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354 アンノウンの手札を暴く

「どうされますか」


 おずおずとリンダが聞いてきた。

 打つ手なしと思っているようだな。

 物理攻撃も魔法も無効で撤退するしかなかったんだ。

 そう思うのも無理はないのかもしれない。


「俺が何とかする」


 やりたくはないけど、うちの子たちには任せられないしなぁ。

 スペックが不明な未知の相手だ。

 しかも精神に干渉する攻撃とか使ってくるようだし。

 対象は男に限定されていたようだけど、いつまでもそうとは限らない。


 おまけに触手で攻撃してくる。

 リンダたちの物理攻撃や魔法はまるで通用しなかった上にキモいときている。

 しかも取り込んだら一瞬で消されるって何の冗談だ?

 シャレにならん。


「どうやってですか!?」


 リンダが吠えた。

 無理だと言いたいのだろう。

 他の皆も無言ではあるが同じように思っているらしい。


「魔法で遠距離から完封するしかないな」


 ドン引きされてしまった。

 冒険者たちに。

 リンダたちは逆に納得できたようだ。

 それを見て更に冒険者たちが信じられないものを見てしまった目で俺を見てくる。

 やめてくれませんかね、化け物を見るような目を向けるのは。

 俺のライフはもう0よ。

 Mの気はないので嬉しくも何ともないんですが。


「マジで行くんすか?」


 俺が本気だと気付いた冒険者のひとりが聞いてきた。


「もちろんだ」


 誰かがアレを始末しないと、いつまでたっても出られない。


「無茶ですよぅ。

 行っちゃダメですぅ」


 別の冒険者が涙目で訴えてくる。

 心配してくれるのは嬉しいね。


「別に無茶ではないな」


 淡々と語るが冒険者たちには信じられないようだ。


「絶対、死にに行くようなもんだって!」


「そうだよ!」


「あんな化け物、倒せっこないじゃんか」


「ダメだって」


 口々に引き止めようとしてくるね。

 なんか聖徳太子の気分が味わえるかも。


「んー、魔法を使えばそうでもないぞ」


 その気になれば物理でも何とかなりそうな気はするけどね。

 それは言っても信じてもらえそうにないし。

 治癒魔法の威力は見せたから、大丈夫と思ったんだが……


「魔法って言ってるけど、さっき凄いの使ったばっかじゃん」


「そうだそうだ」


 だんだん俺の苦手な雰囲気になってきた。

 彼女らのお喋りパワーだけはどうにもできないからな。

 捲し立てられるのは勘弁願いたい。

 俺に反撃できると思っているのか。

 いや、無理だ。

 そう思っていたら救世主がいた。


「みんな大丈夫だ!」


 リンダ嬢である。

 いきなり立ち上がって張りのある声で演説でもするかのように語り始めた。


「賢者様の魔法はとにかく凄い」


 あー、何か自分に酔ってらっしゃいませんかね。

 冒険者どころか部下のお姉さんたちも呆気にとられてるよ。


「先程の治癒魔法など片手間のものだ」


「……………」


 いや、まあ事実だけどね。

 事実ではあるけど、そういうことは力説しないでもらえると有り難いなぁ。

 止めるに止められないのが悲しいところだ。

 救世主のはずなのに嬉しくないというこのジレンマ。

 さっさとアンノウンを倒しに行きたいよ……



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 リンダの演説的な説得によって俺は彼女らがいた部屋から脱出することができた。

 何がどうなってそうなったのかは語りたくない。

 俺のライフは0どころかマイナスです。

 出てくる前に口を酸っぱくして俺のことを広めないようにお願いしておいたのは言うまでもない。

 あくまで口約束のお願いなので守られるかは怪しいところだけど。

 何もしないよりはマシだと思うことにした。


 さて、現在はアンノウンからほど近い通路上にいる。

 距離にして数百メートルといったところか。


「……なるほどね」


 ここまで来れば分かる。

 奴は精神干渉の能力持ちだ。

 魔法と言うよりはスキルや魔眼の類いだろう。

 奴に目はないけれど。


 とにかく先程から俺を誘惑しようとしているのがウザい。

 これに関する明確な情報がなかったのは情報提供者がすべて女性だったからだろうな。

 間接的な情報はあったけれど。

 男が寝ぼけたようになるだとか。

 その状態でアンノウンに近づこうとするとか。


 とにかく男にだけ精神干渉してくることは判明した。

 幻覚で理想の女を見せて誘い込むのがコイツの手口である。

 女性相手に理想の女もないだろう。

 一部の例外はあるとしても。

 アンノウンも魅了できない相手に特殊能力は使わなかったようだ。

 だから情報的強者たちは知らなかった。


 俺は男だから向こうは普通に能力を使ってきますよ。

 さっきから顔のないぼやけた女の幻影が俺の目の前でクネクネ踊っている。

 なんつーか、キモい。


 髪型もスタイルもハッキリしない。

 でも、何となく女性っぽい。

 かろうじて動きが女性っぽい感じがするからか。

 背が高いのか低いのかも曖昧。

 顔なんて凹凸すら感じられないのっぺらぼうだ。

 おかげで、ただただキモいとしか思えない。


 キモいが強力な催眠効果があるようだ。

 それにより精神に干渉して幻の女を相手の記憶にある理想の女に置き換えているみたい。

 俺には効果がないが、そういう精神攻撃なんだということだけはわかる。

 これ、結構エグいわ。

 向こうの押しつけじゃなくて己の中にある理想を引っ張り出されるんだからな。

 ニーズの違いなんて関係なくなる。

 特殊な事情のない男全般に有効な精神攻撃じゃないかよ。

 質が悪すぎるだろ。


 これに引っ掛からないのは女性に興味がないか嫌悪しているか。

 あるいは俺のように催眠の効果がない相手。

 幻覚も弾くことができるんだけど、それはしていない。

 アンノウンがどんな攻撃をするか見極めたくてね。

 うちの男性陣が引っ掛かるとシャレにならんし。

 だけど、この程度なら問題なさそうだ。

 これで奴の目一杯なら幻覚も催眠も通用しない。

 ただ、レベル60前後までの人間だと厳しいと思われる。

 向こうが全力を出したらどうなるかがまだ読めない。

 油断は禁物だ。


「さて、こんな所で突っ立ってても始まらんな」


 手始めに通路上の石を拾って投げつけてみた。

 どの程度の物理攻撃が無効なのかの検証である。


 初っ端は新幹線の最高速度を意識した。

 アンノウンに命中すると、少したわんで明後日の方向に弾かれる。

 表面のヌルヌルが効果を発揮しているんだろう。

 通路の壁に当たって石が割れた。


 2投目は拳銃弾ぐらい。

 たわむのは同じだったが、直後に石が破裂した。

 破片が凄い勢いで飛び散る。


 その辺に転がっている石じゃしょうがないか。

 もちろん向こうには傷ひとつない。

 プヨプヨしているといっても柔い訳じゃないってことか。

 柔軟性があって丈夫とかシャレにならんな。


 そして俺の攻撃がお気に召さなかったらしくて精神系の攻撃が倍加した。

 パワーアップじゃなくて倍加である。

 幻の女がダブルでクネクネ。


「……………」


 嫌悪感しか湧いてこない。

 耐性のある人間にとっては鬱陶しいだけだな。

 こっち系の攻撃に奥の手がないなら、うちの面子でも問題なさそう。

 これなら訓練組に対応させても大丈夫か。


 だが、まだ始めたばかりだ。

 向こうが本気になったら圧倒的な精神的負荷をかけてくることもないとは言えない。

 火事場の馬鹿力というか、窮鼠猫を噛むというか。


「……………」


 コイツの図体でネズミはないな。

 いや、くだらないことを考えてしまった。

 そんなことを考える余裕があるのは、奴が移動も反撃もしないからだ。

 出口へ通じる道を塞ぐのだけが目的なんだろうか。

 奴のテリトリーに入っていないから攻撃を控えているとも考えられる。

 魅了して近寄ってきたところを攻撃する。

 合理的だとは思うが食虫植物かよとツッコミを入れたくなった。

 あとグルメかもな。

 男しか取り込まないし。


 とにかく次の攻撃にかかる。

 氷弾で行くことにした。

 まずは壱式。

 それまでの投石とは速さも威力も違う。

 一瞬で着弾しズボッと突き刺さった。


「おおー」


 弾かれなかったのは良かったと思ったら……

 凹んだ部分がブニョンという弾力性を感じさせる動きで元に戻って氷が吐き出された。

 突き刺さったんじゃなくてめり込んだだけだったのか。


「どんだけ丈夫なんだよ」


 そして向こうが押し付けてくる幻影に変化があった。

 顔のない幻の女が痛がっている。

 表情はないがのたうち回っているので、そんな風に見える。

 痛かろうが知ったことではない。

 俺はSな性癖など持ち合わせていないが、敵と認定した相手のことなど気にしない。

 周囲の状況次第で社会的信用を考慮する必要があるなら話は別だが。

 こいつはコアはないけど魔物みたいなもんだし普通に抹殺である。

 男か女かは考慮しない。

 そもそも向こうが押し付けてきた幻だしな。


「それじゃあ弐式で行っちゃおう」


 数十発まとめて発射だ、ドン。

 複雑な軌道を描く氷弾たち。

 その回転をうちの子たちが使っていた術式の3倍に設定してみた。

 ちょっとしたドリルである。


 壱式で内部にダメージを与えられないんだから工夫はするさ。

 穴を開けることを優先したつもりだったが、結果は似たようなものだった。

 氷を吐き出して終わり。

 冷たいのには耐性ありと。

 それでも痛さは壱式より上だったみたいだな。


「うへあ……」


 お返しで幻の女が何倍にも増えた。

 全部合わせて数十名。

 こっちの氷弾も数を撃ち込んだからなんだろうけど。

 数しか増えないってどうよ。

 もっと強度を増してプレッシャーをかけてくるとかしないのかね。

 増えた分だけキモさは増したけど。

 勘弁してくれよ。


「にしても傷ひとつ付かないとはね」


 これじゃあ地魔法のグラウンドタスクで串刺しにしようとしても無駄だな。

 よくよく考えれば通路に合わせて形を変えられる相手だ。

 突き刺した状態を維持してもそれを避けるように変形するだけだろう。

 これではリンダたちが撤退するしかなかったのも無理はない。

 うちの面子でも攻めあぐねそうだ。

 冒険者たちが仲間を助けられなかったのを悔やんでいたけど、どうしようもない。

 物理攻撃に関しては火矢を使うとか工夫が必要になるだろうし。

 今度、高周波振動ブレードでも作ってみるか。

 アレなら、さすがに切れるだろう。

 一般に提供する訳にはいかないから意味なさそうだけど。


読んでくれてありがとう。

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