408 ビビる女とレベルアップしていた男
魔法講座、5分で終了。
「いや、スゲーわ。
レベル18の手並みじゃないね」
さすがは悪霊を祓っただけのことはある。
思わずそこまで言ってしまいそうになったのを、すんでの所で急制動。
危ない危ない……
「すっごいなぁ、これが魔法かぁ」
そんなことを言いながら無詠唱で火と水を同時に制御している純田くん。
ジャグリングみたいなことをしている。
器用なものだ。
コツを教えるだけで充分だったな。
よくよく考えたらアニメに出てきた機体とか綺麗に再現していたし。
無意識でできたことを意識してできるようにするだけだったのだ。
それが困難であることも考えられた訳だけども。
結論から言えば純田くんは簡単にコツを掴んでしまった。
妄想の鉄人だね。
教えることは何もないって感じだ。
これならコロニー内の整地もサクッと終わらせられるだろう。
「あ、あの……」
フェルトが恐る恐るといった感じで声を掛けてきた。
「あー、すまん。
待たせたな。
皆を隠れ里から呼び出すのはもう少し待ってくれ」
「いえ、そうではなくて……」
「他に何かある?」
「あの方は本当にヒューマン種の方なんですか」
純田くんの方を呆然とした表情で見ながら聞いてきた。
ヒューマンじゃなくてエルダーヒューマンなんだけどね。
それにしたって5分で自在に魔力制御をマスターされちゃあね。
純田くんに初歩の魔法を教えるところから見ていたからなぁ。
種も仕掛けもありませんってのを目の当たりにすれば困惑するのも無理はないか。
「無詠唱で初心者とは思えない魔法の制御をしていますが……」
「もともと素質があって我流で魔法は使えたんだよ」
困惑の表情を浮かべるフェルト。
ならば何故、初歩から教えるのかと言いたいのだろう。
「我流だから変なクセがついてた。
一から矯正しないと何をやっても無駄が出る」
それこそ手順から魔力消費量からな。
だから悪霊を祓ったときも追い払うのが精一杯だったのだ。
もし緑色の機体が侵入してきた時点で今の状態であったなら自力で撃退できていたはず。
「だから正しい方法で魔法を使えるように修正しただけだ」
「……それが魔法の初歩を教えることだと」
「そゆこと」
「それにしては無茶苦茶な教え方だったと思うのですが」
何処が変だというのか。
魔法は想像力がすべてだ。
イメージの構築が制御と魔力消費の鍵を握る。
呪文? そんなもの必要ない。
あんなのスパゲティを食べる時にスプーンを使うようなものだ。
もしくは泳ぎを覚える時に使うビート板だな。
俺に言わせれば、最初から必要のないものである。
明確にイメージを構築できるなら呪文の補助など必要ないし無駄でしかない。
それを理解できない者と議論するつもりはない。
「俺が教わった方法だ。
ケチをつけるなら神様に言ってくれ」
そう言うと、さすがに黙り込んでしまった。
神様にケチはつけられないだろうからな。
そんなにショックなのかね?
『今のうちにスペースを確保しておくか』
隠れ里組の数千人を呼び出すために広い場所を確保しないといけないしな。
純田くんの出番である。
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広い空間が整地されていく。
破壊するような印象は受けない。
地面に吸い込まれるように建物が沈んでいくからだろう。
それは先の戦闘で被害を受けた建物なども同じである。
処理を見ていると、そういう場所が選ばれているかのように見受けられる。
だが、実際は意図して選択している訳ではない。
隠れ里の出入り口に掃討する空間の近辺だったから選ばれているに過ぎないのだ。
「私達が狙われていたんですね」
フェルトはその事実を悟ったようで青い顔をしていた。
戦闘の様子は隠れ里の中から見ていたようだが、全てを見通せていた訳ではないようだ。
外に出てきて被害の分布や破壊力などが明確になった訳か。
で、それらを目の当たりにしてガクブルしていると。
『気持ちは分からんではないがな』
彼女たちだけで対処していたら被害もバカにならなかっただろうし。
「そうだな」
「どうして……」
そう言いたくなる気持ちも、やはり分からんではない。
危機を察知して逃げたのに執拗に追われたのだから。
ストーカーに狙われたようなものである。
相手はそんなのより質が悪いけど。
『神の欠片もしつこいよな』
廃棄物か灰か。
それともそのものか。
手応えからすると廃棄物くさい。
ダンジョンで相手をした奴とは随分と違う印象だったが。
それでも欠片がらみなのだけは間違いないと言える。
こんなことするのが他にいないからな。
「理由は俺に聞かれてもな。
俺に言えることは気にしてもしょうがないってことだ。
追っ手はすべて跡形もなく消し去ったからな」
そう言うと目を丸くしてこちらを見てきた。
「なんだ?」
「いえ、あの……
巨人が何体もいましたよね」
某アニメの機体のことだな。
なんで今頃になって思い出すかね。
「気にするな」
「気になりますよっ。
何なんですか、アレは!?
見たことのない魔法を使いこなしてたじゃないですか」
ビームライフルだけじゃなくてマシンガンとかも魔法に見えるのか。
「ああいうものだと思っておけ」
「ううーっ」
膨れっ面で睨んでくるが迫力はない。
子供が拗ねているようにしか見えないぞ。
「うちの国の機密事項だ。
国民でない者に教えるつもりはない」
それで渋々引き下がる様子を見せた。
「言っとくが、部外者に漏らすなよ」
念のために軽く警告しておく。
「ひっ」
それが向こうにとっては最上級の脅しに聞こえたらしい。
短い悲鳴を上げたかと思うと急にガタガタ震え始めた。
そして全力で頷いてくる。
『……あのなぁ』
誰も「生まれてきたことを後悔させてやる」とか言ってないでしょうが。
もちろん殺気立ってもいない。
まあ、ここで何を言っても逆効果だろう。
しばらく放置することにして純田くんの方を見た。
綺麗さっぱりである。
数千人どころか数万人でも対応できるスペースの整地が完了している。
御丁寧に柔らかい芝生になっていた。
「すまないね。
手間をかけさせてしまったよ」
「大丈夫、問題ない。
植生魔法というのを教えてもらってね」
少し離れた場所にいたツバキが頷いた。
いつの間にと言いたくなる。
相変わらずのコミュ充ぶりだ。
「見事なもんだね。
これだけの広さを短時間で芝生に変えるとはね。
レベル18だなんて、とても信じられ……」
「どうしたんだい?」
俺が喋っている途中で固まってしまったのを怪訝に思ったのだろう。
純田くんが声を掛けてきた。
「レベル98になってるよ」
「誰が?」
純田くんを指差す。
「え、俺?」
その質問にコクコクと頷いて返す。
「マジでぇ─────っ!?」
「うん、マジで」
「ななななんでさ」
動揺している割に態とらしい聞き方をしてくる。
ちょいちょい挟んでくるよね。
「今のはDJ風に聞いた方が良かったんじゃない」
「そいつは盲点だった。
……じゃなくてだね」
さすがに誤魔化し方が強引すぎたようだ。
でも、こうなった理由が理由だけに流してほしかったんだが。
誤魔化すのはすでに無理っぽい。
この場にいる隠れ里組はフェルトだけだし、いいかな。
口封じ……じゃなくて、口止めしておけばなんとかなるだろう。
フェルトに負担を強いるのは些か心苦しくもあるがな。
「有り体に言うと迷惑料なんだよ」
純田くんが困惑の表情を浮かべた。
「誰からの迷惑だい?」
フェルトの方をチラリと見た。
気付いてくれるなよと願いつつ。
「彼女が?」
そう言いながらフェルトの方を見るが反応はない。
失神はしていないようだが。
死んだ振りかというくらい固まったままだ。
この子、ポンコツさんだよな。
こちらとしては話を聞かれずに済むから助かるけど。
「正しくは隠れ里の全員だね。
純田くんが目覚められないのは彼女らが居候しているからだし。
追っ手がかかったせいで余計な負担をかけたし」
「そうなんだ。
でもさ、そういう経験値的なものは彼女から渡された覚えはないんだけど?」
「そりゃそうだ。
そもそも彼女らは迷惑をかけたことも理解していない。
自分たちの状況を把握できていないんだから」
「え?」
訳が分からないという顔をする純田くん。
俺も同じ立場ならそうなるだろうね。
「迷惑をかけた立場なのは彼女らだ。
だけど保護者代理としてエリーゼ様が迷惑料を支払っているんだよ」
「ええっ、神様が!?」
「条件を満たすとレベルアップするよう事前に仕込んであったみたいだね」
「うおー、マジかー」
仰け反って驚いている。
だけど受け入れられないって感じじゃない。
自分の中で整理するための時間を稼いでいると見た。
ならば少し待つとしよう。
読んでくれてありがとう。




