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285 輸入で悩む王もいれば移動で悩む王もいる

修正しました。

元奴隷組は国元に → ~ミズホ国に


 米が自前で確保できそうにないと知って落ち込むオッサンコンビ。


「大いに残念だ」


 クラウドが天を仰ぐような仕草で固まっている。

 ダニエルもだ。

 2人してジェスチャーが大袈裟である。

 そのくせ煎餅を手にしているせいで苦悶の表情が微妙に似合わない。

 しかもイケメンのオッサンたちだから違和感バリバリ。

 なんだかなぁ、である。


「こればかりは、しょうがないですな」


 ダニエルがそう言うとクラウドも復帰してきた。

 ただし意気消沈のションボリ状態で。

 オッサン2人で何してんだよとツッコミを入れる。

 心の中でだけど。

 そこまで興味を示してくれたことは素直に嬉しいと思うがね。

 この国で稲作を実現させるのは難しいだろう。

 水不足に喘ぐほどではないが稲を育てるほど潤沢にある訳でもない。

 どうしてもというなら水魔法の使い手を育てるしかないだろう。

 それにしたって広い面積を賄える訳じゃないけどな。

 魔導師級のを専属で雇うにしても、小麦に置き換えられるほどにはならない。

 それをするのに何人雇わないといけないだろうな。

 いちいち計算するのも馬鹿らしくなる。

 おそらく一部を稲作に切り替えるだけでも結構な負担になるだろう。

 水や氷を大量に生成する魔道具なんて西方の魔道具職人じゃ作れるはずもないし。

 それが可能なら飢饉対策でも井戸を掘ることを前提に話を進めたりはしない。

 そういう訳で、ゲールウエザー王国では稲作を実現できてもコストが跳ね上がるのだ。

 およそ現実的な選択肢とは言えないだろう。

 超高級品扱いになるな。

 主に人件費によって。

 まあ、自前で稲作をするのは諦めてくれ。

 それを言葉にするのは躊躇われるところではあるが。

 あまりにもションボリした姿を見せられるとな……

 そこまでしょげるのかってくらいの状態だし。

 オッサンにはあまり同情しないんだが、さすがに可哀相になってくる。

 飯で苦労する話は共感を呼びやすいからか。


「うちの余剰生産分の一部を輸出してもいいぞ」


 もとより、そのつもりだったし。


「大した量は出せないから市場には流通させられないがな」


 させるなら法外とも言えるような価格設定にせざるを得ない。

 クラウドたちに説明したように量の問題があるからな。

 王城勤めの人間にまで行き渡らせようと思えば1週間分くらいだろう。

 状況によっては増産もするけど現状では無理だ。

 飢饉対策で動いているからな。

 あと、食わせなきゃならん面子が急増したし。

 そのうちヤクモの農地を拡張しようかね。

 土地ならまだまだあるからな。

 そういう意味では国元でも同じことが言える。

 あんまり広げると供給過剰になりかねないので考えて実行しないといけないが。

 ヤクモよりミズホで広げた方がいいか。

 ミズホシティの外側には土地がいくらでもあるからな。

 川向こうに農地を開拓する方向で行くか。

 内側も土地に余裕はあるけど、農地より他で利用することを優先したい。

 まずは住環境だな。

 現在の人口ならドワーフを含めてもミズホシティに全員を住まわせられるし。

 余裕がありすぎるので住む家ができたら元奴隷組はミズホ国に送ろうと考えている。

 一旦、帰らんと話にならんのだが、それは夜中でも構わんしな。

 いきなり俺だけで帰ったら妖精組が驚くかもだけど。

 そのあたりはメールで知らせておけば問題あるまい。

 ああ、ドワーフに関しては希望者のみの移住になるかな。

 生まれ育った土地に愛着を持つ者も少なからずいるだろうし。

 そのあたりをガンフォールたちに聞いてみたら条件次第で変わるようだ。

 自由に行き来できるかどうかが鍵になるみたい。

 滅多に通えない状況だと希望者は2割を切るだろうってさ。

 ドワーフは家族との繋がりを重視するからだろうな。

 輸送機だと片道で半日以上かかると説明したら、なんとも言い難いという返事だった。

 行き来する者が多いと輸送機で運びきれなくなり順番待ちになるからだと。

 往復するのに1日と少しだもんな。

 亜音速機だとそんなものだ。

 希望者が殺到すると何日も待たされることになりかねない訳で。

 増産して便数を増やすことはできるけど移動時間そのものは変わらないのもネックだ。

 速さを追求する機体じゃないから仕方ないじゃないか。

 参考までにハマーやボルトの意見も聞いてみた。

 ハマーは五分五分だと考えているようだ。

 ボルトは若者がどう受け止めるかしだいで流動的に変化すると言っていたが。

 いずれにしても躊躇する要因があるということだ。

 しかも軽視できる問題でもない。

 となると、もっと速さを追求すべきなんだろうなぁ。

 一応は時間を短縮するような航空機も考えてはいるんだよ。

 まあ、大勢を乗せられるようなものじゃないんだけど。

 変形したりするようなやつだからな。

 それも人型と航空機とその中間の3段変形のやつ。

 デザイン的にはシリーズ化されてるアニメのやつと大昔のアニメのを参考にした。

 趣味に走っていることは認めよう。

 楽しいからこそ意欲が湧くのだ。

 問題はそれでも時間がかかることだろう。

 超音速で巡航するスーパークルーズ機能があっても遠いものは遠い。

 そして定員は2名が精々だ。

 旅客機でスーパークルーズは色々とクリアすべき問題があるんだよ。

 気圧とかGとかね。

 解決しようとすると魔力を大量に消費してしまう。

 結果として航続距離に響いてくるんだよな。

 趣味に走った戦闘機の方が消費魔力が少なくなるくらいだからね。

 あと、消費された魔力をチャージするのも時間かかるだろうし。

 旅客ベースでの開発もするけど、すぐには無理だろうなぁ。

 色々と試行錯誤している最中である。

 そんな訳で気軽に往復なんてことは難しい状況だ。

 それが戦闘機であってもね。

 これって問題があると思うんだよな。

 うちはヤクモと移行を予定しているジェダイトシティのように飛び地だらけだし。

 これ以上の速さを求めるなら転送魔法しか考えられない。

 とはいえ長距離転送なんて俺にしかできないし。

 ローズやシヅカは教えればできそうな気もするけど。

 それも転送先の状況をリアルタイムで確認できるようにならないといけないし。

 魔法でも可能だけど、それだと転送前に余分な魔力を消費するんだよな。

 それに、現在の全人口から考えれば移動の要求を満たせるものではない。

 俺とローズとシヅカだけだもんよ。

 国民全員の要望に応えようと思ったら年中無休でフル稼働だな。

 無理に決まっている。

 それ以前にやりたくない。

 誰だって、そう思うだろうよ。


「……………」


 しょうがない。

 いっそのこと転送門でも作るか。

 そうなると駅か空港みたいな施設を用意してってことになるか。

 魔力の供給は地脈から引っ張ってくればいい。

 あんまり使いすぎると地脈に影響が出かねないけど。

 そこら辺は工夫とやりくりだな。

 増幅装置を組み込んだりするのは基本中の基本である。

 でないと使用回数の制限がシビアになってくるはずだからね。

 他の自然エネルギーも魔力変換して供給されるようにすることも考えるべきだ。

 ……思ったより簡単かもしれない。

 今夜にでも試作してみるか。

 あ、でも設置場所が問題になってくるな。

 ヤクモやミズホシティはいいとしても、ジェダイトシティは他所の人間が入ってくるからな。

 部外者禁止の場所に設置しないといけない。

 でも城の中だとすべての国民が使う上で問題がある。

 あと、大量輸送の観点から考えると広いスペースも必要だよな。

 物資輸送が必要になることだってあるだろうし。

 それを考慮した上でのセキュリティか。

 なかなかハードルが高い。

 地脈を使うんだし地下鉄風にするのも手かと思ったんだが、物資の搬入出がなぁ……

 閉鎖空間にするのは決定事項だけど。

 外から見られずに済むからな。

 侵入者を閉じ込めることも追い込むこともできるだろうし。

 仮に乗り込まれても使えないように国民以外では動かないようにしておくのも決定事項だ。

 中身はともかく外見はドーム球場みたいな施設にしよう。

 あ、でも上は別の目的で使う建物にしてもいいのか。

 別に空は飛ばないんだし。

 百貨店やスーパーなんかの買い物ができる場所があってもいいと思う。

 映画館に劇場なんかも面白そうだ。

 外食の店舗を集めるのも悪くないんじゃないか?

 あるいはテーマパークや遊園地のような遊戯施設とか。

 そうなってくるとスポーツ関連の施設にしてもいいかもね。

 うーむ、夢が膨らむ。

 考え始めたらキリがないな。

 ……ところでクラウドは?


「うむむむむぅ」


 えっ!? もしかして、まだ悩んでいるのか?

 おいおい、たかが食料品の輸入だろうが。

 唸るほどとは予想外だわ。

 量が少ないから高額になると考えているのかもな。

 王族といえど贅沢は厳禁、か。

 どこかのクズな王族や貴族たちに聞かせてやりたいね。

 まあ、馬耳東風になるか鼻で笑うかになるとは思うがね。

 それに聞かせてもじきにこの世から消えちゃうし。


「市場に出さないことを誓えるなら、うちの基準の価格で売ってもいい」


「いや、しかし我らだけで特別なものを食すというのは……」


 煮え切らないオッサンだな。

 が、嫌な気はしない。

 自分を律している立派な王様じゃないか。

 俺とは大違いである。


「自分たちが食べない小麦を備蓄に回せばいいんじゃないのか。

 微々たる量かも知れないが、ローテーションさせるには逆に丁度いいかもな」


「ローテーション?」


 言葉の意味は分かっているはずなんだがな。

 クラウドは首を捻っている。

 ダニエルもか。

 相応の教育を受けている王と宰相が分からないのは些か予想外だった。

 俺の考えていることはどうやら一般的な考え方じゃなさそうだ。

 メイドたちも顔を見合わせている。

 騎士たちもあからさまな態度ではないものの首を捻っている。

 魔導師団の面々は総長の様子を覗っているな。

 元総長の介助者にして今は補佐役であるナターシャもか。

 で、その総長は何か考え込んでいる様子であった。

 困惑している他のゲールウエザー組と比べれば一歩前にいるようだ。

 やがて小さく頷くと笑みを浮かべた。

 自分なりの答えに辿り着いたようだな。


「ヒガ陛下はなかなか面白いことを考えられますね」


 その言葉を発したことによって総長に視線が集まる。


「そうかい?」


「備蓄の小麦は一定期間が過ぎれば廃棄処分するだけでしたが」


 廃棄って……

 食えなくなるまで保管しておくのか。

 随分と効率の悪いことをしているんだな。

 だけど、これで総長は俺の言いたいことを概ね理解していると確信した。

 一方、他のゲールウエザー組は何を当たり前のことをと言いたげな目をしている。

 魔導師団の面々はそうでもないか。

 ナターシャは真剣に聞いている。

 魔導師団の下っ端連中は困惑顔だけど。

 さすがに自分の上司が言うことを否定的な目で見る訳にはいかんよな。


「こまめに新しい小麦を補充することで同量の古い小麦を別の場所で用いる。

 段階的に古いものから順に利用する形で処分すれば無駄がなくなります。

 廃棄するほど古くもないものであれば格安で市場に回すことも可能ですから。

 これがヒガ陛下の仰るローテーションなのでしょう。

 無駄がなくなるだけでなく、節約にもなる素晴らしい考えだと思います」


 柔らかな笑みを浮かべて己の考えを述べる総長。

 不思議とドヤ顔をしているようには見えない。

 あくまで穏やかに答えているからか。

 ガツガツした感じがしないんだよね。

 むしろ周囲の反応の方が激しいかもな。

 オッサンコンビはショックを受けたように目を見開いているし。

 ダイアン隊長は恥ずかしそうに唇を噛んでいる。

 騎士の連中はダイアンほどではないが恥じている感じだな。

 メイドは恥じているのが半分で残りは感心しているといったところか。

 魔導師団は全員「さすが、総長さま」って目で見ていた。

 いずれにしても感情の高ぶりは総長より上である。

 まだ、正解とも言ってないんですがね。

 これで間違っていたら君らはどうするつもりなんだ?


読んでくれてありがとう。

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