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37 カレーライスが食べたい

改訂版です。

「フフフ、計画通り!」


 戦隊ものの動画を妖精たちに見せたら大盛況。

 変身の時の掛け声だけで喧々囂々と議論するくらいだった。


 オーソドックスに「ヨウセイチェンジ」にしようとか。

 いや「忍精チェンジ」がいいとか。

 忍者らしく「忍精変化」だろうとか。


 多数決で「忍精チェンジ」に決まったのは3日後である。

 変身のポージングの方が先に決まってたのは何だったんだろうね。

 訓練とかは真面目にやってたので俺は口出ししなかった。


 その後もヨウセイジャーの歌を作詞作曲しだしたり。


『そこまでかよ』


 締めくくりの「我ら忍精戦隊ぃヨウセイジャ~」の部分は格好いいと特に受けた。

 ウィルス感染でもしたのかってくらい広まったからな。

 知らぬ間に俺まで口ずさむようになってしまってビックリだ。


 他にも黄色担当の何人かからカレーが食べたいとせがまれたり。

 ちなみに色が重複するのは50名以上いるから仕方ないのだ。

 変身後は背番号と若干のデザイン変更で見分けるようにしている。


『カレーのネタは俺も動画を見るまで知らなかったんだがな』


 生まれる前の話だし。

 甘党のイエローならいたはずだけど。

 戦隊ヒーローについて語れる相手がいなかったからな。


 趣味の話ができる相手が全くいなかったわけじゃないがね。

 高校時代の部活仲間とか大学時代の同期女子約2名とか。


『36年生きてそれだけなのかとは聞かないでくれ』


 嫌なことは忘れてカレーの話に戻ろう。

 カレーライスは俺も食したかったので奮起した。


『香辛料を集めるのが大変だったけどな』


 国内だけでは集めきれなかったので大陸の東側まで行きましたよ。

 もちろん一人でね。

 ローズなら大丈夫だったんだけど、留守番してる皆の方も何かあったら困るだろ。

 だから皆と一緒にお留守番。

 訓練とか仕事の監督を任せたらあっさり引き受けてくれた。

 頼れる相棒である。


 妖精たちからは「「「「「カレーライス、楽しみです」」」」」とか言われたよ。

 溢れんばかりの笑顔でね。


『そこまで期待されちゃ応えない訳にはいかねえだろ!』


 一日で終わらないから何度もミズホシティと往復したさ。

 そのうち空を飛んでいくのが面倒になったけどな。


『超音速で飛んでおいて面倒というのもどうかとは思うがな』


 それで転送魔法を使うようになった。

 この世界に来た頃はビビって使う気になれなかった魔法だ。


『が、よくよく考えれば解決策はあったのだよ』


 神級スキル【天眼】である。

 転移先に何があるか不明なら【天眼・遠見】で確認すればいい。

 これを使えば一度でも赴いた場所なら即時に確認できる。

 行ったことがなくても方向と距離を指定すれば大丈夫。

 ズレが生じて想定より離れた場所になっても問題ないよ。

 そこから任意の方向に確認したい場所を移動させられるからね。

 しかも気配の確認までできるとか凄すぎだろ。


『さすが神級スキルだ』


 そんな訳で連日のように大陸に出かけているんだけど。

 こんな形で大陸に渡ってくることになるとは思ってなかったな。


『海を渡るなら西方のどこかの国に行って冒険者登録するって思ってた』


 香辛料探しが嫌って訳じゃない。

 むしろ冒険者より優先されるべき事項だ。


『だって、米をより旨くする日本人のソウルフードじゃないか!』


 ミズホでも、ぜひ国民食にするぜ。


『そのためには妥協など許されん。

 集められるだけの香辛料を集めて理想のカレー粉を作るのだ!』


 材料が集まるにつれ俺は食生活が豊かになることにほくそ笑んでいた。

 だが、大変なことに気付いて愕然とさせられてしまう。


『なんてこった!』


 醤油や味噌のことを忘れていたのだ。

 大豆を育てただけで満足してしまったのがいけない。

 ゆでて塩を振りかけた枝豆は文句なしに旨かったからな。


「なんたる失態!」


 まあ、いい。

 同時進行でやれば問題ない。

 一気に解決で汚名返上。

 自分の中で落ちてしまった己の評判を取り戻そうじゃないか。


『ついでだから他の調味料もやってしまおう』


 砂糖はサトウキビか甜菜を見つけないといけないがな。

 今回の採取でなんとかするとしよう。


 酢は材料があるからオーケー。

 工程で酒を造ることになるけど同時進行でいいだろう。


 ポン酢醤油は鰹節が必要になるから今回は仕方ない。

 味醂は焼酎が必要になるけど材料はある。


『魔法を使えば、あっと言う間だ』


 ちなみに発酵は植生魔法に分類される。

 使うのは初めてだが、何度も使った魔法の派生だから制御に不安はない。


 まずは作業スペースとして新たな亜空間倉庫を調味料の数だけ確保。

 保存用の倉庫と違って状態変化を受け入れるように設定変更した。

 でないと植生魔法をかけても何も変化しないからね。


 倉庫と区別するために倉と呼称することにする。

 倉での作業工程は【多重思考】スキルで同時管理だ。


 そこまでは良かったんだけど香辛料探しを再開した途端にトラブル発生。

 魔物とのエンカウントだ。


『採取の邪魔をするんじゃないよ、まったく』


 イライラするけど、仕方ないか。

 大陸の東側はフィールド型のダンジョンが数多く点在しているし。

 そういう意味では海と似たようなところがある。

 場所によっては強いのがウジャウジャ徘徊しているわけだ。

 少ない場所でもレベルが低いと悲惨なことになるけどな。

 そういう意味ではツバキが大陸を横断したのって快挙なんだよ。


『ケチらずにポイント使うべきだったか』


 【気配遮断】スキルをツバキ並みに上げておけば発見されることもなかったのだ。

 それなりに練習して熟練度は50近くになっていたんだが。

 まだまだ甘いらしい。


『俺もツバキを感知したからなぁ』


 目敏い奴にはバレバレなんだろう。


『せめてそこそこの強敵でありますように』


 だけど登場したのは地竜でしたとさ。

 ガッカリだよ。


 大きさは大型バスより大きいけど見た目はコモドオオトカゲ。

 要するに海竜や翼竜と同レベルの相手なのだよ。

 地竜という亜竜の一種である。

 戦闘スタイルも似たり寄ったりの突進系だ。


『残念すぎるだろ』


 せめてスキルの糧になってもらうとしよう。

 意味が分からんって?

 やることは単純だ。

 突進を躱した瞬間に【気配遮断】を使う。

 奴が俺を見失ったらスキルを解除して挑発する。

 これの繰り返しだ。


 ただし、採取地の近くで暴れられると困るので誘導して引き離していく。


「ほれほれ、こっちこっち」


 時折、タイミングを変えてギリギリを狙ったりもした。

 スキルの効果のほどを確かめたいというのもあるが基本的に単調で退屈だからだ。


「おっと」


 即座に噛みついてくるね。

 さすがは本能で生きる魔物である。


「よっとっはっ」


 連続で回避するために誘導することも試してみた。

 次々と噛みついてくるところを紙一重で躱していく。


「ほれほれ、こっちだ」


 挑発してスキルの熟練度を上げていく。


『これは、アレだな』


 ゲームでチマチマとレベルアップしている時の気分に似ていた。

 物足りなさを感じつつ黙々と作業する。

 カンストするまでの辛抱だ。


『攻撃がワンパターンすぎるんだよな』


 そんなこんなで熟練度MAX達成。


「それじゃあ、さようなら~」


 地竜に別れを告げた直後、地竜は大口を開けて噛みつき攻撃の態勢に入った。

 それを見逃さずに飛び込んでいく。

 左足で下顎を踏みつけつつ右足を蹴り上げた。

 顎を外してやろうと思ったんだけど……


『外れたのは俺の思惑でしたー』


 口が派手に裂けちゃったんだよね。

 それで蝶番みたいに頭が背中にくっついてしまってスプラッタな状態に……

 血飛沫が飛び散ったけど俺は被ってない。

 瞬時に魔法で凍らせたからね。

 匂いで他の魔物を引き寄せかねないし。


『それにしても力加減の見積もりを間違えたか?』


 いずれにしても課題が浮き彫りになった。

 手加減とかできるスキルを身につけておいた方が良さそうだ。


『でないと人前に出たときに大変なことになるぞ、コレ』


 慌てて【諸法の理】で該当しそうなスキルを探してみた。

 上級の【手加減】と特級の【身体制御】がある。


「ほうほう」


 【身体制御】は【軽業】と【手加減】などを統合したスキルなのか。

 ならポイントの消費は大きくても取得するのは【身体制御】だな。

 熟練度は10で止めておく。


 緊急性がないし後は修練で上げていくつもりだ。

 さて、地竜を回収したら採取の続きである。

 遅れた分を取り戻さないとな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 帰ってくるのが少し遅くなった。

 遊んでいた訳ではないが反省。


「はて? 誰もいない?」


 城の中に気配がない。

 妖精たちは仕事が終わって自由時間のはずなんだが。

 まだ明るいからと思って中庭に出てみた。


「ん? 城の外か」


 騒がしい声が聞こえてきた。


「襲撃……じゃないよな?」


 殺気を感じないから魔物がやって来たとかではないだろう。

 首を捻りながらも様子を見に行くことにした。


「あー、そういうことかぁ」


 見れば納得、万事解決。

 広い場所で遊んでいただけだった。


『全員でヨウセイジャーごっこか』


 バスごと幼稚園児をさらって爆破しようとするという古典的なシーンの再現。

 ツッコミどころ満載だ。


『バスとか幼稚園とか何も知らねえだろ』


 まあ、そこはノリと勢いでスルーして楽しんでいるようだ。

 ローズが派手なマントを羽織って「くーくっくっく」と高笑い。

 悪の首領役が見事にハマっている。


 けど、園児役が子供組じゃないのは違和感バリバリなんですが。

 台詞も「たすけてー」と棒読み状態だし。

 その割には気合いが入ってるけど。

 おそらくは動画を忠実に再現しているのだろう。


 爆破を阻止された悪の幹部の反応なんて超ノリノリなんだ。


「おのれ何奴!」


 カーラさん、悪の女幹部が板に付きすぎだよ。


「悪に名乗る名などニャし」


 ミーニャさん登場ってことは、ヒーロー役は子供組か。


「なにぃ!?」


 キースも敵の将軍役がハマってて地味に怖いよ。

 そしてシェリー、ルーシー、ハッピー、チーがミーニャに続く。


「影に生き」


「闇を裂き」


「電光石火で走り抜け」


「はびこる悪は許さない」


 結構、堂々としてるな。

 普段はシャイなのに。


「「「「「我ら忍精戦隊ヨウセイジャー!

     お呼びでなくても只今参上!!」」」」」


『もしもーし。

 名乗らないって言っておいて名乗ってますよー。

 悪役の皆さーん、そこは突っ込まないんですかー』


 俺の心の中のツッコミは誰にも届かない。

 敵も味方も完璧になりきってるもんね。

 俺も空気を読んで声には出さないよ。


「行くニャ!」


「「「「了解!」」」」


「「「「「忍精チェンジ!!」」」」」


 ここでマジモンの変身ですか。

 ああ、でもその方が怪我の心配とかしなくていいのか。

 こんな調子で日が暮れるまで皆遊んでいましたとさ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 待ちに待ったカレーライスが完成した。


「お待たせー!」


「「「「「やったあ─────っ!!」」」」」


 カレーライスが皆の前に配膳されると爆発的な歓声が沸き起こった。


『大袈裟だなぁ』


 苦笑を禁じ得ないが嬉しくもある。


『調理の段階でみんな目を輝かせていたからなぁ』


 カレー粉からカレールウを作っただけで見学に来ていた一部の妖精たちが大興奮。

 動画で見た色合いだと、はしゃいでいた。


 俺としてはスパイスの香りが大丈夫か冷や冷やしてたんだけどな。

 無用の心配だった訳だ。

 この段階になると、全員が待ちきれないと顔に書いていた。


「それじゃあ召し上がれ」


「「「「「いただきまーす!」」」」」


 久々のガッツ食いが見られましたよ。

 あちこちから「旨い」や「おいしい」の声が聞こえてくる。

 頑張った甲斐があるね。

 しばらくは見て和ませてもらったが、俺も冷める前に食べる。


「うん、旨い!」


 至高にして懐かしい味。

 主役はカレールーだが米が助演男優賞もので引き立てているからな。

 作って良かった。


『俺もガッツ食いだ!』


読んでくれてありがとう。

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