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25 ぼっち男と蜘蛛女

改訂版です。


 その後も話は続き、どうやら俺は女に信用されたようだ。

 やはり精霊獣と契約しているのが利いてるね。


 そして遅まきながら互いに自己紹介。

 彼女はアラックネという種族のツバキと名乗った。

 どこかの熊型キャラクターのような種族名だ。

 ちなみに下半身が蜘蛛の魔物アラクネとは全くの別物である。


 アラックネは妖精。

 羽根の代わりに背中に自在に出し入れできる蜘蛛足があるのが大きな特徴だ。

 背中から黒い蜘蛛足を出しつつ自分はアラクネとは違うと念を押された。

 確かに魔物と妖精では大違いだな。

 間違えれば憤慨もするだろうし気を付けよう。

 それより気になったのは背中の開いた服を着ている理由が判明したこと。

 色気を振りまくためではないようだ。


 あと目立つ特徴は瞳孔のない赤い目ぐらい。

 それ以外で人間と外見上の違いはなさそうだ。

 スタイルが良いとか背が俺と同じくらいあるとかは種族的な特徴ではない。


 俺の自己紹介は細かな話を省いておいた。

 一応はエルダーヒューマンだと言ったが軽く流された。

 どうも世界に一人しかいないとは知らなかったようだ。


 そんなこんなでツバキの印象が軟化したところで今後についての相談を受けた。

 食材供給が難しくなってしまったという。

 それを聞いてようやくツバキの状態に思い至った俺は鈍感野郎だ。


「その前に腹は減っていないか」


 俺の質問にツバキが薄く笑った。


「我慢できないほどではないがな」


「残り物なら調理せずにすぐ用意できる」


「すまぬな」


「いや、早々に誘っておけば良かった」


 そう言いながら倉庫内に回収しておいた残り物を出してくる。

 熱々の状態を維持した肉や野菜を前にしてツバキが笑みを浮かべた。


「これは良いものだな」


 一口食べて笑みを深くする。


「ダンジョン産の食材とは別物だ」


 じっくり味わって咀嚼している。

 噛みしめるほどに味が増すと言わんばかりだ。


「そんなに酷いのか」


「ゴブリン肉は毒同然だな。

 苦みだけで生き物を殺せる」


 思わず天を仰ぎ見た。

 ネットの某掲示板で数々のマズメシネタが脳裏を過ぎる。


「さすがにアレは食わぬよ」


 ツバキが苦笑した。


「虫系は味気ないが食える方だ。

 鬼面狼は筋張っていて不味いが食用だな」


 食糧事情があまりにもお粗末すぎて涙を誘ってしまうじゃないか。

 そんなものでも腹を満たしていたのは事実であり、それが失われたとなると……


「食糧供給の嘆願と考えればこいつらの行動も頷けるか」


 俺の独り言にツバキが反応した。


「そうかもしれんの。

 正直な話、今後の当てがない」


 俺が潰したダンジョンがメインの狩り場だったか。


「すまん。

 移住するしかなさそうだな」


「良いのだ。

 元より住みよい場所ではなかった」


 ツバキによると食糧確保ができるなら住む場所にこだわりがないそうだ。

 この場所にも狩りや採取を続けて北上してきたという。

 憶測だがダンジョンに引き寄せられた気がする。


 問題はこれからだ。

 今から南下しても全員が飢えずに次の狩猟場や採取地に行けるとは思えない。

 最悪の場合は全滅も考えられる。

 でなきゃ、とっくに南下しているだろう。


 間違いなく俺の責任だ。

 考えなしに無茶な魔法を使ったツケが回ってきたのだから。

 なら、最後まで俺が責任を持たなきゃな。


「ひとつ提案なんだが、良いか?」


「聞かせて貰おう」


「農業をやってみるつもりはないか」


「この辺りでか?」


 訝しげに問い返される。

 開墾だけでも並大抵の労力では成し得ないからな。


「いや、ずっと南の方に十分に開けた場所がある」


 言わずと知れたミズホシティだ。


「とてつもなく遠そうだな」


「心配しなくても俺が連れて行く。

 空を飛んで数時間ってとこだな」


 高所恐怖症だったりするとそれはそれで永遠にも等しい時間になるだろうけど。


「トラウマになりそうだな」


 ツバキが上を見上げながら言う。


「お前さんはともかく、他の皆もか?」


 ツバキ以外は小さいながらも翼を持っている。

 だから安心できると思っていたのだが。


「高さより速さに目を回しそうなのでな。

 我らが全力で駆けるよりも速く飛ぶのであろう?」


 言われてみて体感速度に耐えられないという発想がなかったことに気づいた。

 空気抵抗は遮断できるから息ができないなどの問題はないのだけれど。


「行くことに不満はないんだな」


「飢えなければ文句を言う者はおるまいて。

 むしろ南であるなら過ごしやすかろう」


「田畑はこれから作ることになるが、収穫までは俺が食材を提供することを保証しよう」


「随分と気前がいいの」


「俺の責任だしな」


「そんなことを言い出せば切りがないぞ。

 この地で留まり続けた我らにも責任はある」


 お互い様と言いたいらしい。


「気に入らない連中相手ならそこまではしない。

 適当に同程度のダンジョンを見つけてきて送り届けて終わりだな」


「それにしても背負い込みすぎだ。

 普通は気に入らぬなら放置するだけであろう?」


「筋を通すだけさ」


「面白い男よな」


 ツバキが苦笑していた。


「そうか?」


 俺自身は何の面白みもない人間だと思っているんだが。


「人間とはもっと酷い奴らばかりだと思っていたからの」


「まるで見てきたようなことを言うんだな」


 ミズホ国は俺以外の人間はいないのだが。


「三百年ほど前までは大陸の西側に住んでいたのだよ。

 人里からは離れ関わりは持たぬようにしていたがな。

 だが、それでも人間の酷い話は聞こえてくるものだ」


「そんなに酷いのか」


「嫌気がさして人のいない地を求めて流離うほどにな。

 強力な魔物の領域に入ったときは生きた心地がせなんだが。

 なんとか逃げ隠れして東へ東へと逃げ延び、この地に辿り着いたのだ」


「苦労したんだな」


「二度としたいとは思わぬよ」


 ツバキは自嘲気味に笑っていた。


「人間とかかわるのは真っ平かい」


「さて、どうだろうな」


 思ったほど嫌悪感は感じられない。


「今にして思えば、あの国以外はマシだったかもしれぬ。

 当時は他国の人間と比べようなどとは思えなかったからの」


『あの国……、アルシーザ帝国っぽいな』


 根掘り葉掘り聞かない方が良さそうだ。

 なんにせよ大陸東側の危険地帯を通り抜けることを決意させるほどである。

 トラウマレベルの出来事がオンパレードだったとしても不思議ではない。


「私がお主を警戒していたのはそれ故であるからな。

 しかし、お主であればあの国のように酷いことはすまい」


 いつの間にか随分と高評価になっていた。


「俺が連れてくる奴らがそうとは限らないぞ」


「連れてくる?

 どういうことだ」


「信じられそうな奴らを集めて国づくりをするつもりなのさ」


「それはまた……」


 絶句したツバキは不意に喉を鳴らして笑い始めた。


「そこまで大それたことを考えておったか」


 心底愉快そうに頷いているところを見ると拒否反応はないようだ。

 ホッと一安心と言いたいのだが、明かしていない事実があるからなぁ。

 ここまで言った以上は黙っているわけにもいくまい。


「いや、実は建国宣言は既にしてるんだ」


「なんと!?」


 ツバキが地面を見ている。


「……ミズホ国とな。いつの間に」


 さすがの【鑑定】スキル持ちも気づかなかったか。


「1年前だ」


 フハハと愉快そうにツバキが笑った。


「まさしく、ぼっちとやらであったな」


「しかも現状で2人だ」


 もう1人は言うまでもなくローズである。

 俺は国民を人間に限定するつもりはないのでね。


 悪党や差別主義者は願い下げだが信用できるならウェルカムだ。

 あと、望まぬ者に無理強いする気もない。


「人間の寿命は短いであろうに暖気なものよ」


「俺は16才だし上位種だから寿命も長いよ」


 それ以前にレベル爆上げのせいで成長はしても老けにくくはなってるみたいだし。


「それにしても、だ。

 本気なのかと尋ねたくもなる」


 ツバキは俺が丸々1年眠っていたとは知らないからなぁ。


「つい先日まで動くに動けなかったんだよ。

 あと人を集めるのはある程度街を作り上げてからだな」


「ほう、あの膨大な魔力で街を作るか」


 どうやら興味があるらしい。


「まあね」


「実に面白き話よな。

 アレを見ておらねば極めつきのホラ話と一笑に付していた」


 同感だ。

 たった一晩で数十万からなるゴブリンを残らず片付けてしまったのだから。

 にもかかわらず平然と俺の前で座っているツバキの剛胆さには感心するばかりである。

 大陸東側のデンジャラスゾーンを通り抜けてきた自信があるのだろう。

 勝つためのではなく生き残るための自信が。


「では、なぜ我らを国民にしようとせぬ」


「皆が起きたら提案くらいはするぞ。

 お前たちは裏がないから信用できるし。

 無理強いはしないから相談して決めてくれ。

 ああ、国民じゃないから高い税金を支払えとか言うつもりもないぞ」


 先住民を追い払うようなマネはしない。

 今後、入国しようとする輩については状況によるがな。


「それではメリットがなくなるではないか」


 ツバキが皮肉げにフッと笑う。

 国民であろうとなかろうと住み着けば条件が同じでは意味が無い。

 そう言いたいのだろうが、同じではないのだ。


「国民は教育と福祉が受けられる!」


 なんだそれはとツバキの目が語っていた。

 もちろん説明するさ。


 まあ日本にいた頃の制度を俺なりにアレンジしてパクっただけだが。

 義務教育や福祉などは惑星レーヌのどこを探しても存在しない概念だろう。


 まず教育面だが義務教育と専門教育に分ける。

 義務教育では読み書き計算の他にも色々と教える予定だ。


 ただしカリキュラムの詳細は構想中である。

 魔法は義務教育で教えるつもりだ。

 義務教育は無料、給食も無料。


 あと、単位制にして履修の度合いによって優遇措置を設ける予定。

 優遇措置で検討しているのは必修科目を修了すれば税金の軽減かな。

 推奨科目の修了で褒賞の授与など。


 専門教育は職業訓練校や専門学校のようなものだ。


 福祉についても同様だけれど概念は教育で根付かせる必要がある。

 育児の補助や支援、障がい者支援、老人介護。

 こういう概念は文明レベルが低いと疎かにされがちだからなぁ。


 ツバキに説明したら目と口を丸くして驚いていた。


「どこからそんな発想が湧いてくるのだ」


 実はパクっているだけなのだよ。

 社会制度だから著作権には引っ掛からないだろうけどね。


「あの国とは正反対だ。

 お主は神が使わしたのやもしれぬな」


 [女神の息子]ですが、何か?


読んでくれてありがとう。

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[一言] 間違っていたらすいません! 序盤の 熊型モンスター は蜘蛛型ではないでしょうか?
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