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42 護衛のリーダーも侍だった?

改訂版です。

「パチン!」


 フィンガースナップの音が周囲に響き渡った。

 特に説明はしなかったが魔法障壁を解除する予告である。

 加害者が消えたのなら被害者を怖がらせる要素は少ない方がいい。

 約束通り商人や護衛たちを解放した。


「さて、君らはどうする?」


 俺が声を掛けると呆然としていた商人とその護衛たちが、ハッと我に返った。

 6人中5人の護衛は必死に油断するまいと気を張っている。

 守り抜くという意志が感じ取れたのは好ましい。

 護衛を仕事にするなら大事なことだ。


 ただ、1人だけはダラリと腕を下げて自然体で立っていた。

 ふぅと軽く一息つく。

 そして手首のスナップをきかせてブンッと剣を振るい鞘に納めた。


「リ、リーシャ……」


 後ろにいた1人が若い女の声で躊躇いがちに声を掛けた。

 護衛は全員若い女のようだ。

 上半身はポンチョとフードで隠れているせいで即座に確認できなかったが。

 編み上げのロングブーツだと脚部のラインがよく出るからな。

 しなやかで適度な丸みがあるので男でないのは、まず間違いない。


 鑑定すれば終わる話だが、頼りっぱなしでは俺自身の成長に繋がらない。

 面倒になって直ぐに方針変更するかもしれないがね。


「死にたくないからな」


 リーシャと呼ばれた女の一言で他の護衛たちは何かに気付いたような反応を見せた。

 続いて彼女に倣い剣を納める。


『色々と見た後だからなぁ』


 どう足掻こうとも勝ち目がないと判断したか。

 変に刺激するよりは話し合いで解決したいという意思表示だろう。


「助けてくれたことには礼を言う」


 リーシャと呼ばれた女が頭を下げた。

 他の者たちもそれに続く。


「だが、報酬については待って欲しい」


 こういう場合は金銭のやり取りになるようだが手持ちがないらしい。


「金はいらん。

 俺が欲しいのは情報だ」


「情報?」


 声のトーンが少し変わった。

 俺の目的が分からずに訝しんでいるようだ。

 変身したままの格好では顔も見られないから怪しさ満点だしな。

 しかも欲しいのは金ではなく情報なんて言われれば無理もないだろう。


「ルボンダ子爵について知っていることすべて」


「……どういうことだ」


 ますます警戒された様子である。


「俺は世情に疎い田舎者でな。

 今回の件で今後どうなるかを予想できる判断材料が欲しい」


 しばしの沈黙。

 20代くらいの商人2人は座り込み、はらはらした様子で俺たちを見ていた。

 子供の方が落ち着き払っているってどうよ?


『しかも女の子じゃないか。

 子供に負けてどうする』


 見た目は10歳前後なのに、この中で一番肝が据わっていそうに見えた。

 護衛はともかく商人には「しっかりしろ!」とツッコミを入れたくなる。

 いわゆるヒョロガリな容姿をしているせいで実に頼りなげに見えるが。

 忘れていたけど──


「そういえば、そこの商人2人は怪我をしているだろう」


 俺の指摘に護衛の5人が敏感に反応した。

 剣の柄に手を伸ばすそぶりを見せる


「よせ」


 完全に握る前にリーシャが彼女らを止めた。


「すまない。

 彼等は恩人なのだ。

 過敏な反応は容赦してほしい」


「別に謝る必要はないだろ。

 ところで俺なら治癒できるが、どうする?」


「賢者だったな。魔法が使えるのか」


「ああ」


 賢者は冗談なのだが訂正しても話がややこしくなるだけだろう。


「我々も彼等も治療費が払えない。

 彼等は我々の借金を返すために多くの財産を失ったからな」


「金は取らないが?

 俺は商売人じゃないんでね」


 反応が渋いのは俺が提示した条件が胡散臭いからだろう。

 常識的な判断だとは思うが……


『自分たちの状況を理解しているのか?』


 脚を怪我した大人が2人もいる。

 近くに小さな村すらない場所で骨折した者をかかえての移動は厳しい。

 当人たちも理解しているはずだ。


 それでなお躊躇するのはよほどの堅物か騙されて酷い目にあったか。

 おそらく両方だな。

 馬鹿正直に金のない理由まで言うくらいだし。

 この様子では借りを作りたがらないだろう。


『しょうがない連中だな』


 だが、信用できる。

 ヘタレっぽい男2人も護衛の連中に信頼されているようだし誠実ではありそうだ。

 国民候補として考えてもいいかもしれない。


 とりあえず問題は、どうやって治癒魔法を受けさせるかだが。

 頭の固そうな相手だからガードが堅そうだ。

 俺との交渉を避けている雰囲気すらあるし。

 あれこれ考えてみるが良い案がない。


『もう少し信頼関係があれば違ったかもしれんが……』


 結局は護衛のリーダーらしきリーシャとかいう女を相手に交渉するしかなさそうだ。

 そうは思うのだが、取っ掛かりがない。


『向こうが条件を提示してくれたら楽なんだが』


 冒険者を相手に交渉するのは実に面倒くさい。

 商人は商人で駆け引きが面倒くさそうだけど。


『ん? この連中……

 冒険者でいいんだよな』


「ひとつ聞くが冒険者だよな」


「そうだが?」


「すまないが剣を見せてくれないか」


 特に迷う様子も見せずにリーシャは剣を鞘ごと外して俺に手渡してきた。

 反対の手で仲間たちを制している。


「すまないな。

 見させてもらう」


 鞘から剣を半分ほど引き出した。

 完全に抜き放つと向こうも気が気じゃないだろうからな。


 剣の状態は酷いものだった。

 下手な打ち合いをしていれば間違いなく折れていただろう。


『買い換える余裕もなく、か』


「これでよく凌げたな」


「差しの勝負だったからな」


 リーシャは謙遜しているが剣の状態に気を遣いながら凌いだ実力は一級品だ。


「コイツに思い入れでもあるか」


「いいや、特には。

 扱いやすかっただけだ」


 俺は剣を鞘に納め返却した。


「なら、そこに転がってる連中の剣を使うんだな。

 慣れは必要かもしれんが新品だしスペアも多いぞ」


「それはできない」


「なぜだ?」


「奴らを倒したのはあなただ。

 あれらはあなたが受け取るべきものだ」


『どこまで律儀なんだ?』


 呆れるばかりだが、それだけに信用できる相手であることを確信した。


「いらんよ」


「なっ……」


 リーシャだけでなく、他の面々も驚いていた。


「こいつらの鎧や剣は台無しにされた荷物の代わりに回収していけばいい」


 先程からワインの匂いが周囲に漂っている。

 馬車が横倒しになった際に瓶や樽が割れたのだろう。

 金のない彼等の換金手段だったと思われるが無事な酒はほとんど残っていまい。

 それを失うのは怪我人を抱える彼等にとって死刑宣告に等しいものだ。


「奴らのアジトにも色々あるぞ。

 馬も確保できるし弓矢とか非常食もある」


「いや、しかし……」


 リーシャは躊躇っていた。

 仲間の方が乗り気に見える。

 最悪の状況を理解しているが故だろう。

 だが、口は出さない。

 あくまでリーシャの決定に従うつもりのようだ。


『どうすんだよ、これ』


 ここまで頑なだと俺としても困るんですがね。

 思わず途方に暮れそうになっていたが、意外な人物によって救いの手が差し伸べられた。


「リーシャ、このままだと皆死んじゃう」


 淡々とリーシャに呼びかけたのは女の子だった。

 死ぬってのは大げさだと思ったが、よくよく考えると状況をよく見ている。

 2人も足を怪我しているのに馬が使えない。

 馬が使えないから運べる荷物も限られ食料も心許ない状態になる。

 その上、近くに治療や療養に適した場所がない。

 ここで打開策がないなら自滅へまっしぐらだろう。


『この状況判断力。

 本当に子供かよ……』


「賢者さんはいい人。

 大丈夫、皆と同じ」


『何故そう言い切れる?』


 俺はここでようやく【天眼・鑑定】を使った。


『マジか……』


 思わず声を出しそうになったが、どうにか迂闊なことを口走らずに済んだ。

 少女は特級スキル【看破】の持ち主だった。

 その効果を【諸法の理】で調べる。


[人の善悪や真偽、物品などの真贋を見抜く]


『確信を持つ訳だよ』


 少女が大人びて見えたのは、このスキルのせいだろう。

 狙われた理由もこれが原因と思われる。

 もしかすると護衛の6人も別の理由で狙われていた可能性はあるけれど。


「賢者さん、お兄さんたちを治してあげて」


「わかった」


 両手でガンセイバーを引き抜き男たちに銃口を向けた。


「お、おい!」


 上擦った声で反応したのは先程リーシャに声をかけた女だ。

 戦いで武器として使用したからな。

 懸念するのも当然だ。


「こいつは魔法使いの杖みたいなもんだ」


 それだけ言ってトリガーを引いた。

 銃口の先に出現した淡い光を放つソフトボール大の球が射出される。

 魚が泳ぐくらいの速さで飛んでいき、男たちの脚部に吸い込まれていった。

 ものの数秒で治癒完了。


「痛くない」


「ああ、治ってる」


 男たちは互いに顔を見合わせ呆然としていた。

 普通ならもっと治癒に時間がかかるから無理もない反応だ。

 おまけに痛覚の遮断もしておいたからな。


『やり過ぎたか……』


 痛みに呻かれるのも嫌だったからサービスしてみたんだが、失敗だったようだ。


「これは、ついでだ」


 誤魔化すために他の魔法を使うことにした。

 右腕を真上に伸ばして引き金を引く。

 途端に周囲が光に包まれた。

 眩しくないように調整したが視界が奪われることに変わりはない。


「な、なんだ!?」


「心配は無用だ。

 周辺の汚れを洗浄しただけだからな」


 そうは言ったが、気になったのは目の前の連中だ。

 使い古した剣道の防具並みに臭気を放っていたからな。

 追っ手を振り切るので精一杯だったということなんだろう。


 これで一息つけたかな。


読んでくれてありがとう。

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