328 この程度では逃げませんが、何か?
修正しました。
【天眼・遠視】 → 【天眼・遠見】
大盾持ちの重装剣士が動いた。
明らかに俺たちを警戒している。
残りの3人を背にして大盾を構えて庇う形。
剣は抜いていない。
こちらの数が多いことで守ることを優先した構えになっているからのようだ。
数で押し込まれると片手では大盾を支えきれないと判断したのだろう。
残りの剣士と槍女が合わせて警戒態勢に入る。
大盾男ほどあからさまでもないかな。
剣士は抜剣していないし。
槍女の構えも臨戦態勢ではない。
そこまでしてしまうと喧嘩を売っている形になるからな。
こちらが大所帯なことに過剰反応してしまっている自覚はあるようだ。
ただし、大盾男は除く。
野郎は必死だ。
手負いの獣を想起させるほどに。
怪我はしてないけどな。
だが、動きに精彩がない。
[半消耗]の状態異常じゃあね。
ずっと走りっぱなしだったからだろう。
これで[消耗]でないのは大したスタミナだと思う。
さすがに[疲労]にはなってるけど。
そのせいで正常な判断ができないのなら、まだマシかな。
直情型でないことを願う。
そういう奴の相手は面倒だ。
「よせ、敵じゃない」
俺がリーダーかと見当をつけた槍持ちが大盾男を宥めにかかる。
身構えていないのと殺気がないことで瞬時に判断したか。
俺が先に謝ったのも大きいと思う。
剣士と槍女が躊躇する感じがしたのも、そのためだと思う。
それでも槍男ほど落ち着いて考えることはできなかったようだが。
疲れると人間は正常な判断を下しづらくなるからな。
逆に疲れていてもこういう理知的な判断のできる奴がいると助かるね。
間違いない。
槍男がリーダーだ。
剣士と槍女がその言葉を聞いて警戒を解いた。
だが、弛みきってはいない。
自然体に近いが何かあっても即応できる姿勢。
こういうのは経験がある証拠だ。
間違いなくベテランだろう。
彼らは20代後半くらいに見えるので中堅どころに見られることは多そうだけど。
外見から得られる情報以上の実力はある。
現にレベルは40弱平均だ。
ボリュームゾーンは確実に超えている。
そんなことを考えている間に盾持ちが構えを解いた。
何も言わずにいるが、俺たちを睨みつけるような視線だけは維持している。
こいつだけ見た目相応かな。
「うちの者が済まない」
槍男が頭を下げた。
律儀すぎないか。
俺は言葉だけで頭は下げていないんだがな。
「いや、こっちが大所帯だからな。
警戒するのは当然だ。
ここのギルドには変なのもいたし」
微妙に間があった。
槍女が不快だと言わんばかりに眉をしかめている。
大盾男の眉もつり上がっているね。
剣士はポーカーフェイスで通そうと努力している感じがうかがえるけど完璧ではない。
「君たちもあの連中に絡まれたか」
槍男は苦笑していた。
「俺たちではなく知り合いがな。
ギルド長が処分を下したから二度と関わることもないだろう」
向こうサイド全員が唖然とした顔になった。
「奴ら何をしたんだ?」
大盾男がたまらずといった感じで聞いてきた。
「王国の女性騎士にちょっかいを出した」
そう言うと全員が納得した。
嘘ではない。
騎士の素性まで教える必要はないからな。
そんなことをして国王が来ていることが知れ渡ったら騒ぎになりかねない。
街では国の偉い人が来ているぐらいの噂は意図的に流されてはいるけど。
ここで俺が確定情報を与える訳にはいかん。
「ザマアないわね」
槍女が吐き捨てるように言うと剣士が頷いていた。
他にも何かあーだこーだと話し始めるが、こいつら緊張感が切れた途端にこれか。
ベテランと評したのは撤回。
まだまだだ。
「おい、まだ逃げ切れた訳じゃないんだぞ」
槍男だけが慎重なようだ。
自分たちが走ってきた通路側を気にしている。
真っ直ぐな通路であれば目視で確認できるんだろうがな。
ここはダンジョンだ。
潜る側にとっては都合の良い構造ばかりではない。
俺の脳内で描かれているマップ上でも、このパーティの来た道は緩く蛇行している。
「あいつらは動きが遅いし、もう少し休まないとこっちが持たないわよ」
[半消耗]にまで陥っていたからな。
少し休んだくらいじゃ[疲労]が抜けるくらいだろう。
同じパーティなんだから槍男も女の主張には頷いている。
「油断するなってことだ。
他の魔物と遭遇することもあるんだぞ」
それでも注意を促すことは忘れないあたりは、ちゃんとリーダーしているね。
「わかってるわよ」
ボソッと返事をした槍女も自分が弛みすぎていた自覚があるのだろう。
ばつが悪そうに顔を背けている。
「アンタらも撤収準備はしておいた方がいい」
御丁寧にこちらにも注意を促している。
いい奴だな。
ただ、その忠告に従うつもりはないが。
「トロールでも出たか」
「「「「っ!?」」」」
面白いほど反応してくれるな。
驚愕をそれだけ顔に貼り付けていたら返事を確認するまでもない。
「なんで分かった……」
今まで無言だった剣士が呟くように聞いてくる。
なんでって君らが追われている風な反応をキャッチしたからだよ。
そのときに【天眼・遠見】を使いましたが、何か?
うちの面子の安全がかかっているからね。
これほど確実なことはない。
ただ、種明かしを真っ正直にする訳にはいかないな。
「ほとんど勘だよ」
嘘っぱちである。
だが、こうでも言っておかないと面倒事に巻き込まれる元だからな。
「槍のお姉ちゃんが言ってただろ。
あいつらは動きが遅いって。
なのに逃げるしかないほどの相手とくれば想像がつく」
槍女が無表情になった。
どうやら槍のお姉ちゃんという呼び方はお気に召さなかったようだ。
「若いのに洞察力があるな……」
剣士がボソボソと聞き取りづらくなるかどうかのボリュームで喋る。
普段は寡黙なタイプなんだろうな。
大盾男が剣士の方を見ながら驚いている様子からも、それがうかがえる。
「そういうことだから君たちも引き返した方がいい」
向こうのリーダーは本当にいい奴だ。
赤の他人の心配までしてくれるなんてな。
こちらを利用してやろうとか、そういった腹黒いことを考えている節もない。
「奴らは鈍重だが破壊力は並みじゃないからな。
舐めてかかると命が幾つあっても足りないぞ」
「そうそう、切っても切っても再生するし」
槍女が追加で情報を出してくれる。
【諸法の理】で確認済みだが、この情報は有り難いね。
ちょっと歯ごたえがないなと思っていたんだ。
再生能力持ちなら今の新国民組にとってちょうどいい対戦相手だ。
強すぎず弱すぎずだもんな。
経験値もそこそこ得られると思う。
それにしても変だな?
槍女は俺の不用意なひとことで機嫌を悪くしたんじゃなかったっけ?
まあ、いいか。
「ノエル」
「なに、ハル兄?」
「偵察と足止めを頼む。
レオーネを連れて行け」
「お、おいっ」
「ちょっと!」
槍コンビが何か言い始めたが無視だ。
忠告は親切心だろうがな。
悪いが、こちらの実力を推し量れない相手の言葉を聞くつもりはない。
「足止めの方法は?」
「「なっ!?」」
平然と受け答えしているノエルに驚きを隠せない槍コンビ。
いや、大盾男も絶句しているな。
剣士だけは注意深く見守るようにこちらを観察しているようだ。
「泥沼程度でいい」
「分かった」
コクリと頷くとレオーネに目配せをした。
レオーネの頷きを確認するとシュッと消える。
続いてレオーネも。
4人組の横を風がすり抜けていく。
ノエルとレオーネが駆け抜けていったからなんだが、彼らじゃそれは見切れない。
「ワシもまだまだじゃの」
ガンフォールも見切れなかったか。
両目に身体強化をかけるという裏技的なことをしていたんだけどな。
最初は魔力を高めているから何事かと思った。
筋力や頑健さを上げるだけと世間的には思われているから一般的ではない使い方だ。
これをすることで動体視力を強化できる。
ガンフォールは俺たちの会話から先読みして身体強化を使っていた。
それでも目が追いつかなかったと言っている。
当然である。
レオーネとのレベル差でさえ40以上あるのだ。
「かろうじてレオーネの影は追えたんじゃがな」
それができるだけでも上出来だ。
「ノエルのお嬢ちゃんは無理じゃった」
レオーネよりも更に70以上レベルが上となれば少々の身体強化でどうにかできるものではない。
「まずは影だけでも追えたレオーネを目標にしろよ。
山は一歩踏み出しただけじゃ頂には届かないぜ」
「は、それもそうじゃな」
2人して笑い合ってしまった。
緩い空気が流れる。
4人組からすると信じられない光景だろう。
なに言ってんだコイツらみたいな目で見られていた。
「情報提供、感謝する。
そこそこ大物が狩れそうだ」
「いったい何者なんだ、アンタたち」
槍男が声を絞り出すように問うてきた。
喋るのもやっとという感じのようだ。
少し気の毒にも思ったが、それで自重する気はない。
俺たちには俺たちのペースってもんがあるからな。
もっとゆっくりダンジョン攻略できるなら多少は考慮するがね。
日程的に今日しか使えないし。
「賢者とその仲間たちよ!」
マイカさんが胸を張ってドヤ顔で返している。
うーん、大きく育ったものだ。
昔は薄かったのに。
あんまり見ているとミズキにツッコミ入れられてしまうので程々にしておく。
「賢者……
噂には聞いていたが本当に若いんだな……」
剣士が呟いた。
「え、わたし聞いてない!?」
槍女が反応する。
「俺も聞いたことある」
呆然とした面持ちで大盾男が口を開いた。
「ブリーズの街じゃ有名人だと」
こんな所まで噂が流れるのかよ。
勘弁してほしい。
せめて、そういう話は街に帰ってからにしてくれ。
本人の前でするもんじゃないだろ。
ムズムズするっての。
読んでくれてありがとう。




