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245 他にも奴隷はいるので……

 俺の話を聞き終わったルディア様が溜め息をついた。


『……そうだったな』


 少し間があったのは気持ちを落ち着けるためだろうか。

 怒ったままじゃ問題解決には害にしかならんし。


『それについては何とかしよう』


 有り難いお言葉だ。


『助かります』


『あまり褒められたやり方はできぬがな』


 贅沢は言えない。

 俺が解決するとなると修羅場をまぬがれることはできなかっただろうし。


『申し訳ありません』


『何を言うのか。

 本来ならばアレが責任を持って最後まで面倒を見るべきことだろう』


 まあ、そうなんだけど。

 あのダメ亜神が当てにならないからルディア様にお願いしているのだ。

 それよりまたアレ呼ばわりに戻ってる。

 再燃焼させてしまったな。

 お仕置きは3倍返しどころじゃなくなったかもしれん。

 まあ、どうなろうが知ったこっちゃない。

 無責任かもしれんがね。

 さすがに過剰なお仕置きになるのは止めるべきなんだろうけど。

 それでも俺だけ一方的にやり込められたまんまじゃ納得いかんしな。

 周囲への影響がでかすぎるんだよ。

 それに対する責任は感じている。

 俺に隙があったからこういうことになった訳だし。

 回避できる機会も何度かあったはずなのだ。

 だからルディア様には謝罪するけど、おちゃらけ亜神には詫びんよ。

 抜け道は作っておいたじゃんとか言い訳するなら、俺も言い返してやる。

 最初から下らんことをするなとな。

 神様見習いという自覚を持てよっての。


『いえ、そもそもは俺が好き勝手にやり過ぎたからですし』


『ハルトで好き勝手と言うなら兄者はどうなる』


 一緒にしないで欲しいという言葉は飲み込んでおいた。

 他者から見れば五十歩百歩だろうしな。


『まあ、いい。

 ここで押し問答をしても始まらん。

 この国ですべきことを終わらせたら全員をヤクモに連れて行け』


『ヤクモにですか……

 わかりました。

 よろしくお願いします』


『あまり期待してくれるなよ。

 世間を騒がせぬようにするのが精一杯だからな。

 すべての人間を納得させる方法ではないことだけは承知しておいてくれ』


『はい』


 そう返事するしかできなかった。

 俺じゃ解決策を思いつかないんだし。

 ルディア様にお任せするしかあるまい。


『では、また後ほどな』


『わかりました。

 よろしくお願いします』


 こうして念話による内緒話は終わった。


「……………」


 終わったはいいんだが、場は未だに静まりかえったままだ。

 ルディア様との会話が超高速で行われていたからという話もあるけどね。


「あー、なんだ……

 このくらいで驚いてると、先が続かんぞ」


 ヤクモに行くのに転送魔法使うしな。

 俺が連れて来た面々は、こう言うと我に返った。

 ジェダイト組は今まで色々と見てきているし。

 エリスもそれなりには見せたしな。

 クリス姫が復帰してきたのは性格的な部分が大きいかもしれんが。

 同じ条件のはずのマリア女史が戸惑った様子を見せているし。

 それでも俺の呼びかけに反応してくれたのは助かるよ。

 問題は元奴隷組だな。

 全滅ではないが、それに近い。

 そんな中でレオーネが俺の前に歩み寄ってきた。

 ブルースのオッサンがその後ろに続いている。


「どうした?

 槍で力試しがしたいのか」


 言われて槍を持ったままだったことに気付いたのだろう。

 手にした槍に目をやって頭を振り、横に放り捨てた。

 間違っても敵対する気はないと明確に意思表示した訳か。


「自分では賢者様には遠く及びません。

 御指導は受けたくもありますが、今はその時ではないでしょう」


 そう言って深く頭を下げた。

 オッサンもそれに倣う。


「とりあえず頭を上げてくれ。

 そういう堅苦しいのは好きじゃない」


 俺も槍を持ったままだったから分解しておいた。

 頭下げているタイミングなので深くは追及されんだろうと考えたわけだ。

 分解を目撃されると、またフリーズされかねないし。

 戸惑った様子で両名は面を上げてきた。

 さて、ここからどうするかだが……

 進化したことを告げるのはヤクモに行ってからだな。

 まだまだ落ち着ける状況じゃないし。

 とりあえず名乗っておく。


「俺はハルト・ヒガだ」


「し、失礼しましたっ!」


 ガバッと頭を下げるレオーネ。


「なんなのさ?」


 訳が分からん。

 俺が何かしたか?


「自分から名乗るべきところを──」


 そういうことか。

 なんか堅苦しい奴だな。

 オッサンの方は割と落ち着いているのに。


「ああ、気にしてないよ」


 レオーネの言葉を途中で遮った。


「ですが……」


「言っただろう?

 俺は堅苦しいのは苦手なんだ」


「はあ」


 戸惑い気味ではあるが引き下がってくれた。


「それよか名前、教えてくれよ」


 既に知っているが、鑑定のネタばらしも後回しだろ。

 それに名乗りを受けたら名乗り返すという礼儀上の問題もある。

 レオーネが泡を食ったのは、そういうのを重んじるタイプだからだろうしな。

 再び慌てだしたので「そういうのはいいから」と止めて名乗らせる。


「レオーネ・ソレイユ。

 種族は海エルフです」


 ごめん。シャドウエルフなんだよ。

 とりあえず心の中で詫びておく。

 レオーネの海エルフ発言には、こちらサイドの者たちが銘々の反応を見せていた。

 顔を見合わせたり軽く驚いたり。

 まあ、閉鎖的な種族みたいだし珍しいってことだな。

 更にレアな種族だと知られたらと思うと胃が重い。

 一方でノエルは無反応だったけど。

 わざわざ心境を尋ねるほどのことでもないだろう。


「自分はブルース・ボウマンであります」


 そしてオッサンは落ち着いているように見えてガチガチだった。

 どこの警察官だよって感じだな。

 【狙撃】スキル持ちだから軍人と言った方がいいかもだけど。

 潜入の人に似てるしな。

 苦笑しつつ「普段通りでいい」と言っておいたけど、果たしてどうだろうね。

 とにかく彼等と話して問題解決をはかる。

 地下牢に転送した連中のことを話したら驚かれたけど。

 俺が塵に変えたとか思っていたらしい。

 まあ、瞬時に消えたからな。

 この連中については優先度を低くした。

 逃げようがないから始末をつけるのは後で充分ってことだ。

 それよりも戦闘に向かない奴隷を解放する方が先である。

 城内にも大勢残っているのでね。

 使用人やメイド、料理人などである。

 メイドの大半は別目的がメインの若い女性たちばかりなのが腹立たしい。

 金で雇って相手も納得しているならともかく力尽くで連れて来られた奴隷だからな。

 レオーネが城内を案内すると言ってきたが、それには及ばない。

 城内の状況は魔法を使ってリアルタイムですべて把握しているから大丈夫だ。

 そう言ったら遠い目をされてしまったけど。

 そこは慣れてくれとしか言い様がない。

 俺がいない間に呆然としている連中が動けるようにしておくよう言い残し、単独で転送魔法を使った。

 ツバキたちが城内で派手に暴れたから隠れているのが多い。

 盾にされそうになって眠らされた者も少なくないな。

 眠っている者から倉に回収していく。

 倉庫と違って状態変化を受け入れるから生命体を放り込んでも大丈夫なように設定できる。

 冷蔵庫や冷凍庫のようなセッティングにもできるけど。

 今は現在の気候に合わせて過ごしやすいものにしてある。

 とは言うものの中には何にもない。

 ここで暮らしていくわけじゃないからな。

 よくよく考えると倉の性能は恐ろしい。

 異世界転生ものの物語でチートな主人公が亜空間系の格納を自在に使うのは読んだり見たりしてきたけど。

 それでも生き物の格納ができない制限付きのが多いからなぁ。

 俺のは設定次第で最適な環境ができるから、その気になれば拉致も誘拐もやりたい放題だ。

 もちろん犯罪などする訳がないんだけど。

 ただ、俺が今やってることは状況を知らない者にとっては拉致にしか見えないよな。

 ……そうでもないか。

 格納する時は急に消えるから怪しい奴だと思われるだろうけど。

 俺が拉致しているようには見えない?

 どうなんだろうね。

 まあ、気にしてもしょうがない。

 隠れている人たちには悪いけど魔法で強制的に眠ってもらって格納していく。

 騒がれると時間の無駄だからな。

 あっちで格納こっちで格納をして最後に来たのが厨房だ。

 ここで隠れているのが一番多かったので最後にした。

 魔法で先に眠らせてから短距離転送で厨房に跳ぶ。

 ここの一同も格納して一息ついた。

 奴隷はこれで全員だ。

 経歴は確認済みである。

 盗賊だとか殺しに関わったようなのはいないので、まとめて首輪を分解。

 怪我をしているものは治癒。

 心の傷に関しても、なるたけダメージにならないようにしたつもりだ。

 が、それも短期的な効力しかない。

 植え付けられたトラウマを魔法で一気に払拭するのは困難だ。

 トラウマってのは心に強く刻みつけられているからね。

 無理に引っ剥がすなんてことはするべきではない。

 不可能ではないが無理をすれば逆効果になることもあり得る。

 場合によっては記憶の欠落や感情の喪失などがあってもおかしくない。

 時間を掛けて少しずつ癒やしていくしかない。

 焦るとフラッシュバックで忌まわしい記憶が一気に呼び起こされてしまいかねない。

 逆戻りどころか悪化することもあり得る。

 これもルディア様にお願いするしかないだろうな。

 悪いけど何でもかんでも俺が背負い込むつもりはない。

 故に申し訳ありませんがよろしくお願いしますとメールを出しておいた。

 即座に任せておけの返信が来たのには驚かされたけど。

 という訳で、すぐにお別れの時間である。

 近隣諸国から連れ去られた者には幾ばくかの金を持たせて転送しておいた。

 ここでも【多重思考】は大活躍である。

 一気に魔力は減るが全員まとめて同時転送だ。

 魔力の方はじきに回復する程度の減りだから時短を優先しました。

 あと転送後に目覚めるようにしてある。

 不用心なのでね。

 一応は実家の納屋とか馬小屋辺りに送っておいたけど。

 目覚めたら見覚えのある場所だから驚くだろうな。

 大した額じゃないけど金まで持ってるし。

 そのくらいじゃ何の慰めにもならないとは思うがね。

 受けた被害のことを考えれば、もっと賠償請求できるだろう。

 この国に支払い能力があるとは思えんけどな。

 湯水のように金を使うくせに国力は低いし。

 金は強奪してくるものだという意識を国王や貴族が持ってるからなんだけど。

 そのせいで国力の貧弱さに反して軍事力だけはあるってのが、もうね……

 よくぞ今まで破綻しなかったものだ。

 だから俺のポケットマネーからお金を出しておいた。

 見舞金みたいなものだ。

 この城の中に唸るほど金はあったけど他の賠償で使うからね。

 国境付近の村と税金を搾り取られた国民という名の奴隷たちにも返す必要があるし。

 もちろん被害総額には遠く及ばない。

 それ故、この城にいた面々だけでも俺からの見舞金ということにしたのだ。

 似たような額になるようにはした。

 誰にとっても慰謝料には相当しない程度でしかないがね。

 できることなら、たくましく生きてくれとしか言えないのが俺の限界だ。

 身勝手な偽善者なんだろうな。


読んでくれてありがとう。

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