214 万死に値する
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
やっちまった感が半端ない。
精神的に追い込んでおいて泣かせたのに怒鳴るとかアホの所業である。
呆気にとられたマリアは泣き止んでいたが、この対応はフォローのしようがない。
まさに覆水盆に返らず状態である。
にもかかわらず一向にリアクションがなかった。
誰からも。
周囲の視線も更に厳しくなるどころか弛緩して「しょうがないなぁ」という雰囲気になっている。
なんでだ!? サッパリ分からん。
「ハルトならそう言うじゃろうと思うたわ」
そりゃ、どうも。
じゃねーよ。元ぼっちの俺にはサッパリだ。
「そこまでの覚悟を持っておるならばワシも一肌脱ぐとしよう」
なんだか急にガンフォールが仕切り始めた。
自己犠牲の痛々しい姿を見せたマリア女史に同情したようだが、急な展開に俺は置いてけぼりを食らった気分だ。
「お嬢ちゃんを説得するのは任せろ」
とは言うが、いかにガンフォールでも説得は失敗するだろう。
クリス王女は天然だが同時に筋金入りの頑固者だ。
良い言い方をすれば非常に根気強い。
そんな彼女が一度決めたことを撤回するなど考えられない訳で……
この決意を引っ繰り返すためには説得する前に大きな一手が必要になる。
王女が嫁ぐ先を無くしてしまえばいい。
相手がいなきゃどうしようもなくなるからな。
これで万事オッケー、問題解決と言いたいのだが……
地図情報をチェックしていて別の問題を見つけてしまった。
「リーシャ」
「な、なんですか」
自称狼耳さんとは関係のない話をしていたはずが急に呼びかけられて狼狽えている。
「ルボンダの野郎をどう思う?」
俺がこう言っただけで元月狼の友のメンバーが色めき立った。
「ボコるに決まってるやん!」
狐の尻尾をピンと立てて憤慨してらっしゃるアニスさん。
「それじゃ手緩い」
とか言っているのは猫尻尾を膨らませたレイナだ。
「ブッコロに決まってるじゃない!」
何それ? 一瞬、ブロッコリーかと思ってしまいましたよ?
まあ、伏せ字代わりに単語からスを抜いただけだ。
マリアもいるし物騒な物言いを少しでも緩和しようとしたんだろう。
双子はダニエラと一緒になって地団駄踏んでいるし。
ダニエラがそれをすると特定部位が激しく揺れるので眼福……
いや、こんな時にポヨンポヨンしたもののことを考えるとか不謹慎だ。
そんなことより一番の被害者であるノエルはというと……
相変わらずほぼ無表情なんだけど、不機嫌さがありありとわかるほど周囲の空気を暗黒化させていた。
良い子さんなノエルに脂ぎったブタ親父とか禿げてて息が臭いってハッキリ毒を吐かせた相手だもんな。
最上級で嫌っているのは間違いないね。
リーシャも言葉を発してはいないものの憤怒の形相である。
月狼の友の誰を見ても殺気を漲らせ「殺ってやるぜ!」と顔に書いていた。
事情を知らないルーリアが目を丸くしていたほどだ。
「なんなんじゃ、お主ら」
ガンフォールが面食らっていた。
ダンジョンの中で戦闘をしていたときでさえ平常運転だった彼女らの様子に気押されているのだ。
「殺気立つのは時と場所を選べよ」
俺に注意されて、皆もようやく少し抑え気味になった。
「「「「「ほっ」」」」」
うち以外の面子が一斉に安堵の息を吐き出し困惑の表情で月狼の友の一団を見ている。
マリアでさえ「何が何だか」という顔でノエルたちを見ていた。
「ハルトよ、お主が言った名前の者は何者だ」
ガンフォールが悪夢から目覚めたかのように頭を振りながら問うてきた。
「ここまで怒らせるなど余程のことじゃろう」
動揺が収まりきらないのか、どうにか声を絞り出している。
「バーグラー王国のルボンダ子爵だ」
その名を口にするだけでノエルたちの殺気が膨れ上がりそうになる。
どうにか我慢はしているが気持ちはわかる。
俺もムカついているからな。
よろしい、ならば戦争だ。
ノエルを最上級で不機嫌にさせた罪は重い。
加えてつい今し方、女の子をひとり泣かせてしまったしな。
泣かせたのは俺だが、きっかけはバーグラー王国の連中である。
魂すら塵芥に変えてやりたいね。
「聞いたことのない名じゃが……」
余程のことがあったのじゃろうなと続きは目で語っていた。
「その名前でしたら聞き覚えがあります」
マリア女史の言葉にノエルたちの視線が一斉に集まった。
「ひっ」
だから殺気がこもってるって。
「禿げ豚はここにはいないんだ。ある意味、被害者なマリアを怯えさせてどうする」
指摘すれば我に返って殺気をしぼませる理性は残っているんだけど。
「すまんな。因縁が深すぎて名前を聞いただけで、あんな感じになってしまう」
「は……ぃ」
恐る恐るといった感じでなんとか頷くマリア。
今更ながらにバフ効果のある魔法で回復を試みる。
どうやら俺も冷静でないのは確実なようだ。
「で、どんなことを知っている?」
「件の王子の教育係として名前を聞いたことがあるのです」
これだけでも思わず顔をしかめたくなるような事実だったが続きがあるようだ。
「噂では盗賊団の副頭目だとか」
だとすれば頭目は王子で確定だな。
「他にも人身売買組織の責任者だという噂もあるようです」
クズの極みに行き着いた奴ならどれも頷ける話だ。
「禿げで豚で息が臭いという話は知ってるか?」
「……存じ上げません」
答えるまでに間があったのは三重苦であると聞かされて呆気にとられていたからだ。
禿げで豚で息が臭い中年親父が風呂上がりに鏡の前でポーズを取っているとか想像していた訳ではないだろうが困惑の色は濃い。
マリアはそういう情報を得ていない訳だし。
「そんな奴に直接なにか嫌がらせをされたら、どう思う」
「気持ち悪いです」
「それだけか?」
俺なら殺意を抱きそうだけど。
「さあ、どうでしょう。よく分かりません」
今ひとつピンとこないのか首を傾げられてしまった。
「だったら王女がバカ王子だかに嫁いだらどうなるかを考えてみろ。アレは側近なんだろう?」
俺が具体例を出すとマリアは完全に言葉を失い血の気が引いていた。
自分のことだと鈍感なのに王女のことだと敏感に反応するな。
「うちのは奴のせいで酷い目にあってるんだよ」
「えっ!?」
「逃げることはできたが追っ手もかかっていた」
「そういうことじゃったか」
詳細を語らずともガンフォールが納得の表情を見せた。
禿げ豚の評判を加味すれば想像がつくといったところか。
「執念深いというか気持ち悪さは筋金入りだ」
いくら逃がさないためとはいえ馬を滅多刺しにした、あのやり口には反吐が出る。
逃がす心配がなくなったと思ったら囲んで消耗させるように戦っていたし。
禿げ豚が具体的に指示していたかまでは知る由もないけれども部下は上司の意に沿うように動くのが普通だろう。
つまり、そういうことだ。
数や武器の質で劣った相手をねちっこくいたぶるなど禿げ豚の趣味が濃厚に出ていると言って良いはず。
そんな奴に慮る何かがあるはずもないよな。
向こうの国じゃ罪にならない?
知らん。
俺が極刑を言い渡す。それだけだ。
読んでくれてありがとう。




