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46 つくってみた『筆記用具』

改訂版です。

 大きな溜め息が漏れた。


『待ち遠しいもんだな』


 商人たちと別れてまだ数日である。

 自分でも呆れるほど堪え性がないのは若返っているからだろうか。

 俺が預けた魔物の革が換金されるのが、こんなに待ち遠しいとは思わなかった。


『大きな街でオークションに出されるまでの辛抱だ』


 そうは思うが彼らは馬車移動である。


『高速で移動できる手段があればなぁ』


 つい、自動車を開発して貸し出そうかと思ってしまう。

 悪目立ちするから無理だけど。

 ルボンダ子爵とかいう豚野郎の追っ手を返り討ちにしたばかりだ。

 追っ手に情報を与えるような真似をするのは得策ではない。


 それに他にも強欲な同類はいるだろう。

 段ボール野郎ほど執拗ではないとしても強奪しようとする連中はいるはず。

 ノエルにとっても良くないことだ。


 それでも車を走らせることを妄想してしまう。

 称号に[乗り物マニア]があるのは伊達ではないのだ。

 ルベルスの世界じゃガソリン車は現実的ではないけどな。


 そんな訳で魔力で動く高効率モーターを考えていたりする。

 出力アップや維持時間が課題になってくる。

 両立させるのは、ちょっと時間がかかりそうだ。


『手始めにラジコンから初めてみるか』


 色々とデータ収集できるだろうし。

 それにシミュレーターで操作するようにすれば妖精たちも運転を覚えることができる。

 しかも事故の心配がない。


『まあ、危機感を持ってもらわないと困るんだけど』


 人の形をしたものが運転席にいれば少しは違うか。

 ついでに自動人形化して運転のお手本を見せられるようにするのも悪くない。

 緊急回避とかさせればラジコンの損耗率も下げられるだろう。


『小さな自動車教習所の教官だな』


 問題はその大きさだ。

 城壁代わりの結界で人間サイズの自動人形を考えていたけど。

 こちらの方が大きいから機能を組み込むのは簡単なのだ。


『先にそっちでデータ取りしてコンパクトにしていくか』


 道程は遠そうだ。

 他にもやることは色々とあるからね。

 最近はツバキを助手にして勉強とか人間社会のあれこれを皆に教えている。


 座学に筆記用具なしは厳しいので色々と作ってみた。

 説明用にホワイトボード。

 筆記用にはコピー用紙。


 そして太さの異なるペン。

 太い方がホワイトボード用なんだがサインペンとは少し違う。

 見た目的にはノック式のボールペンなんだけど先端にボールは使われていない。

 先端からインクの出るスタイラスか鉄筆と言うべきか。

 魔力をインクに変換してペン先から出るようにしたのでインクの補充は不要だ。


 他にも数々の調整を施してあるので欠点らしいものは見当たらない。

 書き味や滲みも不満のない状態だし。

 魔力消費の点でも工夫を凝らしてある。

 ペン軸にコイル状にした魔石を埋め込んで魔力の増幅効果を高めているのだ。

 筆記状態でない時には魔力を回復させやすいよう術式を刻み込んである。


『どちらも効果は微々たるものだがな』


 それでも西方の一般人でも使える代物にはなっているはず。


『ミズホ国から持ち出すつもりはないけどね』


 シャーペンくらいはあってもいいかと思わなくはないけど。

 現状はペンがあれば困らないので保留にしている。


 コピー用紙は裏写りの処理で苦戦した。

 将来的に売り出すことを考え、紙そのものに術式を記述しないようにした影響は大きい。


 裏面に光を乱反射させるような加工をしてみたけどイマイチ。

 程度の差はあれ、やっぱり裏写りしたのだ。

 あと、裏面の実用性が残念なことにもなった。


 加工した紙の裏面同士を貼り合わせることで解決したけれど。

 そこから完成に至るまでは更に時間を要した。

 コピー用紙がはがき並みの厚みになってしまったせいだ。


 それからコピー用紙専用のバインダーを作ってみた。

 とじ具なしで背表紙に吸い付くように術式を記述。

 ノートのように使えてページの差し替えが自在というのは思った以上に便利である。


『それにしてもコピー用紙を作っておいてコピー機がないのはどうなんだ?』


 だが、それを作ってしまうとパソコンとプリンターも欲しくなりそうで怖い。

 文書作成が捗りそうだからな。


 で、肝心の勉強だ。

 最初は文字などを教える所から始めたのだが……


「日本語も教えてください」


 ある日、妖精組の1人からそんなお願いをされた。

 惑星レーヌで使われることのない言語に俺は思わず首を傾げたさ。


「使わんだろ?」


「翻訳なしで動画が見たいです」


「ああ、うん。

 そうだね」


『日本のアニメや漫画に感化された外国人みたいな発想だな』


 熱意に比例して上達速度が尋常じゃなかったけどね。

 好きこそものの上手なれ、とはよく言ったものだ。


 一方でお金について教えるのは苦労したよ。


『物々交換の概念さえ怪しいものだったからなぁ』


「皆で分け合えばいいのでは?」


 これだからね。

 たっぷり時間をかけさせていただきましたよ、ええ。

 国民を増やすと決めている以上は理解していないのは問題だ。

 だから動画で買い物のシーンを見せる所から始めたよ。


「面白ーい」


「楽しそう」


「やってみたーい」


『おままごとの感覚だな』


 最初はそんなものだろう。

 なんであれ理解はしてもらえた。

 お金に関する犯罪の動画も見せて悪いことだと教えもした。

 最終的に模擬通貨を用いた模擬店を開いて実習も行ったさ。


 ちなみに模擬通貨を使ったのは金銀銅の素材が不足していたからだ。

 西方で使われている通貨を直に見たことがないというのも影響している。


「素材集めのために皆で大陸に遠征します」


「「「「「やったーっ!」」」」」


 西方人が聞いたら卒倒しそうな反応である。

 そろそろ修行のレベルアップを図りたかったので渡りに船だったけど。


 最初に遭遇したのはオーガの群れだった。

 3メートルはあろうかという筋肉の化け物のような赤鬼さんが10匹。

 音や匂いで接近を感知するのはお手の物の妖精組が先に発見。


「他者の気配を敏感に察知してこそ真の忍者なり」


 オーガに発見されないよう小声でそんなことを言ってみた。

 今後の課題のつもりで言ったんだけど。

 みんな一斉に耳栓とか鼻栓をしだしたのには思わず吹き出してしまったさ。


「そういうのは感知する前に始めような」


 アレな見た目で戦闘を始められても困る。


「それと、こういう物騒な場所でぶっつけ本番は止めような」


 心臓によろしくない。


 そういうあれこれがあったけど、オーガには気付かれなかった。

 俺たちが風下にいたというのもあるとは思うけど警戒心なさ過ぎだ。


『森の中の開けた場所に出てきた瞬間に気付くって、どうよ?』


 こっちは待ち構えた状態だったが、向こうからすると急な遭遇だったようだ。


「「「「「オオオオグォアアアァァァァァ────────ッ!」」」」」


 ビクッと身構えた後に、この咆哮。


『ビビってんじゃねえよ』


 こっちは誰も殺気立ってなんかいないってのに。

 勝手にビビった挙げ句に逆ギレとは、ますます小者っぽい。

 当然、問答無用で戦闘になる。

 頭に血が上ってるから連携なんてある訳がない。


「適当に4チームほどで対処して」


 現状は1チーム5人で組ませているから20人規模だ。

 些か過保護な割り当てだとは思ったけどね。


「「「「「はーい」」」」」


 即座にカーラがケットシー2チーム、キースがパピシー2チームを選抜。

 それぞれ前衛と後衛に別れる。

 ただし、後衛は射線が通るように斜め後ろに陣取る形を取った。

 変則的だが真正面の相手しか見ていないオーガには充分に有効だ。

 状況に応じ後衛が遊撃に転じやすいし。

 そうなった場合、側面や背後に回り込んでも気付くオーガはいるだろうか。


「10メートル先に幻影魔法。

 地面をコピー。

 幅、正面オーガをカバー。

 奥行き、6メートル」


 キースの指示で後衛に回ったチームのパピシーが魔法を展開。

 続いてカーラが指示を出す。


「同じ場所に地魔法で穴を。

 深さ膝丈。

 大きさを幻影魔法に合わせろ」


 やはり後衛のケットシーたちが地魔法で瞬時に穴を掘る。


『意地が悪いな』


 思わずほくそ笑んでしまうほどの一方的な状況を生み出しうる罠だ。

 果たして、突っ込んできたオーガたちは罠に足を取られ転倒した。


「ビターン!」


 凄い音がしたのは魔法で地面を硬化させていたからだ。


『痛そー』


 思わず顔を顰めてしまった。

 なかなかエグいよね。

 転倒させるなら地面を固めろって教えたのは俺だけどさ。


『あんなのアニメでしか見たことないよ』


 突進の勢いがあったからね。

 なかなか豪快だった。


 先頭のオーガたちの転倒が引き金となり次々と将棋倒しになっていく。

 どいつも止まらないし回避もしない。

 あっと言う間にオーガが積み上がってしまった。

 すかさず全員が協力して魔法で作った特大の氷の柱がドズンと落ちる。


『追い打ちも的確だな』


 これでダメージも少なかった上の方の奴らも瀕死の状態になった。

 下の奴らは圧殺だ。

 氷を消して息のあるオーガの首をへし折っていき始末完了。


『よしよし、被害ゼロだな』


 見ればローズも腕を組んで、うんうんと頷いている。


 問題は、たったこれだけでレベルアップしたことだ。

 3桁レベルに到達していないとはいえ、こんなのでいいのだろうかと思ってしまったさ。

 どうやら俺とローズの【教導】&【指導】スキルがコンボで仕事をした結果らしい。


『マジか』


 自分たちのスキルに呆れてしまうばかりである。

 まあ、良い結果をもたらしてくれるのだから文句はない。

 その調子で全員がレベルアップできるよう狩りを続けた。

 最終的には子供組ですらレベル70に到達。

 他の妖精たちとの差も縮む結果となった。


 あんまりレベルアップに夢中になるあまり本来の目的を忘れていたけどな。

 造幣のために金銀銅を集めに来たはずなんだ。


『何やってんだか』


 我ながらアホである。

 素材集めは、また今度にしよう。


読んでくれてありがとう。

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