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289 天の声ということに……

 まったく、ラソル様ときたら何をしでかしてくれるんだか。

 やることなすことが無茶苦茶である。

 前回に比べれば大人しいものであるとはいえな。

 本当に油断も隙もあったもんじゃない。

 脳内スマホにメールが着信したかと思ったら逃亡中のダメ亜神からでしたよ。

 そのまま街まで輸送機で乗り付けろとか無茶振りの内容だし。

 お告げの形で根回しはしているみたいだけど。

 まあ、そっちの方も普通の内容じゃないと思われるが。

 一応は太陽神ということで、それっぽく威厳を装ってやっているだろうけど。

 お告げを受けた人たちはさぞかし驚いただろうね。

 たぶん神殿関係者以外にもお告げがあったはずだから。

 街や近隣の人たちに出したってメールしてきてるし、間違いないと思う。

 超余裕じゃんか。

 ムカつく文面でメールを送ってくれるし。

 こっちはストレス溜まってしょうがないんですが?

 おまけに無視できないような締め括り方してくれてるし。

 文面とのコンボのお陰で、なんか無性に腹が立つ。

 くそっ、タコ殴りにしてえ。

 流星のように降り注ぐ拳の連打を叩き込んでやりたい。

 代わりにやってくれる人にメールでお願いしよう。

 メールを作成しながらも念話で操縦している自動人形に指示変更をする。

 着陸予定地点が変わったからな。

 馬車なら小一時間だが輸送機なら数分だ。

 ダメ亜神の指示は無視したいところだけど、そうもいかないんだよな。

 無視すりゃ西方における太陽神の権威が失墜してしまう。

 それは俺の知ったこっちゃないんだがね。

 むしろ地の底まで落ちろと言いたい。

 ただ、それでは問題がある。

 双子だからルディア様の権威まで地に落ちかねないんだよ。

 ある意味、人質みたいなものだ。

 人じゃないけどな。

 ともかく、向こうは絶対に計算してやがる。

 さすがはイタズラの天才。

 いちいちムカつくことをしてくれる。

 とはいえフラストレーションを溜めているだけではいられない。

 同行している面子に予定変更をどう説明するかなんだよな。

 うちの面子には念話で根回し済みだ。

 よってゲールウエザー組に対する言い訳を考えなきゃならん。

 可及的速やかにな。

 壁面に外の映像を映しているから街が接近しているのも分かるだろうし。

 徐々に高度を上げて誤魔化したけどね。

 あんまりやり過ぎるとバレるので限度はある。

 実に面倒だ。

 そうやって誤魔化しても、すぐに気付く目敏い人がいるんですよ。

 うちの面子の大半は当然としても、ね。

 向こうの面子の中にも優秀な人はいるってことで。

 総長とかナターシャとか護衛隊長のダイアンとかね。

 中でもダイアンは高度を上げ終わって間もなく気付いた。

 明らかに訝しげな表情を見せたからね。

 俺の方をチラリと見てそれで終わりだったけれども。

 別に威圧はしなかったけど目を見返したからかな。

 たぶんシカトかましてたら騒ぎはしないまでも何か言ってきたと思う。

 そして総長とナターシャは、その後でほぼ同時に気付いた。

 こちらは互いに顔を見合わせてから俺の方を見てきたな。

 近づきすぎじゃね?

 両者の顔にはそう書かれていた。

 ただし、表情はまるで対照的であったけど。

 総長はニコニコして好奇心を刺激されたかのごとく。

 ナターシャは「なんでやねんと」言いたげなジト目を向けてくる。

 いや、関西弁のように喋るのはうちのアニスさんなんですが。

 そんな風に感じたってことだな。

 ツッコミを入れたがるタイプの人っているだろ。

 ああいう雰囲気があったんだよ。

 このまま俺が何も言わなければ真っ先に説明を求めてくるのはナターシャだろう。


「あー、なんかまた天の声が聞こえてきたんだが」


 手っ取り早いのは予言ということにしてしまうことだろう。

 乱発すると面倒なことになるだろうけどな。

 興味のない仕事が増えるのは真っ平だ。

 ラソル様が街の人間に対してお告げをしたというのなら、それに乗っかってやる。

 どうせイタズラに巻き込まれ始めているんだ。

 逃げきるのは無理だろう。

 ならば、利用できるものは何でも利用する。

 泥船に乗るような気がしなくもないけどね。

 まあ、そこは信用するしかあるまい。

 引っかき回されることはあっても結果オーライになっているからな。

 俺が望むような形になっているかと問われれば、大いに疑問ではあるけれど。

 結果的に事後承諾ってところか。

 ただ、俺が唐突にそんなことを言い出したものだからさ。

 うちの面子はほとんどが「また始まった」って顔をしているけど……

 ゲールウエザー組は付いて来られないようだ。


「「「「「は?」」」」」


 向こうさんがポカーンとした顔で俺の方を見てくる。

 あー、困惑する以前に俺が何言ってるのか分かりません状態だわ。

 そういや飢饉の話は予言としか聞いてないんだっけ。

 そこから説明せんといかんのか。

 面倒だから天の声ってことにしたけど、余計に面倒なことになったかな。

 頼むからすんなり受け入れてほしいものである。


「天の声ってのは俺の予言の大本に相当するものだ」


「「「「「え?」」」」」


 訳が分かりませんとか顔に書かないでくれ。

 絶望的な気分になりながら根気をつなぎ止めつつ説明を続ける。


「俺は頭の中に届く天の声を予言という形で語っているに過ぎない」


 王族コンビが声もなく固まってますよ

 生で予言が聞けるとは思ってなかったんだろうね。

 総長も「あら、まあ」と目を丸くして驚いているし。

 ナターシャもこれにはツッコミを入れられる状態ではないようだ。

 しょうがない。

 呆然としている間に畳み掛けておこう。


「なんか俺たちが空から来るのを街の人間が待っているみたいだぞ」


「それは真ですかっ!?」


 あ、反応した。

 ちょっと意外だ。

 フリーズした状態からようやく復帰したダニエルが興奮気味に聞いてくる。

 声がデカい。

 それだけでも鬱陶しいのに唾まで飛ばしてきやがる。

 もちろん分解魔法で消滅させるけどさ。

 ジジイってのはどいつもこいつも興奮すると唾を飛ばすのが定番らしい。


「汚えよ、唾を飛ばすな」


「も、申し訳ございません」


 ダニエルが平身低頭して詫びてくる。

 その姿が想定外だったのか身内のはずのゲールウエザー組の反応がコロッと変わった。

 それって俺の話より意外性に富んでいたってことにならないか?

 俺からすると「そっちかよ」とツッコミ入れたいところである。

 時間がないから我慢したけど。

 とにかくダニエルの謝る姿を見る周囲の視線が様々だ。

 クラウドは生暖かい目をしている。

 総長は「あら、まあ」とニコニコしたままで。

 メイドたちは残念な人を見る目で。

 護衛騎士たちは驚きを隠せない様子で。

 隊長であるダイアンはなんとかポーカーフェイスを保とうとしていたけれど。

 その努力も虚しくといった感じで同じようなことになっている。

 魔導師団の面々も護衛騎士たちと似たようなものだ。

 当の本人は向けられた視線に怯むこともなく謝ってきている。

 まあ、禿げ脳筋の酷い状態を目の当たりにしているからな。

 言っとくが、そこまでするつもりはゼロだぞ。

 別に敵対した訳じゃないだろうに。

 意図的に唾を吐いて当ててきたとかなら話は別だけど。


「それで街の者たちが待ち受けているというのは……」


 ダニエルのトーンが下がった。

 唾も飛んでこないね。

 油断はできないけどさ。


「真かどうかと言われても俺だって見た訳じゃないからなぁ」


 実際には【天眼・遠見】で確認済みだけどね。

 ラソル様の話を鵜呑みにして、もしも騙されていたら混乱の元だからね。

 油断イクナイ!


「天の声は今まで外れたことはないが──」


「「「「「おおっ!」」」」」


 話してる途中でどよめかないでくれませんかね。


「それがこの先も同じかは俺も知らん」


 あくまで予言は謎の声によるものということを認識してもらわないとな。

 俺の自作自演とか言われても困るし。

 事実であるだけにな。

 とにかくバレないように注意が必要だ。

 俺の称号並みに秘匿せねばなるまい。

 こればかりは面倒だとか言ってられないよな。

 俺がそんなことを考えている間にダニエルは百面相をしていた。

 驚いたり感心したり考え込んだり。


「いずれにせよ俺たちが何をしに来るのかも知ってるみたいだぞ」


「なんとっ!?」


 今度はクラウドが驚いた。

 唾は飛んでいない。

 ジジイが驚くと唾を飛ばす説が濃厚になってきたな。

 それよりも、だ。


「なにしてんの?」


 クラウドが頭を抱えて身を捩らせている。


「せっかくサプライズで皆を驚かせようと思ったのにぃ─────っ!」


「………………………………………」


 アホなオッサンがここに1人います。

 これでも大国の国王陛下でいらっしゃいますが、何か?

 すごく残念な姿を見てしまった気がするね。

 気がするんじゃなくてリアルで見てしまったんだな。

 もうね、アホすぎて可哀相な人を見る目がどうしてもやめられません。

 うちの面々も「なに、このオッサン」てな感じの目で見てるよ。

 当然だな。

 で、ゲールウエザー組もそうなるのかと思い聞きや……


「「「「「はあぁ───……」」」」」


 諦観を感じさせる溜め息をついていた。

 溜め息で完全にハモるとかよほどのことでしょ。

 あの様子じゃいつものことなんだろうけど。

 この国の王様が素をさらけ出しまくっています。


「気にしないでください」


 ダニエルがそんなことを言ってくる。


「あれは一種の病気ですから」


 酷い言い草である。

 そんな風に言われるってことは定番化しているのは間違いなさそうだ。

 もうちょっと自重した方がいいみたいだぞ、クラウド。

 ……俺も人のことは言えないけどな。

 むしろ俺の方がと言われそうな気もするけど。

 そこは気にしちゃいけないのだよ。


「あー、そういうことにしておくわ」


 見なかったことにしておくにはインパクトが強すぎる。

 それに今後も見る可能性があるだろうし。


「助かります」


 ダニエルが頭を下げているのにクラウドは未だにクネクネしている。

 ……イケメンがそれをすると気持ち悪いな。

 現代日本ならオカマ疑惑が急浮上するくらいに。

 オッサンが若ければ男の娘とか連想する奴も出てきそうなくらいに。

 いや、無理か。

 キモさだけが際立っているからな。

 まあ、女装趣味はなさそうだし口調もカマっぽくはない。

 子供が何人もいるし大丈夫だろう。

 なんて思っていたらゴスッと鈍い音がした。

 叔父さんが甥っ子をグーで殴っています。

 ようやく止まったよ。

 直後に平然とした顔をしたクラウドが何事もなかったかのように座り直していた。

 もしもし、何を無かったことにしようとしているのかな?。

 もう充分にキモいダンスは見せてもらったよ。

 うちの面々は呆れた視線を向けることでツッコミを入れているぞ。

 俺は面倒だからスルーしたけどね。

 ゲールウエザー組は能面みたいに無表情だ。

 この殴られて大人しくなるまでがパターン化しているらしい。

 なんだかなぁ。


「ああ、それとね」


 そんな微妙な空気を変えるべく追加情報も入れておくことにした。

 到着してからサプライズになるよりはいいだろう。

 別にラソル様には口止めもされていないし。

 掌の上で踊らされている気がしなくもないけど、開き直って好きにさせてもらおう。

 何かムカつくことがあったら報告するまでだ。


「近隣の村から代表者たちも来ているようだな」


「「「「「はあっ!?」」」」」


 ゲールウエザー組が目と口を大きく開けたような姿を見せたまま停止していた。

 いや、こっちがビックリだよ。

 そこまで驚くようなことを言った覚えはないぞ。


読んでくれてありがとう。

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