表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/1785

268 同時進行で事は進む

「あれは何ですかな」


 眉間に手を当てたままダニエルが指を差す。

 そちらを見ないようにしながらなのは呆れているからかビビっているからか。

 どちらでもないと頭では判断するのだが、そのように思えてしまうのは何故なのか。

 別に指差す先にグロ注意なものがある訳でもないのだが。

 会議室兼用の食堂に集合しつつある魔導師団の姿が映し出されているだけだ。


「ああ、これは幻影魔法だが?」


 ダニエルは呆れたような怒りを禁じ得ないような苦笑しているような百面相ぶりを発揮していた。

 少しは落ち着けよ。

 本当に大国の宰相か?


「離れた場所の状況を確認できるなど前代未聞ですぞ」


 宰相のダニエルは少し怒ったような口振りである。

 表情は呆れた感じにしか見えないので本気で怒っている訳ではないようだが。

 そんなものを平然と見せるのはどうかしていると抗議したいのか。

 けど、そんなに混乱した状態は他国の人間に見せていいものではないだろう。

 少しはドッシリ構えて平然と受け流すところを見せてくれ。

 他所の国のことなのに心配になってしまったじゃないか。

 まあ、許容範囲を超えたことをしてしまっているからなんだろうけど。

 前代未聞なんて言うくらいだし。

 うちの基準では普通なんだが。

 故に古参の面子は眉一つ動かしていなかった。

 まだ慣れていない3姉妹もすでに幻影魔法での中継は体験済みだしな。

 なにより昨夜の出来事のお陰で感覚が麻痺しつつあるから、この程度じゃ動じるはずもない。

 うちの基準に慣れるまで時間がかからなさそうで助かるね。

 となるとダニエルがアレな感じなのはしょうがないのか。

 西方の基準とズレがあるのは認識していたつもりなんだがな。

 まだまだ修正が必要なようである。

 これでこの程度は楽勝とか言ったらダニエルが発狂するかもしれん。

 そういうこともあろうかと回りくどい手を使ってみたけど正解だったようだ。

 総長が騒ぐかと思ってやったことだけどね。

 それなりに手順を踏んだからか総長は醜態をさらさなかったが。

 驚きはしていたが、その瞬間だけである。

 ただ「無詠唱で召喚とは……」などとブツブツ呟いて己の世界に没入していた。

 そこは職業柄やめられなかったというところか。


「召喚した使い魔の補助があってのことだ」


 普段であればそんな必要はないので半分はウソになる。

 今回は影響を考えて使い魔による中継に見せかけているがな。

 呼び出したのは使い魔じゃないけど。

 斥候用自動人形をそれっぽく引っ張り出して使ってみたのだ。

 もちろん幻影魔法で映し出す映像は彼らの目を通したものである。

 自然な動物の動きを取り込んであるから映像が微妙に揺れるんだよな。

 面倒だけど、総長の目もあるので証人になってもらえるという打算もあってのことだ。


「と言いますと?」


 ダニエルの反応を見れば決して無駄ではないことがわかる。

 とりあえず落ち着きを取り戻して話を聞こうとしているのは助かるね。


「使い魔の目を通して見たものを幻影魔法で映し出しているだけだからな」


 何でもないように言っておく。

 過大評価されると面倒なことになりかねないから慎重にだ。


「そんなに手間のかかるものじゃない」


 そう言ったら総長がジト目でこっちを見てきた。

 その目が語っている「とても我々では真似できません」と。

 ……これでもハードルが高いのか。

 場合によっては監視カメラのような魔道具も提供しようかと思ったけどダメだな。

 少なくとも西方じゃ普及させるのは問題ありそうだ。


「そのような方法があったとは……」


 真剣な表情で考え込む宰相。

 どう考えてもパクる気満々である。

 魔法や魔道具にそれほど詳しくないからこその思考だ。

 実現性が極めて低いと知っていたら諦めていただろうし。

 なんにせよ動揺しながらも国益を考えるとは一国の宰相らしいと言えるか。


「言っとくが、国内各所に配置して運用しようとか考えているなら実現は無理だぞ」


 こう言われてもダニエルは動揺しない。

 ただ、無言が返されるだけだ。

 何を考えていたか悟られたくないからなんだろうけどバレバレだ。

 このジジイ、芝居は下手だな。

 人のことは言えた義理ではないんだけど。


「この距離でも並みの魔導師じゃすぐに魔力切れを起こすからな」


「左様でしたか」


 じゃあ、アンタはどうなんだという呆れのこもった視線が向けられている。

 そう思うのは俺の被害妄想なんだろうか。


「それに使い魔と繋がりながら別の魔法を使う時点で制御力が問われる」


 若干だが表情に動きがあった。

 瞬間的にだが頬が引きつったようだ。

 はて、困難さを理解してもらえると思ったのだが?

 俺は総長の方を見た。


「申し訳ございませんが、ヒガ陛下の魔法は我々の想像を絶しております」


「え?」


 結構控えめにしたんだけどな。

 思わずガンフォールの方を見てしまった。

 手遅れだと言わんばかりに首を振られてしまう。

 ああ、そう……


「高度な魔法を無詠唱で同時に制御しつつ平然としておられるのが何よりの驚きです」


 ダニエルも激しく頷いている。

 引きつった表情を見せかけたのは、そこに気付いたからか。


「その上、普通に会話もされているというのは……

 目の当たりにしていても信じられないような不思議な気分です」


 またしてもガンフォールを見た。

 だから手遅れなんじゃという視線で返された。


「主よ、どうやら動きがあるようじゃぞ」


 シヅカがここで口を出してきた。

 俺がダメージに打ちひしがれる前にフォローを入れてくるとは気配りさんだな。

 有り難い。

 ここで流れを変えて俺の魔法から目をそらしてもらおう。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 大食堂兼用の会議室となる大広間で壇上に立ったローブ姿の女。

 総長を介助していた魔導師ナターシャ・ホルストである。

 幻影魔法で見ていても堂々としたものだ。

 若いが相応の実力者なのだろう。

 柄の悪そうなのが何かヤジを飛ばしているように見えるが意に介した様子はない。

 どうやら第2班の連中もそろったようである。

 それを見る宰相の表情は渋い。

 総長は特に何も変化がないところを見ると、これで普段通りなのだろう。


「音声については我慢してくれ」


「何を仰られるか」


 ダニエルは目を見開いて返事をする。


「こうして向こうの状況をつぶさに確認できるだけで充分でしょう」


 その言葉に総長が同意して頷く。

 本当は音声を聞かせることくらい簡単にできるんだけどね。

 音声をカットしてあったのは偶然と言ってもいい。

 総長に色々と聞かせてしまうのは忍びないと思ったが故に音なしにしただけなのだ。

 そのあたり気を遣わずにいれば今頃はどうなっていたことか。

 少なくとも激怒する宰相の姿が見られたと思う。


「第2班がここまで態度悪いと思ってなかっただろう」


 この一言で「うっ」とたじろぐくらいだからな。


「アンネローゼ・ミュラーとバーバラ・リーゼは被害者だと思うがな」


 一気に顔色が悪くなるダニエル。


「正直に言わせてもらうと、あの両名の態度でガンフォールも俺も迷惑したんだが」


「「申し訳ございません」」


 ガバッと椅子から飛び退いて土下座する宰相と総長。


「謝罪を要求している訳じゃない」


 そう言っても動く気配がない。

 それに総長はさっきも謝罪してたぞ。

 何度も謝られてもなぁ。

 別に許さんと言った訳じゃないんだし。


「ジョイス総長、アンタは謝ってくれたじゃないか」


「いいえ、ジェダイト王への謝罪を忘れていました。

 このような非礼は許されるものではありません!」


「だとよ」


 ガンフォールの方に目を向けた。


「ワシは気にしておらぬ」


「ですが」


「あの状態でこの部屋に来るなど命がけであったじゃろう。

 意識も朦朧とする中で部下の非礼を詫びた。

 その場にワシも居合わせたのじゃ。

 あれで不足するとはワシには口が裂けても言えぬ」


「総長の覚悟、見事なり」


 ちょっと厨二ぶって言ってみました。

 恥ずかしいけど黒歴史にはならないよね、ね?


「勿体なきお言葉にございます」


「あ、宰相はダメだけどな」


 土下座のままダニエルがずっこける。

 器用な奴だ。


「原因を作ったのは間違いなくアンタだし。

 色々と聞いてるぞ。

 第2班の横暴を阻止するためにアイツらを放り込んだとか。

 狙い通りになったはいいけど一切フォローしなかったとか」


「誠に申し訳ございません!」


「謝る相手が違うだろ」


「返す言葉もございませぬ」


 この様子なら2人に謝罪はしそうだな。

 まあ、立場もあるから土下座って訳にはいかねえだろうけど。


「それにそもそも一時的な措置だったんだって?

 丸々4年以上ってのは、いくらなんでも長すぎないか」


「仰る通りでございます。

 何ひとつ申し開きできませぬ」


 なんだか時代劇の雰囲気が漂ってきたんだけれど気のせいか?

 俺の勝手な思い込み?

 時代劇が好きだった祖父母の影響かもしれん。

 水戸の御老公様ってこんな感じなのかねと思ったりもする。

 印籠出してバーンと効果音が入ったりはしないけど。

 とすると名前が印籠代わりとか言ってる江戸な日記の方になるのか。

 個人的には鬼と呼ばれた火付け盗賊改めな方が俺の嗜好に合っているのだが。

 あれはあんまり説教とかしないもんなぁ。

 食事のシーンにこだわりがあるのと渋い人情味のある話が好きだったんだよ。

 なんにせよ、これなら俺の要求は通るかな。


「そう言うならアイツら引き抜くからな」


「は?」


 キョトンとした顔を上げて俺を見てくるダニエル。

 そこに宰相の威厳はない。

 いや、土下座をした時点でそんなものはないのだが。


「は? じゃねえよ。

 アイツらのこと、ほったらかしだったじゃねえか。

 どう考えたって使い潰す気満々だったとしか思えないんだが?」


「いえ、決してそのようなことは……」


 明らかに歯切れが悪い。

 誰の目にも反論に根拠がないようにしか見えないだろうからな。

 自覚しているだけマシではあるか。

 これで堂々と言い放つなら永久脱毛の刑を実行していたさ。


「胸を張って言えないってのが終わってるだろ」


 ガックリと項垂れるダニエル。

 あれだけの仕打ちしといて、しこりが残らない訳がないからな。

 そういうことも理解しているっぽい。

 なら、どうしてフォローしなかったと言いたいが説教をしている時間的な余裕があまりない。

 幻影魔法の向こう側で動きがあったからだ。

 一部の団員が席を立って各席を回っていた。

 予定通りの行動である。

 ポーションを希釈して各自の前に置かれたカップに注いで回っているのだ。

 ナターシャが手振りを交えて喋っている。

 ポーションが何であるのか説明しているところだろう。

 ただし、説明の内容は出鱈目なものだがな。

 総長の伝で手に入れた特別なマジックポーションというあたりまではウソでもない。

 俺が提供したものだからな。

 魔力の底上げをする可能性があるということにしてあるあたりがウソだ。

 本来の効果は魔力と疲労の回復しかない。

 人数分だけ希釈したのでバレたりはしないだろう。

 アホな奴らだと魔力が増えたと勘違いすることもあるかもしれないと考えてのウソ効用である。

 故に俺としては確実に底上げする設定にしようと思ったのだが大人しめのものになった。

 可能性があるぐらいという設定になったのは総長にその方が良いと言われたからだ。

 効能が劇的すぎるのは好ましくない、とね。

 もしかしたら可能性があるくらいの方が疑いつつも試す気になるだろうと言っていた。

 なるほど、納得だ。

 年を食った人間の経験はバカにできないね。

 亀の甲より年の功、だな。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ