331 トロールのあまり参考にならない狩り方
本当に作業だ。
スパッと切り落とされた後のトロールの首を見てそう思った。
風属性の魔法エアスラッシュを地面スレスレで放つだけでこの結果である。
いま同行している新規国民組の魔法制御力でも余裕をもって対処できるのだから。
まあ、でも昨日のレベルアップは大きかったということか。
基本ステータスが上がったお陰で魔法講座でもそんなに苦労しなかったし。
トロールの首から噴き出す血飛沫を凍らせたレオーネの見事さに感心していたけど。
エアスラッシュの勢いがあるから首が切り飛ばされてゴロゴロ転がっていくのも合理的だなと思ったり。
この時点でトロールは詰みだからな。
首が胴体の上に乗っかったままなら傷口が塞がって再生するんだけどね。
完全に胴体から離れてしまうと身動きが取れなくて終わり。
頭部で血が巡らなくなれば不死身と恐れられた魔物であろうと為す術はない。
再生することもできずトロールは死んじゃうという訳だ。
これが胴体の両断なら腕が使えるから自分で繋げ合わせて再生なんて真似をしてくる。
そう考えると首チョンパは実に呆気なく終わるものだ。
やったのはボルトなんだけどね。
ジャンケンで勝った順番なのに初めは緊張していたみたいだ。
魔法を実戦で初めて使うというのも、そういう部分に繋がるのか。
しかもトップバッターである。
終わって初めてホッと一息ついていた。
奥で8体ほど埋めているはずなので後で順番が回ってくるんだけどな。
それでも、とりあえずは終わらせたという安堵があるのだろう。
今回はそれで良しとするか。
あまりあれこれ注文をつけても混乱するだけだ。
俺はそう思っていたのだが、気を許す隙を与えまいとするかのようにベリーが話し掛けていた。
「ねえ、どんな感じだった?」
2番手だからトップバッターの感触という情報が欲しいのだろう。
話し掛けられたボルトは「えっ、あっ、うん」とかしどろもどろになっている。
おいおい、しっかりしてくれ。
お前さんの方が年上じゃないかよ。
女子に免疫がなさ過ぎだな。
意外な弱点を発見だ。
まあ、その辺の修行はとりあえず自分で頑張ってくれ。
「あれの堅さはどんなものなの?」
ベリーの方は情報収集に気を取られてボルトの反応など意に介していない。
若干年下ということは気にしていないな。
同期感覚なんだろう。
「丸太とか石材と比べてどう思う?」
矢継ぎ早に質問されているために、ボルトの方はなかなか喋ることができない。
ベリーさんや、威力調整に必死になるのは分かるよ。
召喚トラップに対応するために魔力を温存したいのも分かる。
だが、それでギリギリを狙いすぎると失敗する元だ。
西方の一般的な魔導師と違って連射は可能になったとはいえね。
咄嗟の威力調整がどこまでできるかは未知数だ。
データがないし、あったとしても急成長が見込める現状では参考にならない。
そういう発展途上の状態だからこそ、つまらないミスも充分に考えられる。
その結果、魔力を無駄に消費してしまうこともあるだろう。
「あんまり絞り込みすぎるなよ」
だから俺の方から注意しておくことにした。
「魔物にだって個体差があるからな。
ある程度の余裕を持って対処しないとミスるぞ」
「あっ、はいっ」
素直に引き下がってくれた。
ボルトが小さくホッと息をついたことには気付いていないようだな。
他の何人かには気付かれているようだが。
プラム姉妹に気付かれなきゃいいだろ。
「じゃあ行きます」
切り替えが早いね。
言うが早いか、しゃがんで右手を前に突き出している。
情報が得られなかったことで少し考え込むかと思ったけど。
後が支えているしベリーも自分のことだけを考えている訳ではない。
視覚情報である程度は調整していたというのもあるだろう。
エアスラッシュはすぐに放たれた。
次の瞬間にはあっさりと切り飛ばされたトロールの首が宙を舞う。
今度は首から吹き出す血も短い状態で凍っている。
レオーネが2回目で修正してきたな。
この調子なら、もう少し高度な制御でも大丈夫だろ。
レオーネだけじゃない。
ベリーも術式の制御するスピードが昨晩より速くなっている。
ただし低い目標を狙うためにしゃがむのは減点要素だ。
イメージの構築に不安があるのだろうがな。
ボルトはちゃんとできてたぞ。
「次はしゃがまずに仕留めろ。
威力はあれくらいでいい」
「はい!」
いい返事だ。
次は指示通りにやってくれるだろう。
本当に急成長しているな。
「次、行きます」
3番目はマリアか。
「あ、残りはまとめてでいい。
レオーネ、同時制御できるだろ」
「はい、できます」
躊躇いなく答える。
自信過剰な者に特有の鼻についた感じはしない。
淡々と己にできることだけを見極めているな。
「そういうことだから、一気に行こう」
「よおーしっ!」
「行きます」
やけに気合いの入っているハマー。
腕まくりまでしてやんの。
それ、必要か?
そして落ち着いた言葉とは裏腹に目がギラついているアンネ。
マリアと違ってどちらも気合いが入りすぎだ。
「そこまで気合いを入れなきゃならん状況か?」
意味が分からないとまでは言わないが、少々熱が入りすぎだ。
ミスの元である。
「トロール相手に余裕があるというのも変だと思うがな」
そう返してきたのはハマーだ。
どうも自分の成長を理解できていないようだな。
「弱点さえ知っていれば今の皆なら雑魚だぞ」
あちこちから視線が刺さってくる。
いわゆるジト目というやつだ。
新規国民組ばかりか。
ガンフォールやエリスは外れているが。
「そんなに変なこと言ったか?」
ノエルに聞いてみる。
フルフルと首を振って否定された。
ちょっと安心。
「西方人の常識では雑魚ではなく驚異」
それは、まあ分かる。
「うちの基準では、ちょっと強めの雑魚でしかない」
ゴブリンとかを基準にすれば、そんなものか。
月影の一同がコクコクと頷いている。
あー、変われば変わるものだね。
うちに来た頃の彼女たちなら、ハマーのようなことを言っていただろうし。
ということは、彼らもそのうち染まるということだ。
深く気にするほどのことではないな。
「「「「「……………」」」」」
新規国民組はノエルの言葉に絶句状態ではあるけれど。
比較的、平気そうなのはジト目になってなかったガンフォールとエリスか。
さすがのクリスも世間で恐れられている魔物を雑魚呼ばわりする感覚は信じがたいようだな。
どうにか慣れてもらうしかないんだけど。
「そういうことだから慣れてくれ」
慣れろと言われてもなぁという目で見てくるハマー。
ボルトは諦め気味の表情である。
5分で慣れろとか無茶は言ってないぞ。
「今は動かない的だ。
慣れるには丁度いいだろ」
そう言うと女性陣は、それもそうかという雰囲気になった。
ハマー、ボルト、しっかりしないと尻に敷かれるぞ。
「何かあってもフォローするから昨日の対応と同じで頼むわ」
そう言うと、さすがに腹はくくったような顔になってくれたけど。
「昨日もここに来たの?」
話が終わったと思ったらマイカが質問してきた。
「いいや、昨日は仕事してたぞ。
ここのダンジョンに潜るのは初めてだ」
マイカの方を見ると詳しく話せと目で語っている。
ミズキも興味があるようだ。
ちょっと待ってくれ。
順番というものがあるのだよ。
手で制しながらハマーとアンネに声を掛けた。
「気合いを入れるのは結構だけど、威力を込めすぎないようにな」
さっきはこれが言いたかったのだ。
「うっ、わかった」
「……はい」
あの返事だと、俺が注意してなかったらやり過ぎてたな。
程良いブレーキになったようだ。
「気を付けます」
マリアも返事をしてきたのは御愛嬌、かな。
そんな訳で残りの3体を始末している間に妻たちに説明タイム。
「──という訳だ」
「あー、ズルいズルい。
私もやっつけたかったー」
マイカが駄々をこねる。
どこがだよと聞いてもマイカも答えられないだろうに。
無茶を言ってくれる。
ミズキは、また始まったという顔をしている。
ダブルで駄々をこねられないのは助かる。
「無茶振りだよ、マイカちゃん」
そうだそうだ。
「私達が日程を決めてこっちに来たんだから」
あのボディアタックをするために、そこまで考えてたのか。
「えー、そんな面白そうなイベントがあると知ってたら予定を早めてたのにぃー」
ダメな子の発言である。
仮にずっと監視していたのだとしても間に合ったとは思えない。
「レベル350まで上げておいて何を言うか。
他の皆の方を優先するに決まっているだろ」
「ちぇー」
唇を尖らせてブーブー言っているが引き下がる気にはなったらしい。
やれやれ……
そんなこんなで俺たちが漫才にもならないやり取りをしている間に色々と進む。
トロールの始末なんてあっと言う間だからね。
後は地面から引きずり出して埋め直し。
トロールが並べられているのは俺の回収待ちか。
脳内スマホの倉庫管理アプリを使えばカード化して処理できるしな。
「お、来たな」
3体のトロールが追加で向かってきた。
ノエルが足止めした残り8体とは別口だな。
新たに召喚された口だろう。
ドスドスと鈍重さを感じさせる足音を響かせている。
故に皆も気付いている。
それにしても先に召喚されて埋められた仲間は助けようとはしなかったようだな。
薄情? 違うな。
連中にしてみれば、そこに同類がいるというだけの認識なんだろう。
なぜ埋まっているとかは考えない。
埋まっている方も助けを求めたりはしない。
根っからの脳筋だからな。
細かいことは考えない。
いや、考えられないと言うべきか。
走っているつもりであろう3体も連携とかは考えていないだろう。
勝手に走って勝手に獲物を狙っている感じがうかがえる。
ヒューマンの倍以上の身長が鬼気迫る表情で迫ってくるのは迫力があるのだろう。
新規国民組が緊張した面持ちで身構え始めた。
古参組は特に動かない。
「あるじ、マリカがこおらせる?」
幼女モードのマリカが聞いてくる。
俺が足止めを指示しないのを不思議に思ったようだ。
「いや、それには及ばない」
考えがあるからな。
泥沼に沈めて固めるだけが身動きとれなくする方法じゃない。
それと、こっちの世界に来たばかりでウズウズしている人達がいるからな。
少し手伝ってもらえば退屈しのぎになるだろうさ。
あと、レオーネも次のステップを考えてもいいと思う。
読んでくれてありがとう。




