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41 仮面の賢者が必殺技を使う

改訂版です。

 偽装盗賊団との戦闘はほぼ終了。

 残るは熊男のみだ。

 仕掛けをしてあるので奴は逃げられない。


『さて、今のうちにスキルの確認をしておくか』


 一般スキルである【剣術】の熟練度はMAXになっていた。

 上級の【二刀流】は30だ。

 【二刀流】の熟練度は0からのスタートだったからこんなものだろう。


 特級の【身体制御】なんて18までしか上がっていない。

 【手加減】の統合上位スキルだから仕方ないのかもしれないが。


『今回の戦闘でこれなら上出来な方か』


 雑魚もいいところだったからな。

 ただ、まだ終わりではない。

 熊男も片付けないといけないし。


『デカい図体の割に臆病な奴だよ』


 そう思ったのだが、熊は臆病な動物だと思い出して苦笑した。

 音のする方には警戒して近寄らないと聞くし。


『デカくて筋肉ダルマで攻撃力も防御力もあるから誤解されやすいけどな』


 まあ、奴自身は本物の熊ではないのでどうでもいいことだ。

 重要なのは奴が俺を殺せと命令したことである。


『それを見逃すほど俺はお人好しじゃないんでな』


 結界にちょっとした罠を仕掛けてあるから今頃は引っ掛かっているだろう。

 待っているだけでお膳立てされてしまう類いの罠なので放置しておけばいい。


『もう少し時間がかかるか』


 俺は魔法障壁で守られた面々に目を向けた。

 護衛は皆フードを被っているので表情が読み取りづらい。

 仕草などで判断すると困惑しているようではあるが。

 警戒はしているようで剣を納めてはいない。


「もう少し待ってくれるか」


 俺から声を掛けてみたが返事はなかった。

 が、拒否する雰囲気でもない。

 こちらの意図を量りかねているだけのようだ。


 無理もない。

 他者から見れば俺は得体の知れん格好をしているし。

 こちらに厨二病という言葉があれば即座に結びつけられたと思う。


『名乗ったかと思えばマスクの賢者、仮面ワイザーだからなぁ』


 おそらくは変人か変態かという認識だろう。

 それはそれで黒歴史である。

 半日くらいは立ち直れなくなりそうだ。


『考えるのはよそう』


 雑念を振り払い話を進めることにする。


「逃げた奴も始末をつけるから念のためだ」


 返事は待たずに馬車の方へ足を向けた。

 熊男が地獄の入り口へ来る前に馬の様子を見ておくためだ。

 馬車につながれたまま横倒しになったのであれば、まだ生きているかと思ったのだが。


「ダメか……」


 とっくの昔に息絶えていた。


「惨たらしいことをする」


 思わず言葉に出してしまうほど滅多切り滅多刺しにされている。


『逃走手段を確実に潰したつもりか?』


 いずれにせよ無抵抗な相手にする仕打ちではない。

 容赦がないというか念入り過ぎるというか。

 快楽殺人者の所業としか言い様がなかった。

 殺す必要のないものまで躊躇いなく容赦なく殺すなど残忍にも程があるだろう。


 あまりの惨殺ぶりに、ふつふつと怒りが湧いてくる。

 湧いた怒りが殺意に変わりそうだ。

 だが、迂闊に殺気立つ訳にもいかない。

 ここに居るのは襲撃を受けた側の面子ばかりだからな。


 心を静めるために馬に治癒魔法を使う。

 死んだものは蘇らないが、あえてそうした。

 死んで間もない段階なら傷口を塞ぐくらいはできるからだ。

 せめて惨たらしい姿を晒さぬように。


『護衛連中でも息を呑むくらいはしそうだしな』


 俺が比較的平気なのはエルダーヒューマンに進化したのが大きい。

 それと日本にいる頃から死に対して冷めた考えを持っていたことも影響していると思う。

 だからといって積極的に見たいとは思わない。


 故にこの一件に関わった悪党は誰一人として許す気にはなれない。

 最初に意識を失わせた連中も当然その中に含まれる。

 念のために確認したが、全員が重犯罪を繰り返した悪党だ。

 複数の殺人に加えて様々な罪を犯している。

 強盗殺人や放火、婦女暴行も当たり前のように罪状に連なっているからな。


『さて、その熊男がそろそろ来る頃合いだと思うのだが』


 気配が近づいてくる。


「……ぁ……っ」


 というよりは悲鳴が聞こえてくると言った方が正しいか。


「ぅ……ぉ……ぉ……ぁぁぁぁぁああああ─────っ!」


 むさ苦しくてゴツい中年男の悲鳴など聞き苦しい騒音でしかない。

 今更だが消音の効果もつけておけば良かったと後悔した。


 不快感が頂点に達したとき、悲鳴の主が街道に飛び出てきた。

 お待ちかねの熊男である。

 錯乱した様子で周囲を見渡し、俺を発見すると吠えるように叫んだ。


「きっ、貴様っ!

 何をした……

 いったい何をしたんだあぁ───っ!!」


 完全に目が逝ってしまっていた。

 俺の仕掛けが効果的だった証拠だろう。

 まず、森の中にいる間は強制的に幻覚を見せるようにした。

 本人がもっとも不気味で恐怖を感じるものを延々と見せ続けられるのだ。

 そしてアジトを目前にして結界に閉じ込められていることを知る。

 あの反応からすると相当な恐怖を味わったのではなかろうか。


 だが、そこで終わらない。

 結界壁に触れた瞬間、奴は網に捕らえられた感覚を味わったはず。

 アジトを目の前にして身動きがとれなくなる絶望感はいかほどのものか。

 そして見えない力によって強制的にここまで連行された訳だ。

 臆病者なら錯乱するのもやむなしか。


「本物の賢者は魔法を使うんだよ」


 自分で言っておいて胡散臭いと思ったが反応はない。

 目線が忙しなく動いているのは隙あらば逃げようとしているのだろう。

 往生際が悪いのだけは確かだ。

 生憎とそれを許しはしないがな。

 俺は熊男を指さした。


「さて、断罪の時間だ」


 俺はベルトのバックルである龍の頭部に手をかけた。

 右にスライドさせて元に戻す。


「ガシャッ」


 ショットガンのポンプアクションのような音がした。


「ワイザーキック」


 そしてキーワードを唱える。

 呼応するように龍が顎を開いて咆哮すると銀に輝くブレスを吐き出した。

 ブレスは細長く俺の体を中心として螺旋を描き立ち上る。

 俺の頭上で龍を象ると熊男に襲いかかった。


「なんだこれは!?」


 瞬時に絡みついていき全身を締め上げていく銀の龍。

 巻き付かれた熊男は瞬く間に囚われの身となった。


「は、放せぇーっ!」


 逃れようとしているのだろうが熊男は身動きひとつ取れない。


『残念だったな』


 その龍には俺の理力魔法が込められている。

 動けるわけがない。


「コンプリーション」


 ベルトの龍が合成音でエネルギーチャージの完了を知らせてきた。


「はっ!」


 気合いを込めて数メートルを優に超えるジャンプをする。

 俺のジャンプにしては低いが、これも演出のためだ。

 もっとも見栄えのする角度でキックを見舞うためのね。


「フィニッシュだ!」


 ジャンプの頂点から熊男めがけて一直線に蹴り技が放たれる。


「ドガッ!」


 熊男の胸元にヒット。


「ぐはっ!」


 だが、そこで終わりはしない。


「ドドドドドドドドドドドドドドドド─────ッ!」


 蹴り技が決まった体制を維持したままで連続蹴りが全身に炸裂。

 最後の一蹴りの反動で後方へと飛び退り、捻りを加えた宙返りを決めた。

 そして熊男に背を向ける形で着地する。


 直後、奴は体を締め上げていた龍もろともに銀色の爆炎に包まれた。


「貴様の罪は地獄で数えろ」


 一気に炎に包まれた熊男は爆散。

 それを確認するかのように銀の龍が霧散するように消え去る。

 龍が消えたあとには何の痕跡も残されてはいなかった。


読んでくれてありがとう。

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