221 突入したら首輪を回収することになった
改訂版です。
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「ちょっと待ってください」
マリアが困惑の表情を浮かべている。
「神経がズタズタになるというのは……」
ハマーたちもマリアの言葉を聞いて徐々に青ざめた顔になっていった。
「死ぬまで地獄の苦しみを味わうな」
俺の言葉に一同ドン引きである。
「やり過ぎだと思うか?」
「城内には働かされている者もおるだろう」
困惑しながらもハマーが答えた。
「真っ当な人間はもれなく奴隷の首輪をつけられているから見分けるのは簡単だ」
メタルワイヤーを張り巡らせて探索した結果なので間違いない。
「犯罪奴隷じゃないのか!?」
「この国の上はクズばっかということを忘れてないか」
そんなだから隷属の首輪は宝物庫の一角に山ほど積み上げられていた。
しかも服従の強要や逃走の防止は念入りに作り込まれている代物だ。
これを量産する魔道具も発見した。
どちらも俺の倉庫に回収済みである。
「それにしたって奴隷以外にも普通の人間はいるだろう」
「ハマーよ、ハルトを過小評価しすぎじゃ」
俺が答える前にガンフォールが援護に回ってくれた。
「そのあたりも把握済みのはずじゃろうて」
その言葉に愕然とした表情を浮かべるハマー。
俺の方へ恐る恐る視線を戻してきたので肩をすくめることで返答の代わりとした。
「なっ……」
ハマー撃沈である。
だが、いちいちフォローはしていられない。
それをすべきは月狼の友の面々だからな。
「本気は出し切れないだろうが、さっきよりはマシだろう。一部は例外だがな」
手加減の練習は終わりというわけだ。
「充分や、贅沢は言われへん」
「そうそう。フラストレーションが溜まらないってのが重要よね」
そう言いながらレイナが獰猛な笑みを見せた。
「フッフッフ~、腕が鳴りますねー」
だからニコニコで不穏な空気を振りまくなよ、ダニエラ。
「「やるよやるよー!」」
懸念事項がなくなった双子たちも、やる気満々である。
「一部というのは?」
リーシャは聞き逃さなかったか。
「ルボンダの野郎と関係者は防御効果を強めにしておいた」
簡単に死なれちゃ困るからな。
「全員が少なくとも一発ずつ入れられるようにしないとな」
そういうことだから久々に消化専用魔法ディジェストを使って食べたものをリバースしないようにもしてある。
「さっすが、わかってるー!」
レイナがフィンガースナップで指をパチンと弾いた。
他の面々も更にやる気を増したようだ。
先程から静かなノエルも、それは同じであった。
「それじゃあ突入するぞ!」
「「「「「おーっ!」」」」」
月狼の友のメンバーは気合いを入れ直した。
まずは正面のデカくて悪趣味な装飾の施された門からだ。
「「「「「最初はグー!」」」」」
え?
「「「「「ジャンケンポン!」」」」」
何故このタイミングでジャンケンなんだ?
特に説明もなくジャンケンが繰り返されリーシャが勝ち残った。
なんなの?
「やったれ! リーシャ!!」
「まずは宣戦布告の一発だ!」
「「ぶっ壊せー!」」
「派手なのお願いしますー」
あ、そういうこと。
門の正面に立って両拳を脇に構えて両脚をザッと広げるリーシャ。
「はぁ───っ!」
空手家のように息吹を行い精神集中を行いパワーを溜める。
「せいっ!」
短い掛け声と共に魔力が乗せられた掌底突きを放った。
ズドォーン!
門扉が閉じたまま飛ばされ城にぶち当たる。
ドッパッ──ン!
吹っ飛んでいる間に隅々までダメージが伝播した門扉は衝突の衝撃に耐えきれず粉々に砕け散った。
破壊の振動が俺たちの所まで地響きとなって伝わってくる。
「「「「「イエ───ッ!」」」」」
月狼の友の面々も盛り上がっていた。
いよいよ敵が来るという高揚もあるのだと思う。
ただ、敵兵が現れたのは城内に入ってからだった。
「ききき貴様らっ」
おまけに出てきたのが屁っ放り腰で槍を構えたヒョロガリ兵士1人。
警備はザルと言う他ないな。
この城はこの国の民にとって恐怖の象徴となっているが故に誰も近寄ろうとしないのだろう。
「ここここのバーグラー城に──」
「うっさいわ!」
アニスのボディアッパーによってヒョロガリ兵士の言葉は途中で遮られた。
くの字に折れ曲がった兵士は吹き抜けになっているホールの天井へ叩き付けられる。
「───────────────っ!」
落下したヒョロガリは殺虫剤をまともに浴びたGのように地面に伏せたまま暴れている。
その動きは徐々に弱まっていき、直に止まった。
「自分でやっといて言うのもなんやけどエグぅ」
奴隷以外はクズしかいないとわかっているせいか口ぶりの割には同情しているようには見えない。
「コイツの罪状は数え切れないほどの強盗殺人と集団暴行だ」
一応、見ていた面々には説明しておく。
無残な結果に張り詰めていた空気はそれだけで霧散した。
「そんなのしかいないの!?」
クズっぷりに対する見積もりが甘かったのかレイナが今更ながらに憤慨している。
「むしろ、これ以上の奴らばかりと思った方がいいぞ」
「ええー」
心底、嫌そうな顔をするレイナ。
「様子見のために下っ端が送り込まれたと考えるのが妥当だろ?」
「あー、納得だわ」
レイナは不機嫌さを残したまま大きく溜め息をついた。
「だが、これで気兼ねなくやれるのはハッキリした」
リーシャも怒りを滲ませる表情になっている。
「せやで。コイツも人の形は保っとるし天井も壊れてへん」
アニスが指差す先はヒョロガリが勢いよく叩き付けられた天井。
そこにはヒビひとつ入っていない。
まあ、振動や音は城内に伝播しているけどな。
そのまま奥へ奥へと進んでいき晩餐会の行われていた広間の手前まで来た。
扉は城の門扉に比べれば薄いベニヤ板のようなものだが、ぶち破るような真似はしない。
扉の向こうには槍を手にした連中が大勢待ち構えているだけで本命がいないからだ。
この広間にいるのは奴隷の戦士のみであり絶対に侵入者を殺せと命令を受けている。
つまり死ぬまで戦うしか道はない訳だ。
無理やり奴隷にしておいて使い捨てとは反吐が出そうになる。
ヒョロガリ兵士の次に遭遇した兵士の1人をメッセンジャーに仕立てた結果がこれだ。
豪奢な服が似合わない盗賊面の王は隠し通路で逃走中である。
晩餐会の出席者の前で形振り構わず使ったことで隠し通路の意味が無くなってしまっているがな。
当然、王以外の連中も使っている。
出口は謁見の間だ。
「ガンフォール」
「なんじゃ?」
「中には入らず、ここで待っていてくれ」
「何をするつもりじゃ」
「ノエルたちを連れて逃げた連中を片付けてくる」
「扉の向こうにも気配があるんじゃが?」
「侵入者を殺せと命令された奴隷だけだ。中に入らなければ何もできない」
「わかった」
躊躇なく返事をしたガンフォールの言葉を受けて俺と月狼の友の一同は謁見の間へと転送魔法で跳んだ。
そして光学迷彩の魔法を使いつつ宙に浮いて待ち構える。
やがて王が姿を見せ王子が続いて出てきた。
その後も続々と謁見の間に現れる。
大半は派手に着飾った連中だったが中には何かの制服を着たガチムチの巨漢のようなのもいる。
そして……
「「「「「っ!」」」」」
ノエルたちの殺気が一気に膨れ上がった。
大本命である段ボール野郎がようやく出てきたからだ。
逃げ出す際に派手に転んだせいで最後になったのは滑稽というものであろう。
なんにせよ役者はそろったので結界を展開して出入り口はすべて封鎖。
ようやく会えたのだから逃しはしない。
じきにお別れだけどな。
読んでくれてありがとう。




