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326 ダンジョンで休日を?

 あの後、熊どもは罰金を支払わされることになった。

 連中にとっては桁外れな額なので借金返済に追われることになる。

 借金奴隷という形になってしまったが同情はしない。

 連中には余罪が山ほどあったからな。

 受付嬢たちから色々と証言があったので言い逃れはできない。

 まあ、でもギルド職員のドブネズミ野郎よりは可愛いものかもな。

 詐欺と脅迫で人の財産を根こそぎ奪うようなクズ野郎だったからね。

 ドブネズミは街の衛兵に逮捕される形となり、罪状を確認の上で処分されるそうだ。

 直接、人を殺してはいないが殺しを依頼したという証言もある。

 そんな奴に脅迫されりゃあビビって何も言えなくなったりもするか。

 逆に悪事が少しでも露呈すると、脅迫側の暴走を危惧してぶっちゃけられたりするんだよな。

 殺される前に殺せみたいなノリでさ。

 結果として一気に噴出することになったんだけど。

 アホとしか言い様がないよな、ドブネズミは。

 殺しの依頼を知られた時点で中止しておけば良かったのに。

 死んだ人間もいるらしいから極刑は免れることができない。

 とはいえ、既に俺には関わりのない相手だ。

 連中がどうなろうが知ったことではない。

 そんな風に考えていたらマイカが上機嫌で笑い始めた。


「いやー、冒険者ギルドでトラブルに巻き込まれるなんてデフォよね」


「そうかな?

 あんなことが毎回あるとは思えないけど……」


 ミズキは常識的なことを言っている。

 そうそう、トラブルがあるなら冒険者ギルドに人が寄りつかなくなってしまうもんな。

 けれども俺に限って言えば高確率でトラブルに遭遇している。

 認めたくはないがな。

 原因は俺の若さなんてことはないので赤い人に成り切ったりはできない。

 些か残念ではある。

 あー、こんなことを考えるなんて逃避しているなぁ。


「そうだよね、ハルくん」


 振り返って俺に同意を求めてくるミズキ。

 そんなこと言われても事実を否定するのは嘘になるからなぁ。


「……………」


 故に俺には目をそらすしかできない。


「主はよく冒険者ギルドでトラブルに巻き込まれている」


 ツバキさんが淡々と語ってくれますよ。


 そしてそれに無言でコクコクと頷く古参組。


「ギルドだけじゃない。

 ハル兄は色々と巻き込まれる運命にあると思う」


 運命って……

 そりゃないよ、ノエル。

 それじゃあ俺は今後もトラブルに巻き込まれ続けるってことじゃないか。


「アハハッ、退屈しなくて済みそうね」


 くっ、マイカの奴。

 他人事だと思いやがって。

 俺は退屈する方がいいんだよ。

 さっきみたいに不愉快な思いをするくらいならね。

 それよりもダンジョンアタックだ。

 そのために未登録のミズキとマイカを冒険者登録しに行ったんだからな。

 ああ、そういやリンダたちも同じ目的だったみたいだぞ。

 ゲールウエザー王国の護衛騎士たちも冒険者登録するとは思わなかったわ。

 宰相ダニエルの命令だってさ。

 魔物相手でも的確に対処できるよう訓練しろと言われたそうだ。

 護衛の任務はどうしたのか聞いたら、リンダたち以外の部隊員が残っているらしい。

 リンダたちの代役は魔導師団が務めるのだとか。

 それで充分と判断するかね。

 昨日の今日だというのに。

 まあ、だからこそか。

 前からあるダンジョンに暴走されちゃたまらないだろうしな。

 訓練という名目で調査に赴かせると考えた方がいいだろう。

 あの宰相ならそれくらいは考えるはず。

 護衛部隊の副隊長に行かせたことからも、その意図はうかがえる。

 何にせよ、この面子なら無茶をしなければ問題ないだろう。

 明日からの移動に支障がないようにとも言われているそうだから大丈夫だとは思うが。


「では、お先に」


 先に手続きを済ませていた彼女らを見送る形となった。


「無理はするなよ」


「はい」


 返事は素直だが分かってないだろうな。


「ひとつだけ言っておく」


 お節介だとは思ったが忠告しておくことにした。


「何でしょうか?」


「まだ行けると思ったら引き返せ」


「どういうことでしょうか?」


 怪訝な顔で聞き返された。

 やっぱり分かってない。


「そんなこと考える時点で余力が無くなり始めてるんだよ」


 リンダだけでなく騎士たちの目が見開かれている。

 忠告ひとつで気付けるならマシな方か。


「ダンジョンに潜った経験は?」


「ありません」


「だったら肝に銘じておけ。

 帰りは3倍の体力を消耗する」


「……分かりました。

 御忠告、感謝いたします」


 全員が深々と頭を下げてくれた。

 今度こそ理解してくれたものだと思いたい。

 リンダたちがダンジョンへと向かうべくギルドから出て行った。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 俺たちも嫁2人の冒険者登録後、ダンジョンへと向かった。

 で、現在は地下5階。

 より深く潜る予定だが、実戦に慣れるために5階をうろついている。

 次のフロアから微妙に魔物の構成が変わり始める。

 中級向けの魔物も増え始めるからな。

 ちなみに5階層までで遭遇したのはゴブリンとホブゴブリン。

 ゴブリンは人型の魔物として最弱だからね。

 最初の訓練にはもってこいの魔物だろう。

 ホブゴブリンはゴブリンよりは大型で戦闘力もあるけど、それでも雑魚の部類だ。

 知能はノーマルのゴブリンと変わらない。

 舗装の材料になるのは同じだ。

 肉は不味くて食えないので素材としてのみ使う。

 何にせよ捨てる部分がないのは良いことだ。

 倒して回収の繰り返しである。

 回収担当は俺。

 新規国民組の多くは、まだ亜空間倉庫が使えないのでね。

 今日はとにかく魔物を狩るのが目的だ。

 とにかく戦って倒す。

 魔法か物理かは問わない。

 日帰りなので、あれもこれもと欲張る訳にはいかないさ。

 戦闘訓練を重視してマッピングを訓練項目に含まないようにした。

 そんなことしてたら深く潜れないからね。

 普通なら帰りのことを考慮したペース配分もするが、そこも無視だ。

 本日はガンガン行こうぜな方針である。

 新規国民組で潜れる所まで潜って、帰りは俺たちが先導する。

 あ、班分けはしたけど別行動にはしなかったよ。

 思ったより通路が広かったのでね。

 4列で並んでも戦闘ができるなら上出来だ。

 基本の戦い方は決めてある。

 敵の数が多い時は全員で魔法を使う。

 少ない時は格闘戦を主体にする。

 武器を用意できなかった訳じゃない。

 格闘戦をさせるのは武器や魔法がなくても戦えるようにしてもらうためだ。

 魔法にばかり頼っていると魔力切れの時の対処が疎かになるし。

 武器だって壊れることがある。

 なかなかそのような事態に陥ることはないと思うが、確率で言えばゼロではない。

 その方が怖い。

 そういうことにはならないと錯覚してしまいかねないからだ。

 ないと思い込んでしまえば対処するための訓練もしない。

 同時に油断してしまい、最悪の事態となって初めて泡を食う。

 そういう馬鹿げたことにさせないために格闘の実戦経験を積ませる。

 とはいえ格闘の基礎なんて身についていない面子が多い。

 構えからして知らないマリアやクリスにはハードルが高いことが予測された。

 そこは促成的な方法になるものの、皆が眠っている間に対処したよ。

 スリープメモライズ。

 別の言い方をするなら睡眠学習だ。

 これで基礎を徹底的に仕込んである。

 初心者のマリアが戸惑っていたのが印象的だ。

 1匹のゴブリンが突進してきた。

 コイツら本当にバカだよな。

 俺ら、何人いると思っているんだろう。


「1匹だから魔法はなしだ。

 マリア、格闘戦用意」


「はっ、はい!」


 緊張した面持ちのマリアが構えを見せた。

 自分で構えたはずなのに怪訝な表情で首を傾げている。

 そんな暇はないぞ。


「1歩前へ、他の者は邪魔にならないよう後退」


 その指示で皆が動き終わったタイミングでゴブリンが奇声を上げながら跳躍した。

 ここから指示はしない。


「えっ?」


 驚きながらもマリアが前蹴りでゴブリンを止めた。


「えっ!?」


 そのままゴブリンの首筋にチョップ1発。

 ゴキッという鈍い音がして戦闘は終了。

 首ポキでゴブリンは絶命した。


「ええっ!?」


 何か言いたげにしているマリアを尻目に俺はゴブリンを回収する。


「そんなに条件反射で体が動いたことが不思議か?」


 コクコクと必死な様子で頷かれた。


「説明したろ?

 寝る前と朝食の時に」


「これが睡眠学習の効果だと仰るのですか?」


「そだよ」


 返事をしてから気が付いた。

 俺の説明を聞いていなかったんじゃない。

 条件反射で体が動くほどのものだとは思っていなかったんだ。


「……………」


 絶句しているのがその証拠。

 そりゃ戸惑うわな。

 とはいえ、そういう状態も最初だけだったけどな。

 2回目には迷いなく動けていた。

 適応力が高いね。

 え? クリスはどうだったかって?

 彼女が戸惑ったのは一瞬だったよ。

 それもマリアの格闘戦を見た瞬間だけ。

 ローテーションで自分の順番が回ってきた時には堂々としてたもんね。

 むしろ最初から色々試そうとしていたくらいだし。

 スリープメモライズでは伝えなかったはずのなんちゃって八極拳とか使ってたくらいだ。

 見ただけで、それなりに使えるとか天賦の才に恵まれているよな。

 触発されたエリスが浸透打撃を使えるようになっていたのも些か驚かされた。

 このお姉さんも天才だ。

 ABコンビもスムーズに戦えている。

 魔導師団で訓練を積んできただけはある動きを見せていた。


「はああぁぁぁっ!」


 突撃してくるホブゴブリンにアンネが飛び込むような膝蹴りを顔面に入れた。

 瞬殺だ。

 ゴブリンより体格がひとまわり大きかろうと関係ない。

 正面衝突でカウンターだからな。

 確実に首の骨が折れていた。

 顔面も陥没している。

 こういう首ポキもあるのね。

 ちなみに、この後順番が回ってきたベリーはオーバーヘッドキックを披露してくれた。

 サッカーじゃないんだけど……

 もちろん瞬殺である。

 頭蓋陥没ならびに椎骨の圧迫骨折で生きていられるはずもない。

 やることが派手というか、ストレス溜まってんのかな。

 怖い怖い。

 こんな具合に地下5階で遭遇する魔物なら余裕を持って対処できるようになっていた。

 ただし格闘に限る。

 魔法じゃアタフタした場面を見せられた。

 もっとも戸惑いを見せたのはジェダイト組だな。

 ガンフォールは落ち着いていたけど、ハマーとボルトがね。

 自分で放った火球の大きさにビビるとか、どうなのよ。

 ハマーなんて酷いもんだったよ。

 バランスボール大の火球を出した瞬間──


「うわぁっ!」


 叫んだかと思ったら尻餅をついて腰を抜かしたもんな。

 昨日、練習してたじゃないかよ。

 実戦の緊張感と今まで魔法が使えないと思い込んでいた反動が重なった結果らしい。

 制御力に難ありってことだな。

 で、想定していた直径の倍ほどの大きさになったみたい。

 予想外に大きくなったなら驚きもするのか。

 まあ、獲物は確実に仕留められていたから結果オーライってことで。


読んでくれてありがとう。

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