がいるが、彼女では留守番しかできまい。
毒関連の治療はしたけど元々そんなに体が丈夫じゃなさそうだったし。
もちろん体力の回復だってさせてはいるさ。
だが、食べ物商売の仕込みなんて体力勝負なものが多いからな。
三女じゃ休憩を挟みながらでも終わらせられないはず。
それ以前に姉たちが仕事をさせないだろうけど。
『あー、こりゃ臨時休業にしてるんだな』
どうやら姉妹がらみのお話のようだ。
お話じゃなくてお願いだよね。
しかも断れない前提のやつ。
『乗りかかった船だもんなぁ』
なるたけ面倒くさくない話でありますようにと密かに願掛けしておいた。
何の効果もないけどな。
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ギルド長の執務室で手続きを行う。
新規登録組はそれでいいとして俺らもそれらしいことをしなければならない。
何の用もないとシャーリーにバレては困るからな。
そんな訳で上位端末の魔道具を使うことにした。
ゴードンにはランクアップの申請だと言ってある。
レベルの確認のためだけに使うと逃げているのがバレそうだしな。
「黒より上なんて紫しかないんだぞ」
ゴードンは呆れ顔である。
さんざん目立ちたくないと言ったからな。
それは嘘ではない。
だが、うちの子たちが俺より目立つのは避けたいのだ。
国民を守ると決めているからな。
変なトラブルに巻き込まれるのは俺だけで充分だよ。
まあ、俺が巻き込まれたことで皆も巻き込まれたりはするんだけどさ。
完璧に防ぐのは無理だからな。
真っ先に矢面に立つのは俺ってことで。
「俺の弟子たちが黒ランクだらけになるのは間違いないからな」
そうでなくても既に守護者組やハリーは黒ランクなのだ。
月影だっていつ茶ランクから黒ランクになってもおかしくない。
「そういうことか」
渋い表情を浮かべてゴードンは溜め息をついた。
「仕方あるまいな。
だが、そうなると試験の手配をせねばならん。
はっきり言って、ここじゃ無理だぞ」
「そんなことはない」
「なんだと?」
「だから上位端末を使うんだよ」
ゴードンが困惑している。
俺の言った言葉の意味が理解できないらしい。
「短期間でレベルアップしているなら試験も必要ないだろ」
「バカを言うな。
黒から紫にランクアップするなら最低でもレベル80は必要だ」
世間的に英雄と言われるレベルだな。
「確か前はレベル71だったろう」
インパクトが強かったせいか覚えていたようだ。
「いくらなんでも──」
延々と話が続きそうだったので無視して端末の石版を手元に寄せた。
端末の石版が上位用の大きいものに交換されている。
ルーリアと出会った時のことが思い出されるな。
あのときは壊れてて一般用で代用したんだよ。
「おいっ、人の話を聞け」
「うるさいなぁ。
これを見てからとやかく言えよ」
俺は端末に両手を乗せた。
即座に端末が情報を表示する。
さすがに専用品だと反応が早いね。
[ハルト・ヒガ/人間種・ヒューマン/賢者/男/17才/レベル101]
偽装レベルはこれくらいにしておくことにした。
「なななっ、なんだとぅおぉぉっ!?」
大量の唾を吐き出すように絶叫するゴードン。
「毎度毎度、汚えんだよ」
向かい合ってはいなかったので防ぐ必要はなかったけど文句は言っておく。
俺らじゃなくて端末の方が汚れたからな。
生活魔法のドライ洗浄で濡らさずに洗っておいた。
「そそそ、そんなことはどうでもいい!」
こちらを向いて来たので最初からブロック。
「き・た・ね・え、つってんだろが」
ゴードンに向けて軽く殺気を叩き込む。
こうでもしないと落ち着きそうにないのでやむを得まい。
シャーリーや姉妹には【気力制御】で届かぬようにしておいたから気付かれないだろう。
それでも殺気はすぐに引っ込めた。
やり過ぎるとガクブル状態になって話もできなくなるし。
回復させるのも面倒だもんね。
ゴードンならこの程度でどうにかなるとは思えないけれど。
気付かなきゃリトライするだけだ。
が、その必要はなかった。
「すまん」
前のめりになっていたゴードンが萎んでいく。
頭に上っていた血は下がったようだ。
「落ち着きゃいいんだよ」
そう言いながら自分のカードを端末に差し込んだ。
「驚くのも無理はないだろうがな。
前より30はレベルアップしたことになるから」
凄い勢いで頷くゴードン。
「どどどどうやった?」
どもるのまでは治っていないか。
頭の中では混乱がまだまだ続いているようだ。
唾が飛んでこなくなっただけで充分なので放置する。
「参考にならんぞ。
亜竜クラスの大物を何度か相手にしたからな」
ゴードンは顎を外さんばかりに大口を開けて固まってしまった。
面倒なので放置する。
その間に手続きだ。
トモさんたちには書類を書いてもらわないといけない。
その間にシャーリーと話をすればいいだろう。
「あ」
そっちに向き直ると、こちらはこちらで3名様がカチカチだ。
「刺激が強すぎたか」
「しかたあるまい」
ツバキが苦笑しドルフィンとハリーが頷いている。
「我々も計測しておいた方が良さそうだ」
3人が冒険者カードを手にしている。
俺は自分のカードを仕舞い込みながら頷いた。
復帰するたびに驚かれるのも面倒だからな。
という訳でササッと片付ける。
[ツバキ ・ヒガ /人間種・ヒューマン/用心棒/女/レベル93]
[ドルフィン・グレン /人間種・ヒューマン/用心棒/男/レベル98]
[ハリー ・ボーダー/人間種・ヒューマン/用心棒/男/レベル88]
こんな感じの表示に偽装しておいた。
実際のレベルとは桁が違うものの、これでも西方人には衝撃的だ。
固まっている面々が復活する前にカードを通して情報を更新しておく。
その間に申請書類を書き上げたミズホ組が端末を前に並んでいく。
子供組からカーラへと続きエルス夫妻が取りとなっている。
先頭のミーニャが俺の方を見た。
「ハル様、カードが欲しいニャ」
「おっと、すまん。
未登録のカードは俺が受け取っていたんだっけ」
言いながら全員に配っていく。
登録の仕方は説明してあったのでスムーズに進んだ。
フェルトが少し戸惑っていたのは、まだまだ魔道具に慣れていないからだ。
そこはトモさんがフォローしたのは言うまでもない。
魔道具に接した経験はフェルトと同程度だが、戸惑うことなく受け入れている。
その辺りはハイテク機器に囲まれて生活していた経験がものを言うようだ。
現代日本の文化も捨てたもんじゃないってことだな。
今度、何か参考にして作ってみるか。
そういやテレコーダーなんかは参考にしたっけ。
次はゲーム機とかパソコンあたりを作ってみるか。
ジェダイトシティのダンジョンが管理できるようになってからだけど。
色々と考えている間にカードの登録も完了した。
[ミーニャ /人間種・ヒューマン/魔法戦士/女/レベル85]
[ルーシー /人間種・ヒューマン/魔法戦士/女/レベル85]
[シェリー /人間種・ヒューマン/魔法戦士/女/レベル85]
[ハッピー /人間種・ヒューマン/魔法戦士/女/レベル85]
[チー /人間種・ヒューマン/魔法戦士/女/レベル85]
[カーラ ・ヒガ /人間種・ヒューマン/魔法戦士/女/レベル91]
[トモ ・エルス/人間種・ヒューマン/魔法戦士/男/レベル82]
[フェルト・エルス/人間種・エルフ /魔法戦士/女/レベル80]
こうして見てみると偽装情報が多いよな。
まず、種族はしょうがない。
若夫婦以外は人化しているし。
若夫婦は上位種だし。
ジョブと性別はそのままだから良いとしてレベルも下げてある。
本当は8人中6人までが3桁レベルだけどね。
一番低いフェルトは実際とほぼ差がないのはツッコミどころだろう。
実は偽装情報を書き込む時に流れ作業的にやってた結果だ。
処理が終わってから気が付いたんだけど、面倒だからそのままにしただけである。
深い意味はない。
どのみち全員が英雄扱いされるレベルだ。
下手すりゃ紫ランクにされかねない。
そのあたりは黒ランクまでにするよう交渉したけどな。
ゴードンは顔を引きつらせながらも了承したよ。
読んでくれてありがとう。




