↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
374/1785

368 カレー騒動

 この数日間のゲールウエザー組は必死だった。

 村人たちの目には国のために必死に働いてくれる国王陛下たちと映ったことだろう。

 実際はうちが提供する夕飯を目当てに頑張っていたようなものだけど。

 もちろんメインの目的は飢饉対策である。


 ただ、人間てのは疲れてくると目先の目標がないと効率が落ちるんだよね。

 ということで晩御飯という人参をぶら下げてみたのだけど。

 思った以上に効果があった。


 白米に目を輝かせる面々は微笑ましいものがあったよ。

 そんな感じで密かに米信者が増えた気がする今日この頃だ。

 まあ、カレーライスはある意味予想通りの展開になったけど。


「これは……」


 離れた場所から鍋の中身を見てドン引きしている某国王。


「確かに……」


 某宰相も顔が引きつっていたし。


「だから言っただろ。

 色と見た目が良くないって」


 あの色と質感を見て連想したのだとしても俺は責めたりはしない。

 あからさまなことを言わないだけマシだろう。

 空気を読んだとも言う。


「いや、まさか……

 そういう見た目だとは思わなかったのでな」


「まさしく……」


「ですが、この香りはあの鍋の中のものではないのですか」


 総長が割と平然とした様子で聞いてくるのには驚いたけど。

 これのお陰で風向きが変わったんだよな。


「ん? 

 言われてみれば……」


「まるで別物ですな」


 とは言ったものの、いざ食べるとなると躊躇いが見られた。

 なかなか一口目とはいかない。

 一方でうちの面子はガンガン食ってたけど。


『カレーなんて久しぶりよぉ。

 昨日は昨日でハヤシだしぃ』


 貪り食いながら念話で話し掛けてくるマイカ。

 マナーの面では下品になるかならないかギリギリのラインで食う食う食う。


『グッジョブ、ハル。

 愛してるぅー!』


 これほど安っぽいアイラブユーもないと思う。

 俺の方なんか目もくれずにカレーに夢中だもんな。


『そういうことは俺の目を見て言え』


『いま忙しいから後でね』


『後かよっ』


『……………』


 ツッコミ入れてもスルーされる始末。


『泣けるわー。

 泣かないけど!』


『なんだよ、泣かねえのかよっ』


 条件反射でツッコミ入れてしまった。


『……………』


 が、またもスルーである。

 ダメだ、こりゃ。


『それにしてもこのカレー、うま味重視だねえ。

 やや甘めの中辛というのが物足りないわー』


『それが飛賀家の味なんだよ』


 祖父母は辛いカレーが苦手だったからな。

 それでいて甘口は物足りないと言って、この味に調整するんだぜ。

 祖母の手ほどきで俺も完全に覚えてしまったしな。

 もちろん祖母が作る時は市販のルーは使わずカレー粉で調理する。

 俺は時間の都合と気分でどちらでも料理するけどな。


『それに大事なことを忘れてるぞ』


『なんなのさ』


『始めて食べる人間が大勢いるだろう』


 ゲールウエザー組は全員が初めてだ。

 新規国民組の中にもいるな。

 ジェダイト組はみんな大好き状態だけど。

 おっかなびっくりだった初めての面々も食べ始めてからはスプーンが止まらない。

 食べながらだが、そんな彼らの様子を見たマイカが『ぐぬぬ』と唸っている。


『目配りが足りねえんだよ』


『ぬかったわ』


 時代劇の世界に迷い込んだような台詞で返してくる。

 まあ、マイカなりの照れ隠しである。

 それでも食べるのは止まらんけど。


『次は辛口寄りの中辛で頼みたいわね』


 注文をつけてくるのも忘れない。

 しょうがないなぁ。


「辛みが足りない者はガラムマサラとチリペッパーを出しておくから使うといいぞ」


 倉庫から引っ張り出してテーブルの上に置いた。


『うはっ、気がきくじゃない。

 ハル、愛してるぅ!』


 出ました、本日2回目の愛してる。

 頼むからもっと実感込めてくれ。


「一度、辛くしたら戻せないからな。

 使うのは少しずつにしておくように」


 あちこちからバラバラに了承の返事がくるが、念のためにもう一声。


「特にこの赤いチリペッパーは気を付けろ。

 辛みが本当に強いから程々にな」


 こんな風に注意しているのにダメだという予感がある。

 いや、確信か。

 好奇心に負けてやらかす者が一定数出てくるんだよな。

 熱湯風呂なんかのリアクション芸を売りにしている芸人のように。


 まず1人目。


「ぶほっ」


 レイナだ。

 悶えるように咽せるという器用なことをしている。

 慌てて水を飲んだのは言うまでもない。

 が、それでも悶えている。

 猫尾が毛を逆立ててピンと伸びきっていた。

 あの調子じゃ、かなりの量のチリペッパーを使ったな。


 続いて2人目。


「みみみ水ううぅぅぅぅっ!」


 アニスかよ。

 こういう時、この2人ってワンセットだよな。

 ただ、アニスの方が激しく悶えている。

 狐の耳と尻尾が痙攣しているぞ。

 コップの水を飲み干しても足りないらしく水魔法で注いで次を飲んでいる。


 あ、また注ぎ直した。

 どんだけ辛くしたんだよ。

 だから少しずつにしろと言ったんだ。

 俺はちゃんと注意を促したからな。


 そして3人目の犠牲者が出た。

 ハマーである。


「────────っ!!」


 無言で顔を真っ赤にしつつ肩を振るわせていた。

 肩で息をしながら水も飲まずに耐えている。


 あーあ、無茶するなぁ。

 顔を真っ赤にするほど辛くしたんなら耐えられるはずないのに。

 やせ我慢は良くないと言おうとしたら、アニスと同じように水をガブ飲みし始めた。

 そうなるよな。


「馬鹿者が」


 ガンフォールが冷めた目で見ていた。

 呆れて叱る気にもなれないらしい。


 重傷者は3名か。

 ゲールウエザー組は恐れをなしている者が多いな。

 チリペッパーに手を出そうとしていたクラウドの手が完全に止まったし。


「ヒガ殿、大丈夫なのか」


 3人の方を心配そうに見ている。


「死にはしないさ。

 毒じゃないんだし」


 翌日にトイレで酷い状態になる可能性はあるけど。

 激辛料理を食べた後の話を聞いた限りではな。

 実体験がないからなんとも言えないが。


「でも、初心者が使うのはガラムマサラにしておいた方がいい」


「そのようだ」


 苦笑するクラウド。

 そんなことを言いながらもガラムマサラで辛みを調整している。

 味に不満がある様子はなかったんだが。

 どうやら辛みが増えることに興味があるようだな。

 単純な好奇心でチリペッパーに手を出そうとしていたとかチャレンジャー過ぎだろ。


「おお、これは辛いな。

 辛いが止まらん。

 クセになる味だ」


 若干、スプーンですくう速さが上がったか。

 なんにせよ充分に満足しているようだ。

 こちらとしても願ったり叶ったりである。

 ダニエルと総長は最初から香辛料に手を出していない。


「そっちは辛みは丁度いいみたいだな」


「年寄りは刺激の強いものよりまろやかな方がよろしいですな」


「私もそうですね。

 今より辛くするとお腹の調子を悪くするかもしれません」


「この辛さで丁度いいかと」


「確かに程良い辛みですね」


「そりゃ良かった。

 香辛料の辛みは健康増進の手助けになる。

 ただ、調子に乗ると痛い目を見るがな」


 重傷者3人に視線を送ると、お残し厳禁とばかりに頑張って食べていた。

 レイナは慣れてきたのか水の助けを借りながらも食べ進んでいる。

 残りの2人よりもマシに見えるのは香辛料の量の差なんだろう。

 アニスとハマーは必死の形相で身悶えながら食べていた。

 よーやるわ。


 ふと気付くと、ゲールウエザー組でも「辛い辛い」と言いながら水を求める者が出始めていた。

 先の3人ほど酷いことになっていないようだが挑戦者はいたようだ。


「薬と同じですね」


 総長が頷きながら言った。


「適量を守らないと害にもなり得ます」


「そうだな」


 今更だがチリペッパーを引っ込めることにした。

 被害を拡大させる訳にはいかないからな。


 え? そんなことなら最初から出すなって?

 何度も水を飲み干すほどやらかすとまでは思ってなかったんだよ。

 レイナくらいは想定してたけど。

 最初に注意してこれだからな。

 自己責任で頼む。


 そういやマイカはどうしたんだろう。

 調子に乗ってやり過ぎ第1号になるかと予想していたんだが。


「……………」


 一口ずつゆっくりと、そしてしっかりと味わうように食べている。

 辛くて食べづらいという雰囲気は微塵も感じられない。


「どうだ、旨いか?」


 満面の笑みでコクコク頷くマイカ。

 味の調整は上手くいったようだ。


『でも、ハルん家の味も捨てがたいわね』


『なんだそりゃ。

 物足りないって言ってたじゃんか』


『食べ比べると分かるのよ。

 辛さを取るかうま味を取るか。

 どっちも美味しいよ、ハル』


『そんな風に言ってもらえるなら俺も満足だ』


 普通に愛してると言われるより赤面するけどな。


「ミズキはどうだ」


 照れ隠しで話を振ってみた。


「えっ、私!?」


 話を振られると思ってなかったのか若干、挙動不審気味だ。


「私はハルくんの家の味が味わえたから満足満足ぅ」


「……それは良かった」


 ミズキさん、その笑顔ちょっと怖いんですけど?


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。