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344 緩い空気で移動中

 スタートラインに立ったなら後は前に進むだけだ。

 進むだけだが「よーいドン」くらいは必要か。


「月影とツバキは先行。

 道順はスマホでマップ情報を送る」


 手ぶらで使えるスマホは本当に便利だ。

 作って良かった。

 そのうち脳内スマホとも電話とか通じるようにしたいね。


「訓練組は間を空けて続け」


 ナビ情報が網膜投影された。

 だがしかし、籠城している冒険者たちの所への最短コースにはならない。

 その場所に魔物が山ほど待機しているが、他でも徘徊しているからね。

 こいつらもすべて潰す。

 後になって避難誘導中に追ってこられちゃ面倒だ。

 手間は少ない方がいい。

 そんな訳で先に数の少ない方を片付けて最後に待機している奴らを殲滅する道順にした。


「作戦行動、開始せよ」


 指示した一同がダッシュ。

 俺の言葉が終わる前から動き始めていたのは、どうかと思うがね。

 もし「開始するな」とか言ってたら止まっただろうか。

 微妙な気がする。

 まあ、どうでもいいことだな。

 残された面子は俺を含めてそのくらいノンビリさんな訳だ。

 殿なのにね。

 普通なら緊迫感が漂っていそうなものだけど。

 そんな雰囲気が一切感じられない。

 各階の状況を共有できるようスマホに情報を落とし込んでいるからかな。

 誰かが襲われたとかで状況に変化があれば違ってくるか。

 緊張感も高まったりするんだと思う。

 とりあえず地下10階層までの情報はリアルタイムで監視中。

 何も動きがない。

 いや、この表現は語弊があるか。

 どのフロアでも巡回っぽい動きをしている小集団が存在するからな。

 これは集まり方と数を別にすれば、通常でもあり得る行動だ。

 けれども冒険者たちが籠城している部屋の前では待機しているし。

 待機している魔物たちは動きがないと言えるかな。

 この待機ってのが理解不能だ。

 冒険者が部屋に入った直後にドアを閉められて待機するか、普通?

 入る所を見ていなかったとかならスルーでもしょうがないとは思うけど。

 そもそもスルーするなら部屋の前でたむろして待機するはずもない。

 奴らがいくら脳筋でバカでも部屋に冒険者がいると理解しているのは間違いないからな。

 なのに動かない?

 脳筋だからこそ、人を見たら条件反射的に襲ってくるんだ。

 おそらくは籠城している冒険者が扉から顔を覗かせただけで反応するとは思う。

 頼むから、そういう無謀な真似だけはしないでくれよ。

 あとはリポップの動きがないかどうか。

 もっとも観察しやすいのが俺たちが居た10層だ。

 魔物はすべて排除してあるからな。

 これは有り難い情報だ。

 湧けばすぐに分かる。

 階段で他のフロアに移動もないではないだろうが、湧いた時と違うので区別しやすい。

 いずれにせよ、わずかな時間でリポップされたんじゃ面倒極まりないんだよ。

 そうなったら月影の面子を後方に回さざるを得なくなるからな。

 殿である俺たちは基本的に手を出すつもりがないのでね。

 そりゃあ一行の中でレベルの高い俺たちが前に出た方が手っ取り早く片付きはする。

 特に俺が殲滅行動に回ったら1フロアが数分で終わってしまう。

 避難誘導の方が時間がかかるだろう。

 正直、早く帰って休みたい気分だが29層より上のフロアは逼迫した状況にない。

 ならば可能な限り育てる方針でいく。

 訓練組だと今日のダンジョンアタックで疲労が蓄積しているからな。

 少しは休むタイミングがないと思わぬミスを誘発しかねない。

 でも純粋に休める訳じゃないようにもした。

 まあ、移動しながら新しい魔法を覚える程度のことは問題ないはずだ。

 ダンジョンに潜る前のステータスなら厳しかっただろうけど。


「それじゃあ俺たちも行くか」


「あるじー、ここどうするの?」


 幼女マリカが指し示したのは下の階層へと繋がる階段の入り口だ。

 階下に侵入するバカが出ないとも限らない。

 そんなことを懸念しているのだろう。

 正しい認識だ。

 こういう状況下でありながら己の利益を優先して行動するバカはいるからな。

 正直、そんな連中がどうなろうと知ったことではないんだが。

 逆にそういう利己的なケースでないパターンも考えられる。

 パニックを起こして逃げ回った挙げ句、ここに到達するなんてこともないとは言えないのだ。

 確率的には微少レベルだとは思うが。

 ゼロじゃないなら対応しておくか。

 こんなので事故でもあったら寝覚めも悪くなりそうだし。

 自業自得なバカに関してはどうとも思わんけど。

 思わず溜め息が漏れ出てしまった。


「やっぱり保険は必要だよなぁ」


 言いながらフィンガースナップで地魔法を使う。

 階段前には巨大な岩が出現していた。

 人力では動かせないレベルの大きさである。

 こうやって階段口を塞いでおけば普通は諦めるだろう。

 パニクってる連中なら他の道を探してくれると信じたい。

 欲に目の眩んだバカどもなら階下に執着する可能性があるけど。

 まあ、一安心としておこう。

 ここをスタート地点に選んだのも階段を塞ぐのが目的だったから予定通りではある。

 ちなみに岩は日付が変わると消滅するように術式をセットしておいた。

 明日以降なら30層以下も安全にはなっているだろうからね。

 もし、危険な状況が続くのだとしても、そこまで責任を持つつもりはない。

 こんな場所に日付が変わるまで居残るつもりはないからな。

 つまり、誘導できた冒険者たちも本日中にダンジョンから脱出できている訳だ。

 俺の想定では地上に戻るのは晩飯の時間に間に合うかどうかくらいである。

 多少は時間がずれ込んだとしても日付が変わるくらいまで遅らせるつもりはない。

 俺たちが責任を問われる事態にはならないってことだな。

 それでも煩いことを言い出す奴は適当にあしらおう。

 くいくいとズボンを引っ張られた。

 マリカだ。


「どした?」


「ねー、いかないの?」


 首を傾げて不思議そうに聞いてくる。


「おう、行こう行こう」


 些か考え事に埋没しすぎてしまったようだ。

 ミズキとマイカに呆れた視線を向けられてしまった。

 ああ、この2人は俺のクセとかもよく知ってるからなぁ。

 俺が考え込んでしまっていたことは完全に気付かれている。


「……………」


 何か気恥ずかしいものがあるな。

 あと、久しぶりすぎて懐かしい感じもする。

 【ポーカーフェイス】スキルで誤魔化しつつスルーだ。

 たぶん、こういう行動パターンも把握されてるだろうけど。

 照れ隠しにマリカの頭をわしゃわしゃっと撫でて前に進む。

 ダッシュはしない。

 戦端は既に開かれているからな。


「ハルくん、始まったみたいよ」


 ミズキも気付いたようだ。

 幻影魔法を使って歩きながら見学することにした。


「うわっ、覗き魔だ」


 マイカは本当に失礼だ。

 エロ目的なんかで使ったことないっての。


「あのな……」


「その発想はマイカちゃんの専売特許じゃない」


「ぐはっ、カウンターくらった」


 俺が反論するよりミズキが先にやり返していた。

 マイカがガクッと崩れる。

 ポーズだけなので、すぐに復帰してくるけどな。

 毎度のことなのでツッコミもなしだ。


「マイカ、おもしろーい」


 幼女には受けているようだ。

 パチパチと手を叩いている。


「あら、そう?」


 まんざらでもない感じでマイカが立ち直っている。

 調子づかせる元になるので俺とミズキはスルーした。


「戦闘、終わっちゃったね」


「数が少なかったからな」


 後ろでマイカが「ねえ」とか呼びかけてくるが気付かぬ振りをする。


「このフロアの本命はもっと多いからな。

 氷弾壱式の斉射では終わらんだろう」


 またしてもマイカが「ちょっと」と呼びかける。

 もちろん振り向いたりはしない。


「あの魔法って命中したらブレーキをかけてるの?」


「いいや、そんな面倒なことしないよ。

 当たれば凍るから、それで自然と減速する」


「なるほどねぇ」


 コクコクと頷くミズキ。

 見ようによっては態とらしく見えるかもな。


「無視すんなぁ!」


「はいはい、何ですか?」


 唇を尖らせて不服そうにしているマイカに対して、あしらう感じで返事をした。


「うー、この感じだよ。

 大学時代の懐かしい空気だ」


 ニヘラっと笑う。

 ころころと機嫌の変わる奴だ。


「懐かしむのは帰ってからにしろ」


「へーい」


 こんなやり取りをしている間にノエルたちは次へと向かう。


「俺らはこっちへ向かうか」


「籠城している冒険者たちのいる方へ行くのね」


 ミズキが聞いてきた。

 スマホのマップ情報を確認したか。


「主よ、これでは先回りすることにならぬか?」


 シヅカも確認したみたいだな。

 目だけで「戦わぬのだろう?」と聞いてくる。


「俺たちはゆっくり歩いて行くからな。

 ノエルたちのペースなら他の集団を始末しても先に到着するだろう」


「あ、2戦目が始まった」


 マイカが幻影魔法による生中継に反応する。


「おわったよー」


 マリカが終了を告げる。

 呆気ない幕切れというやつだ。

 魔物の頭数が少ないからな。

 初戦と同じく十数体ほどしかいないからな。

 氷弾壱式で方がつく。


「はー、ヘッドショット完璧に決めてますなー。

 仕留めてから格納までの間も隙がないっていうか……」


 マイカは呆れたと言わんばかりである。

 初めて見るならそんなものだろう。

 初戦は訓練組に配慮して意図的にゆっくりやっていた節があるからな。

 魔物を仕留める、生死の確認、倉庫へ回収。

 この手順を3桁レベルのステータスで無駄なく行った結果、マイカが目を丸くすると。

 驚いてるけど、それ君もできるんだよ。

 しかも何回か練習したら古参組より素早くできるレベルでしょうが。

 まあ、現代日本人の常識が残っているとこんなものなのかもだけど。

 訓練組も戸惑っている部分は無きにしも非ずか。

 そのあたりは訓練組と古参組の差だな。

 ガンフォールやエリスも熟練者ではあるが、所詮は2桁中盤レベルまでの話だ。

 今までの経験や常識は役に立たない。

 3桁レベルでの経験は古参組が上だしな。


「それくらいは普通ってことだ」


「でもさぁ、皆で狙って1体につき1発ずつってあり得なくない?」


 なかなか鋭い観察眼だな。


「言われてみれば……

 重複してないね」


 マイカの指摘にミズキもすぐに気が付いたようだ。


「スマホのアプリを使ってるからな」


「なによ、それ!?」


「照準統合システムだよ」


「それってスマホが魔法攻撃の照準をしてるってこと?」


 驚きつつもミズキが聞いてきた。

 こんな言い方をするってことはロボットアニメあたりで想像してるな。

 そんな自動で何でもかんでもやってくれる代物ではないぞ。


読んでくれてありがとう。

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