31 街づくりを始めたら招かれざる客が来た
改訂版です。
『あれからたった2週間でなぁ……』
妖精たちが驚くほどレベルアップした。
全員、倍以上である。
忍びの者として覚醒したと言えるだろう。
国内に残っている5個のダンジョンすべてを踏破したからか。
迷宮核は破壊していないので完全攻略とまでは言えないがね。
まあ、あえて破壊しなかったのだけれど。
素材を提供してくれる資源だし。
妖精たちのトレーニング用としてもまだ使える。
これから迎えるであろう国民が利用することも考えれば残した方が良いと判断した。
強い者ばかりを集めるわけじゃないからね。
連れてくるための判断基準は信用するに値するかどうか。
ローズの審査と俺の直感で決める。
『変なのを国民にしたくないからなぁ』
で、連れてきたのをダンジョンで鍛える訳だ。
当面は無理だけど。
魔物は外に放出された野良も含めて狩り尽くしたのでね。
本来のダンジョンとして回復するまで時間がかかる。
やり過ぎ?
いいや、やりたいことがあるから間引いて時間を稼いだのだ。
生産、農業、漁業に街づくり。
生産は主に服飾関係である。
糸を用意できるツバキが中心となって忍者服以外の平服も多種多様に用意した。
ローズもツバキの作る服が気に入ったのか今ではほぼ毎日着替えている有様だ。
『気紛れだから着ない日もあるけどさ』
妖精たちも訓練や狩りの時以外は平服だ。
普段はその存在を知られぬようにするのが本当の忍者だと教えた結果である。
神妙に頷いていたのが印象的だった。
『どこまで忍者が好きなんだよ……』
冗談で考えた忍精戦隊ヨウセイジャーも妖精たちの反応しだいで採用かもな。
一つの戦隊で50人以上とか無茶苦茶だけどな。
『必要なのは変身アイテムと戦闘用スーツか……』
農業は街づくりのオプションとも言える。
地質や地脈を調べ農地に適した場所を選定した上で妖精たちに開墾させた。
これも訓練の一環だ。
筋力と持久力の強化が狙いである。
開墾用の道具は俺が錬成魔法で用意した。
訓練込みなんだしシャベル、鶴嘴、鍬で十分でしょ。
そんな感じで道具を作成していたら思わぬ収穫があった。
ツバキが見よう見まねで錬成魔法を試したら道具を作成できたのだ。
さすがに品質はいまいちだったが。
それでも金属加工は無理だと言っていたことを考えれば上出来だ。
どうして出来るようになったのかは本人にも謎らしい。
『レベルが98になった影響が大きいのかな』
これで作成系スキルの熟練度が上がったらどうなるやら。
ともかく修練を積めば色々できるようになりそうだ。
今後は資質がありそうな他の者たちにも広げていくとしよう。
生産の幅も広がるしな。
開墾が終わったら農業の方も魔道具とか用意して後で色々手を加える予定だ。
結界で害虫や害獣を寄せ付けないようにするとか。
水量や日射量のコントロールとか。
最初は実験農場的に狭い範囲でないと管理できないだろうけど。
『あ、でも自動人形に管理させればいいのか』
漁業は水中戦と魔法の訓練をかねて一部解禁。
網状の結界で外からデカい魔物とかが入り込めないようにして調練してみた。
さすがに地上と同じ動きは望むべくもなかったね。
それでも水魔法のおかげで易々と魚を捕らえることができている。
どうやら水中でも簡単には後れを取らずに済みそうだ。
一方で街づくりは俺がメインだ。
というより妖精たちは、ほぼ見学。
ここは俺の我が儘を通させてもらった。
『俺が手がける最初の街だからね』
まずは地魔法全開で海辺以外の砂や粘土を素材として回収。
目指すは災害に強い街。
地震に強い土地になるように強固な地盤に変質させていく。
さすがに大都市級の人口を抱えられるだけのキャパを持った土地は広い。
回復が追いつかないくらいガンガン魔力を消費してしまった。
妖精たちはドン引きである。
『やり過ぎたかなぁ』
えっ、ローズさんですか?
凄いとか面白いとか「くーくー」言いながら堂々とはしゃいでますよ。
つくづく思うけど大物だよね。
「さー、訓練の時間だよ」
ということで妖精たちの出番である。
「何をするのですか?」
カーラが尋ねてきた。
「素材として回収した砂や粘土の代わりとなる土や砕石を地魔法で出すだけだよ」
総掛かりでヒーヒー言いながらやってたけど魔力不足で中断した。
残りはローズがカバーして終わらせたけどね。
それにしても妖精たちは予想外に魔力量が少ない。
魔力操作も微妙に感じた。
同じ魔法でも俺が1の魔力で済ませるところを8くらい消費している。
ローズで3くらいだから妖精たちのレベルを考えるとむしろ上出来な方なのか。
魔力の回復も似たようなものだ。
『【魔導の極み】を持ってる俺を基準にしちゃいかんのか』
そう考えて何気なく自分のスキルをチェックしていたら目が点になった。
『【魔導の極み】が進化してる!?
神級スキル【魔導の神髄】って何よ!?』
危うく声に出してしまうところだった。
セーフです、セーフ!
危ない人認定はされたくないからな。
さすがに熟練度は10だけど。
でも【魔導の極み】の熟練度MAXより上なんだよな。
それにしても、いつの間に修得したんだ?
大量のゴブリンどもを始末したときには進化してなかった。
まあ、あの時に寸前まで来てたのかもな。
魔法はバンバン使ってるし。
『てことは、魔法も使いまくれば鍛えられるのか。
これは妖精たちを手っ取り早く強化できそうだな』
思わずニヤリと笑ってしまったのだが妖精たちが震え上がっていた。
あくどい笑みに見えてしまったか。
心配しなくても俺は厳しくはしても無茶はさせないぞ。
とりあえず休んでおけと言うと皆一様にホッとした顔をしていた。
『では、続きと行こう』
長くて頑丈な石柱を無数に作り出して等間隔で地中深くに埋め込んでいく。
これは地震の揺れの影響を少なくするためのものだ。
いざという時は振動波を打ち消す封印を施してある。
沢山あるのは相互作用で効果を高めるようにして魔力消費を抑えるためだ。
封印で使われる魔力は地脈から少しずつ得て蓄積するようにした。
迷宮核を見て思いついた方法だが、あれほど派手には吸わない。
一定以上の揺れの地震の時だけ発動するようにしたからね。
大きな揺れの地震であればあるほど減衰させる仕様だ。
これなら吸い上げるのが微量でも魔力を溜め込む時間はある。
一応は保険として地上からも魔力を込めることができるようにしておいた。
というわけで初回だけは俺が魔力をチャージしてある。
これで、どんな地震が来ても震度3以下になる。
後は建物を耐震や制震などの構造にしておけば十分に対応できるだろう。
続いては水捌けを良くする。
雨上がりに水溜まりができないようにするのに始まり渇水と豪雨の災害対策まで。
排水には気を遣う。
『地盤に影響しかねんし。
カビの害も馬鹿にできんからなぁ』
もちろん渇水対策も重要だ。
大河はあるし魔法で補うこともできるが、何が起こるか分からんからな。
『ここは、ひとつ派手にやってやろう』
魔法で地下水路だの巨大貯水槽だのがバンバンできていく。
空間魔法で地下に視覚を飛ばして確認しながら作業してるんだが。
工期の長い工事現場の超早送り映像を見ているような感覚だ。
『これ、妖精たちに見られたらドン引きものだな』
妖精たちには見えていないのが不幸中の幸いか。
『けど、魔力の流れとかで魔法の規模がバレバレなんだよなぁ』
彼等の視線が生暖かいのは気のせいではないだろう。
ドン引きしなくなっただけマシかもな。
あまりの非常識っぷりに、もはや呆れることもできないのかもしれない。
『それでも俺は俺の目指す街づくりを止めんぞ』
下水とか浄水の処理施設も必要だ。
が、これらに関してはスペースの確保のみにしておく。
処理用の魔道具を妖精たちに作らせてみるのもありだと思ったからだ。
魔道具作成のノウハウはゼロだろうから後日ってことになるけどな。
で、本日の作業は残す所あと二つ。
道路の舗装と城塞の土台作りである。
俺は魔力に余裕があるけど時間がない。
そろそろ夕方だし、と思っていたら面倒なことになった。
「ちっ」
思わず舌を鳴らしてしまう。
西側から急速に接近する気配が多数。
遠くからでも殺気を感じるから接触すれば戦いになるのは間違いない。
『このタイミングで邪魔が入るとは俺に恨みでもあるのか?』
まあ、俺の勝手な思い込みだ。
何でも自分の都合通りになるもんじゃない。
「しゃーねーなぁ。
残りは明日に持ち越しだ」
「どうした」
ツバキが声を掛けてくる。
どうやら気配にはまだ気付いていないようだ。
「邪魔な連中が真っ直ぐこちらに向かってくる」
「む?」
注意深く観察するように俺の視線の先を探っている。
「わからぬな」
本当なのかと言いたげに俺の方を見てくる。
分からないのはしょうがない。
まだまだ距離があるからな。
「大陸から飛んで来てるからな」
俺が派手に魔法を使っていたせいで反応したのかもしれない。
「なにっ」
「デカくて早い」
俺の方をギョッとした表情で見てくるツバキ。
「それはよもや竜ではあるまいな」
「んー、普通の竜は群れねえよ」
60匹以上はいる。
実に鬱陶しい。
「あの感じだと亜竜だな」
「ワイバーンか!?
それも群れなどと……」
ツバキが驚愕し、妖精たちがざわめき始める。
たかが翼竜ごときで大袈裟だ。
『あれから2週間もみっちり修行したでしょうが』
充分に休んだから魔力も回復しつつある。
少なくとも怠そうにはしていない。
『魔法を使わせなきゃ大丈夫だろ』
「総員、戦闘準備」
俺のその言葉に全員が引き締まった表情で立ち上がった。
「相手はワイバーンだが60匹以上いる」
淡々と語る俺に対して妖精たちはざわつき始める。
ローズさんは鉤爪伸ばして「くーくっくっ」って肩を揺らして不敵に笑ってましたがね。
「静かに!」
ピタリとざわつきが治まった。
「奴らは俺がすべて叩き落とす」
今の妖精たちじゃ翼竜との空中戦は無理がある。
地対空戦闘も魔力が回復しきっていない現状では厳しいだろう。
ならば同じ土俵に落とすまで。
魔法もブレスも使えない亜竜など脳筋戦闘しかできんからな。
デカくてそこそこ強いから色々とおいしい獲物ではある。
食材的にも素材的にも。
あと、妖精たちの経験値稼ぎにはちょうど良さそうだ。
ムカつくタイミングで強襲してきやがったが、貰うものは貰っておこうじゃないか。
「飛べないように落とすから魔法を使わずに倒せ」
俺の指示を聞いて気配が戦闘モードに変わる。
怖じ気づいていないようで何よりだ。
「弱点は首だ。
思い切りぶちかまして、へし折れ」
弱点という単語に全員の目がギラッと光った。
なかなか獰猛に見える。
『ヤダ、コワイ、食べられそう』
「……………」
自分の中で完結する冗談ほど虚しいものはないな。
それはさておき、そろそろだ。
「数が多いから数名でチームを組め。
互いにカバーし合って隙を見せるな」
「「「「「了解!」」」」」
良い返事だったが少し気負いすぎてもいるようだ。
既に小さい影の状態ながらも視界に捉えているせいだろうか。
グングンと大きくなるので重圧感はそれなりにあるようだ。
空を飛んでいれば奴らは俊敏に動けるからな。
象並みの巨体だからパワーもあるし。
今の妖精たちの防御力では一撃でヤバイ。
しかし、無駄な緊張は動きを鈍らせる元でしかない。
ここはもう一声かけておこう。
「忘れるな。
油断しなければ勝てる相手だ」
飛行能力を奪ってやれば奴らは詰むからな。
地上じゃ、ただのウスノロだ。
大陸の国々であれば、それでも甚大な被害を受けるだろうが。
「俺がお前たちを勝たせてやる!」
妖精たちは違う。
スピードも攻撃力も兼ね備えた忍者なのだ。
「「「「「おお────────っ!!」」」」」
一気に盛り上がった。
腹の底から声を出したなら、しめたもの。
力んだ状態で大声は出せないからな。
ここで、もうひとつ。
「飛ばないトカゲはただのトカゲだ」
ドッと笑い声が湧き起こる。
あえてトカゲと言ったのが功を奏したようだ。
何処かで聞いたような台詞なのは気のせいってことにしておいてくれ。
読んでくれてありがとう。
 




