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309 レオーネがんばる

修正しました。

レオーネー → レオーネ

 俺が注意する間もなくレオーネが全力ダッシュをしていた。

 こっちに跳躍してきた時も飛び過ぎたのを失念しているようだ。

 最初は様子を見ろよ、と言いたかったんだがな。

 意外とウッカリさんだ。

 俺も人のことは言えないんだが。

 事前に注意するのを忘れたせいで、こんなことになっているんだから。


「わああぁぁぁ────────っ!」


 ザリガニの脇を一瞬で通り抜けてしまうレオーネ。


「あちゃー」


 とか言ってる場合じゃないぞ。

 このままだと俺の展開した結界に衝突してしまう。

 しょうがないので風魔法を使って減速させた。

 更に転送魔法を使って連れ戻す。


「はあ───っ」


 俺の元に戻ってくるなり大きく息を吐き出すレオーネ。

 よほどビックリしたということか。

 心臓がドキドキしているらしく少し息が荒い。

 まあ、すぐに落ち着くだろう。

 とはいえザリガニは待ってくれない。

 現状は全力で藻掻いている最中だ。

 いや、俺が理力魔法で拘束しているので身動きが取れず、そうは見えないのだけれど。

 それこそピクリとも動きませんよ。

 見た目はゲームでポーズボタンを押したようなものだね。

 これで一息つけるというものだ。

 ただし、あまり長時間この状態が続くと足掻こうとしているザリガニが消耗してしまう。

 このまま放置すれば死んでしまうだろうな。

 フルパワーで逃れようとして何もできずに死に絶えるか。

 狂った状態とはいえ嫌な死に方だな。

 なんにせよ待つ時間が長くて非効率的だからやらんけど。

 それにレオーネの訓練にならんしな。

 故にレオーネには早々に動けるようになってもらわないといけない。

 もちろん、その時はザリガニの拘束を解除する。

 動かない相手に戦闘訓練しても身につくものは何もないのでね。

 とりあえず中断中に謝っておく。

 これは俺が事前に説明しておくべきことだった。


「すまん、俺のミスだ。

 急激なレベルアップの影響を先に説明しておくべきだった」


「いえ、先程の跳躍で気付くべきことでした」


 自分で気付けるなら大丈夫か。

 なんて偉そうなことは言わない。

 自分のミスを棚に上げるに等しいからな。

 ただ、この話は切り上げた方が良さそうだ。

 謝り合戦になってしまう予感がする。


「行けるか?

 問題があるなら言えよ」


「大丈夫です」


 しっかりと頷いたレオーネがザリガニの方へ向き直った。


「それじゃ彼奴の拘束を解除する。

 様子を見ながら徐々にペースを上げていけ」


「はいっ!」


 やたら気合いの入った返事を返されてしまった。

 ホントに大丈夫なんかな。

 ちょっと心配になってくる。

 レオーネは本来の実力を発揮できる状態ではないのだ。

 急激なレベルアップはこれが初めてだから無理もない。

 俺もレオーネの状態はよく分かる。

 前のレベルのままの感覚で戸惑ったことがあるからなぁ。


「解除したぞ、気を付けろ」


「行きまぁーす」


 俺の心配をよそにレオーネが飛び出していった。

 何処かで聞いたような台詞を残して。

 某アニメの人型兵器射出シーンのようにとは行かなかったが。

 かなり抑えた感じのダッシュとなっていたせいだろう。

 先程の失敗がこたえているようだ。

 レオーネがザリガニの懐へと入った。

 ハサミの洗礼が待ち受けている。

 とは言っても挟んでくるのではなく閉じた状態での振り下ろしだ。

 丸太のようなハサミ部分の殻が威嚇状態の大上段から一気に迫ってくる。

 掛け矢みたいな大型の木槌でさえ玩具に見えるな。


「はあっ」


 掛け声の後にレオーネがサイドステップで振り下ろされたハサミを躱す。

 ハサミが地面と激突すると「ドオーン!!」と大きな音が響いた。


「おおー、ようやく迫力が出てきたか」


 轟音と言うには足りないが、それでも破壊力のありそうな音だ。

 普通の地面なら確実にハサミがめり込んでいただろう。

 それに合わせて土塊や石なんかが飛び散っていたかもな。

 俺が地面も結界で覆っていたので地面が凹むこともなかったが。

 そのせいで大した威力に見えないかもしれないが、そんなことはなさそうだ。

 振り下ろしは重さもパワーもあった。

 あの太い殻の中に筋肉が詰まってるんだろうから当然か。

 今はまだ振り下ろしだが、ハサミに挟まれたらベアボアとかオーガみたいな大型の魔物でも軽く真っ二つかもな。

 結界に当たってもヒビすら入らなかった甲殻も頑丈そうだ。

 この街の防壁にフルパワーで振り下ろされたら一撃で大穴が空くだろう。

 攻城兵器以上の攻撃力があるということだな。

 なかなか厄介である。

 にもかかわらずレオーネは焦った表情をしていない。

 それどころか、躱すタイミングが際どい。

 見ているこっちの心臓によろしくないようなギリギリの躱し方だった。

 意図的に一呼吸置いてから躱しているように見える。

 どういうつもりだ?

 真剣そのものな目をしているから遊んでいる訳ではないだろうけど。

 よく分からんな。

 俺がレオーネの意図を量りかねている間もザリガニは攻撃の手を緩めようとはしない。

 暴走状態だから当然なんだが、それにしてはハサミ以外の動作が鈍い。


「とおっ」


 レオーネに向き直ってはハサミを振り下ろすを繰り返しているんだが……


「なんだかなぁ」


 思わず声に出てしまうほどザリガニの敏捷性に問題がある。

 ハサミの振り下ろしだけはそれなりに速いので話にならないレベルではないけれど。

 どうも方向転換に難があるようだ。

 まあ、あの巨体に見合わぬ華奢な脚だからね。


「せぇいっ」


 それにしても何だろうね。

 レオーネは躱す前に掛け声を必ず入れている。

 それも脱力しそうになるような気の抜けた声で。

 不真面目な感じに見えてしまうんだが。


「おーい、真面目にやれよー」


 少し離れた所で躱し続けているレオーネに声を掛けた。


「すいませーん」


 回避しながら謝ってくる。

 どうやら自覚はあるらしい。

 おいおい、余所見をしている余裕があるのか?

 ザリガニのモーションが変わったぞ。

 ハサミを大きく開いて引くような構えになっている。

 突き出されるハサミ。

 振り下ろしと変わらないほど速い。


「こんな風にー」


 対するレオーネは緊張感のない言葉を発しながら回避する。

 直後にハサミが閉じられた。


「ガチン!」


 俺の推測は正解だったようだ。

 ありゃあオーガ程度なら碌に抵抗できず真っ二つになるな。

 おっと、もう反対側の腕が次のモーションに入っている。


「声を出さないとー」


 すり抜けるように躱すレオーネ。


「バチン!」


 あー、痛そうな音だ。

 今度も準備ができている。

 振り下ろしより明らかに速い。

 どうやら偶々ではないようだな。

 挟み込みは振り下ろしより速く繰り出せる。

 重いハサミを振り上げる動作の分だけ差が出ることを考えれば当然のことか。

 それと回避するレオーネの方にも攻撃の回転を上げる要因があった。

 振り下ろしの時は死角へ死角へと回り込むように回避していたのだ。

 それが途中から正面に留まる躱し方をするようになっている。


「全力をー」


 またもギリギリで躱す。

 躱す頻度が高くなってきたなと思ってはいたんだけどな。

 訓練として考えれば間違ってはいないので特に口は出さなかったんだが。

 前に敵が居続けるとザリガニの攻撃パターンが変わるようだ。

 レオーネもインターバルを入れるために何回かに1回は死角へ入っている。

 が、その程度じゃ向こうも攻撃パターンを変えてきたりはしない。


「バチン!」


 それとも振り下ろす攻撃は威嚇からしばらくだけなんだろうか。

 分からんな。

 ただ、レオーネは連続攻撃にも動じる様子はない。

 が、どうにも違和感がある。


「出してしまいそうなんですー」


「ガチッ!」


 なんだそりゃ。

 途中までは何を言い出すのかと思っていたが、今は「なに言ってんだコイツ」の心境である。

 気合いの抜けそうな掛け声でないと全力で動いてしまって制御できなくなるとか訳わからん。

 軽やかなステップで回避しているのに、間の抜けたことになっている。

 残念すぎるだろ。

 それ以前に掛け声に頼りきるのは問題がある。

 隠密行動が必要な時なんかは特にな。


『掛け声禁止』


 でないとクセになりかねない。

 ハッキリと聞こえるように念話に切り替えて通告した。


「ええっ!?」


 驚きに包まれた表情で俺を見ながら回避してるぞ。

 器用な奴だ。

 それとよそ見をするな。

 危なっかしい。


『ダメなものはダメ』


「そんなー」


 会話を成立させながら上手くタイミングを合わせて躱してやがる。

 ある意味、凄いんだが徹底させないとな。


『以後は戦闘終了まで会話は念話限定だ』


「……きゃー!」


 返事を声に出さないよう我慢していたようだが反動が来た。

 申告通りの勢いでレオーネがすっ飛んでいく。


「おー」


 なんだか可愛らしい悲鳴だったな。

 今までの印象からするとギャップがあり過ぎというか。

 クールなお姉さんだと思っていたんだが、もしかして中身は違う?

 ……いま考えることではないな。

 肝心のレオーネだが自力で踏みとどまっていた。

 2回目なら制動姿勢を取ることもできるか。

 ザリガニからは距離を取る形になってしまったが、これなら大丈夫だろう。


『その調子で頑張れ』


『そんなぁ』


 情けない調子の返事が念話で返される。

 どうやら地が出てきたようだ。

 俺の言いつけを守ることに必死になりすぎて頭が回っていないものと思われる。

 そんなことを考えていた時である。

 俺の頭上から影が差した。

 もちろんジャイアントクローフィッシュである。

 近づいているのは把握してたけどさ。

 散々振り回されたレオーネではなく手近な奴から攻撃しますかね。

 狂った状態ならそんなものなんだろうか。


「……………」


 そして相変わらず鳴き声なしの威嚇行動である。

 何度見ても迫力がない。

 本当に狂乱状態なのかと言いたいくらいだ。

 こいつの普段の生態を知らんからなんとも言えないところではある。

 ハサミの振り下ろしが来た。

 やはり威嚇の後は振り下ろしか。


『ハルト様っ!』


 おー、咄嗟のことなのに念話の縛りを律儀に守ってますな。

 ザリガニのハサミは、とりあえず左手で軽く受け止めた。

 別に受け止めるほどでもない攻撃力だが、それだとレオーネの参考にならない。


『よく見ておけ』


『え?』


『少しの間だけ手本を見せる』


『は、はいっ』


 念話で話している最中だが、そんなことはザリガニには関係のないことだ。

 俺に止められた反対のハサミを広げて構えている。

 今度はぶった切るつもりか。


読んでくれてありがとう。

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