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353 生き残りはやはり女子だけ

 俺は地下1階で避難しているリンダたちと合流した。

 まあ、じきに単独行動に戻るんだけど。

 彼女らが隠れていた部屋に来たのは、もちろん目的があってのことだ。

 向こうは気付いていない。

 俺がどうやって彼女らの居場所を突き止めたのかを。

 こっちは律儀に2回もノックしたのにな。

 偶然、見つけたとでも思っているのだろうか。

 魔物がいるかもしれない部屋にノックして入ること自体が変だと思ってくれ。

 いや、思わなくていい。

 変な詮索をされると面倒だ。

 とにかく、まずはひとつ目の目的を終わらせよう。

 水属性の魔法を使っての治療。

 放置すると死にそうな重傷者がいたのでね。

 死にはしないまでも骨折してる冒険者もいるし。

 多少の怪我ならほぼ全員といったところだ。

 カムフラージュとか面倒くさいが適当に呪文を唱えて怪我人を治す。

 完全に呟き系のムニャムニャだ。

 側で聞いていても「なに言ってっか分かんねえ」だが、変な目で見られたりはしない。

 リンダたちは俺のことを知っている。

 重症の冒険者は俺が何かを始めても気にする余裕がない。

 軽傷の者は俺の方を見ているが基本的にボンヤリしている感じだ。

 重傷者を担いだりしてここまで逃げてきたのだろう。

 疲れ切って考える余裕がないと顔に書いている。

 そんな中でも心が折られてって雰囲気でないのは助かるね。

 でないと、せっかく魔法で治してもパニック起こして自殺とかされかねない。

 ……そこまで柔ではないか。

 命を張って日々ダンジョンに潜っている冒険者だからな。

 死も他の者たちよりは見慣れているだろうし。

 仲間が急にいなくなったことで落ち込みはしているようだが。

 それも治癒魔法の効果を目の当たりにすると、そちらの方が気になるらしい。


「うわっ、凄っ」


 自分の傷が塞がっていくのを驚きの目で見ている女冒険者。


「あるぇ? 痛みがなくなっていくよぉ!?」


 背中に大きな裂傷があった女冒険者がうつぶせに寝ていた状態から起き上がって騒いでいる。

 どうにか自分の背中を見たいようだ。

 が、止血のために着ていた服を上から押し付けている状態だったことを忘れているな。

 それを撥ね除けて立ったということは上は素っ裸なんだよ。

 恥じらいというものがないのかね。

 見たくないと言えば嘘になるけれど。

 それでもガン見していたら賢者は変態という噂が流れかねないのだよ。

 勘弁してくれ。

 行使している魔法を途中で止める訳にはいかんし……

 しょうがないので、なるたけ見ないようにして魔法を続行する。


「ねえねえ、どうなってるのぉ?」


 ええい、ピョンピョン跳びはねるんじゃない。

 そんなことをしたって背中は見えんぞ。

 特定部位の上下運動を周囲に披露するだけだ。

 煩悩退散煩悩退散、色即是空空即是色。

 魔法に集中。

 ……手抜き魔法に集中って何だそれ。


「傷が塞がっていってるからだよ」


 呆然とした様子で他の女冒険者が飛び跳ねている裂傷ちゃんに教えている。


「へ?」


 背中を見ようという仕草を止めてそちらを見る裂傷ちゃん。

 なんとも疲れるキャラクターだ。

 あれだけの怪我をしておいて痛みを感じなくなったらヤバいと思わないのだろうか。

 俺が神経伝達をブロックさせてるからなんだけど。

 あと止血もしてるし治している最中なんだから暴れるのも勘弁してくれ。


「気持ち悪いくらいの速さで治ってるんだよ」


 青ざめた顔色で塞がっていくことを指摘したお姉ちゃんが別の言葉で説明し直している。

 どうやら非常識なレベルで治癒魔法を使ってしまったようだ。

 これでも控えめにしたつもりなんだがな。


「ホントに?」


 裂傷ちゃんが目を丸くして聞いている。


「嘘ついてどうすんだよ。

 この目で見ているアタシが信じられないっての」


 呆れたように溜め息をつく女冒険者。

 ハハハ、ぜんぜん控えめじゃなかったようです。


「教会の司祭だって、もっと時間がかかるような酷い怪我だったんだぞ」


 あーあー、聞こえない聞こえないー。


「え─────っ!?」


 裂傷ちゃんも目を見開いて驚いている。

 とりあえず前を隠せ。

 放っておいたら死ぬだろうからちょっと治療する気になっただけだ。

 どうしてこうなった。

 色々と思うところはある。

 が、真っ先に思ったのは「ここも女子会会場かよっ!」である。

 もちろん声には出さなかったが何を狙っているのかと言いたくなるくらい男がいない。

 ここまでくれば、もう偶然とは言えないだろう。

 今回の一件の謎を解く鍵になったりはしないと思うが。

 後で調べた方がいいかもしれないが、ルディア様にメールで報告して終了だ。

 正直、関わりたくないからね。

 うちの子たちを危険にさらすかもしれないことに首なんて突っ込めないっての。


「あ……」


 今度は別の怪我人が自分の腕を目の前まで持ってきて不思議そうに見ていた。

 言うまでもなく、この冒険者も女子である。


「腕が痛くない」


 骨折してた女の子だね。


「もしかして治ったとか!?」


 その通りですな。


「まさか!?」


 信じがたいのだろうけど現実だよ。


「そっちの酷い怪我だった子が治ってるって騒いでるんだよ。

 同時に骨折してたアンタまで治るとか普通あり得ないでしょうが!」


「でも、痛くない」


 骨折ちゃんがアピールするように腕を振る。


「どうなってんのよ!?」


 キレられても困るな。


「私に言わないで」


 俺にも言わないでくれ。


「骨折してたんだよ!

 こんな短時間で治るって異常でしょうが!」


 気持ちは分からなくもない。

 俺だって日本人だった頃は夢にも思わなかったさ。


「治癒魔法って1人ずつしかできないんじゃなかったの?」


「でも、アタシの怪我なんてもう跡形もない」


「自分も」


「てことは範囲魔法ってやつ!?」


「えっ、光魔法じゃないよね」


 水属性の範囲魔法くらい普通でしょうが。

 治癒魔法は普通じゃないかもだけど。


「だって神官様じゃないよ、あの人」


「賢者様って呼ばれてた」


 若い女子が騒ぎ始めると長らく選択ぼっちだった俺にはどうしようもない。

 いや、リア充でも口を挟む余地など1ミリもないだろう。

 助けを求める訳ではないがリンダたちの方を見てしまった。

 なんとも言い難い苦笑いで返される。

 女子でもどうしようもないらしい。

 しばらくは諦めるしかないってことだ。

 怪我が治って痛みが引いていくほどに元気が加算されていくから簡単には静まらない。

 面倒くさいことになりそうだなぁ。

 今回も自重したつもりなのに全然できていなかった訳だ。

 無詠唱じゃないように見せかけて、一瞬で終わらんよう威力調節も慎重にしたんだぞ。

 それで騒がれるとか予想外すぎるわ。

 無駄な努力だった訳である。

 今度から自重するの止めようかな。

 いずれにせよ外に出てから騒がれるのは回避しないとな。

 賢者だと認識されてしまったので変な噂が立たないよう後で釘を刺しておこう。

 人の口に戸は立てられぬとは言うけれど。

 何もしないよりはマシだろう。

 とにかく目的をひとつ完遂である。

 終了と同時に服は用意させた。

 誰か気付けよ。

 俺の方が恥ずかしかったわ。

 そんなことを気にする間もなく、やたらと感謝されてしまったが。

 どういう神経をしているんだか理解に苦しむところだ。

 とにかく適当に切り上げさせた。

 治癒だけが目的じゃなかったからね。

 そういう意味では騒がれている時と違って頼むと大人しくなってくれたのは有り難い。

 リンダたちが仕切ってくれたというのが大きいと思う。

 どうやら、冒険者たちを色々と助けながらここまで撤退してきたようだ。

 そのおかげで言うことを聞いてもらえているようで。

 有り難いことだね。

 俺の目的のふたつ目もスムーズに進められそうだ。


「すまないな。

 俺もさっさと帰って飯食って寝たいんだ」


 場を和ませようと言ってみたんだが冒険者たちがお通夜のように落ち込んでしまった。

 予想に反した反応に俺も戸惑いが隠せない。

 仲間の死を思い出したからかな。

 デリカシーがなさ過ぎたか。


「……どうしたんだ?」


 恐る恐るリンダに聞いてみた。


「出口へ通じる唯一の道が塞がれているのです。

 巨大なスライムかとも思ったのですが」


 間違いなくアンノウンだな。


「武器も魔法も通じず……」


 悔しそうに歯噛みしている。


「そういうのがいるのは知ってる。

 俺はその話を聞きに来たんだよな」


「「「「「えっ!?」」」」」


 一斉に視線が集まった。


「賢者様はアレを御覧になったのですか!?」


「ああ、ちょっとだけな。

 離れた状態で観察してきた」


 どれくらい離れていたかは言う必要もないだろう。

 言っても信じる訳がない。

 地下の10階層からなんてな。


「よく御無事で……」


 リンダが半ば呆然としながら、その言葉をようやく絞り出していた。

 他の面子がそろって「うんうん」と頷いている。


「そんなにヤバいのか?」


 その一言はまさに着火剤のごとくであった。


「ヤバいなんてもんじゃないっすよ」


「キモいもんね」


「まともじゃない」


「二度と見たくないわ」


「あれは狂ってる」


「同感」


 具体性に欠ける意見が一気に噴出してきた。

 以後は静かになるまでスルーして聞き流しである。

 ログを整理して必要な情報だけを抽出することにした。

 横から口を挟むと被弾するのが目に見えている。

 いかにステータスが高かろうが関係ない。

 俺には彼女らの会話の中に入っていけるほどの話術はないからな。

 十数分後、ようやく彼女らの会話が下火になった。

 その間になされた会話の1割未満から得られた情報が次の通りである。

 アンノウンに近づくと男は寝ぼけたようになる。

 その状態になると自らアンノウンに近づこうとする。

 戦意など欠片も感じられず呼びかけても無反応。

 強引に連れ戻そうとしても止められない。

 一定距離に近づくとアンノウンが触手を伸ばして男だけを捕まえようとする。

 触手は本体を変形させたものなので切ることも叩き潰すこともできない。

 武器や魔法で攻撃した時だけ反撃を受ける。

 攻撃ではなく男に巻き付いた触手を外そうとした時は攻撃されない。

 触手の力は強く、しかもヌルヌルプヨプヨしていて人の力で外せるものではない。

 たいまつの火は気休め程度には効果があったが反撃も強くなった。

 捕まった男は本体に取り込まれて瞬時に消えてしまった。

 男が取り込まれるとアンノウンが大きくなった。

 たまに取り込まなくても異様に膨らむことがあった。


「洒落んなってねえ」


 全員にしみじみと頷かれる。

 まあ、皆は俺と違うことを考えているだろうけど。

 俺が深刻だと思ったのはアンノウンがヌルヌルのプヨプヨだってこと。

 当然のことながら触手もそんな感じである。

 声を大にして言いたい。

 男で触手プレイとか誰得だ、とな。

 気持ち悪いにも程があるっての。

 下手に近づかなくて正解だった訳だ。

 そして実に憂鬱である。

 アレの相手をせにゃならんのだから。


読んでくれてありがとう。

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