201 往生際が悪いと酷い目にあう
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
禿げ脳筋のようなタイプはプライドが傷つく方が応えるものだ。
あえて距離を測るだけのようなジャブで肉体的なダメージを入れなかった。
それすらも挑発になるからだ。
怒り狂って力んでくれれば思うつぼってね。
そんな状態でスムーズに動けるはずはないし、頭に血が上っていれば攻撃パターンも単調になりやすい。
「うわぁ、ハルトはんも容赦ないなぁ。何かやることエグいと思わへん?」
アニスが隣にいるレイナにヒソヒソと話しかけている。
「そう?」
「あのペチペチを伏線にした挑発で禿げさんの動きが一気に悪ぅなったで」
「ハルトならあんなものでしょ」
「ハル兄なら普通」
ノエルがレイナの言葉に賛同する。
うちの子たちは同様に思っているようで失笑するか、その寸前で堪えているかといった具合だ。
まあ、中には……
『くぅくーくうー』
苦しー苦しひーとか言いながらバンバン地面を叩くジェスチャーで抱腹絶倒している遠慮のない誰かさんのような者もいるけれど。
霊体モードだから見えないし聞こえないというのはあると思うけどね。
ある意味狙い通りな反応ではある。
今も禿げ脳筋は怒りにまかせた勢いだけはある攻撃を繰り出してくるからな。
これを涼しい顔で躱し続けることで奴は意外に弱いと印象づけようというのが本当の目的だ。
『くくぅくぅ』
策士だねえとローズは言うもののミスひとつで策は瓦解してしまうので、それほど楽でもない。
ゲールウェザー王国の面々がどう思うかが大事だしな。
「見苦しい」
「まったくだ。あれで騎士を統括していたとは」
「名誉職も剥奪されるべきだろう」
負けが確定しているのに形振り構わずというのが駄目らしく騎士たちからは手厳しい意見が出ている。
兵士や文官たちも冷ややかな視線を送りながら似たようなことをヒソヒソと話している。
とことん嫌われているのか誰からも擁護するような言葉が出てこない。
禿げ脳筋のパワハラぶりが、うかがい知れようというものだ。
ガンフォールが他国の元大臣でありながら面倒な相手という認識をしていたくらいだし。
エリスに独善的と言わせていただけのことはある。
「周りを見てみろよ」
禿げ脳筋の攻撃が途切れたところで声をかけてみた。
「どう見てもお前のことを恥さらしって目で見ているぞ」
「な……にぃ!?」
憤怒の形相で首を巡らせる。
そして血走った目を大きく見開いて人間のものとは思えない咆哮を上げた。
「許さん、断じて許さんっ!!」
怒りのゲージが振り切れたらしく服が張り裂けそうなほどに筋肉が盛り上がる。
「ぬぅおおおぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びを上げながら突っ込んできた。
姿勢が低く踏み込みも深い。
回避など考えていないであろう突進は猪を思わせる勢いがあった。
下から大振りで突き上げようって腹か。
一撃必殺で決着をつけるという断固たる意志が殺気となって押し寄せてくる。
鬼気迫るものを感じたのか騎士や兵士たちは言葉を発することができずに固まっていた。
ダンッ!
大きく両脚を開いて踏み込んできた禿げ脳筋。
「貰ったぁ!」
全身のバネを使った重そうなボディブローが迫る。
バカみたいに大きく振りかぶっていたものだから拳の軌道はバレバレだ。
余裕で躱せるが、あえてそうはしなかった。
奴の左拳が俺の右脇腹に入ってくる。
「あげないよ」
ゴキン!
骨の折れる音がした。
そちらを見ると奴の左手首がおかしな方向に曲がっている。
俺は防具なんて着けていないが痛くも痒くもない。
伊達にレベル4桁じゃないのだよ。
「ぎゃあぁぁあああぁぁぁっ!」
脳内分泌物は品切れしたのか絶叫が周囲に響き渡る。
よろめくように後ずさり、右手で左腕を持ち上げている。
折れた拳の骨が突き出てしまっていた、
「うわぁ、スプラッタだなぁ」
そこだけ見たらゾンビかと言いたくなるような状態だ。
「馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿なぁ──────────っ!!」
表情を大きく歪ませて吠えているけど驚愕によるものか痛みによるものなのかが分からない。
両方か。
その割には殺気が消えていない。
痛みを思い出したってことは全身の骨折と内臓のダメージの分も一気に襲いかかってきているだろうに。
まだまだ痛みより意地と憎悪が上回っているのか。
よーやるわ。
「このワシが敗北するなど有り得ぬ!」
どんだけ往生際が悪いんだか。
バカは死ななきゃ直らないってことなんだろう。
「戯言を言うのは酒の席だけにしておけ」
「ぬわんだとぉっ!」
うはっ、凄い勢いで睨みつけてきたぞ。
闘志は未だに衰えないようで禿げ脳筋は大きく右の拳を振りかぶるモーションに入った。
「ふぬぅあぁっ!」
体格差を利用して右の拳が打ち下ろされる。
まともに受けると叩き付けるような衝撃を後ろに逃せず、すべてがダメージとなる攻撃だ。
普通なら、ね。
「なんだかなぁ……」
学習しない禿げである。
それと俺は二度も黙って殴られてやるほどお人好しではない。
奴が俺の顔面を狙うなら尚更だ。
瞬時にバックステップして距離を取るが奴は反応できていない。
距離を取ったまま素早く左を突き出せば拳同士が打ち合わさった。
ゴキャ!
確かな手応えと嫌な音がしたが構わず振り切った。
止めた方が嫌な感触が伝わる気がしたからだ。
念のため軽く力を抜く感じではあったが禿げ脳筋の右腕はグルンと奴の背中側に弾き返された。
それだけでは勢いを殺しきれずガチムチの巨体を何メートルも吹っ飛ばしてしまう。
「ぐぅおあああああぁぁぁぁぁぁあがぁぁぁっ!」
結果、禿げ脳筋の右拳は左のそれとは比べるべくもないほどグシャグシャになっていた。
腕も関節が幾つあるのかというような見た目になってしまっている。
とはいえ加減していなければ腕は千切れ飛んでいたことだろう。
どうやらレベルアップしたことの影響が出ているらしい。
レベル1024だった頃の感覚のままで【身体制御】スキルを使っていたのが駄目なようだ。
【手加減】の上位スキルであり特級スキルだから頑張って仕事をしてくれたんだけど、俺の感覚の差が出てしまったみたい。
レベル差が1とか2ならともかく今の俺のレベルは1031だ。
低レベルの頃と違って7レベル差は大きい。
そこに気付かない俺もどうかしてると思う。
危うく他所の国民を殺してしまうところだった。
なんにせよ、今回ので1031レベルの感覚が掴めた。
次回以降はこんな惨状を披露することはないだろう。
ただ、そうそう同じようなことなどあっては堪ったものではないのだが。
俺も相手も、ね。
「うぎゃぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁ────────っ!!」
吹っ飛んだことで落下ダメージも入ったせいか禿げ脳筋が絶叫しててうるさい。
普段ならどうということはないのかもしれないが、今回は重症レベルのダメージが入っていただけに激痛が絶え間なく襲いかかってくるのだろう。
『くーくぅくくぅくくー』
生きている証拠だよぉとローズさんは容赦ない。
俺も同感ではあるがな。
さすがに殺気は消えたが、それでも戦意は喪失していないらしい。
どうにか上体を起こして座り込んだ体勢となった。
「まだ立つ気かよ」
悪霊に取り憑かれたんじゃないかと思うほどの執念深さを見せてくれる。
このままだと死ぬまで諦めないかもな。
心を折らないとダメか。
どうにかできそうなネタはある。
鑑定結果によると相当執着しているみたいだし、たぶんいけるだろう。
問題はかなり恨まれそうってことだ。
そういうのはシノビマスターに引っ被ってもらいましょうかね。
読んでくれてありがとう。




