299 まちづくりを始める前に
移動前に妖精組にスマホを配布した。
失敗だ。
ちょっと考えなしに渡したら凄く喜ばれてしまった。
それは構わない。
喜ばれると作った俺も嬉しいからな。
ただ、しばらくは俺の言葉が耳に入らなくなるくらい夢中になっていたのだよ。
徹底的にいじり倒していた。
わーきゃー言いながら触って操作性を確認しつつ操作方法に習熟していく感じ。
見た目はデジタルグッズなスマホを触ってはしゃぐ妖精組。
シュールな光景である。
ファンタジーの世界に似つかわしくない。
そう思うのは何度目だろうか。
前にもそんな印象を持ったことがあるよな。
まあ、俺のしでかしたことなんだから文句を言っても始まらない。
そうこうするうちにスマホを倉庫に仕舞う者が出始めた。
けれども、それで終わりと安心はできない。
「うわー、すごーい」
「ホントだねー、倉庫に入れても操作できるよー」
「面白ーい」
こんな具合に止まらないのである。
現代日本で普及しているスマホと違って倉庫に仕舞っても使えるからな。
誰のせいかと言われれば、俺としか答えようがない。
完全に自業自得である。
というよりアホだな。
お陰で半時間はロスした。
この程度で済んだのは、こういう魔道具に慣れ親しんでいるからだろう。
でなきゃ最低でも小一時間は潰れていたと思う。
不幸中の幸いだったな……
何が良くなかったかと言えば、俺が焦ったからだ。
全員集合しているうちにと思って仕事を始める前にスマホを渡してしまった。
言い訳のしようが無いミスだ。
もう少しタイミングを考えて渡せっての。
帰る直前で良かっただろうが。
そのタイミングでも全員集合するのは分かりきっているのだ。
つくづく思うが俺はアホである。
いや、ウッカリ者と言うべきだろうか。
新しいアイテムにみんなが喜ぶであろうということを考慮しなかったんだからな。
後先考えずに忘れないうちに渡しておこうと考えるなんて、もうね……
呆れて言葉もないですよ。
おまけに自業自得なので誰かに愚痴るわけにもいかないし。
ストレスで胃がやられそうです。
……ごめん、ウソだ。
ストレスは半端ないけど胃はノーダメージです。
馬鹿みたいな高ステータスのお陰で。
仮にダメージが通ったとしても、すぐに回復すると思う。
試しに自分で自分を傷つけて確認したことだから、たぶんそうなる。
アレは気持ち悪いぞ。
少しくらい傷つけても感触はあるのに痛みがないし。
傷つけた直後に映像を逆再生するかのようにスルスルと傷が勝手に治っていったからな。
カサブタもできやしない。
傷跡も残らない。
とにかく俺には皆の興奮が治まるのを待つしかできなかったですよ。
こんなことぐらいで叱責するとか馬鹿らしいし。
そもそも妖精組相手にそういう真似をしたくない。
悪いことをした訳じゃないもんな。
緊急時なのに話を聞こうとしないっていうなら話は別だけど。
まあ、身内以外なら一喝してたとは思う。
待たされたのもたかだか半時間。
睡眠時間が少し減っただけだ。
大したことはない。
ん? 誰が負け惜しみを言ってるって?
負け惜しみじゃないぞ。
誰が何と言おうと負け惜しみじゃないぞ。
大事なことでもないけど2回言ってみた。
うん、誰が聞いても負け惜しみにしか聞こえないね。
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妖精組が落ち着くのを待って一緒に市街地区域へとやって来た。
何もない。
そりゃそうだ。
今まで城だけですべてが完結してたからな。
住宅? ありません。
お店? ありません。
学校? ありません。
ないない尽くしのない尽くし。
遠くの景色が綺麗だなっと。
それくらい何もない。
いや、道路だけは先に作ってあるか。
区画整理だけはしたからな。
他は更地である。
今までは市街地にする予定でなんにもしてなかったからね。
これからは違う。
基礎を作って倉の中で作った施設を乗せていくのだが。
まずは住む所。
最初は高層マンションとか考えていたけどやめた。
現在の全人口をここに集めても余裕がありすぎるのだ。
どんだけ広いんだかと我ながら呆れてしまった。
移動する時はミズホシティの端から端までぐらい狭いと思ったこともあったけどね。
それはあくまで今までの国民の基準においてである。
新規の国民だと徒歩では何時間もかかってしまうからなぁ。
いずれ不用になるとしても現状では移動に自動車は必須になる。
免許証とか必要になってきそうだ。
あ、そうなると戸籍とか住民票とかも設定しないといけないぞ。
けどなぁ……
先延ばしにしてた問題がここに来て急浮上だ。
戸籍と住民票を別々に管理するのが面倒くさいんだよ。
そのせいなのか日本以外で戸籍制度を採用してる国って数えるほどしかないしな。
フランスの市民籍みたいなのにする手もあるにはあるけれど。
ただ、あれも住民票とは別管理だったような気がする。
調べて無駄骨だったら嫌だな。
個人の身分証明ができれば戸籍は必要ないのだし。
日本じゃ本人確認をする上で最も強力な効力を発揮する身分証明書のひとつに運転免許証があげられるけど。
あれも新規交付に本籍記載の住民票が必要になる。
本籍は戸籍に記載される情報だ。
つまり戸籍が身分証明の大本であると言える。
ちなみに本籍を住所と勘違いしている人が居るけど違うよ。
住所は住む場所。
本籍はあくまで土地である。
故に住んでいなくても設定できるのだ。
それどころか家が建っている必要もない。
本籍地としていた場所が都市計画によって立ち退くことになったなんてケースもない訳ではない。
故に今では道路が私の本籍地ですなんて話もあったりする。
それは問題があるんじゃないかと思うかもしれないが何も問題ない。
道路には住めないから住所としては設定できないが本籍地としてはノープロブレム。
後は本人が気にするかどうかだけ。
嫌なら転籍届を出せばいい。
その場合、自分がいま住んでいる場所か実家が主な候補となる。
借家住まいの人や転勤族の人なんかは実家にすることが多いようだ。
転勤族の人は住民異動の届出をするたびに転籍届も同時に出す人がいるかもだけど、あんまりお勧めしない。
あくまでお勧めしないってだけだから自分で判断してくれ。
調べれば分かるが市区町村を跨がって転籍すると古い方は除籍になる。
除籍が多いほど相続権者が苦労するケースがあることだけは覚えておくといいかもしれない。
さて、戸籍の制度はミズホ国ではそのまま採用しない方が良さそうだ。
要はうちの国民であるという証明を別に用意すればいいだけのこと。
住民登録は住民票で、国民としての証明は身分証でということにしよう。
とりあえず身分証は保留で住民票の制度だけは仮設定しておくか。
仮設定なのは後で変更する可能性があるからだ。
不便な部分は改良し、不要な部分は省く。
臨機応変なのは大事である。
ともかく住民票を管理する役所が必要になるな。
業務は自動人形に任せるとしても住宅以外にも建物が必要になってしまう。
……住宅に変更する前に用意したマンションもどきを流用するか。
内部を変更すりゃいけるだろう。
廃棄しなくて良かった。
住民登録は時間がかかりそうだから申請書類だけ先に書かせて少しずつ処理するか。
その方が混乱を避けられそうだ。
どうせ住民票の写しの発行なんて現状では必要にならないし。
国民が処理完了前に転居しても問題は無い。
申請書類を受理した日が住民異動の日だからな。
手続きが遅れるだけの話である。
数千人が一挙に住民異動となると、さすがに1日で処理完了とはいかない。
ジェダイトシティの方でも住民登録が必要になるからな。
むしろ向こうの方が人数的に大変だ。
ちなみにジェダイトは王国からシティへの移行の日が住民登録日になる。
それでも申請書類は必要だけど。
家族構成とか誰が世帯主とかハッキリしないと住民票に反映させられないからな。
あと、ジェダイトシティからミズホシティへ異動する者も出てくるだろう。
その場合は更に異動の届けが必要だ。
ジェダイトの方にも役所を開設しないとな。
あー、ガブローの過労死フラグが立ったかもしれん。
後で回復ポーションを差し入れておくか。
ちなみにヤクモにいる者たちはミズホシティ市民として登録する。
ヤクモは職場として定住する場所にはしないつもりだからな。
さて、住宅街に役所とくれば、学校も必要だよな。
自動車教習所と冒険者の学校も一緒くたにすることにした。
そんな訳で建物は用意している最中である。
倉庫内で現在【多重思考】を駆使して仕上げてますよー。
後はショッピングセンターとかも必要になるが、こちらは完成済み。
そんな風にあーしてこーしてと考えている最中だった。
「陛下、我々は何をすればよろしいのでしょうか」
カーラが声を掛けてきた。
おっと、現場に到着するなり考え込んでしまっていたな。
【高速思考】の上位スキルでもある【多重思考】があるから大した時間は経っていない。
でも、いつまでもボーッとしている訳にはいかない。
「すまんすまん」
手を上げて謝っておく。
「指定する場所の基礎を作って欲しいんだ」
渡したスマホにメールを送った。
基礎の作り方と設計図面を添付してある。
さっそく皆が操作してますよ。
倉庫に格納したままだけど、まだ自然体で操作できるようにはなっていないから仕草なんかで分かる。
それでも操作は素早いようだ。
網膜投影された情報を読み取っているのであろう瞳の動きは速読のそれである。
すぐに読みきって内容を理解してくれたさ。
うちの子たちが優秀で助かるよ。
ケータイでは添付不可能な情報量だったんだけどね。
スマホを渡した時に我慢して待った甲斐があったというものだ。
妖精組は基礎工事のきの字も知らないんだし。
ただ、日本で新築を建てる時のような基礎工事にはならない。
地魔法があるからね。
更地の土を魔法で地下深くまで頑丈な岩石に変換するという強引な方法だ。
それなりに魔力を消費すると思う。
俺と妖精組じゃ消費効率とかも違うから、どの程度かは不明で目安を教えることもできないが。
それでも俺の見立てだと何時間もかかる作業にはならないはずだ。
皆で協力すれば早々に仕上げられるんじゃないかな。
単純なように見えてそうではない仕事だ。
結界の術式を仕込むことで基礎の劣化や損壊を防止するからね。
基礎の岩石に魔石を埋め込んで転送門で使用されている術式を流用して半永久的に動作させるのだ。
それだけではない。
魔石や増幅術式には余力を持たせるようにしてある。
俺が作成してある住宅で魔力を吸い上げて維持管理や生活で使用するためにね。
照明は言うに及ばず、マギコンロやマギオーブンレンジが使える。
河川から水を引いてこなくても蛇口を捻れば水が出る。
排水の処理に下水なども必要ない。
ゴミも各家庭で処理される。
なんか自重せずに作ってしまいましたよ。
現代日本でだって不可能なスタンドアローン住宅だね。
それもこれも妖精組の皆が基礎工事を成功させてくれないと始まらない。
だが、心配はいらないだろう。
送信したメールの内容を読み込んで理解しているようだし。
疑問があるなら質問があるはずだが、それがないもんな。
スマホを先に配布した時はミスったと思ったが、そうではなかったようだ。
俺は時間を無駄にはしていなかったんだな。
たぶん口頭で説明していたら、もっと時間がかかっていたはずだ。
たとえ幻影魔法を使ったとしてもね。
感謝、だね。
読んでくれてありがとう。




