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38 盗賊を探してみた

改訂版です。

「ようやく西方に来られたな」


 溜め息とともに吐き出した言葉に嘘偽りはない。

 その気になれば1日で到達できた。

 俺1人だから超音速で飛んでも目を回すものはいない。


 では、どうしてそうしなかったか。

 大陸の東側で探索しながら飛び回っていたからだ。


『素材集めに夢中になってしまったのはなぁ……』


 正直、反省している。

 後悔は半々ぐらいかな。

 素材集めについては、なんの後悔もしていないがね。

 半分の後悔は探索し足りなかったことだ。

 素材がまだまだ欲しいところである。


 え? 反省してないだろって?

 俺が反省しているのは探索効率が悪かったように思えたからなんだが。

 もっと上手くやれていれば素材もより多く集められただろうし。


『まあ、今は街が見たい方が上だな』


 他国の文化を自分の目で見てみたいと言うべきか。

 問題は西方で通用する通貨を持っていないこと。

 今の俺に身分証なんてないから入市税を払う必要がある。

 国によっては物納もありらしいが相場の関連で手続きは面倒くさそうだ。

 担当者がちょろまかしたりぼったくる可能性もあるしな。


『どうにかして金を入手しないとな』


 田舎の村なら税金を取られない。

 文化の調査には不向きだが金を稼ぐには向いているんじゃないかと考えた。

 すぐに却下したけどな。

 田舎の人間は素性の知れない流れ者を嫌う。

 まともな職にありつけるはずもない。


『冒険者の制度が定着しているのも納得だな』


 命の危険もあるけど身元はギルドが保証してくれる上に仕事もある。

 死亡率が高いなど色々と問題はあるだろうが食いっぱぐれることだけはないようだ。

 仕事を選り好みしなければだが。


 一攫千金もない訳ではない。

 夢物語と言っていいほどの確率でしか成し得ない話だが。


『それも面白そうだ』


 どうせなら自分も冒険者をやってみよう。

 これもまた社会勉強になる。

 ただし街に入れなければ登録できないのが実情だ。

 明確な目的ができても金がなくては、どうにもならない。


「まさか盗賊の真似事をする訳にもいかんしなぁ」


 そう呟いて何か引っ掛かりを感じた。


『盗賊、盗賊か……』


 手段は知らないが人のものを盗む輩だ。

 中には義賊的な連中もいるかもしれないが犯罪者であることに違いはない。


「そっか、盗賊を締め上げればいいんじゃないか」


 俺なら【鑑定】で凶悪犯かどうかは簡単に判別できる。

 そういう連中なら征伐しても問題にはなるまい。


『で、盗賊から回収したお宝は征伐した人間のものになる訳だ』


 盗賊から金品を奪い取っても罪にはならない。

 地球の常識とは異なっているが【諸法の理】でお墨付きを貰っているので心配ない。


『盗賊に奪われた時点で物品の所有権を失うってのがスゲーよな』


 ただし、所有者なしとなるだけで盗賊に所有権が移るわけではない。

 盗賊以外の誰かが手に入れた時点で所有権が変更される仕組みになっている。

 盗賊同士で盗品のトレードをしても売り買いをしても所有権はなしのままだ。


『義賊とかは活躍しやすそうだよな』


 反対に盗賊は盗品を売って現金を手に入れることしかできなさそうだ。

 【鑑定】スキル持ちなんてそうはいないから、それくらいは可能みたい。


『ん? 裏技もあるのか』


 商人に買い取らせて買い戻す。

 買い取りの時点で所有権は商人になり、買い戻すと盗賊のものになる。

 商人は差額で儲けるから損をする者は盗まれた被害者だけ。


『酷え話だ』


 そうは思うが、積極的に世直しとかするつもりもない。

 俺は正義のヒーローではないのだ。

 たまに真似事をするくらいなら「やってもいいか」ぐらいには思うがね。

 ただ、今回の俺の目的は盗賊を締め上げて現金をゲットすることだ。

 征伐手数料みたいなものである。

 物品はどうするかって?

 俺の【鑑定】スキルなら持ち主も判明するだろうし、転送魔法でこっそり返却するさ。

 欲しいと思うようなブツがあっても複製すればいいだけだ。


 という訳で盗賊を襲うことが決定。

 正体がバレないようフード付きのローブでも用意しておくか。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「くそー、また今日もハズレかよ」


 西方へ到達して数日。

 転送魔法で休まず通ってきているが収穫は皆無だ。


「街道周辺は狙い目だと思ったんだが」


 出てきたのは盗賊じゃなくて野良の魔物。

 頭が猪で体が熊のベアボアとかいうワンボックスカー並みにデカいやつ。


『こんなのが出没するんじゃ盗賊も逃げ出すか』


 光学迷彩で姿を見られないようにしていたのに襲いかかってきた。


「匂いでバレたか」


 襲われたんじゃしょうがないので剣を取り出して戦うことにした。

 デカい上に突進力があるから迫力満点。


『こりゃあ並みの剣士じゃ相手にならんか』


 俺は躱しざまに首チョンパで終わらせたけど。

 この程度じゃ【剣術】スキルもあんまり伸びない。


 次の日、別のポイントに移動して様子を見た。

 今度も匂いを感知されたのか、またしても魔物と遭遇。


「ソードホッグね」


 剣のような毛を持つ凶暴なハリネズミだ。

 本体はバスケットボールサイズだが細剣のような長い毛を持つ魔物である。

 ハリネズミの針がすべて長剣になったと思えば分かり易いか。

 毛は本物の剣と打ち合えるほど堅く切れ味も鋭い。


「別名、盗賊殺し。

 なるほどなぁ」


 【諸法の理】で確認しつつ攻撃を回避する。

 軽装の剣士系装備をしている者には天敵みたいだな。

 しかも盗賊がアジトにしそうな場所を縄張りにしているらしい。

 そのような理由から盗賊の被害だけが突出しているという。

 盗賊殺しとは上手いことを言ったものだ。


 ただし、盗賊だけを襲うわけではないので他の者たちにも普通に嫌われている。

 剣で切りつけても毛に弾かれることが多いため簡単には仕留められないし。

 投げナイフの投擲や弓矢の攻撃程度では歯が立たない。


「所詮、魔物は魔物だよな」


 盗賊だけ選んで始末してくれる訳ではない。

 こいつらは縄張りに入ってくれば襲う。

 縄張りから外れていても遭遇すれば襲う。

 とにかく見かければ攻撃してくる。


 何処のゲームキャラだよと言いたくなるような回転&ジャンプアタックだ。

 ふざけた攻撃方法だが回転しているせいで死角が少ない。

 攻防一体だ。

 盗賊なんかが使っている革鎧じゃ切り刻まれてすぐにズタズタになるだろう。

 俺も剣や無手で相手をしていたら服をダメにされていたと思う。


『槍を使えば楽勝だったけどな』


 隙間を狙って突き刺せば終わり。

 槍は倉庫の中に山ほど入ってるし。


『片っ端から突き刺していく簡単なお仕事です』


 ただ、さすがに魔物と遭遇してばかりで懲りたけどね。

 故に次の日からは風魔法で空気の流れを遮断したよ。

 気配も消したし待ち伏せポイントも大きく変えた。

 でも、収穫ゼロ。


『やってらんない……』


 魔物も盗賊も来ないと暇になる。


『こんなことなら最初っから盗賊のアジトを狙えば良かった』


 丸1日、待たされた後でそんなことを考えると地味にムカつく。

 とにかく翌日からは方針変更。

 虱潰しに街道沿いの森の中を探索した。


『うん、いないんじゃ幻影魔法で隊商を出しても襲われるはずもないな』


 しょうがないので誘き寄せるポイントを変更すべく移動することにした。


「……なんだかな」


 移動したら盗賊のアジトを発見してしまった。

 ただし誰もいない。


「留守か」


 それならそれでお宝ゲットだぜと思ったのも束の間。


「食料とか消耗品ばっかじゃねえか」


 しかも奪った品って感じじゃない。

 なんというかキャンプに来ましたって感じなのだ。

 数日ほど宿泊して街に帰れば何も残らない。

 無駄がなさ過ぎる。


「それにしては逼迫した様子もない」


 これだけギリギリの状態なら荒んだ感じになってそうなのだが、それもない。


「あと、馬が多いのはどういうことだ?」


 テントの数などから考えても盗賊は中規模程度がせいぜいだ。

 馬は移動力や運搬力に優れるが、維持コストは当然かかってくる。

 この規模の盗賊団が抱え込むには無理があるとしか思えないのだが。


「傭兵団の移動中……

 なんてことはないな」


 傭兵団であるなら街道から離れた場所で野営する必要性を感じない。

 隠れ潜むようにカモフラージュまでしているからな。


「さて、どうしたものか」


 違和感に首を捻りつつも今後の方針を検討し始めたその時。


「ん?」


 馬の嘶きと派手に何かが壊れる音が聞こえてきた。

 誰かが街道の方でここを根城にしている盗賊連中に襲われたのか。


「俺のやること裏目に出てばっかじゃねえかよ」


 先に街道の方に行っていればと思ってしまう。

 それはそれで面倒事に巻き込まれていたのだろうが。


「行くしかないか」


 義理立てする相手も守るべき相手も西方にはまだいないが放置もできない。


「けど、皆殺しにされる恐れがあるんだよなぁ」


 シカトかますと寝覚めが悪くなりそうで嫌だ。


「まったく、巻き込まないでくれと言いたい」


 盗賊は全員を抹殺すれば目撃証言もなくなるだろう。

 問題は助ける相手がいそうな事実。

 目立ちたくないから島国で建国したのだ。

 それで顔を見られて下手すりゃ宣伝されでもすれば面倒の種が増えかねない。

 口止めすればいいだけという話もあるが……


『人の口に戸は立てられないって言うし』


 フードを目深に被った程度じゃ不安がある。


「……コレを使うときがきたか」


 俺は倉庫から二つのアイテムを取り出した。

 左手には東洋龍の頭部をあしらった銀色の小箱。

 右手には掌に収まる無色の水晶玉。


「む」


 剣戟の音も聞こえてきた。

 あまりぐずぐずしている時間はなさそうだ。


「やるか」


 小箱を下腹部にあてがうと幅広の銀鱗に覆われたベルトが出てきて俺の腰を一周。

 龍が赤い瞳を輝かせながら顎を開く。

 合成音で「スタンバイ」と装着完了を知らせてきた。

 右手で水晶玉を龍の口に押し込む。

 左手で上から押さえ込むように顎を閉じた。


「変身!」


 龍が水晶を飲み込むと同時に俺の体は光に包まれる。

 次の瞬間、俺は白銀に輝く仮面の戦士へと姿を変えていた。


「こんなことならバイクを作っておくべきだったな」


 残念なことに開発すらしていない。

 仕方がないので飛んで行くことにした。

 周囲の木々の上へと出て一気に加速する。

 襲撃場所にはあっという間に到着だ。


 上空に位置したまま下の様子を確認してみる。

 どちらが襲われる側か、そして悪党はどちらかを見極めるために。


『柄の悪そうなのが30人ほどか。

 で、そいつらが囲んでるのが商人と護衛だな』


 護衛が6人、商人っぽいのが2人、子供が1人。

 2台の荷馬車は街道脇に横転した状態。


『街道に大がかりな罠を仕掛けていたのか』


 罠を作動させた後の街道は大きく斜めに削られ、もはや道ではなくなっていた。

 直すつもりがないのは明らかだ。

 それにしては襲う相手が用意した罠の労力に見合っていない。

 隊商の規模が小さすぎる。

 それに荷馬車を横倒しにすることが前提の罠というのも変だ。

 積み荷が高確率で台無しになるだろうに。


『違和感だらけだな』


 それは罠だけの話ではない。


『何だ、アレ?』


 戦い方にもしっくりこない何かを感じた。

 距離を取って囲んでいるから逃がす気はないのは明白である。

 だが、囲みの内側ではマンツーマンで護衛と戦っていた。

 盗賊の本気を疑ってしまう。


『訓練じゃあるまいし』


 そう思っていたらマンツーマンの盗賊が交代していた。


『持久戦に持ち込むつもりか』


 損亡を抑えて確実に勝つつもりなら理解できなくはない。

 だが、盗賊がそれをするのは下策だ。

 往来の少ない街道のようだが、時間をかければ誰かが来ない保証はない。

 例えば俺のように。


『何か事情がありそうだな。

 護衛の腕は悪くなさそうだし、もう少し様子を見てみるか』


 このまま介入すると面倒事に巻き込まれそうだし。

 何かしら情報が欲しいところだ。


読んでくれてありがとう。


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