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305 契約を求めています

修正しました。

ついたいう → ついたという

得に → 特に


 やたらとデカいフェンリルを召喚してしまった。

 前と同じのを召喚したつもりなんだが。

 想定外だ。

 何か間違えたっけ?

 いや、気配とか魔力の感じから同じものを感じる。

 それ以前に尻尾振ってるし。

 表情も嬉しそうだよ。

 相変わらず怖い顔つきだけど。

 デカくなった分だけ迫力が増してるけど。

 決して目の前にいる俺が美味しそうだなんて思ってないはずだ。


「……………」


 やっぱり顔なじみのフェンリルだと思う。

 急に見上げなきゃならんほどデカくなった理由が不明だけど。


「お前は俺が前に召喚した奴だな」


「ウォ」


 頷きながら答えるフェンリル。

 ほらね。


「デカくなりすぎだろ」


「クゥーン」


 尻尾の動きが止まる。

 項垂れて寂しそうなドンヨリした空気を発している。

 落ち込みすぎだろ。


「いや、お前を責めたわけじゃない」


 尻尾のパタパタが戻る。

 ドンヨリな空気も綺麗サッパリ消えているぞ。

 変わり身が早いな。

 前との違いが大きさだけとは思えないので【天眼・鑑定】を使ってみた。


[ハイフェンリル:上位の妖精種]


「…………………………」


 進化したってことだよな、これ。

 思わずズッコケそうになったさ。

 自力でとは考えにくい。

 前に召喚してからさほど日数が経過していないし。

 あの時にはそんな兆候など見られなかった。

 ということは、こうなるように仕向けた犯人がいるってことだよな。

 誰かなんて言うまでもない。

 まったく、ラソル様は何してくれやがりますか。

 せっかく用意した熱気を遮断する首輪が使えなくなってしまったじゃないか。

 これもルディア様にメールで報告だな。


「呼び出して済まんが、これが使えなくなった」


 ハイフェンリルが首を傾げている。

 首輪なんて見たことないだろうから当然の反応だな。


「これは俺が作った熱気を遮断する魔道具だ。

 前に召喚した時の大きさのままだと思って作ったが、サイズが合わねえよな」


 首を横に振るフェンリル。

 んー? 首輪が嫌というような反応ではないな。

 もしかして進化したから熱いのも平気とか?

 まさかなと思って鑑定の詳細を確認してみたら、そのまさかだった。


[フェンリルと異なり酷暑の環境でも苦にしない]


 そりゃ好都合だと思ったが、続きがあるな。

 どれどれ……


[火炎に対する耐性も高くダメージを受けない]


 弱点克服しすぎだろっ!

 こっちとしちゃ好都合だけどさ。

 それよりも気になるのは──


[人化可能]


 これですよ。

 サイズはヒューマンとほぼ同等の状態で人型になることができるみたいだ。

 個体差があるから背の高い低いはあると思うけどな。

 それでも巨人とか小人みたいな極端なことはないはずである。

 要するにシヅカのようなことができるって訳だ。


[人化すると会話可能]


 要するに声帯などの構造上の問題で人語を喋ることができないってことだよな。

 こういう所はシヅカとは違うな。

 けど、念話なら人化しなくてもいけるんじゃね?


『聞こえるか?

 聞こえるなら念話で返事しろ』


『クゥーン』


 返事できるのになんでそんなに寂しそうに答えるんだよ。


『人間の言葉は理解できるよな』


『ウォ』


 お、今度はちゃんと答えられたようだな。


『自分で喋ることができるほどじゃないのか』


『クゥーン』


 どうやら、そのようだ。

 これってつまり人化しても人語を覚えるまでは喋ることができないってことだよな。

 ちょっと残念である。

 そうと分かっていれば、召喚時にオマケで覚えさせたんだが。

 あ、でも契約が前提になるな。

 その場合は国民として迎え入れることになるのか……

 今回は時間が無いから教えている暇があるかどうか微妙なところだ。

 まあ、愚痴っても始まらない。

 いずれにせよ今は人化させたりしないからね。

 何故かって?

 此奴は絶対に服なんて持ってないぞ。

 進化前は人化なんてできなかったんだし。

 おそらくは一度も人化していないはずだ。

 そんな奴が事前に服が必要だと判断して用意すると思うか?

 少なくとも俺はそうは思わない。

 いま人化させれば、真っ裸を披露することになるだろうよ。

 これでもし此奴がオスだったら俺は見たくないぞ。

 メスなら恥をかかせることになるから見ようとは思わない。

 そういうシチュエーションで本人が恥ずかしいと思うかは分からんがね。


「なんにせよ前より耐性がついたというなら好都合だ。

 報酬ははずむから一仕事頼みたいんだが、いいか?」


「ウォ」


 軽く吠えてコクコクと頷くハイフェンリル。

 次の瞬間には【諸法の理】がシステムメッセージを表示させてきた。

 珍しいな、どういうこと?


[ハイフェンリルが契約を求めています]


 納得だ。

 言葉が通じないからアシスト機能が働いたわけだ。

 前は暑がりだから契約できないだろうなと思っていたんだが、今はそういうことがない。

 しかも、俺のせいで進化してしまったしなぁ。

 デカくなったせいでフェンリルの群れの中で仲間はずれにされてたりしたら責任を感じるし。

 多分そういうことはないとは思うんだけど。

 まあ、なるようになるだろ。


「お手」


 ヒョイと前足が俺の手の上に乗せられる。

 デッカいが浮かせるように乗せてきているので重さは感じない。

 なかなか気配りできる奴だな。

 それじゃあ契約といこうか。


「……………」


 向こうの繋がりたいという意識が俺の手から伝わってきた。

 そこに合わせて俺の魔力を通していく。

 ハイフェンリルの魔力と繋がったら魔力の一部を混ぜ合わせて譲渡する。

 向こうが受け取ったら今度は俺が吸収。

 これで、よしっと。

 契約が完了した。

 ハイフェンリルの前足を放す。


『これからよろしくな』


『ウォッ』


 ハイフェンリルは嬉しそうに尻尾をブンブンと振った。

 お手をしてからわずか10秒足らずで明確に繋がりを感じるようになったぞ。

 どうやら女の子だね。

 ついでに言語と俺の知識も渡しておいた。

 ハイフェンリルの側で情報を整理するのに多少時間はかかるだろうが特に問題にはならない。

 情報を整理しながらでも俺が任せようとしている仕事程度は楽勝だからな。


[-/妖精種・ハイフェンリル/守護者/女/0(286)才/レベル238]


 名前が横線って……

 俺が名付けろってことか。

 今すぐってのは勘弁してくれ。

 人化した姿を見てからの方が相応しい名前を思いつきそうだし。

 種族とかジョブはまあ順当だ。

 年齢は性別からするとツッコミは入れない方がいいだろう。

 0才というのはハイフェンリルとしてってことなんだろう。

 それよりレベルの方が気になる。

 先輩守護者たちには大きく差を開けられてはいるが、うちでもトップクラスだ。

 これなら俺が魔法を使わなくても計画していたことが実行できそうである。

 最初はハイフェンリルに実行させる振りをさせて俺が魔法でと考えていたんだがな。


「それじゃあ次は魔法で穴掘るぞ」


 穴掘り担当は月影と決めている。

 今回は悪いがサポートに回ってもらう予定だ。

 こうでもしないと出番がないとも言う。


「ノエル」


 俺が呼ぶと近寄ってきた。


「穴を掘ればいいの?」


「そうだ、月影で分担してあの辺りから向こうの──」


 対角線となる2点をおおよそで伝えて長方形になるよう指示を出した。


「わかった」


 コクリと頷くノエルが俺を見る。


「深さはどのくらい?」


 おっと、その指示を忘れていたな。


「15メートルで頼む」


「了解」


 頷いたノエルはすぐにルーリアたちを集めて軽く説明した後に穴掘りを始めた。

 ノエルを中心に等間隔で横一列に並んだ月影の一同。

 彼女らが両手を前に突き出す。

 魔力の流れを感じたと思ったら指定した範囲の地面がボコボコと音を立て始めた。

 ほう、まずは柔らかくして処理しようというのか。

 考えたな。

 一気に地面を下げると魔力の消費もバカにできなくなるからな。

 あと、地震と勘違いされるくらいの振動も発生するだろうし。

 こちらでも街の方へと振動が伝わらないように遮断しておこう。

 ついでに出現が想定される地点から俺たちの方にも伝わらないようにしておく。

 でないと、魔導師団の連中がパニックを起こしかねないからなぁ。


「……………」


 これで、よしっと。

 そうして俺が空間魔法で振動を伝わらないようにした直後。

 ノエルたちが次の魔法に取り掛かり始めた。

 軟らかくなった土を徐々に横方向へ押し退けていくだけの簡単なお仕事です。

 理力魔法を使っているんだけど地魔法に見えるような動きに偽装している。

 土が波のように動いて押し退けられていくのは正直なところ気持ち悪いがね。

 蠢き感があるというか、とにかくキモい感じだ。

 で、端っこまで到達すると壁のように積み上げられていく。

 押し固めては積み上げを繰り返し、ついには城壁のような壁となっていた。

 それなりの量があるので穴へと誘導する形で出現想定地点の方へと伸びている。

 これなら取りこぼしも大幅に減るだろう。


「エクセレント、上出来だ」


 ノエルが戻ってきたので頭を撫でて褒めてみた。


「ん」


 満足げな笑みが返ってくる。

 こういうところは子供っぽいんだが思っても口に出してはいけない。

 むくれられるのが目に見えているからな。

 一方で魔導師団員たちがお通夜状態である。

 時間が無いのでノエルたちに本気を出させたからだろうな。

 体育座りで黄昏れているんですが……

 さすがにナターシャは仲間入りしなかったが、呆然としているな。


「凄いですね。

 そして素晴らしいです」


 総長だけがリーシャたちの方を見ながら感激していた。

 種族的に魔法を苦手としているはずのラミーナがあれだけできることに驚きを隠せないようだ。

 それを口にしないのは差別的な発言になるかもと配慮してのことなんだろう。


「これは団員を徹底して鍛える甲斐がありそうです」


 怪しい笑みを浮かべるBBAがここにいます。

 俺の心情としては「お巡りさん、こっちです」と丸投げしたいところだ。

 生憎とここは日本ではないので通報しても誰も来てくれないんだが。


「やめておけ、退団する奴が続出するぞ」


 しょうがないので俺が釘を刺しておく。


「それもそうですね。

 残念ですが特訓は軽めにしておきましょう」


 やめないのかよ。

 そうでなくても体育座りした約8名が何かブツブツ言い始めているんだ。

 完全に鬱ってる連中に追い打ちなんかかけたら、止めを刺すようなものである。

 ちょっとは自重しろよ。

 これ以上は俺の関知するところではないから、口出しは控えるがな。

 あと、彼らの呟きはシャットアウトさせてもらったよ。

 ショックが計り知れないと分かれば充分だ。

 魔導師団員たちが憐れにも思えるが、うちの国民ではないからな。


読んでくれてありがとう。

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