3 死んでないけど死んでいたことになる
改訂版バージョン2です。
被害者は俺だけ……
どれだけ運がないというのか。
だが、どんなに悔やみ願おうが結果は覆せない。
時間は巻き戻せないのだ。
ならば少しでも原状回復させるのが筋ってものだろう。
ところが、である。
『重ね重ね申し訳ありません』
ベリル様、謝りすぎ。
世界中探したって神様にここまで謝られた人間などいないだろう。
そもそも何故そこまで謝られることになったのか。
『魂の損耗が激しすぎて元通りにはできませんでした』
そこから話は始まった。
『欠損部分を補うしかなかったのです』
「補うことで不可逆になってしまった訳ですか」
『残念ながら、そうなります』
それでも死ぬよりはマシだろう。
『言い訳になりますが、一刻を争う事態でしたので』
「間に合わなきゃ死んでるんじゃ不可抗力だと思いますよ?」
『ですが、いくつか問題が生じてしまうのです』
「はあ……」
よく分からないままにベリル様の話を聞いてみたが、確かに問題だらけだ。
まず、俺の魂は神様の眷属と同レベルに進化してしまった。
こうなると受け皿となる肉体も釣り合いが取れるものが必要になる訳で。
俺は人の上位種族エルダーヒューマンになってしまいましたとさ。
上位種族って言うくらいだから基本スペックが軒並み高いのだろう。
目に見えて明らかなのは36才のオッサンが15才の姿に若返ったことなんだが。
しかも元のフツメンからイケメンに変わってしまっている。
面影は残しちゃいるが、これでは別人だ。
昔から交流のあるご近所さんでさえ親戚と言って通じるかどうか。
職場じゃ完全に俺とは認識してもらえないだろう。
「実は死にかけて進化しちゃったんですよー」
なんて言おうものなら、頭のおかしい人扱いされること間違いなしである。
「仕事辞めて引きこもり生活ですかー」
最近はネット通販が発達してるから、それでも何とかなりそうだ。
『いえ、この世界には残れません』
「は?」
『申し訳ないのですが、春人さんは私の世界の法則で生まれ変わりました』
「はあ……」
『私の世界へと移動していただかなくてはなりません』
死ぬ寸前だったし生まれ変わったというのは、まあ分かる。
魂も肉体も補った部分を馴染ませるために再構成するしかなかったというし。
それでも異世界の神様の力で転生だから、この世界とはお別れしないといけないようで。
『残念ながら、この世界セールマールの管理神との協議による決定事項です』
ダメ押しまでされてしまったが急展開すぎて何だかよく分からない。
「所属する世界が変わってしまったということですか?」
『はい、そうなります』
「この世界の住人として登録し直すみたいなことは……」
『申し訳ありません』
おっとり系の美人に何度も謝られていると罪悪感が半端なくて焦ってしまう。
『所属を戻すとなると影響が拡がってしまうのです』
そのまま説明が始まったので聞いていたが、愕然とするしかなかった。
まず、この世界の人たちにかける負担が多大なものになるというのだ。
俺にかかわってきた全員の寿命を軽く半分に縮めるくらいには。
それを覆すとなると並行世界にまで影響を及ぼすのだとか。
管理神よりも上位の統括神と呼ばれる神様でさえ影響をゼロにはできないらしい。
『今回の事件の影響を最小限にとどめるためとご理解ください』
俺は被害者だが、他の人たちに尋常ならざる迷惑をかけたい訳ではない。
寿命が半分になったら何人が死んでいることになるんだ。
ガクブルものである。
誰も死なないのが一番だ。
幸いにも俺はまだ生きている。
二度と戻って来られない異世界行きが確定してしまったけど。
これで動揺するなという方が無理である。
「うそ~ん」
と頭を抱えて嘆いていたら『重ね重ね──』と謝られてしまったわけだ。
「あー、死ななかっただけでもラッキーなんだし、お気になさらず」
ダメなのは分かったし切り替えよう。
「質問があるんですが」
『はい、何でしょうか』
「この世界での俺は失踪扱いになるんでしょうか?」
普通に考えれば、それが順当だろうと思ったのだが。
『いえ、この世界における春人さんは死亡扱いになります』
あっさりと覆された。
『これも申し訳ないのですが、過去に遡って処理させてもらいます。
具体的には交通事故で御両親と一緒に亡くなっていたことになります』
それが混乱を引き起こさず解決する最善手なのだという。
「俺のことを覚えている人は大勢いるはずですが?」
『その方たちについては記憶を夢の領域とつなげて処理します』
強引に記憶を消去すると欠落した部分に強い違和感が生じるのだとか。
小説なんかの本を途中で破り取るようなものをイメージした。
ベリル様の方法だとそういう強引なところがないらしい。
夢扱いされた部分は、まず記憶が曖昧になるようだ。
更に本筋とは関連性の薄い外伝的な認識になっていくらしい。
そして徐々に記憶が薄れていき、最終的には綺麗サッパリ消えてしまう。
いきなり記憶が欠落した時のような違和感がないので負担は少ないのだとか。
それはありがたいと思う一方で何かおかしいと感じた。
ベリル様の話を普通に受け入れてしまっているのは、しょうがない。
超常的なことを目の当たりにして嘘くさいとは思わないさ。
だが、説明のない部分まで理解しているのはどういうことだろう。
それだけではない。
知らないはずの異世界ルベルスの知識まで頭に入っている。
ベリル様が管理する世界で魔法が文明の根幹をなしていることまでバッチリだ。
どうやら異世界行きは確定しているからサービスで基本的な知識はコピー済みらしい。
元の世界に残れないからこそアフターフォローも可能な限り万全にしてくれる訳か。
だが、それでも引き下がれないものがある。
「2人だけ本当のことを説明しておきたいんですが」
『どうしてもですか』
問答無用で却下されなくて助かった。
「裏切るようでスッキリとは向こうに行けそうにないんです」
『困りましたねぇ』
「いや、我が儘だとはわかってはいるんですが……」
『お相手はどなたですか』
「大学時代の同期で、名前は諏堂瑞季と司馬舞佳です」
『それ相応の覚悟が必要ですよ。
彼女たちの人生を狂わせてしまうくらいは自覚していただかないと』
「責任がとれるかと聞かれたら無理なのは承知しています」
俺はこの世界から去る人間だ。
自分の言動が引き起こす結果を見届けることすらできない。
本来なら我を通すべきではないだろう。
「ただ、何も言わずに異世界に行ってしまうと相当恨まれそうなんですよね」
明確にイメージが湧いてしまう。
「この2人はスイッチが入ると魔法も力業で覆してしまう気がしてならないんです」
ミズキチは物静かで大人しいと思われがちだが筋金入りの頑固者だし。
マイマイはいい奴なんだけど決してお人好しではないからなぁ。
どちらも思い入れが強いほど固執するタイプだ。
俺が地元に戻ることになったときも2人して内定した会社を蹴ろうとしたし。
あれはメールや電話で連絡を取ることを約束させられてなんとか解決した。
しょっちゅう連絡しているせいで不思議と疎遠って気がしない。
卒業してから会ったことは一度もないのに。
そういや、次の正月にはプチ同窓会をやることを決めたばかりだ。
すっぽかすとか考えるだけでも背筋を凍り付かせるような何かを感じる。
今回の一件を説明するのも、それはそれで怖いけれど。
なんにせよ笑ってサヨナラできればとは思うのだ、あの2人とは。
『困りましたね』
「すいません。
無理を言ってるのは重々承知しております」
『いえ、そうではないのです』
予想外の返事に俺は戸惑った。
何を否定されたのか見当も付かない。
『そのお二方のことを確認してみたのですが上手く処理できそうにないのです』
説明を受けて納得がいった。
あの2人が意地でも抗う姿が目に浮かぶようである。
『しかも春人さんの要望がない状態でも因果を制御しきれるか……』
「あー、アイツらだったら分かる気がします」
2人に対する俺の評価は大げさでなかったのだ。
が、嬉しくはない。
アイツらだけが俺のことで苦しむことになるからだ。
『他の人に比べて因果律がこの場で計算しきれないほど複雑になっています』
神様が困惑するほど運命に抗おうとするなんて並大抵のことではない。
苦痛など感じてほしくないのだ。
たとえ恨まれることになったとしても。
『ですので春人さんの御希望に関しては白紙とさせていただきます』
「なるたけアイツらが苦しまないようにしてやってください」
『時間はかかりますが、間違いなく。
御希望に添えず申し訳ありません』
また謝られてしまった。
これ以上は俺のライフにまで影響しかねない。
「それはしょうがないと思うので最終結果だけ聞かせてください」
『わかりました』
これでようやく話も終わるかと思ったのだが……
『後もうひとつ謝らねばならないことがあります』
勘弁してください。
俺のライフはもうゼロよ。
『春人さんには呪いが掛けられていました』
「は?」
聞いた瞬間は訳が分からなかったが、思い当たる節はあった。
「ああ、魂喰いとかいうのにやられた時に……」
『いいえ、少なくとも御両親の事故より前からになります』
「はあっ!?」
今度こそお手上げだ。
ホントに訳がわからん。
『春人さんが大きなトラブルに見舞われてきた原因は呪いだったのです』
「……………」
言葉がない。
両親や祖父母が亡くなったことも呪いだというのか。
大学時代のアレも相続がらみで揉め事になった時も。
そして今回魂喰いの件でも。
誰が何のために。
そんな子供の頃に呪いをかけられるようなことをした覚えはない。
『本当に申し訳ありません』
動転しているときに謝られても罪悪感は湧いてこないらしい。
正直、それを有り難いとすら思えないほど混乱していた。
『巧妙に隠蔽されていたせいでこの世界の神も気づけなかったようです。
私も春人さんの魂を再構築する最終工程でようやく確信できたくらいなので』
「犯人は分からないんですよね」
『それについては御心配なく。
この世界の神が責任を持って処理します』
はぐらかされてしまった。
どうやらヤバい事情がありそうだ。
「犯人の目的を聞くわけにはいきませんか」
深入りすると碌なことにならない気はするが、聞かずにはいられない。
『春人さんから魔力を奪うためとしか言えないです』
「魔法の使えない俺がですか!?」
『この世界では強いストレスにさらされると魔力が高まる人がいるんです』
魔法が使えなくても魔力があって制御できるようだ。
不思議なものである。
『私の世界では魔法使いとしての素養がある人ということになります』
「そうですか……」
『慰めにもなりませんが、呪いは完全に浄化しましたので今後は何の問題もありません』
そう言われて呪いに関しての話は打ち切られてしまった。
納得するしかなさそうだ。
読んでくれてありがとう。