23 一緒に食おうぜ
改訂版です。
『さて、どうしたものか』
妖精たちが完全に怯えきっている。
俺が軽く魔法を使っただけで土下座状態だし。
ラソル様に何を吹き込まれたんだ?
「とりあえず土下座は止めてくれないか」
この一言だけでもブルブル震えるとか重症だろ。
これ以上は何を喋っても逆効果にしかならなさそうで気が重い。
彼等が落ち着くまで待つ必要がありそうだ。
「寝るわ。
言いたいことがあるなら後で聞く」
その場で横になって自分の腕を枕代わりに眠ることにした。
ローズも俺の真似をして横になる。
此奴も剛胆なところがあるな。
俺はゴブリンの大量討伐で精神的に疲れているから面倒になっただけなんだが。
だからといって油断しているわけでもない。
【多重思考】スキルがあるからね。
眠っていても不測の事態に即時対応できるのだ。
襲撃者がいた場合は妖精たちが率先して動こうとするだろうけど。
そのあたりはローズも察しているみたい。
喧嘩っ早そうなだけの態度だったけど、見るべきところは見ていたようだ。
さすがは夢属性の精霊獣カーバンクルってところかね。
なんにせよ俺たちは寝るだけ。
無責任なように思えるけど押してダメな現状は引くしかない。
果報は寝て待てとも言うしな。
いい加減、寝たかったというのもあるけどね。
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……目が覚めたら夕方だった。
なんにせよスッキリしたのは事実だ。
目の前の連中をビビらせないよう俺はゆっくりと起き上がる。
パピシーとケットシーたちは俺の前からずっと離れずにいた。
最初の片膝をついてうつむき加減の状態に戻っていたが。
『まるで忠臣だわ』
端からはそうとしか見えないはずだ。
別に俺はこいつらの頭領ではないんだがな。
もしかしてカラフル忍者のコスプレで自分たちに酔っているってことはないよな。
「……………」
無いとは言い切れないところが怖い。
「んー」
座った状態で伸びをする。
ぐぅと腹が鳴った。
そういや昨日から何にも食ってない。
空腹感を感じないのは体が特別製だからかレベルのせいか。
ただ、空っぽの胃が音を出すのまでは防ぎようがない。
「いやあ、悪い。
昨日から何も食ってないんでね」
ひとこと断りを入れて倉庫から軽く食べられるものを出そうと思ったのだが……
「「申し訳ありません!
すぐに何か用意させます!」」
カラカルとハスキーが同時に直立で立ち上がって早口で捲し立てた。
さすがにスピードに特化している忍者だけあって反応も行動も素早い。
行動に移られると面倒なので俺も即座に切り返す。
ただし、なるたけお気楽な調子になるように。
「ああ、待った待った。
食べ物は有り余るほど持ってるからさー」
……俺に軽薄なキャラは合わないな。
一応は笑ってみたつもりだが、まるで似合っていない。
これでも日本にいた頃じゃ考えられないくらい気を遣っているんだけどね。
元同僚たちが見たら目を丸くするだけでは済まないくらいには。
俺って陰では鉄仮面とあだ名されていたくらいだからなぁ。
今となっては俺の素顔を知るのは大学時代の約2名のみ。
まあ、二度と係われない相手のことを考えても仕方がないか。
それよか妖精たちだ。
俺の言葉に呆然としている。
ビビっていないのは有り難い。
『微妙で半端な笑顔でも役に立つものだな』
元のフツメン顔のままだったらどうなっていたかわからんが。
丁度いいかもしれないな。
「ちょっと早いけど晩飯にしようぜ~」
ゆっくりと立ち上がりながら言ってみる。
「くー」
返事はローズのみ。
楽しげに答えてくれたけど、逆になんか寂しい。
こうなりゃ、やけくそだ。
似合ってなかろうが軽いキャラで押し通す。
「じゃあ移動するよー」
反応はなくても付いては来るだろうと彼等をひょいと軽く飛び越えて歩き出した。
ちょいと行儀は悪いが彼等の意表を突けたと思う。
振り向かなくても気配だけで彼等が慌てふためいているのが手に取るように分かった。
俺の隣を滑るように歩いているローズが楽しげに喉を鳴らして笑う。
趣味が悪いよ、ローズさん。
俺が視線でとがめるとサムズアップで返された。
「くくっ、くーくくぅくうー」
大丈夫、これで流れが変わるって、ホントかよ。
肝心の妖精忍者たちは少し間隔を開け足音に覇気はないながらもゾロゾロとついてくる。
気配で確認したところ二列縦隊で一糸乱れぬというやつだった。
無意識でできるとかスゲーな。
とりあえず無言で歩き続けてダンジョンに入る前に降り立った場所に出た。
『さて、着いたわけなんだが』
ここはゴブリン討伐後に降り立った場所だ。
森林地帯といえども全体が満遍なく鬱蒼としているなんてことはない。
中にはここのように全員が寝っ転がっても余裕のある原っぱが広がる場所もある。
夕日の赤に照らされ草地が燃えているかのような錯覚を覚えた。
が、じきに日が沈んで暗闇に支配される。
そうなれば食事もできない。
俺は昼間のように補正できるけど半妖精たちには無理だ。
夜目が利くとは思うけどモノクロで見えるってだけだろうし。
『光源をどうにかしないとな』
キャンプファイヤーみたいなのは却下。
食事のために多少の火は使っても、派手なのは森林火災につながりかねない。
雰囲気があって盛り上がるとは思うけどね。
『となると熱源のない光魔法だな』
マルチライトだと光源としては弱すぎる。
原っぱ全体を明るくするには特大サイズにするか、より強い光源にしないとな。
特大のは隅々まで照らそうとするとデカくなりすぎる気がする。
光源を強くするのも問題がある。
『強い光は目を痛めるからなぁ』
デカくしても強くしてもダメなら数で対応だ。
空間だけでなく周囲の木々にもマルチライトを使ってみるとしよう。
俺は右手を高く挙げて次々とマルチライトを放っていく。
ただし、連射速度は控えめにした。
飛ばす時もゆったりと弧を描くような感じで優雅さを演出する。
攻撃魔法に見えないように。
妖精たちをビビらせちゃ意味がないのでね。
あと色は工夫してみた。
宙空に浮かせる方は昼光色のみとしたけど。
周囲の木々の方は一部をクリスマスツリー風にしてみた。
明滅するカラーの光球をちりばめたのだが……
『季節外れなんてもんじゃねえな』
辺り一面が雪景色に覆われてこそのツリーだと思った。
「くっくー」
ローズはぴょんぴょん跳びはねて喜んでいるけど。
妖精たちも物珍しそうに周囲をキョロキョロ見渡している。
その姿からは怯えは感じられない。
こういうのも怪我の功名というのだろうか。
とにかく食事の用意だ。
俺がチョイスしたのはバーベキュー。
手っ取り早く準備してすぐに食べられるからな。
いくつかの食材は下ごしらえしてあるし。
主に一昨日の成果である海竜の肉と海の魚なんだが。
貰い物の野菜なんかは魔法で切ればなんとかなるだろ。
『問題は炭火焼き用のコンロだ』
倉庫には格納されていない代物である。
ここで錬成魔法の出番となる。
コンロと炭は高校時代の部活の合宿で使ったから問題なく複製できる。
家を錬成するより楽な仕事だ。
マジックショーのように1・2・3のカウントでハイ出来上がり。
いきなり出現した物体に原っぱに広がっていた妖精たちは声を出して驚いていた。
そこへ有無を言わさず食材をドン!
野菜は理力魔法で浮かせて風魔法でズバズバ切断して各コンロへと供給。
魚や海竜の肉は漁の後に処理してあったからそのまま投入。
炭火は最初から点いた状態にしておいたから、あとは待つだけ。
そこかしこから香ばしい音と匂いがし始めるまでの間に食器を用意する。
これまた合宿で使ったアウトドア用のアルミ食器と箸を複製だ。
「よーし、全員両手を出してくれるかー。
チョーダイって感じで掌を上に向けてなー」
隣同士で顔を見合わせる妖精たち。
反応が鈍い。
そしたらローズが俺の目の前にやって来て両手でチョーダイした。
「くーくー」
『はよくれって……』
即物的な台詞が見た目の可愛らしさと正反対だ。
でも、それが呼び水になったらしい。
パピヨンっぽいパピシーがローズの真似をした。
『うはっ、プリチー』
毛深くて掌が肉球感満載のお手々だけど可愛らしくて和んでしまう。
軽く尻尾を振っている様子からすると期待している風でもある。
それを見たロシアンブルーと三毛っぽいケットシーが続いた。
こいつら小さめだから、まだ子供なのかもね。
なんにせよ誰かが始めると皆が追随していくものだ。
程なくして全員が手を出してくれた。
「それじゃ今から食器出すからなー」
断りを入れてから深皿とその中に収まる箸を出した。
カランとそこかしこから音がする。
アウトドア用のアルミの皿と木の箸の組み合わせだからだ。
俺は箸を手に取って掲げた。
「これは箸といってこうやって持つ」
周囲を見渡すと真似をしてくれている。
変な持ち方をしている奴は誰もいないのは凄い。
「これで食べ頃に焼けたやつを皿に取り分けろ。
食べるときも掴んだり切ったりして使う。
使いにくいなら突き刺してもいいぞ。
本当はマナー違反だが今日は無礼講だ。
みんな気にせず楽しんで大いに食ってくれ」
「くー!」
ローズがタイミング良くジャンプして箸を持った右手を突き上げる。
思うんだけど、コイツ狙ってやってるよな。
明らかに妖精たちが誘導されているし。
悪いことじゃないから気にしてもしょうがないか。
それよりも飯だ。
が、妖精たちは箸を持ちはしたものの、まだまだ遠慮がある。
ローズが自分の皿に十分に焼けた食材を取ったのを遠慮気味に見ていた。
あるいは互いを見合わすだけだ。
『そんなことは計算済みなのだよ』
「焦がすと食えなくなるぞー」
この一言で妖精たちは慌て始めた。
焼けたものから皿へ取り食べていく姿が見受けられるようになった。
『さすがに食べ物は粗末にできないよな』
俺も適当に近場の炭火焼きコンロからあれやこれやを取ってきて食ってみる。
うん、野菜はベリルママが用意してくれただけあって実に旨い。
この中で一番の低評価は海竜の肉だ。
マズくはないが何かが足りない。
なんだろうと考えて唐突に気づいた。
『調味料だ!』
塩胡椒もしてないから肉の素材だけで勝負するしかないのが痛いよな。
こんなことなら魚のように捌くときに海水に浸しておくんだった。
塩味がつくだけでも旨味が引き立てられただろうからなぁ。
失敗だと思っていたら、そこかしこで歓声が上がる。
「旨いニャ!」
「こんなの初めて食べた」
「ワンダフォー」
そんなことを言いながらガッツ食い。
中には遠吠えしたり、むせび泣きながら食ってる奴もいる。
不憫すぎてこっちが悲しくなるだろが。
『どんだけ食に不自由してたんだ……』
が、逆に気合いが入るってもんだ。
食材はまだまだあるぞ!
読んでくれてありがとう。




