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439 刑の確定と修繕と

遅くなりました。

すみません。

「この者たち全員がムハ・エコップの部下ですか」


 諦めにも似たような表情でケニーが溜め息をついた。

 先に捕らえた連中の取り調べが終わる前から聴取対象者が倍増だからな。

 全員の取り調べをするとなると、かなり骨が折れると思っているのだろう。


「罪状は街中での武器の使用と器物破損ですか」


「怪我はしていないが俺たちに難癖をつけて襲いかかってきたな」


「暴行を追加ですね」


「それと借金の割り符を偽造してる。

 主犯はエコップだが、こいつらが借金の取り立てに来ていたのは間違いない」


 割り符の片割れを見せた。

 途端に痛そうに目を閉じて顔を上に向けるケニー。


「よりによって、それを偽造するとは……」


 その後は静かな怒りを感じさせる険しい表情になっていた。


「我々も舐められたものです」


「この国だと関係者も含めて極刑だっけ?」


「ええ、共犯者も厳しく罰しないと主犯が共犯の振りをして逃げることがありますので」


「さすがに自分の命が掛かってるなら身代わりを引き受ける奴なんていないだろう」


 ケニーが頭を振る。


「いいえ、悪い奴ほど罪を逃れる手をあれこれと考えつくものです」


「確かにな」


 犯罪者の心理というのは、どの世界でも共通のようだ。


「こういうケースだと多いのは人質を取るパターンですね。

 過去には薬物で共犯者を廃人にして取り調べを免れようとしたという記録もあります」


 まさに白豚エコップの考えそうなことだ。


『ああ、この家の三女の話もしておいた方が良さそうだ』


 割り符という証拠があるから白豚は極刑を免れることはできないだろうがな。

 この情報を提供すれば衛兵たちの熱の入れようも変わるだろう。

 捜査に私情は禁物だが、彼等も人である。

 悪党相手に大いに憤慨してもらおう。

 証拠がないせいで扱い所の難しい情報だったが、役に立ちそうで何よりだ。


「──ということなんだ」


 話し終わった後のケニーの顔は能面のように無表情であった。

 途中から表情を更に険しいものへと変えていたんだがな。

 怒りも度を超すと表情には出なくなるようだ。

 少なくともケニーの場合は。


「それで、この家の人達はどうしたのですか?」


「巻き添えを食わないように魔法で眠らせた」


「……賢者様」


 ケニーが咎めるような視線を送ってくる。

 独断で好き勝手にやったのがダメだったか。

 それとも衛兵の仕事を奪う形になるのが良くなかったか。


 あと、関係ないことだけどケニーが俺のことを「賢者様」と言ってくるんだが?

 前は「賢者殿」だったはずなのに。

 これは上に報告した際、あれやこれやと余分な情報を耳にしてしまった可能性があるな。


『面倒くさい』


 向こうが何か言ってくるまで放置だ。

 そうでなくても俺、なにか失敗したくさいのに。


「何か拙かったか?」


「いえ、そこまでは。

 できれば住人を連れて避難してほしかったですが」


 壊れた店内を見ているケニーは溜め息をつきたそうだ。

 極刑になるのが分かっているのに被害を増やさないでほしいと言いたいのだろう。


「修繕費用が住人の負担になる、か」


 住んでいる人間への配慮が足りなかったな。

 大切なものを壊される気持ちについては無視したに等しいだろう。

 費用についてばかり考えていた。

 一応は後始末のことを考えてのことだったんだが。

 まあ、そんなものは言い訳の類いでしかない。


「そうです」


 真剣な表情でケニーが頷いた。

 被害者のことまで慮れるとはね。

 この性格イケメンめ。

 これでルックスも悪くないからな。

 こういう男がモテるんだよ。

 そんなこと言ったら、俺には言われたくないとか反撃されるだろうけど。


「そいつはどうだろうな」


「どういうことですか?」


「コイツら入店前から武器を抜き放っていたぞ。

 そんな輩が相手に逃げられたと知ったら八つ当たりしないか?」


「それは……」


 即答できないよな。

 どう考えたって暴れるだろうし。


「賢者様がお怒りになるのも無理はないですね」


「そうは言ってないだろ」


 否定はしたが腹は立てているか。

 目の前のクズ共のせいで、この家の家族は父親を失ったのだからな。

 チンピラどもの極刑が確定していても同情する余地はない。

 こんなことなら自分で消しておけばとさえ思うほどだ。


 それをしてしまうと白豚の罪状が減りかねないので我慢したけど。

 でなきゃ、真っ先にドブネズミな出っ歯男を始末してたさ。

 俺が手を出さなかった結果、子供組があっと言う間に片付けてしまった。


「それよりも、コイツらが暴れた証拠は確認したな」


「え?

 あ、はい」


 瞬間的に間の抜けた表情になったケニーだが、すぐに返事をしてきた。


「保全する必要はあるか?」


「確認はしましたので大丈夫です」


 それを聞いて安心した。

 今の無残な状態を住人には見せ見せたくないからな。


「それじゃあ俺が責任を持とう」


「修理費用をご負担なさるのですか」


 ケニーがそんなことを言ってきた。


「いいや、俺が直す」


「えっ?」


 ケニーが虚を突かれたように間の抜けた顔になった。


「前に言ったろ。

 俺は実践派の賢者だって」


「はあ……」


 よほど想定外だったのか思い出す余裕すらないようだ。

 ぼんやりした表情のまま生返事をしてきた。

 信じる信じない以前の状態だろうな。

 ならば見せるまでだ。


「こんな具合にな」


 指を「パチン」と弾く。

 すると巻き戻し再生をしているような光景が店内で始まる。


 スピードは壊れた時と同じくらいにした。

 もっと高速で、それこそ一瞬で元の状態へと戻すことも不可能ではない。

 やってしまうと衛兵の常識が瓦解しかねないのでやらんが。

 今でも机や椅子や壁が元の状態へと戻っていくのを呆然とした様子で見ているし。


『錬成魔法なんて見たことないだろうからなぁ』


 中には自分の頬をつねっている者さえいる始末。


『そんなことしなくても現実だよ』


 本当は片手間仕事なので余所見をしながらでも終わらせられる。

 だが、それだとギャラリーの精神衛生的に良くなさそうだ。

 仕方ないので真剣な表情でやっておく。


 アクビが出そうになるが、我慢我慢。

 ついつい新品同様にしたくなってしまうが、そこも我慢。

 修繕はチンピラの襲撃によって傷つけられたものに限定しておいた。


 やろうと思えば新品同様にもできる。

 けれども店の歴史を否定するような気がするんだよね。

 過去を忘れたいから真っさらにしてほしいと頼まれた訳じゃない。

 直すことで壊れるものもある。

 この家の3姉妹が培ってきた思い出なんかがそれだ。

 それを消し去る権利は俺にはないからな。


「完了だ」


 軽い雰囲気にならないように終わったことを告げる。

 でないと、衛兵たちが軒並み固まったままだったのでね。

 ケニーがゆったりした動作で頭を振った。


「これができるから、ですか」


 ケニーは呆れた表情で溜め息をついた。


「事前に前の状態を完璧に把握しておく必要があるがね」


 少しばかり難しいというニュアンスで言ってみたが失敗だったかもしれない。

 完全に言葉を失っている。

 信じがたいのだろう。

 これで把握するのが余裕だと知ったら、どうなるのだろうな。

 まあ、気にするだけ時間の無駄か。

 さっさと事件の処理を終わらせて登録だ。


「それじゃあ商人ギルドに行こうぜ」


 俺がそう言うと──


「あ……」


 ケニーの再起動が始まったようだ。

 少しの間を置いて喋り始めた。


「それについては問題ありません」


「ん?」


 どういうことかと尋ねる前にケニーが話しを続ける。


「割り符は私が責任を持ってお預かりします。

 偽物であるかどうかの確認に賢者様の手をわずらわせることはありません」


「あ、そう」


「なにか大事な用があるから来られたのですよね」


 分かってくれているようで助かるね。


「ああ、新人の冒険者登録にな」


 その言葉に遠い目をするケニー。


「また試験が大変なことになりそうですね」


 現場検証で子供組の活躍振りを知ってしまったからこその台詞だ。

 でなきゃ俺やツバキたち古参の面子がやったと思いかねない状況だったしな。


「対戦相手を探すのに苦労させられそうでな」


 苦笑を禁じ得ない。


「その辺は親っさんが何とかするでしょう」


 ゴードンか。


「だと助かる」


 脳筋っぽい外見とは裏腹にちゃんと仕事のできる男だからな。


「ところで」


 ケニーが話題を変えてきた。


「この家の住人はいつ目を覚ましますか」


『おっと、いけない』


 【ポーカーフェイス】で誤魔化しておく。

 失念していたなんて言えないからな。


「俺たちが店を出た後に魔法を解除しちゃマズいか?」


「我々が事情を聞けるのであれば問題ありませんが……」


「何人かはここに残るんだろ」


「はい」


「なら、昼食の代金を置いていっても盗む奴もいないだろうさ」


 硬貨の詰まった袋をテーブルの上に置いた。

 小袋と言うには若干大きめである。

 それを重し代わりに詫び状も添えておく。


「昼食の代金としては多くないですか?

 それに、それ紙ですよね」


 紙=手紙とは結びつかないようだ。


「金は店を壊した詫びの分も含んでいる。

 紙は事情の説明と詫びを書いておいた」


 ケニーがギョッとした表情を見せる。

 俺が詫びをするのがそんなに意外だろうか。

 失礼な奴め。


読んでくれてありがとう。

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