421 フェルト己の心と向き合う
現在、20話までを改訂版に置き換えています。
話の流れは変えていませんが、大きく変わっている部分もあります。
よろしければ、そちらもどうぞ。
自分の言動が己の意思とは違う方向で他者に認識される。
今のフェルトの状況がそれだった。
「ちゃんと説明した方がいいぞ。
面倒を見るってどういう意味か」
「あうあう」
顔を真っ赤にしたまま己の世界に没入している。
おそらくは自分の台詞が頭の中でリフレインされているのだろう。
ここまでポンコツだったとはな。
『ダメだ、聞こえてない』
純田くんの方を見てみた。
見事に固まっているんですが……
試しに目の前で軽く手を振ってみたけど反応しない。
『こっちもか』
フェルトに告白されたと思ってしまったんだろう。
色々と考えているようだ。
よく知らない女の子に告白された。
でも、相手に恥をかかせる訳にはいかない。
真剣に告ってきたから、こちらも真剣に返事を考えないと。
あんな告白をするということは結婚を考えているよな。
それもお付き合いは省略されそうだ。
即、結婚でなきゃあんな言い方はしないだろうし。
そもそもあの台詞はどうなのか。
結婚することには、やぶさかではないが男の台詞だよな。
ということは俺から告白し直した方が良い?
けど、よく知らない相手だし。
ここは結婚を前提にお付き合いをしてからの方が……
いやいや、それだと断る可能性があるよな。
告白する以上は断るのはダメだよな。
だとすると今すぐ結婚?
いや、しかしなぁ……
それぐらいの葛藤があるように思える。
俺の推測でしかないので内容については保証できないが。
眉間に皺を寄せて考えているところからすると似たようなことは考えてそうだ。
普段は面白おかしいことを言ったりする純田くんだけどね。
こういう時は人一倍重いからなぁ。
女の子から告られたからといって遊びで付き合うなんてことは絶対に考えない。
間違いなく結婚を前提とした会議が頭の中で繰り広げられているはずだ。
エルダーヒューマンとして生まれ変わったことで若返っているけど成人年齢だし。
簡単に結論は出ないだろうな。
とすると、やはりフェルトをどうにかするしかないか。
「しっかりしろ」
ダメージが入らないよう軽く額にチョップを入れた。
「へぶっ」
不意打ちをくらったからか奇妙な声が漏れ出た。
何が起こったのか把握できずに目が泳いでいる。
混乱しているようだ。
この状態で話をしても意思の疎通ができそうにない。
もう1発チョップを入れておこう。
「あうっ」
痛くもないのに額を手で抑えるフェルト。
まだ混乱状態から抜け出せていないな。
もう一丁。
額を押さえる手ごとチョップを見舞う。
今度は押し出すように。
すると少しバランスを崩したが踏み止まることはできた。
「なな何するんですかぁ!?」
ここでようやく事態を把握できたようで俺に向かって抗議してくる。
『3発目でようやくか』
なかなか重症だな。
なんにせよ、ここでチョップは打ち止めだ。
「正気に戻ったか」
「え?」
「自分の言ったことには責任を持てよ」
再び赤面していくフェルト。
そう何度も我を失わせる訳にはいかん。
「プロポーズじゃないんだろ」
コクコクコクと素早く頷く。
「じゃあ、どういう意味で面倒を見るなんて言ったのか説明した方がいいぞ」
「うっ」
何故かたじろぐフェルト。
「そんなに説明が難しいのか」
「いえ、その……」
どうにも歯切れが悪い。
色々と考えた結果、勢いに任せた部分のある行動だったという結論に至ったか。
それで自己嫌悪に陥って堂々巡りをしていた……
『ありそうな話だ』
だとすると、なかなか話しづらいのも分からなくはない。
しょうがないので俺が話を進めることにした。
「俺の勝手な想像だが──」
先に断りを入れておく。
今から話すことは俺の推測でしかないからな。
フェルトが思っていたことと異なることは充分に考えられる。
そういう時は本人に否定させればいい。
それもあっての前置きだ。
否定や訂正すべき時にそれがないと困るのでね。
上の空で話を適当に流されるのが怖い。
「純田くんの仮死状態のときに守る者が必要と考えたのだろう?」
「どうしてそれを……」
呆然とした様子でフェルトが聞いてくる。
まずは正解だったようだ。
「プロポーズでなくて、あの口振りならそうじゃないかと思っただけだ」
「はうぅ……」
根拠を述べるとフェルトが縮こまった。
プロポーズという単語に反応しただけのようだ。
あまり追い込むと、また壊れそうだから気を付けないとな。
「最初はこう思ったんじゃないのか。
魂が行き来するなら無防備な瞬間が絶対にある、と」
「……はい」
消え入りそうな声で肯定してくるフェルト。
「エリーゼ様が管理する世界のように身代わり人形がある訳でもない」
「……はい」
「にもかかわらずエリーゼ様は俺たちの世界の方では人形を用意しなかった」
「……………はぃ」
更にフェルトの声が小さくなった。
加えて微妙な間もできる。
エリーゼ様を主語にしたのが良くなかったようだ。
少なからず畏縮してしまっている。
なかなか面倒くさい。
「ならば自分がその代わりになろうと考えて面倒をって言ったんだな」
小さくゆっくりとフェルトが頷いた。
声に出すのは限界だったらしい。
茹で蛸のように顔を真っ赤にしてしまっている。
「その様子だと、そういった行為が不要だと気付いたか」
穴があったら入りたい心境なのだろうな。
フェルトが目をギュッと閉じてコクコク頷いていた。
責めないでくれと言わんばかりである。
「方法までは見当がつかないだろ?」
「え……?」
さぞかし意外であるという目で俺を見てくるフェルト。
「こちらの世界の神様が同じことをするのではないのですか?」
「それをすると寿命が縮んでしまうのだが?」
神様の管轄のことには気付いただろうに、そこは見落とすのか。
なかなかどうして残念ちゃんだ。
まあ、俺も人のことは言えないんだが。
「あっ……」
小さくなっていたフェルトが更に萎んでいく。
気が付けばそうなるか。
『なんか俺が苛めているみたいだな』
そんなつもりは毛頭ないのだけれど。
信じてもらえるかは怪しいところかもしれない。
「責めてるわけじゃない。
気にしても始まらんぞ」
気休めにすらならない言葉だ。
自分で言っていて虚しくなってくる。
『しょうがないなぁ』
溜め息をつきたくなったが、我慢した。
それひとつでフェルトが更に畏縮しそうだったからな。
「フェルトよ」
呼びかけるとおずおずと俺の方を見てきた。
ビクビクした感は否めないが、話を聞く余裕はまだある。
「純田くんの面倒を見ると言った言葉に迷いはあったか?」
ポカンと口を開いたフェルト。
虚を突かれた顔がそこにひとつ。
声すら出てこない。
そんなことを聞かれるとは思ってもみなかったのだろう。
「覚悟がなければ、あんなことは言えないだろう。
だが、そこにわずかな迷いがなかったと言い切れるか」
ようやく質問の内容を理解したのかフェルトは表情を硬くした。
「迷いは……ありました」
ポツリと呟くようにフェルトが語り始めた。
「相手は男性です。
なによりヒューマンです」
フェアリーの1人としては、そこを考えてしまうよな。
ヒューマンに対する不信感は簡単に拭いきれるものではない。
迷う理由としては最大のものとなるだろう。
「結婚は頭にありませんでしたが……」
でなきゃ、あんな台詞は言えないよな。
大胆すぎるって。
「でも、異性であることは意識していなかったわけじゃありません」
それも迷いの一因だろう。
『嘘偽りなく、だな』
そこを確認したかったのだ。
ヒューマンへの不信も異性が相手であることも抱えてなお覚悟したのか。
一片の迷いもない覚悟だと言うなら俺はフェルトを信用しなかっただろう。
ケースバイケースだとは思う。
迷ってはいけない覚悟もあるだろう。
だが、ここで迷いなしと断言するのは己が見えていない証拠だと俺は思った。
勢いに乗せられた側面がないとは言えないはずだ。
それでも迷いと向き合いながらも覚悟して前に進み出た。
「なんだ、やっぱりプロポーズじゃないかよ」
「どどどっどうしてそうなるんですかっ!?」
「純田くんのことが嫌いなのか?
な訳ないよな。
嫌いな相手の面倒を見るとか言い出す変態を俺は見たことがない」
「へっ、変っ……」
「変態じゃないだろ」
コクコクコクコクコク──
超高速の頷きが返ってきた。
「じゃあ考えてみろ。
純田くん以上に気になる異性がいるかをな」
読んでくれてありがとう。




