450 つくってあった『バルーンソード』
修正しました。
離脱を → 離脱を援護しカーラを
「奇妙な物を出しおって」
ゴードンが深く息を吐き出した。
『内心かなり驚いたのを誤魔化したな』
指摘するのは止めておく。
「そんなもので何をどうするつもりだ?」
ごもっとも。
どんな意図を持って紙風船を出したのかなんて分かるはずもない。
「風船割りかぁ、面白い」
トモさんだけは気が付いたようだけど。
元日本人だからだな。
テレビの番組で見たことがあるのだろう。
俺もそれを思い出して、これを用意した。
「風船割り、だと?」
怪訝な表情を浮かべるゴードン。
「百聞は一見にしかずだ」
そう言いながら訓練場の土を使ってゴーレムを仕上げる。
周囲から響めきは起きたが、壁を修復した時ほどではない。
賢者ならこれくらい当然とか思われてそうだな。
気にせず作業に入る。
といっても紙風船に紐をつけてゴーレムの頭にくくりつけるだけだ。
そしてゴーレムを訓練場の中央に移動させる。
俺はここの備品である木剣を手に取って後を追った。
ゴードンも付いて来る。
俺が何をしようとしているのかが気になって仕方ないようだ。
聞きたくてウズウズしているのが手に取るように分かった。
俺は言葉通りに語らず実行するだけだ。
中央に来たところでゴーレムの歩みを止めて木剣を構える。
「おい」
ゴードンの呼びかけは無視。
大上段に振りかぶり、一呼吸おいて木剣を縦に振る。
が、完全に振り下ろしはしない。
それをするとゴーレムを叩き潰してしまうからな。
あえて強度は持たせていないので頭を破裂させて仕舞いかねない。
俺の狙いは別にある。
「パァーン!」
乾いた音が周囲に鳴り響いた。
ゴーレムの頭部が破裂した音ではない。
木剣は頭に当たるギリギリで止めてある。
俺が狙っていた紙風船は割れてひしゃげていたけれど。
それよりも音の大きさの方が気になる。
些か大きすぎたようだ。
うちの面子以外は、みな一様に驚いている。
無言でビクッと体を震わせる感じだな。
中には「うおっ」とか「うわっ」とか声に出ている奴もいたが。
驚いた状態から復帰するとゴーレムの様子を見て口々に話し始める。
「あの丸いのが潰れてるぞ」
「音が派手だったな」
「ビックリしたぁ」
デモンストレーション用として術式を刻んだのは失敗だったな。
本番用は術式なしだから大丈夫だと思う。
「ゴーレムに色がついているぞ」
「肩から上のやつだな」
「丸いのが破裂した時に何か散っていたな」
「何かの粉みたいだが」
「えー、砂じゃないのか?」
正解は貝殻の水分を飛ばしてすり潰したもの。
すなわち粉だ。
砂っぽく見えたのは粗めにすり潰してあるからである。
軽いと軽く風が吹いただけで飛ばされてしまうからな。
「これなら怪我をせずに試験ができるだろ」
ドヤ顔でゴードンに振り返るが、渋い表情だった。
俺以外の面子に寸止めができないと思っているのだろうか。
それはないだろう。
だとすると別の可能性だが、すぐに思い至った。
『戦闘中だと寸止めできないと言いたいんだな』
攻撃や回避などの動きは言うまでもない。
位置取りのためにも動くが、それはフェイントを含んだものだ。
だから制止したゴーレムとでは比較にはならないという訳か。
舐めている訳ではないだろう。
上に立つ立場の人間として万が一を常に考えなければならないということだ。
このままでは紙風船を用いた模擬戦の許可は出さないだろう。
だから俺は【拡声】スキルを使う。
「俺の教え子と模擬戦を希望する者は前に出ろ。
目の前で賢者の弟子の戦い振りを見るチャンスだぞ」
「ちょっと待ってくれ!」
実直そうな剣士が1人、進み出てきた。
「次は俺の番のはずだ。
ギルドの依頼を受けている」
知っている。
こうやって出てきてもらいたいからこそ抗議されるようなことを言ったのだ。
「危険だから模擬戦を許可できないとさ」
「なっ!?」
剣士はそう言ったきり絶句してしまった。
戦力外と言われたようなもんだからな。
ゴードンがボソボソと呟く。
「そこまでは言っとらん」
その呟きは剣士には届いていない。
『ハッキリ否定してやればいいのに』
それができないのは「問題がある」なんて言ってしまっているからだ。
どう取り繕おうとも戦力外と考えていたのは明白である。
故にゴードンは無視して剣士と話を続ける。
「では、依頼を受けた者全員やる気はあるんだな」
「もちろんだ。
胸を借りるつもりでやらせてもらう」
薄々感じていたが勝ち負けを最初から度外視しているな。
「そこで提案だ。
残りの模擬戦をそちらが全員で組んで戦うってのはどうだ?」
この提案が模擬戦のために集まった直後だったら剣士は愚弄するなと怒っていただろう。
だが、そうはならない。
フェルトが弟子入り希望の無謀な挑戦者を次々と瞬殺していったからな。
そこから己との実力差は計算したはず。
さほど悩むこともなく剣士は頷いた。
後ろに控えている面子も頷いたりサムズアップで了承と。
本人たちが納得したんなら後はゴードンだけだ。
よりスムーズに進めるために、ここで切り札を投入。
俺は腰に下げたポーチから短剣ほどの長さの棒を取り出した。
棒の途中から細長い帯状の袋で覆われ、棒の先から垂れ下がっている方が長い。
長さや形状が明らかに違うが鞭のように見えなくもない。
これは倉庫内作業で完成させた代物なので、うちの面子も知らないブツだ。
「本邦初公開!」
言いながら棒を頭上に掲げる。
「バルーンソード───っ!」
某青色猫型ロボットのような濁声と効果音で演出したいところだったが自重した。
俺の唐突な言動に不慣れな冒険者たちは呆気にとられている。
ゴードンもだな。
とはいえ金縛りではないので徐々に表情が変化していく。
最初は「あれ?」といった感じだ。
そして「変な名前だな」となり。
最後に「どういうことぉ─────っ!?」と混乱。
一気に騒がしくなりかけたところで、先程の紙風船の音を再現して黙らせる。
「まあ、見ておけ」
バルーンソードの柄の付け根部分を捻って押し込む。
すると「キュ───ッ」と甲高い音がして垂れ下がっていた帯の部分が膨らんでいった。
「「「「「なにぃ!?」」」」」
帯が棒状に膨らめば木剣より安全性の高い訓練用の剣が出来上がりだ。
「これなら文句あるまい?」
ポコポコとゴードンの肩をバルーンソードで叩く。
「なんちゅうものを持っとるんだ。
そんな魔道具、見たこともないぞ」
俺が作ったとは言いづらい。
前に魔道具職人じゃないと言ってるからなぁ。
故にスルーだ。
「俺も暇じゃないんだ。
こいつを使って試合していいのか悪いのか」
「それを使うのならな」
顔には仕方あるまいと書いてある。
「不服か?」
「お前の非常識さに呆れとるんだ!」
西方人としての常識が染みついていると、そうかもな。
「じゃあ、そういうことで」
「まったく信じられんことをしてくるわい」
否定はしない。
ゴリ押ししているようなものだからな。
「ああ、それとな」
「まだ何かあるのか!?」
反応がいちいち過敏である。
「向こうは7人いるみたいだから、こっちは2人で行くわ」
「なんだとぉ!?」
ゴードンが噛みついてくる。
「バルーンソードを使うんだから構わないだろ?」
1本をトモさんに渡し、更にもう1本バルーンソードを引っ張り出す。
それを見たゴードンはガックリと肩を落とした。
「どれだけ魔道具を持ってるんだ……」
なんて言っているが、諦めて慣れろとしか言えないな。
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「準備はいいか」
ゴードンの呼びかけにバルーンソードを手にしたトモさんとカーラが頷いた。
紙風船を被った冒険者たち7人も頷く。
間抜けな感じに見えてしまうが当人たちは気にしていないようだ。
ギャラリーも茶々を入れたりしない。
固唾をのんで見守っている。
「始めっ!」
ゴードンの合図と共に動き始めたのは冒険者たちだ。
剣士はカーラの前についた。
初っ端から全開だ。
「おおおぉぉぉぉぉああぁぁぁっ!」
気合いの入った声と共に木剣で斬撃が繰り出される。
重い一撃を信条とするタイプのようだ。
カーラはバルーンソードで木剣を弾いていく。
弾くごとに「バスッ」と音がするが、これはバルーンソードの仕様である。
激しくぶつかった時に空気がわずかに抜けるようにしているのだ。
直後に同じ分量だけ供給されるようになっている。
減るだけだと萎んでしまうからな。
剣士の方は一撃を弾かれた直後に離脱。
そのタイミングで側面から別の冒険者によって攻撃を受ける。
弾いたのとは逆側から踏み込んできた。
明らかに剣士の離脱を援護しカーラを妨害する意図がある。
そして、あわよくば一撃を入れようともしているな。
間合いに入ってくるタイミングも角度も悪いものではない。
『工夫しているじゃないか』
こういう発想で挑んでくる奴は嫌いじゃない。
ゴードンが指名するだけのことはあるな。
読んでくれてありがとう。




