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329 ハルト、噂に振り回される?

修正しました。

>そんなにレアなのかよ。

該当行より下の数行を変更。


 あー、4人組が話し込み始めちゃったよ。

 自分たちが追われているってこと忘れているな。

 更に評価マイナスだ。

 槍男くん、メンバーを止めなさい。

 君はリーダーでしょうが。

 それにしても拡がった後の噂を聞くのって苦痛だ。

 何だよ、悪事を暴く名推理で貴族令嬢を救ったって。

 そんなことした覚えがないぞ。

 もしかしてルーリアと出会った時の一件が伝言ゲーム的に伝わった結果なのか?

 あれって証人になって現場検証に付き合っただけだぞ。

 それに当時のルーリアは国に属さない自由人だった。

 貴族であるはずがない。

 が、それ以外に噂話の元になるような事件ってないよな。

 本当に人の噂というやつは恐ろしい。

 けれども否定はしない。

 聞かれていないし。

 こんなところで訂正しても余計にややこしい噂が流れるようになるだけだ。

 すでに俺がどうにかできる状態じゃない。

 向こうが俺に確認を求めてきたら事実無根と言うだけに止めよう。


「ねえねえ、ハルくん」


 ミズキがこそっと耳打ちしてきた。

 そちらに目線を送る。


「あの人たちが話してることって本当なの?」


「んな訳ねえ。

 元になった事件には心当たりがなくはないがな。

 けど、まるで中身が違ってる。

 詳しいことが知りたきゃルーリアに聞いてみろ」


 俺も説明することはできる。

 が、こういうのもコミュニケーションの一環として考えた方がいい。

 ルーリアは自分から積極的に話すタイプじゃないからな。

 切っ掛けがあるならそれに越したことはない。


「んー、後で聞いてみる」


 はにかむような笑みを浮かべてミズキとの内緒話は終わった。

 4人組の方はまだ終わっていない。

 おいおい……

 剣士の話だと今度は剣豪との決闘で死闘を演じたことになってるぞ。

 これもルーリアだよな。

 昇格試験の時のことで間違いないと思う。

 突拍子もない話ばかりで驚かせてくれるよ、まったく。

 向こうは向こうで「賢者じゃなかったの!?」とか槍女が驚愕しているし。

 大盾男は「その話は俺も知らなかった」とか呆然としている。

 槍男は「喧嘩売っていたら俺たちボコボコにされてたな」と心底安堵している様子だ。

 にしても……


「あの無口そうな剣士って聞き上手みたいね」


 今度はマイカが耳打ちしてきた。


「聞き役に徹して情報をスルスル引き出すタイプか。

 私なんかベラベラ喋らされそうだわ」


 自覚があるなら自重しろ。


「聞き出すのが上手くてもな。

 話の中身が正確じゃなきゃ情報に価値はない」


「そうなの?」


「噂はしょせん噂なんだよ。

 証明する手立てのないものを信じる方がどうかしている」


「そっか、それもそうね。

 で、どれくらい事実に即した話なの」


「決闘じゃなくてギルドの昇格試験。

 死闘なんかになる訳がない」


「それは確かに随分と盛ってるわね」


「だから噂なんだ」


「言えてる」


 これで話が終わるのかと思ったのだが──


「ねえ」


「ん?」


「昇格試験って?

 私達、そんなの受けてないわよ」


 マイカさんは些か御機嫌斜めになってしまったようだ。

 恨むならリンダたちに絡んでいたクズ冒険者どもに矛先を向けてくれ。


「あのごたごたの後で登録以外のことをする余裕がギルド側にあったと思うか?」


「ああ……」


 俺の返答で一気に納得がいったとばかりに頷いた。

 あの後の処理は本当に面倒くさいことになっていたからな。

 犯罪が絡んでいるから衛兵が出張ってきていたし。

 隊長クラスが出張ってくるとは思わなかったけど。

 リンダや俺たちを見て固まってしまったのは不可抗力。

 彼もまた俺たちを出迎えた面子の1人だったから。

 事情を知ると、恐縮しきりだったのが色々忙しいことになったのは気の毒だ。

 俺たちにはぺこぺこと謝り続け。

 ギルド職員だったドブネズミや熊冒険者どもには鬼の形相で怒鳴りつける。

 よくもまあ罵倒する言葉が続くものだと思ったよ。

 生きている価値もないとか畜生以下だとか次から次へと。

 俺らまで目立ってしまうので説教なら連行してからにしてくれと頼んだ程だ。

 こういうのもまた噂になってしまうんだろうなと思うと憂鬱である。

 なんにせよ、そんな感じで衛兵隊長にスイッチが入っちゃうし。

 ギルド長も膿は全部出すとばかりに鼻息を荒くしていた。

 おかげでギルド内は通常業務に支障をきたすほどの大騒ぎになったのである。

 故にミズキやマイカの登録で精一杯。

 略式で水色ランク相当だとギルド長のお墨付きを貰ったので、まあ良しとした。

 俺たちが帰りにギルドに寄っても試験は無理だな。

 ドブネズミの汚職を洗い出すのは1日じゃ絶対に終わらない。

 内容を精査しなくても確信できるのが嫌だ。

 そういう訳で、しばらく昇格試験はお預けと考えた方がいい。

 王都かブリーズのギルドで受けることになるだろう。

 この街の冒険者ギルドの負担を増やす必要はないさ。

 雑な仕事をされる可能性だってあり得るんだし。


「という訳で、よそのギルドで試験だな」


「はあー、しょうがない」


 マイカが苦笑しながら頷いた。

 それにしても4人組はまだ俺の噂で盛り上がってるのか。

 勘弁してくれよ。

 本当に居心地が悪い。

 まあ、それも終わりだ。

 急接近する気配が状況を変えてくれるはず。


「ただいま」


 シュバッと参上のノエルさん。

 忍者っぽい登場の仕方をしているのは気のせいではない。

 妖精組の影響を受けているのは明らかだ。


「「「「────────っ!?」」」」


 4人組が腰を抜かしていた。

 噂話どころではないよな。

 これを教訓にしてダンジョン内で弛みきった真似をしないようにしなよ。

 その横を気まずそうに歩いてこちらに向かってくるレオーネ。

 最後に減速して4人組を驚かせないよう配慮したか。

 まだ染まっていない人はそんなものだよね。


「ただいま戻りました」


「おう、2人ともお帰り。

 偵察任務、ご苦労さん」


「ん」「はい」


 さて、ここからどうするかだ。

 4人組にはこれ以上見せない方がいいと思う。

 トロールを軽く捻るようなことがあったら噂が更に酷くなるような気がするからな。

 この程度の魔物が亜竜クラスの巨人を相手にしたとか盛られそうだ。

 トロールも4メートル以上の上背はあってデカくはあるけど亜竜ほどの大きさはないぞ。

 もちろん強さだって亜竜には及ばない。

 パワーだけならベアボアといい勝負をするかもな。

 高い再生能力があるから厄介と言えば厄介だけど無限に再生する訳じゃない。

 魔法は使えないくせに豊富にある魔力を再生に使っているのだ。

 魔力が尽きれば再生しなくなる。

 無限に再生できる訳ではないのだ。

 もっとも体力の化け物だから普通の冒険者なら先にスタミナ負けしてしまう。

 お陰で一般的には無限の再生をする不死身の化け物と思われているようだ。

 まあ、デカいしパワーもある脳筋タイプだからな。

 4人組が必死で逃げてくるのも分かる。

 火属性を使う魔法使いでもいれば状況は変わってくるんだが。

 炎熱によるダメージだと再生できないからね。

 再生不能の部位を攻撃すれば、よりダメージも大きくなる。

 たいまつの炎でも火属性の魔法と同じことはできる。

 だが、鈍重とはいえ相手も動く。

 たいまつで炙りながら攻撃するなど簡単なことではない。

 4人組とはここでお別れが正解だろう。

 連れて行く理由も義理もない。

 ノエルが足止めしてくれているから奥に行けば見られる心配もないだろう。

 まずは報告を聞こう。

 偵察を任せたので、それ以後の確認はしていないんだよね。

 信用できない相手なら話は別だけど。

 偵察に行ったのは我らが桃髪ツインテ天使ノエルさんである。

 故に全く心配していない。

 まずはレオーネに聞こうかと思ったが、生真面目さんが失敗するのはこういう状況だ。

 4人組を変に意識して妙なことを口走らないとも限らない。

 とりあえずノエルの仕事ぶりを見てきたことで良しとしよう。


「ノエル、どうだった?」


「百メートルほどの所で5匹足止めした」


「もう、そんな所にまで!?」


 ノエルが足止めしてなきゃ、とっくにここまで来てるよ。


「はやく逃げないと!」


 4人組が今頃になって慌てている。

 大盾男と槍女が主に泡を食う感じか。

 自分たちの置かれた状況を思い出したようだが、なんだかなぁ。

 全員で右往左往する感じではないのでマシな方だとは思う。

 構っていられないので無視してノエルの報告の続きを聞いた。


「数百メートル先まで脇道なし。

 部屋は突き当たりにひとつ」


 一本道なのは知っていたけど、まあ望ましい環境だ。

 邪魔が入らないというのは大きい。

 他の冒険者とか魔物とか横槍が入るのは鬱陶しいもんね。


「トロールの集団がそこから出てくる。

 後から出てきたのが全部で8匹」


「そんなっ!?」


「あの宝箱、いったい何なんだよ!?」


 あー、魔物召喚のトラップか。

 そこそこ経験を積んでそうな4人組が知らないとは思わなかったが。

 ガンフォールやエリスも知らないみたいだな。

 そんなにレアなのかよ。

 俺や月影の面々は昆虫タイプとアンデッドで経験済みなんだが。


『で、今回はトロールか。

 難易度は上がっているな』


「湧き方は前の昆虫型より格段に遅い」


 召喚コストに差があるのか。


「後から湧いたのも泥沼に沈めて身動きできないようにした」


「フタは?」


「閉じてない。

 経験値稼ぎに丁度いい」


 ノエルも考えているな。

 トロールの出現原因を突き止めただけでなく、それを活用する方向で判断したか。


「いい判断だ」


 ノエルを褒める。

 他の冒険者連中なら悲鳴を上げて逃げ出すような状態なんだろうが。

 うちの場合はノエルが言ったように経験値稼ぎができる。

 月影の面々がいるだけで安全マージンは確保されたようなものだ。


「では行くとしよう。

 訓練班はエアスラッシュで首を落とせ。

 血飛沫はレオーネが止めろ」


 指示を出すとめいめいが返事をしてくる。

 同時にまとっている空気が変わった。

 待機モードから戦闘モードへといったところか。

 こういうところは今まで荒事と縁のなかったマリアやクリスも順応してきている。

 短期間で慣れてくれるとは有り難いことだね。

 近いうちに新規国民組だけでダンジョン攻略の許可が出せそうだ。

 というよりトロールで経験値稼ぎしたら行けそうな気がする。

 ……まあ、取らぬ狸の皮算用と言うし後で考えよう。

 さあ、行こうかというところで待ったがかかった。


「本当に行くのか?」


 槍男だ。

 なんというか本気で心配してくれているようだな。

 だが、小さな親切というやつだ。

 そういうのはいいから自分たちの心配をしろと言いたい。

 一緒に来るとか言い出しかねないぞ、これ。

 目撃されると厄介だ。

 また噂のネタにされるぞ。

 かといって説得したくらいじゃ引き下がりそうにもないし。

 まったく、どうすんだよ。


読んでくれてありがとう。

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