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340 こんなときに電話です

修正しました。

ミズキちゃんは → マイカちゃんは


 地下29階層に来た。

 30層でないのは行ってはいけないと、止められたからだ。

 誰にって?

 ルディア様だ。

 あれはこれから30層に転送しようと皆に声を掛けようとした時だった。

 脳内スマホのコール音が鳴ったんだよね。

 相手はもちろんルディア様だ。


「あ、悪い。ちょっと待ってくれ」


 そう言いながら脳内スマホの電話に出た。

 同時に【多重思考】で皆とも対応する。


「ツバキ、ルディア様から連絡があった。

 スマホにおおよその内容をテキストで送るから皆に説明を頼む」


 全員のスマホにテキストを送ることもできたんだけど、それはしなかった。

 ルディア様のことを知らない面子もいるからな。

 プラム姉妹やミズキとマイカだ。


「心得た」


 ツバキの了承を得た時点で話はかなり進んでいた。

 故に作成済みのテキストデータを送信していく。


『もしもし、どうしたんですか』


 ツバキに話し掛けたタイミングでルディア様にも話し掛けていた。

 脳内スマホだからできる芸当だ。

 体がひとつの俺には同時に喋るなんて芸当は……

 風属性の魔法を用いればできそうだな。

 わざわざそんな真似はしないけど。


『そのダンジョンの30層から下に行ってはならぬ』


 挨拶もなくいきなりだ。

 単刀直入すぎる。


『よいか、絶対に行ってはならぬぞ!』


 かなり慌てていないか?

 声の調子からも焦りを感じてしまった。

 何かヤバいらしい。

 行くと何か妙な影響を受けるのだろうか。

 俺はともかく、皆が一緒だと充分に考えられる話だ。


『それは俺が単独行動でもですか?』


『誰であろうとだ』


 俺が聞き終わるかどうかのタイミングで即答されてしまった。

 相当だな、これ。

 素直に従っておいた方が良さそうだ。


『はあ、わかりました』


 なら俺がここから魔法を遠隔処理して撃ち込むか。

 メタルワイヤーは……ダメだな。

 接触があると行ったことになってしまうだろうし。

 ならば溶岩流を発生させるラーヴァフロウの魔法を倉の中で実行して転送するとか。

 フロア全体に送れば生き残れるのは溶岩流の中でも平気な奴らだけだろう。

 深層へ下りる前に確認した時にはそんなのいなかったはずだ。

 厄介なのは再生するタイプの魔物だろう。

 そう、トロールだ。

 それもラーヴァフロウの魔法が解決してくれるけどな。

 あいつらには火でダメージを受けると再生できないという弱点があるのでね。

 ラーヴァフロウは溶岩流、すなわち火と地の属性が混じった魔法だ。

 大量に送り込めばトロールといえどひとたまりもない。

 これなら行けそうだ。


『では行かずに処理します』


『それもならぬ』


『えっ!?』


『とにかく30層以下には直接間接を問わずかかわることを禁ずる』


 何が何でも手出し無用ってことらしい。

 この調子だと、探りを入れるのもダメっぽい。

 なんか思ってた以上にヤバそうだぞ。

 てことは……


『もしかして俺たち帰ってくるタイミングを間違えていたらヤバかったですか?』


 そこが気になるところだ。

 先程チェックしたときは56層以下は平常時と変わらなかったんだが。


『……そうだな』


 なんだろう、微妙な間があったな。

 犠牲者が出ていた恐れもあるのかもしれない。

 シャレにならん。


『マジですか』


『マジだ』


 なんか大事になってきたぞ。

 身内に犠牲者が出るなど考えたくもない。

 誰も失いたくないんだよ。

 俺の大事な家族だからな。

 事故? 敵? 冗談じゃない。


『はあ……』


 考えが会話からそれてしまったせいで生返事になってしまった。

 いかんいかん、気を引き締めないと。

 何が発生しているかはサッパリだが恐ろしくヤバそうだしな。


『なんだかよく分かりませんが関わらないようにします』


『うむ、そうしてくれ』


 指示には従うが懸念事項もある。


『ですが溢れかえるくらい増えた魔物が上の階層に上がって来ないでしょうか』


 普通は魔物の行動範囲も迷宮核で制御されている。

 だが、今回は異常事態だ。

 それを考えるとイレギュラーが発生しても何ら不思議はないはず。


『ハルトの懸念はもっともだ。

 だが、そのことについては心配いらん。

 30層以下の処理はこちらでしておく』


 それなら安心できるな。


『ハルトたちは29層より上におる者の避難誘導を頼む』


『了解しました。

 ところで今回の一件が発生した理由は聞かない方が良いのでしょうか』


 何か予感めいたものがあったので確認してみたんだけど。


『今は難しいな。

 実は私も詳細を知らぬのだ』


『……………』


 これ、アカンやつや。

 下っ端の仙人クラスならともかく、これはマズいでしょうよ。

 ルディア様が知らされていないことがあるってどうなのさ。

 このルベルスの世界でナンバー2が情報を秘匿されているとか……

 どう考えても危険度がレッドゾーン突入だ。

 ふと、気付いたことがあったので聞いてみることにした。


『もしかしてベリルママも詳細を知らないってことですか』


 返事がない。

 この場合、それは肯定と同義であろう。

 ますますヤバい。

 世界を管理する管理神が自分の世界のことで知らないことがあるってシャレにもならん。


『かなり、きな臭い話のようですが』


 下手をすると世界の存続に関わるようなことになっても不思議ではない。


『案ずるな。

 世界が滅ぶようなことにはならん』


 滅ばない程度のことは発生する可能性があるということですね、分かります。

 分かりたくないけどさ。


『それ、相当ヤバいと言っているのと同じだと思うのですが』


『そうか?

 そうなのか……』


 こんなタイミングでボケますか?

 いや、本人は至って大真面目なんだろうけど。


『エリザエルス様はプロに任せておけば概ね大丈夫と仰っていたのだが』


 ちょっと、もしもし?

 誰がですって?

 しかも絶対に大丈夫やのうて概ねですがな。

 思わず関西弁になってしまうくらい刃……じゃなくてヤバい。

 ダメだ。

 何が発生しているのかも分からないのに動揺しまくっている。

 冷静になろう。


『……………』


 ここまで判断材料が出てしまえば間違いないだろうな。

 どう考えても大森林の異変がらみだ。

 俺たちが手を出せないような事象といえば、それくらいだもんな。

 絶対そうだと言い切れる根拠はないけど。

 それでもこれだという確信がある。

 好きで確信した訳じゃないけど。

 あ、ダメだ。

 まだ動揺している。


『ハルトよ、大丈夫か』


 俺が急に黙り込んだことでルディア様に心配されたのはいただけない。

 いかんな。

 けれど、そう簡単に落ち着けるような話でもないぞ。


『あんまり大丈夫じゃないです。

 正直なところ不安しかないような心境です』


『そうなのか?

 エリザエルス様はハルトならば泰然自若で受け止めるだろうと仰っていたのだが』


 買い被りもいいところだ。

 それとも間接的にからかわれたってことか。

 充分に考えられる。

 あの人は本当にもう!


『そんな訳ないじゃないですか。

 これ絶対、大森林の異変がらみですよ。

 神の欠片の処理に向かってる専門家がいるはずなのにこんなことになってるし』


『ちょっと待て』


『なんですか?』


『どうして大森林の異変がらみだと思うのだ?』


『どちらも絶対に行くなと言われているからですが、何か変でしたか?』


 あ、またしても返事がない。

 地雷を踏み抜いちゃったかなぁ。

 どうしたもんかなと考え込んでいると──


「ねえ、ハル。どうしたのよ?」


 マイカが顔を覗き込んできた。

 ルディア様と電話中なのは理解しているはずだ。

 この状況で割り込んでくるとは……


「かなり怖い顔になってるわよ。

 皆が怯えちゃうじゃない」


 3人で連んでいた時のムードメーカーは引退していないようだ。

 空気を読んで即座に動いてくれる。

 正直なところ有り難いね。

 ただ、あまりに顔が近いので押し退けておいた。

 真面目なのか不真面目なのか読めない奴だ。


「あー、残念。

 せっかくチューするチャンスだと思ったのにぃ」


 押し退けられてブリブリ文句を言い出すマイカ。

 さりげなく不謹慎なことを言ってますよ。

 プライベートな時間であれば別に気にもしないんだが。

 チューくらい幾らでも……ゴホン!

 と、とにかく真面目な話の最中にそれはNGだ。

 これ以上からまれると電話に集中できなくなる。

 封じ込めを依頼するとしよう。


「ミズキ、ちょっと黙らせてくれるか」


「うん、わかった。

 ハルくんのお仕事を邪魔するマイカちゃんはお仕置きだね」


 笑顔なのに目が笑っていない。

 こういうときのミズキは恐ろしいね。

 ヤンデレ成分が入ってるんじゃないのかって思ってしまう。


「おいおい、お仕置きするほどじゃないよ。

 とりあえず真面目な話の最中だからアホなことだけしないようにしてくれたら」


「大丈夫だよ。

 さっきの罰分を今ここで使うから」


 後先考えずにオークを血塗れ肉片まみれにしたときのやつか。


「それなら、まあいいか」


「えっ!?」


 マイカがたじろいでいる。


「程々にな」


 ちょっと可哀相なので手加減も要請しておく。


「大丈夫、大丈夫」


 怪しい笑みを浮かべてマイカに迫っていくミズキ。


「抜け駆けしてハルくんにチューしようとしたわね」


 完全に俺の依頼を出しにしているよな。

 ただ、この場合に不利なのはマイカの方だ。


「ちょっ」


 不用意な一言でミズキの逆鱗に触れたことに焦りを見せるマイカ。

 2人同時なら、こんなことにはならなかったのだろう。

 あるいは事前に断りを入れてあれば違ったはず。


「しかも不意打ちで」


「いや、あれはついって言うか……」


 ドツボにハマってるな。

 そんなこと言ったら、余計にダメだ。


「つい?」


 ほら、ミズキの笑みの怪しさが一段と増したじゃないか。

 笑みが増したのに目が笑ってないんですが?

 すんげえ怖いんですけど?


「ひいいいぃぃぃぃぃっ」


 精神的重圧に耐えられなくなったマイカが悲鳴を上げていた。

 こっちが悲鳴を上げたいよ。

 勘弁してくれ。


読んでくれてありがとう。

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