218 ロケットパンチを止めてみた
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
動き始めに目が光るとか巨人兵の制作者は分かってるね。
まさか異世界転移してきた日本人とか言わないよな。
おっと、悠長に考えている場合じゃないな。
巨人兵を起動させた奴はかなり焦っていたのか3体同時で起動させている。
俺が見せた幻影が本物だとしても1体で対応可能なはずなんだが。
おまけに幻影はロックカノンの発射時に消している。
それっぽく演出するより訳のわからない状況に追い込んだ方が混乱するだろうからな。
「巨人兵が攻撃してくるぞ」
巨人兵が右腕を突き出すように水平に持ち上げた。
標的となる騎兵部隊は消えているのにロケットパンチを撃つつもりか?
牽制にはなると判断したのなら頷けなくもないが……
「何処に撃つつもりなんだよ」
3体ともてんでバラバラの方向へ腕を向けている時点で自棄を起こしているのは明らか。
魔力の無駄遣いで向こうが自滅していくのは勝手だが、こちらも訓練の機会が減るのは困るのだよ。
「そっちの光学迷彩解除するぞ」
月狼の友の一同に呼びかける。
「「「「「了解」」」」」
返事を受けてノエルたちの光学迷彩を解除し、同時に後ろにいる俺たちに被害が及ばないよう障壁を展開した。
不意に出現した月狼の友の一同に更に混乱する向こう側。
中には意味不明な言葉を叫びながら闇雲に剣を振り回して突っ込んで来るのもいる。
「うわー、絶望的に練度が低いやん」
「そんなの今更じゃない」
アニスとレイナが呆れるのも無理はない。
よくもこんなのを国境侵犯の実行部隊として送り出したものだと思う。
コイツらの上の連中は指揮官が御しきれると判断したのか?
副官らしき奴と揉めている時点でお察しなんだが。
「手加減の練習だということを忘れるなよ」
各々からバラバラに返事はあったが気が抜けている。
ここまで酷いと拍子抜けもするか。
「巨人兵はどないするん?」
処理方法をアニスが聞いてきた。
そういや鬱憤を晴らせとは言ったけど、それだけだったな。
「破壊していいぞ」
「えー、鹵獲するんじゃないの?」
玩具にして遊ぶ気満々だったのか面白くないとばかりにレイナが聞いてきた。
「ガラクタで遊ぶ趣味はない」
鈍重な動きを見ればロケットパンチ以外はお察しの出来だ。
「なーる、納得」
「ああ、でも超高熱とか分解の魔法は使うなよ。内部構造の確認ぐらいはするからな」
「りょーかーい」
気の抜けた返事を返してくるレイナだが、その瞳は正直だ。
縛りがあった方がやりがいがあるってところか。
「撃ってきませんよぉ~」
続いてダニエラが状況を報告してきた。
巨人兵を操作している奴らをどうすべきか指示を仰ぎたいのだろう。
相変わらず指揮官は副官と揉めている。
どうやら巨人兵を動かす数でそんな風になっているようだ。
3体で圧倒して瞬殺したい指揮官と1体で充分だという副官。
遮音結界はそのままにしてるから彼らの会話を聞いた訳ではない。
その気になれば特級スキルの【遠聴】で聞けるのだけど熟練度が低いので【読唇術】スキルを使った。
こちらは上級スキルではあるが熟練度がカンストしているので安定感があるからね。
【天眼・遠見】スキルと組み合わせれば死角に潜もうが関係なく読み取れる。
「副官が頭に血が上った指揮官をなだめながら入れ知恵しているようだな」
撃たなくても威嚇にはなるとか巨人兵は立たせておくだけで敵を威圧するとか余計なことを吹き込んでいる。
「誰か副官を──」
そう言いかけたところで光の円盤が瞬時に飛んでいき副官の首が落ちた。
「「っ!」」
声にならない短い悲鳴が2人分。
王女とマリア女史だ。
他にもハマーやボルトが驚愕の表情で固まっている。
エリスは頬を引きつらせてはいたが耐える感じだ。
副官の首がポロリして血が噴火のように噴き出しているんじゃ無理もない。
早々に魔法でバフっておいた。
「あれは何をしたんじゃ」
ガンフォールはやや驚きつつも質問する余裕はあるようだ。
「ノエルが魔法で光の円盤を射出したんだよ」
ライトサーキュラーソーである。
「凄まじい切れ味じゃな」
「ホントは対アンデッド用の魔法なんだけどな」
切れ味が鋭くて使い勝手が良いから使ったと思われる。
「巨人兵が雑魚というのも頷けるわい」
などと暖気に会話している場合じゃないんだけどね。
俺の魔法が間に合ったお陰で王女はふらついたものの踏みとどまってはいたけどな。
そのままマリア女史に支えられて元の姿勢に戻っていた。
「スマンがこういうのも見届けておいてもらいたい」
「いえ。こういう経験も王族としては必要だと思っています」
バフがかかっているとはいえ気丈にもキッパリと返事をする。
腹はくくったようだな。
一方で駐屯部隊の連中は凍り付いたままだ。
副官の死を簡単には受け入れられないのだろう。
そんな中で真っ先に反応したのは指揮官であった。
身振り手振りを交えながらマイクに向かって何かを喚き散らしている。
次の瞬間、巨人兵の右肘の辺りから爆炎が吹き出し始め肘から先が月狼の友の面々に向かって勢いよく飛んで来た。
まさしくロケットパンチ。
続いて左腕も発射態勢に入って打ち出される。
「危ない!」
ボルトが叫んだが、直後にロケットパンチはガシッと受け止められていた。
「え……」
「ウソだろ、おい」
目の前の光景にボルトが呆然とし、ハマーが呻いている。
無理もない。
勢いをつけて飛んで来た岩の塊を平然と止めたんだからな。
普通は人身事故のような有様になっているところだ。
しかも未だに肘側からはロケット噴射のように火を噴いてるし。
まあ、ノエルたちは涼しい顔で止めているけど。
「思ったより凄いおもちゃだな」
もっと残念な感じのやつを想像していたんだけど。
「そう言いながら平然と見ておるではないか」
ガンフォールから苦笑交じりのツッコミが入った。
「あれを見よ」
ガンフォールの視線の先では駐屯部隊の連中が首を突き出し目玉が飛び出しそうな勢いでガン見していた。
口なんて「いぃ─────っ!!」とか言いそうな形で固定されている。
ロケット噴射によって月狼の友の面々を押し潰そうとしている岩の拳がビクともしないからな。
「お、弱なってきたで」
「この程度なの?」
「撃ち出された時は期待したんですけどね~」
「「期待外れだよぉ」」
「しょうがないさ」
皆がそんな風に言った直後ぐらいに噴射が止まり手首の方から逆噴射が始まった。
みんな反射的に飛び退いたが追加の攻撃ではない。
ロケットパンチが巨人兵の方へと戻っていくだけのことだ。
「びっくりしましたね~」
ほにゃっとした笑顔で言われても吃驚したようには見えないぞ、ダニエラ。
「なんということだ……」
ハマーが呟くが、これくらいでショックを受けないようになってほしいものだ。
そうこうする間にロケットパンチの方は巨人兵の腕へと接続されていた。
が、それですぐに発射準備完了とはならないようだ。
「モタモタしてると今夜中に全部終わらせられないぞ」
「おっと、いけない」
リーシャが真っ先に我に返る。
「せや、すっかり忘れとったがな」
「そんじゃまあ、行きますか」
やけに爽やかな笑顔でパキパキと拳を鳴らすレイナ。
「練習なんだからやり過ぎるなよ-」
「はいはい」
どうにも不安だ。
レイナの軽すぎる返事のせいではない。
駐屯部隊の連中が完全に及び腰であるにもかかわらず逃げ出す素振りがないせいだ。
必殺であるはずのロケットパンチを平然と防いだからなぁ。
蛇に睨まれたカエル状態になっている。
「練習になんのかな」
ノエルたちが上手くやってくれることを願うばかりである。
読んでくれてありがとう。




