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39 変だと思ったら

改訂版です。

 それは奇妙な現場であった。

 盗賊が商人の護衛6人とマンツーマンで戦っている。

 30人規模の盗賊団だというのに。


『まるで軍隊の戦闘訓練だな』


 それを裏付けるかのように装備が同じである。

 同じ革鎧に同じ剣。

 予備の剣まで同じじゃ店で人数分のオーダーをしたとしか思えない。


『なるほど、アジトで感じた違和感はこれか』


 置いている物資にしても統一されたものばかりだったのだ。

 どこかで買い付けてきたものを担当者が管理しながら使ってますって感じ。

 消耗品の食料にしても馬に使う鞍や馬具にしても奪った印象が持てない。

 これじゃあ盗賊とイメージが掛け離れて違和感を感じてしまうのも当然だろう。

 むしろ、なぜ気付かなかったと己を問い詰めたくなってくる。


『俺、間抜けすぎだろ』


 ここまで来ると、こいつらが盗賊じゃないのは明らかだ。

 くだらん偽装はしているがな。

 全員が汚らしい格好と髭面にしているけどな。

 同じようなデザインの服を同じように汚したり擦り切れさせたり。


『汚れの位置とか範囲とかまで同じとかアホすぎだろ』


 態とらしすぎる偽装に苦笑しか出てこないというものだ。


『剣技は訓練された者のそれなんだよな』


 おかげで見ているだけなのに俺の【剣術】熟練度が少しだけ上がった。


『相手の技を盗んでいるってことかね』


 そこはラッキーだと思うが面倒な事実が判明してしまった。


『こいつら、どこかの軍隊か私兵だな』


 傭兵くずれという線もないだろう。

 何もかもが整いすぎているのだ。


『これで偽装しているつもりってのが笑わせるぜ』


 しかも剣技の方も技量は大したことがない。

 護衛の方が我流っぽいものの腕は上のようだ。

 人数差を気にして積極的な攻めは控えているようだが。


『敵が一斉攻撃してこないうちに数を減らそうってことか?』


 少なくとも、すぐに負けるという状況ではなさそうだ。

 荷物を強奪して口封じをするつもりなら即座に介入なんだが。

 馬車を横倒しにするのは強奪目的としては乱暴が過ぎる。


『積み荷の強奪が目的じゃないってことか』


 襲撃している連中が盗賊に成り済ましているというのも、きな臭い感じがする。

 誰の差し金で動いているかまでは不明だが。


『西方に来るなら世情に疎いのも問題か』


 そのあたりは後で考えるとして、こいつらの目的が問題だ。


『正体がバレるとマズい連中が後ろ暗いことをしようとしているのは確定なんだがな』


 盗賊に成り済まして偽装工作をする理由が他にあるとも思えない。

 真っ先に考えられるのは輸送の妨害。

 ならば後先を考えない罠の設置も納得できる。

 確実に物資輸送を潰すことが優先されるからだ。


 運ぶ側にも事情はあるだろう。

 あれこれと考えてみたが情報がないから推測の域を出ない。

 確実に言えることは運んでいる商人たちが生き残っても損をするということくらいだ。


『別の可能性もあるか』


 積み荷ではなく人間が目的だとしたら。

 生け捕りするためと考えれば護衛を相手に慎重に戦っている点とも矛盾しない。


 ただ、奴隷商人ではないと思う。

 非合法なことをするとはいえ商人だ。

 あわよくば積み荷も確保しようとするだろう。


『とすると、貴族が目をつけた人間をさらうってとこか』


 何を意図しているのかまでは分からんが、これが最もしっくりくる。

 証拠も証言もないが、そんな気がしたのだ。


 そうすると具体的なイメージが膨れ上がってきた。

 傲慢で何でも自分の思い通りにならなければ気に入らないタイプの貴族。


『いるんだろうなぁ……』


 醜く肥え太ったメタボ野郎で趣味の悪い服を着たようなのが。

 軽く想像しただけで急にリアリティが増してきた。

 ふとした拍子に服のボタンが弾け飛ぶのはお約束。

 男のくせにヒステリックで影では豚とあだ名されているのもお約束。


『加えて不摂生のせいで禿げているとか』


 誰が見てもそれと分かるヅラを被っているところまで容易に想像できてしまう。

 これもお約束だろう。


『どんどん仮想貴族像が仕上がっていくな』


 まだ貴族が指示した襲撃と決まったわけではないのだが。

 いずれにしても悪党が襲撃しているのは間違いない。


『さて、護衛の方の動きが鈍ってきたか』


 とっとと悪党どもを片付けるとしよう。

 商人サイドの人間が殺されたら何のために駆けつけたかわからなくなってしまう。


 左右の腰にセットされたホルスターから銃を抜いた。

 銃と言ってもデザイン的には工具の釘打ち機を拳銃っぽくスマートにしたものである。

 銃口とは別の部位から実剣とも打ち合える光剣が出てくる。

 変形させずに剣と銃の両方を使うことを考慮した結果だ。


 今ここで使うのは拳銃としての機能。

 こいつは様々な弾を撃ち出せる。

 銃口の先に弾を出現させて理力魔法で撃つから大きさも問わない。


『それって銃口じゃねー、とツッコミが入りそうだよな』


 便宜上、魔力の出力部を銃口と呼んでいるだけだ。

 この出力部には主に二つの役割がある。

 ひとつは弾倉がわりの亜空間から弾を引き出す、もしくは属性魔法で弾を生成すること。

 もうひとつは理力魔法で弾に運動エネルギーを与えることだ。


 射出音を発生させるというオマケ機能もあるが、今回は使わない。

 奇襲攻撃に発射音など邪魔以外の何物でもないからな。


 俺は左右それぞれを4連射させた。

 撃ち出したのは風魔法で圧縮させた空気だ。


 護衛に接敵している6人と交代要員として直ぐ側に来ている2人に命中。

 全員が「ぐわっ!」「がっ!」「ぎゃっ!」などの悲鳴と共に撥ね飛ばされる。

 狙ったのは利き腕の肩。


『完全に壊れたな』


 腕が千切れ飛んだりしないよう威力調整したつもりだ。

 それでも痛みで失神したようではある。


『グロは嫌だからな』


 それと情報を吐かせるまでは殺さない。

 首を突っ込んだ以上は敵が誰かくらいは知っておきたいのでね。

 後々面倒なことになるのは嫌だし。


「な、何だ!?」


「どうなってる」


「弓で射られたのか?」


「矢なんて刺さってないぞ」


 仲間が倒れたことに混乱している盗賊もどき共。

 護衛や商人も同様だ。

 驚きのあまり声も出ず、何が起きたのか状況を把握できないため動けずにいる様子。


 この調子で頭目の反対側にいる半数ほどを無力化だ。

 続けざまに引き金を引く。

 ほぼ一瞬で更に十人ほどを片付けた。


 これで護衛や商人が逃げるかと思ったのだが……


『ダメだ、動かない』


 よく見ると護衛対象が動けないようだ。

 足を捻ったか骨折したかのように見受けられる。

 そういや訓練の時に邪魔になるからって拡張現実モードをオフにしてた。


『まあ、いいか』


 情報に頼らず戦う訓練ってのもしておくべきだろう。

 【剣術】スキルの熟練度を上げるいい機会だし。

 相手は人間だから魔物とは違った戦いになるのもメリットだ。


『そうと決まれば即行動ってな』


 銃をホルスターに収め一気に高度を下げる。

 気を失っている奴らと護衛の間くらいの位置に降り立った。


「なっ!?」


 突如として現れた俺に護衛が驚きの声と共に身構える。

 向こうにしてみれば奇妙な白銀の鎧に覆われた謎の人物だ。

 敵か味方かも分からぬ状況では警戒するのも当たり前というもの。

 護衛はフードを被っていたが、ピリピリとした緊張感だけは確実に伝わってきた。

 なかなかの手練れの気配を感じる。


『声からすると若いんだがな』


 俺は護衛の反応は気にせず緩やかな動作で右腕を払った。

 ただでさえ仲間の驚きの声で護衛たちの緊張感が高まっているんだ。

 俺に背を向けている護衛もいるのだし音をさせない方が良いだろう。


 そして護衛の周囲が薄く光を帯びた状態になった。

 得体の知れない光の膜に囲まれたのでは穏やかではいられないだろう。


「な、なに!? どうなってるの?」


 俺に背を向ける形の護衛たちは概ねこんな感じで大いに動揺している。


「これは……魔法?」


 中には察しのいいのもいるようだ。


「─────っ!!」


 一方で俺の目の前にいる護衛なんかは言葉よりも殺気を放っていた。

 俺が腕を振るった途端にコレだからな。


「心配しなくても、それは魔法障壁だ」


 護衛たちの脇を通り抜けていく。


「少し休んでいろ」


 残りの襲撃者たちから庇うような形で前に出て歩みを止めた。

 連中全員を見渡す。

 真ん中に熊のようにゴツい男がいた。

 この熊男がリーダーだ。

 確信を持って言えるのは交代の指示をこいつが出していたからである。


「なんだ、貴様は!?」


 熊男が誰何してくる。


「通りすがりの仮面ワイザーだ」


「かめん……わいざー、だとぉ!?」


「そう、俺はマスクの賢者。

 その名も仮面ワイザー。

 覚えておけ」


 賢者と言うならワイズマンあたりだが、そこは語呂合わせを優先した。


「賢者だと? ふざけたことを言いやがる。

 こんな場所に賢者がのこのこ出てくるもんか」


 熊男は俺との会話を続ける振りをしているが、半分はポーズだ。

 周囲の部下に対してアイコンタクトやわずかな身振りで指示を出している。


「フッ、お前たちの罪を暴き立てるために来たのだよ」


 こちらは挑発で返してやる。


「罪を暴く? 盗賊は盗む殺すが商売だ。

 暴くような秘密や陰謀があるわけなかろう」


「お前たちは盗賊ではないからな」


 全員が反応した。

 特に部下連中は大いに動揺している。


「ハハハ! 俺たちが盗賊でないなら何だと言うんだ」


 熊男は大声で笑い飛ばして誤魔化そうとしているが精一杯の虚勢を張っているようだ。


『声がわずかに震えているんじゃ逆効果だっての』


 見た目以上に内心では動揺しているようだ。


 なら、ここが勝負所だろう。

 念のためにこいつだけ鑑定しておく。


『貴族の部下で奴隷部隊の隊長?』


 なんとなくだが俺の推測した犯人の目的が裏付けられた気がした。


「貴様らは豚貴族が子飼いしている馬鹿な私兵どもだな」


 コイツの雇い主が豚かどうかまでは知らないが、ここは煽るに限るだろう。

 真実がどうかは問題じゃない。

 動揺しているであろう熊男を揺さぶるのが目的だ。


「き、貴様あっ!!

 ルボンダ子爵様を愚弄するか!」


 拍子抜けするくらい簡単に引っ掛かってくれるとは……

 同時に背後の護衛たちも反応していた。

 その様子から察するに襲われる心当たりがあるのだろう。


「墓穴を掘ったな。

 黒幕の名を教えてくれてありがとう」


 トントンとステップを踏みながら「ねえ、どんな気持ち?」を言ってやりたい気分。


 己が決定的な失言をしたことに気付いた熊男はさっと顔色を青ざめさせたのだが。

 次の瞬間には茹で蛸のように顔を真っ赤にさせて怒気を放っていた。


「くっ、皆殺しにしろぉっ!」


 その言葉を待ってたんだよね。

 護衛たちから襲われた理由や事情を聞けそうだし。

 襲撃犯どもに話を聞く必要もないだろう。


『返り討ちにしてくれる』


読んでくれてありがとう。

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