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313 その名はマリカ

 なんとか食事会を乗り切った。

 気分は最悪、精神的にはボロボロである。

 最初は「計画通り」とか内心でドヤ顔してたんだが。

 神の使い様とか言われて閉口させられた。

 地元民の言う神ってのがラソル様だったからな。

 有頂天だった俺のテンションが真っ逆さま。

 そこからは気力で最後の挨拶までもたせたさ。

 密かに確認を忘れていたレオーネのステータスチェックをしたりしてね。


[レオーネ/人間種・シャドウエルフ/魔法戦士/女/25才/レベル113]


 レベルが5も上がったか。

 単独で仕留めたとはいえザリガニ程度で、こうはいかないはずだ。

 考えられるのは急成長とも言えるほど体捌きの向上が見られたことか。

 別人だったもんな。

 一度きりしか見ていない、なんちゃって八卦掌すらものにしていたし。

 脳内であのシーンを再現する。

 ビフォーアフターが凄い。

 大改造したのかってくらいだ。

 してないけどな。

 なんにせよ、そういうレオーネの成長とも言える技術の向上がレベルアップに加味されたと思われる。

 魔法でなくても急激に熟達すれば経験値が得られるみたいだな。

 そんなことを考えつつ俺は時間を潰した。

 しつこいくらいに連続再生したよ。

 穴を掘るところからね。

 でないと、その場を逃げ出したくなる衝動に駆られただろうから。

 神の使い様を連呼されるだけで背筋を寒気が走り抜けたさ。

 しまいには頼まざるを得なくなったよ。

 俺は神の使いなどと呼ばれるような人間ではないから呼び方を改めてくれとね。

 そしたら感動というか感激するんだよ。

 なんと奥床しい御方なんだと。

 自分の耳を疑ったね。

 俺の何処が上品で慎み深いのかと。

 奥床しいってそういう意味だよな。

 それとも俺が奥床しいという単語の意味を間違えて覚えているのか?

 いいや、そんなことはない。

 ならば街側の人間たちは何をもってそんな風に言うのかという疑問が湧き上がる。

 俺って喋り方からして偉そうだろ。

 自覚はあるんだよ、これでも。

 面倒くさいし猫を被るのは嫌だから素で喋っているだけだ。

 よほどの相手でないと敬語は使わない。

 その上、言いたいことを言ってるし。

 まあ、でも否定すればするだけ深みにはまりそうだったのでスルーしておいた。

 呼び方だけ戻してねってことで。

 落ち着かないからって言ったら委細承知と言わんばかりのドヤ顔で頷かれてしまった。

 それも俺にとってはダメージになるんだがね。

 モヤるというか、トラウマになりそうだったよ。

 相変わらずしょうもないところでメンタル弱いのな、俺。

 もっと鍛えないと。

 そして俺のそんな姿を見て笑っている約1名がいるかと思うとムカつく。

 が、それもまたムカつくので我慢した。

 マジでベリルママにメールしておこう。

 そのくらい精神的に疲れてしまった訳だ。

 輸送機まで帰ることになって街の外に出た時なんて歩くのすら億劫だったもんな。

 エリーゼ様に指定された時間まで仮眠を取りたくなったくらいだよ。

 新国民のために魔法講座を開かなきゃならんから、そういう訳にもいかないんだが。

 輸送機に乗り込んだら切り替えようってことで気合いを入れ直した。

 ダメ亜神のことは頭の中から追い出して目の前のことに集中だ!

 ところが、そう決意して輸送機に乗り込んだ俺に不意打ちが待っていた。

 それはエレベーターで居住スペースに上がってきた刹那のことだ。


「ウォーン!」


「うわっ!?」


 ダッシュで飛び込んできましたよ、ハイフェンリルが。

 バタバタと忙しなく尻尾を振って大歓迎。

 具体的に言うと、のし掛かってきてベロベロ顔中を嘗め回されてしまった。

 ずっと留守番させてたから寂しかったのだろう。

 これでは叱るに叱れない。

 唾液の方は理力魔法でブロックしていたからいいんだけど。

 嬉ションされるよりは遥かにマシだし。

 厳つい顔つきで狼そのものなんだけど子犬みたいだし。

 タップリと3分間は唾液まみれにされてしまったさ。

 どんだけ気に入られたんだか。

 俺はカップ麺ではない。


「もういいか」


 唾液の方は生活魔法の洗浄を使っておいた。

 いくら理力魔法でブロックしたとはいえ、顔面のすぐ近くが涎まみれの状況に変わりはなかったのでね。

 洗浄した後はドライヤーの魔法を使う。

 意外なことに生活魔法に該当の魔法がない。

 タオルで拭くか自然乾燥を待つってことなんだろうか。

 俺は面倒くさいので風魔法で以前に調整したドライヤーを使うんだけど。

 それも面倒だから、ドライ洗浄みたいな魔法を開発してみようか。

 面白そうだから【多重思考】で開発を進めておく。

 そのうち完成するだろう。


「ウォッ」


 やけに満足そうな雰囲気を漂わせているハイフェンリル。

 俺が椅子に座ると、その側でお座りして俺の方を見ている。

 何かを期待している感じだが、腹が減った訳ではなさそうだ。

 はて、何かあったかな?


「……………」


 契約したから俺が面倒見ないといけないのは分かるけど。

 ああ、契約したんだった。

 そういや名付けを後回しにしていたな。

 ぜんぜん考えてなかった。

 俺、ピンチ。

 候補のひとつくらい用意しておくんだった。

 此奴が気に入らないと言えば、皆で考えるという手が使えるんだが。

 そういうダミー候補すらないからな。

 スノーとかホワイトなんて安直すぎるし。

 いま毛色を見ながら決めましたって白状しているようなものじゃないか。

 さすがにそれは皆の視線が怖い。

 センスがないと言われるのは仕方がないさ。

 そういうのがダメな自信があるからな。

 だが、今まで考えていなかったとバレるのだけは回避したい。

 どんな白い目で見られるか分かったもんじゃないからな。

 それだけならまだしも、ノエルに「薄情者」とか言われたら立ち直れそうにないぞ。

 このさい何でもいい。

 何でもいいけど白しか思い浮かばん。

 そこから連想してのスノーとかホワイトだからな。

 チョコとかマシュマロなんてふざけてるとしか思えないし。

 なんかもっと幅を広げないと。

 けど、名前の幅と言ってもなぁ。


「……………」


 そういやABコンビは新しい苗字の由来を花にしていたっけ。

 白い花で考えてみるなんてどうだろう。

 梅はABコンビの先約ありだから使えないが。

 桜は真っ白なイメージがないしな。

 俺が知っているのはジャスミンぐらいか。

 祖母が好きだった花だ。

 正しくはアラビアジャスミンだったっけ。

 ジャスミンティーにする花だな。

 言っておくが、どんなジャスミンでもお茶にできると思ったら大間違いだぞ。

 品種によっては毒のあるジャスミンもあるって聞いたし。

 いずれにせよジャスミンはハイフェンリルのイメージじゃないな。

 花が白いってだけだけだ。

 冬のイメージがあるハイフェンリルには似つかわしくない。

 だって夏に咲く花だぜ、アラビアジャスミンって。

 正反対じゃないかよ。

 花びらもふわっとした感じだったし。

 そんなこと言い出したらキリがなくなるけどさ。

 けど、俺は花の知識なんてないからなぁ。

 白い花っていうと他に思いつくのは百合とか?

 ジャスミンよりシャープな感じはするけど、これは検討するまでもなく却下だ。

 うちにはリリーがいるからな。

 梅と同じく先約済みなのだ。

 この際、季節は無視するとしよう。

 それでもジャスミンしか出てこないのはどうなんだろうな?

 もっと他にあるだろうに、情けない。

 他の花って言ってもな。

 他……他かぁ。

 そういやアラビアジャスミンの他の名前があったっけ。

 祖母はそっちで通していたな。

 確か茉莉花だったはず。

 読みは「まつりか」だけど「まりか」とも読むらしい。

 マリカというのは悪くないかもな。

 あんまり自信ないけど。

 茉莉花の画数は25画か。

 悪くない。

 ただ、女の子の場合は気を付けないといけないんだっけ。

 フルネームのバランスが悪い場合の話だから気にしなくてもいいか。

 苗字なしのマリカにするつもりだし。

 問題は本人が気に入るかどうかだよな。

 一応はジャスミンとマリカの候補があるってことにしておくか。

 もしかしたらジャスミンになってしまうかもしれないが。

 それは本人が選ぶことだから、しょうがない。


「ふむ」


 ハイフェンリルを見た。


「お前の名前だが」


 尻尾がユルユルと振られた。

 期待しているらしい。

 些かだが罪悪感のようなものが湧き上がってくる。

 どちらか限定というのはなしにしようか。

 本人が嫌がるなら他の名前を考えるということで。


「ジャスミンとマリカで迷ってるんだよな」


 それっぽく言って誤魔化しておく。

 今まで忘れてた訳じゃないんですよとアピールしている訳だな。

 セコい言い訳というのは俺も承知しているさ。

 まあ、此奴も忘れられてたと知ったらショックだろうし。

 余計にセコさが増した気がするな。

 言い訳は何と言い繕おうと言い訳だ。

 これくらいにしておこう。

 ドンドン惨めな気持ちになっていきそうだ。


「どっちがいい?

 それともどっちもダメか?」


「ウォ」


 返事の具合からすると両方却下はないようだ。


「それじゃあ、ジャスミンは?」


 無反応。


「マリカは?」


「ウォーン」


 尻尾もフリフリだ。


「そうか、マリカがいいのか。

 じゃあ、お前は今日からマリカだ」


「ウォッ」


 全力で尻尾を振っている。

 名前が決まったのがそんなに嬉しいのか。


「良かったではないか」


 シヅカもマリカに声を掛けている。


「ウォッウォッ」


 シヅカに頭を撫でられて御満悦のマリカ嬢。


「随分と仲良くなったんだな」


「当然じゃろう。

 同じ主の守護者なんじゃから」


「ああ、なるほど」


 言われてみればそうだった。

 そういやステータスの方でも名前がセットされているか確認しておかないとな。

 これで名前欄が横線のままだったら、どうすりゃいいんだ。

 まあ、そんなことはないか。

 ローズという前例がいるんだし。


[マリカ/妖精種・ハイフェンリル/守護者/女/0(286)才/レベル238]


 ほらね。

 ローズで思い出したけど、連れて行って紹介しないとな。

 今夜もお出かけか。

 いや、エリーゼ様に言われているから国元には戻らんといかんのだが。

 とりあえずローズにはメールしておこう。

 念話で事情を説明すると、こっちまで飛んで来かねないのでな。

 そんな気がするってだけなんだが。

 勘には従っておくのが吉だ。


読んでくれてありがとう。

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