304 戦うよりも説明する方が面倒だ
修正しました。
従来 → 往来
「そこまでしなければならないことなんですか」
そう言ったのは総長だ。
俺が遮音と視覚の結界を使ったことに軽くではあるが驚いている。
「えっ!?」
護衛騎士部隊の副隊長リンダは思わずと言った様子で総長の方へと振り向いていた。
大きく目を見開いているな。
俺の言ったことを事実として認識したが、どれ程のことをしたのかは理解できなかったのだろう。
それが総長の反応を見て、ただ事でないと今更ながらに気付いたといったところか。
まあ、心構えをしてもらうという意味では驚いてくれる方が有り難いね。
これから話すことは西方の常識では飢饉よりも危機的なことみたいだから。
迷宮の暴発による数多の魔物による暴走は、それほどのことなのだ。
言うまでもなく【諸法の理】による情報です、ハイ。
「向こうの方に出入り口のないダンジョンがある」
街から見て往来とは正反対の方を指差しながら言ってみた。
この情報だけで何が起こるか分かるなら、それなりの反応が見られるだろう。
暴発についての知識はあまり知られていないみたいだから期待はしていないんだけど。
「なんですとっ!?」
大声を出したのはダニエルだった。
が、総長も驚愕している。
少し意外だったのはリンダも顔を顰めるようにして驚いていたことだ。
これは3人ともダンジョンが暴発する条件を知っているな。
彼らにとっては文献などで得られた知識に過ぎないだろうが。
故に暴発はその恐れがあるという程度の認識になるはず。
それでも無視できるものではないだろう。
酷い場合には国が滅ぶほどの被害が出るのだから。
ゲールウエザー王国ほどの国力があればそういうこともないのだが。
しかし無視できる被害では済まないのも事実。
「それは本当なんですか」
訝しむような表情で聞いてくるリンダ。
そういう学説はあるのを知ってはいるが半信半疑というスタンスだろうか。
いや、俺が感知したことを疑っていると見るべきだな。
暴発により魔物が湧くことについては、その恐れが非常に高いと考えていると思う。
それ故に俺の言ったことが事実であるなら無視できない。
だが、情報に信憑性がないと言いたいのだろう。
有り体に言えば証拠を示せということだ。
そりゃあ鵜呑みにはできないだろうな。
発言の根拠となるものを何にも提示していないんだし。
不確定情報に踊らされることだけは避けたいと考えているのだろう。
俺が他国の王であることから、あからさまな発言は避けているけど確実に疑われているよな。
そのスタンスは間違っていないし俺もそれでいいと思う。
言っておくが、この程度のことで不愉快になったりはしないぞ。
現場の警備責任者として確認する義務があると考えるのは当然のことだもんな。
デマであるかも知れない情報に翻弄されて混乱するのが良くないことを理解している証拠だ。
そして頭ごなしに否定せずに確認しようとしているのがいいね。
ちゃんと万が一を考えているってことだ。
ただ、俺としても証拠を提示するのは難しい。
魔法で地下を探査しましたなんて言おうものなら疑われるを通り越してウソと断定されかねない。
どれだけ大規模に探査できるんだよということでね。
順を追って事細かに説明している暇はないしな。
「1時間もしない間に湧くから見たけりゃ残ればいいと思うぞ」
こう言うしかないのである。
「「「─────っ!?」」」
某叫んでいる有名絵画そっくりな驚きっぷりを見せてくれる約3名。
リンダも完全に疑念を捨てている。
さすがに時間的猶予の無い状態だとは思っていなかったようだな。
幻影魔法で周囲への認識阻害をセットしておいて良かったよ。
「たたた、大変ではないですかっ」
珍しく総長が慌てていた。
「街の人間にとってはそうだろうな」
「そんな悠長なことを言っている場合ではありませんぞっ」
ダニエルも焦っている。
「だから適当な理由をつけて街の連中を中に戻してほしいんだ」
「「「え?」」」
一瞬、動きが止まったね。
訳が分からないと言いたげな目で俺を見てくる3人。
「もしかして討伐されるなどとは仰いませんよね」
リンダが恐る恐るといった様子で聞いてきた。
「ん? 普通に狩るだけだが」
「「「っ!?」」」
いや、叫ぶポーズで固まらないでくれる?
数は最低の数百程度になりそうだから、それほど苦戦しそうにないんだが。
こんなの最初に湧いたゴブリンどもを相手にした時に比べれば楽勝コースだ。
あのときは環境破壊を最小限にするために縛りを入れていたし。
幸いにして今回は地形を気にする必要が無い。
出現すると思しき場所から魔導師団が開墾した所までの間にこれというものがないからな。
問題はやり過ぎて騒がれることになると面倒ということだ。
街中からは見えないように幻影魔法でブロックするのは確定である。
それでも、総長あたりは居残るだろうし。
当然のようにナターシャも残ると思う。
魔導師団の面々も五分五分で残るだろうなぁ。
総長1人なら口止めするのも難しくないかもしれないけれど。
他の面子がいると難しい。
そういう意味ではゴブリンの時と同じような縛りが入る訳か。
面倒くさいが、しょうがない。
誰かが居残っても言い訳ができる程度には地味に片付けるさ。
あるいは他力本願的な方法にするか。
でないと後で根掘り葉掘りされそうだし。
そうと決まれば、魔導師団以外の面々だけでも街へ入ってもらわないとな。
うちの面子? 新人かどうかに関係なく残すよ。
勉強になるからね。
あと、これくらいで腰を抜かさないように耐性をつけてもらわないと。
いっそのこと経験値を稼がせるのもありか。
やりようはある。
「幸いにして開墾の実演は終わっている。
そこを上手く利用して話を持って行ってくれ」
ダニエルに向けて提案する。
これで了承すれば魔導師団以外が街へ向かう形になってくれるはず。
つくづく今日というタイミングで良かったと思う。
こちらは俺たち以外は人払いの形で誰もいないからな。
本来なら元々あった畑で何人かは作業していたはずである。
そんなのがいた日には強制的に眠らせたりとかしないといけなかっただろう。
「ですが……」
煮え切らない様子を見せるダニエル。
「今後の予定の話し合いとでも言えば街に引っ込むくらいはどうとでもなるだろ」
「そういうことではなくてですな」
「籠城した方が良いのでは……」
リンダも食い下がる。
これは国賓待遇の俺たちに何かあった場合を考慮してのことだな。
さすがに俺らでも暴走した魔物の大軍には及ばないと思っているようだ。
こっちにしてみれば、そういう配慮は無用ですってとこなんだが。
それに籠城は下策だ。
過去には街が滅ぼされたことがあるみたいだし。
それを知らないはずはないだろう。
昔の文献などを読まなければダンジョンの話をした時にあれほどの反応をしたりはしなかったはずだ。
おそらく運任せなんだろうなぁ。
湧いてくる魔物がパワー系や飛行型でないことを願いながらの籠城選択。
相手がゴブリンなら間違いではない。
奴らだって無尽蔵に体力があるわけじゃないからな。
狂乱している時はしつこいし本来以上の力を発揮してくるけど。
それでも街の防壁に穴を開けるほどのことはできないだろう。
故に体力が尽きて止まるのを待つのは普通の対応だと言ってもいい。
逆に防壁で守り切れないのが湧いた時は詰みだ。
例えばオーガ。
狂乱したオーガの群れだと、この街の防壁はじきに突破されるだろう。
あるいは赤面みたいな空を飛ぶ魔物。
防壁も飛び越えられてしまっては意味がない。
「ハッキリ言っておく」
ああ、面倒くさい。
この場にいるのがミズホ組だけならノンビリ湧くのを待つだけなんだよな。
部外者の説得とかいつまでもやってられん。
うちの戦力で取りこぼすはずがないと言えないのがもどかしい。
「俺らはここから動くつもりはない。
残るなら好きにしろ。
ただし、そちらの面倒は見ないからそのつもりでな」
言外に足手まといは去れという意味を込めたつもりだ。
俺の冷ややかな視線を浴びたダニエルは引きつりそうな顔のままで固まっていた。
が、それもわずかな時間である。
「わかりました。
地元民は街の中に引き上げさせます」
決意に満ちた目はこの国の宰相としてのものだ。
間違いなく仕事を全うしてくれるだろう。
そしてダニエルの宰相としての決断を聞けばリンダも口出しはしてこない。
「ヒガ陛下、御武運を」
「御無事をお祈りいたします」
ダニエルとリンダが一礼して去って行った。
そして総長が残っている。
「魔導師団は残すのかい」
「私が残ると言えば誰も帰らないでしょうねえ」
やれやれ、完全に残る気だよ。
「部下の安全を確保するのも上司の責任じゃないのか」
「後ろに下がって見学させていただこうと思っています」
前に出なければ被害はないと考えているようだな。
俺が残るのは賭ではなく確実性のある行動だと読んだようだ。
抜け目がないというか、侮れない婆さんだよ。
胆力もダニエルよりあるな。
団員たちはそれに振り回されることになるんだけど。
「それなら口止めが必要だな」
「どうやら隠し球があるようですね」
よく言うよ。
最初からそこまで読み切っていたくせに。
「そこまで大したもんじゃないさ」
アレを見て魔導師団の面々が腰を抜かす可能性はあるけれど。
「御謙遜を」
クスクスと笑っている。
実にやりにくい。
具体的に何をするかまでは読めていないと分かっていてもな。
つまらないことで精神を削られる思いをするのは嫌なので、その後は世間話に切り替えた。
そうこうしている間に宰相一行と街の人間たちが町の方へと向かって動き始める。
上手くやってくれたようだ。
同時にナターシャもこちらに来た。
「総長、我々はいかがいたしましょう」
ダニエルの話を聞いてから判断を仰ぎに来たようだ。
「しばらく休憩とします」
「了解しました」
ナターシャはこの中途半端な指示にも特に反応することはなかった。
淡々とした感じだね。
総長の指示を伝えるために部下たちの元へ向かうのみだ。
悪いけど、本番前に騒がれるわけにはいかんのよ。
まだ近くに部外者がいるからな。
街まで引っ込んでくれれば説明くらいはしてもいいけど。
というか、それは総長に任せるさ。
お、今度はうちの面々がこっちに来たか。
「それでワシらはどうすればいいのじゃ」
真っ先に聞いてきたのはガンフォールだった。
「とりあえず待機。
向こうの面々が街中に入ったら戦闘準備を始める」
「全員か?」
「ミズホ国民は強制参加だ」
新国民組は「マジっすか!?」みたいな顔をしている。
「フォローするから心配は無用だ」
この一言でABコンビ以外は落ち着きを取り戻した。
バーグラー王国で色々やったのを見てきているからな。
目撃者となれなかったABコンビはしょうがない。
「とりあえず久々に召喚するか」
まだダニエルたちが街へと帰っている途中だが充分に離れているから結界を使おう。
街側から見られないようにするのに必須だからね。
タイミング的には少し早いけど問題は無い。
普通はギリギリまで粘って消費魔力を節約するところなんだろうけど。
回復分で軽く賄える程度だし。
さて、それじゃあ召喚だな。
フィンガースナップも面倒なので省略だ。
何の前触れもなく、すぐに思い浮かべた相手が俺の目の前に現れた。
「こ、これは!?」
総長が驚き、魔導師団員たちは腰を抜かしている。
新国民組も呆然としているか。
いや、俺もちょっと驚きなんだけど。
俺の目の前には嬉しそうに尻尾を振ってお座りをしているフェンリルがいた。
ただし、前に見た時よりも数倍はデカいんですがね。
どういうこと?
読んでくれてありがとう。




