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241 トリプルトラップ

 ラソル様が俺の放出した余剰魔力をかすめ取っていったことが何か問題あるらしい。

 ルディア様も慌てた様子を見せているし。

 いや、念話だから姿は見えないんだけどさ。

 ……そういう細かいことは気にしなくていいんだよ。

 いかん、嫌な予感がしているせいで動揺している。

 落ち着いて状況整理しよう。

 俺が調子に乗って派手に再生魔法を使った結果、余剰魔力が部屋に充満してた。

 これを回収しようとしたらラソル様に『再利用する』とか念話で言われて持って行かれたんだよ。

 あ、もしかして最初から狙ってたのか。

 俺の行動も予測して完全に計算通りってこと?

 だとしたら二度もはめられたことになるな。

 最初は元奴隷組の面倒を見ることになったラソル様の爆弾発言だろ。

 で、今回の余剰魔力の一件だ。

 バカみてえだな、俺。

 完全に掌の上で踊らされてるよ。

 乾いた笑いしか出てきそうにないや。

 人目があるから笑うに笑えんがな。

 それより問題はルディア様が慌てて念話で話し掛けてきたことだよな。

 なんか、ヤバいのか?

 ラソル様が巧妙に仕掛けを残していったと言うし。

 そんなの聞くと嫌な予感は膨らむばかりだ。


『もしかして俺の余剰魔力をかすめ取っていったことと関係あります?』


『その通りだ』


 ビンゴかよ。


『この部屋でハルトが放出した魔力は強化されるよう細工されていたのだ』


「……………」


 なにしやがった、ダメ亜神。

 俺の心の声が伝わった訳でもないだろうが、ルディア様が解説してくれた。


『結論から言えば、ベリル様の魔力と混ぜ合わせた』


『……訳が分かりません」


 ベリルママは留守にしてるのに、どうやって?


『我々が普段いる場所にはベリル様の余剰魔力が漂っている』


 ますます分からん。

 だってベリルママは留守にしてるじゃないか。


『留守であっても魔力供給されているわけだ』


 どういう仕組みかは分からんが、そういう場所があるんだな。

 そう考えると何か大事な場所らしいのではないかと思う。


『もしかして誰も来られないようにしているとか』


『その通りだ』


『一種の神界ですね』


 まあ、そういう凄い場所は管理神の管轄内じゃなくて別の所にあるだろうけど。

 神様のシステムもそういう所にあるんだろうな。


『そうとも言えるな』


『そういう場所の魔力を勝手に使っていいんですか』


『許可があればな』


『ないですよね』


『当然だな』


 ベリルママが帰ってきたなんて連絡はもらってないし。


『で、どのくらいの罰になりそうですか』


『前回よりは厳しいものになる』


 同情はできないな。

 むしろ、しでかした内容によっては「ざまあ」と思うかもしれん。


『問題はベリル様がどう判断されるかだ』


『それはまた、どうしてですか?』


『兄者のしたことが鍵を握っておるのだ』


『持ち出し禁止のものを持ち出して無断使用したんですよね?』


『うむ、その通りだ。

 問題はその使用目的なのだが……』


 ルディア様の口振りが急に尻すぼみになった。

 どうやらベリルママに事後承諾を取れそうな使い方をしたみたいだ。

 そこまで計算に入れてんのかよ。

 どう考えてもイタズラの領域じゃねえ。

 スペック高いくせに何やってんだ。


『ベリルママが許しちゃうようなことに使ったと』


『ああ、少なくとも罰は減らされるだろう』


 苦虫でも噛み潰しているんじゃないかってくらい忌々しげな空気が伝播してきた。

 何しでかしたのか気になるところだけど、それよりも気になることがある。


『思うんですけど』


『なんだ?』


『どうやって発覚をまぬがれたんですか?

 ベリルママの魔力なんて持ち出したら簡単にバレると思うんですけど』


『普通ならな。

 だが、持ち出した先がハルトのいる場所となれば話は別だ』


 俺がいる場所だと簡単にはバレなくなるようだ。

 何故だかは良く分からんが。


『わからぬか?』


 そんな風に聞かれてもなぁ。

 ルディア様はノーヒントで分かると言わんばかりだけど。


『申し訳ありませんが、サッパリです』


 そう答えると苦笑が聞こえてきた。

 そんなに簡単なことなのだろうか?


『本人が気付いておらぬとはな。

 いや、自分のことだからこそか』


『灯台もと暗しってことですか?』


『そうなるな。

 ベリル様とハルトの魔力資質は極めて似ているのだぞ』


「……………」


 仰る通り指摘されるまで気付いてませんでした。


『言われてみれば確かに』


 納得できる話だった。

 俺の半分はベリルママが補ったからな。


『似たもの同士なら誤魔化すのはさほど難しくないということですか』


『単純にはいかんがな。

 普段であればハルトも気付いていたであろう』


 あー、なんとなくルディア様の言いたいことが分かった気がする。

 あの爆弾発言は目的じゃなくて陽動だったのか。

 ……いや、陽動を兼ねた目的と言うべきだな。

 本来の目的を達成するために別の目的を追加した感じか。

 傍迷惑な話である。

 面白そうだからって理由で、そういうことをする人だとは思うけどね。


『俺はまんまと乗せられたって訳ですね』


 計画は俺が召喚魔法を使う前には完全に組み上がっていたことになる。


『最初からな』


 ルディア様の返事も俺の考えを肯定するものだった。


『召喚魔法を発動した時から少しずつ細工してたってことですか』


『その通りだ。

 兄者はああいう小細工を得意としている』


 傍迷惑な技能をお持ちで。

 真面目に仕事をしていた成果ならともかく、イタズラのために身につけてるんだからな。

 しかもルディア様の目を盗んでというのが地味に凄い。

 何度も同じ手が通用する相手じゃないだろうに、毎回出し抜いているんだから。

 実は真面目に仕事してたら、とっくの昔に管理神に昇格してるんじゃないか?

 たぶん半永久的に亜神のポジションだろうけど。

 趣味のために生きてそうだし。

 その辺りは俺も人のことは言えないんだけど。

 だからといってイタズラに全力を注ぐ神経は理解できるはずもない。

 中身が子供過ぎて実に面倒くさい。


『召喚から帰るときに俺の演出を勝手にいじったのも』


『ああ、己の細工に気付かせぬためだろうな』


『そこまでやっておいて何がしたかったのかが不明というのが不気味なんですが』


『……分からぬか?』


 なんだか妙な間があったな、今。


『それはそれとして、そろそろ下ろしてやった方が良いぞ』


『あ……』


 そういや理力魔法を無意識に使って元奴隷組を浮かせたままだった。

 彼等の欠損部位は再生し終わっているというのに。

 浮いたままなのは再生後に無意識でそうしてしまっていたからだ。

 ルディア様との会話に気を取られすぎてしまっていた証拠だね。

 彼等が騒いでいたお陰でなんとか誤魔化せそうなのが不幸中の幸いか。


「落ち着いたか?」


 静かになるのを待っていた風を装って皆を床に下ろす。

 最初は手が足がと騒いでいた面々も呆然とした感じになっていた。

 どんな心境かは、なんとなく想像がつく。

 【多重思考】で無意識に見ていたから検証することはできそうだ。

 まずは自分の状態に驚いた。

 この辺りまでは明確に記憶があるな。

 義足のオッサンも皆と同様に騒いでいた。

 続いて仲間の状態も同じであることに驚く。

 俺もお前もあいつもと騒ぎに騒いでいたのか。

 ここが一番長いようだ。

 が、人の興奮状態なんてそうは続かない。

 徐々に下火になっていき、ふと我に返った訳だ。

 疑問が色々と湧き上がってきたんだろうな。

 それらを仲間内で確認するように話す。

 最初の疑問。

 魔法といえども、こんなに早く再生するものか?

 この段階ですでに異様な興奮状態からは覚めている。

 だが、ざわめきが周囲を支配していた。

 再生スピードの異常さに驚きもあっただろうからな。

 次の疑問。

 自分たちの状態から再生って普通は不可能じゃないか?

 誰も答えられない。

 魔法に詳しい奴がいないからな。

 レオーネなら分かっただろうが青い顔をして沈黙していた。

 そのせいで、ざわめきが静かになっていく。

 更に疑問。

 それ以前に腕一本とかの再生って可能なのか?

 これも答える者はいない。

 ざわめきが囁くような感じにトーンダウン。

 ダメ押しの疑問。

 全員をまとめて再生とか人間業じゃねえよな?

 レオーネだけじゃなくて元奴隷組の全員が沈黙。

 もちろん血の気の引いた顔色になっていた。

 このタイミングでルディア様に促されたみたいだ。

 お通夜状態で呆然とするのも無理はないか。

 呆気にとられているのはミズホ組以外の連れてきた一同もなんだけど。

 あまり動じないエリスですら頬を引きつらせていたからな。

 どうやら俺が思っていた以上に非常識であったようだ。

 そういう感覚はあまりないんだけどな。

 ほら、赤イナゴの蝗害の時とかのほうがもっと派手だぞ。

 あのときは変身して正体を隠してたけど。

 あー、でもエリスはもしかすると気付いたかもしれないな。

 もう少し慎重になるべきだったか。

 まあ、身内になるから気にする必要はないか。

 一方でうちの面々は平常運転というか俺だからということで納得しているようだ。

 【多重思考】を使って様子を見つつ、ルディア様との内緒話を続行する。


『混ぜ合わせた魔力を使って何かをするつもりとしか分からないですね』


『よほど引っかき回されたのが応えたようだな』


 どうやらヒントは既にあるらしい。

 俺が気付いていないだけか。


「……………」


 ダメだ。何も思いつかねえ。

 何しやがった、ダメ亜神。


『あの状態になったのは余剰魔力だけではないぞ』


 ルディア様がヒントをくれた。


『え?』


 嫌な予感が全身を駆け巡る。


『まさか俺が再生魔法で使った魔力も……』


『そのまさかだ』


 肯定されてしまった。

 あの魔法で使った魔力もベリルママの魔力と混ぜ合わされていたとかマジかよ。

 何かしら結果が出ているはずだよな。

 パッと見は何ともないけど。

 爆弾発言に引き続き俺の使った魔法でも罠が仕掛けられていたとは。

 おまけに余剰魔力でも何かやろうとしている。

 トラップだらけじゃねえかよ。

 はめられた回数は2回じゃなくて3回でした。

 やってくれる。

 感心している場合じゃない。

 慌ててレオーネを確認してみた。


[レオーネ・ソレイユ/人間種・シャドウエルフ/-/女/25才/レベル58]


 レベルから括弧の状態が消えたな。

 腕が完全に再生しているんだから当然だ。

 それと奴隷でなくなっている。

 明確な表示でないのはリセット状態ってことらしい。

 間違いなく種族欄が変わったせいだろう。

 見たことないぞ、こんな種族名。

 おおよその見当はつくけどな。


[シャドウエルフ:海エルフの上位種族。エルフにとってのハイエルフに相当]


 やっぱり……

 シャレになってねえ。


読んでくれてありがとう。

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