200 終わりかと思ったのに
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
禿げ脳筋で引っ張ります。
不快に感じた方はごめんなさい。
「凄い……」
ボルトが呆然とした面持ちで呟いた。
「ワシでも手こずりそうな攻撃を軽々とさばいているな」
ハマーが同意する。
2人が言うように禿げ脳筋は決して弱くはない。
にもかかわらず誰が見ても完全に遊ばれている状態だった。
ハルバードは既に何百以上と空を切っており、このまま続ければ千を越えるのも間違いない。
相手を捉える兆しすら見えないとなれば、腹立たしくも感じるだろう。
「ふぬぅあああぁぁぁぁぁぁっ!」
禿げ脳筋は苛立ちを隠そうともせず己を鼓舞するように吠えた。
「おのれぇいっ、ぬわぜだぁっ!?」
攻撃の手は止めずに疑問を口にする。
苛つくと同時に驚きもしているようだ。
禿げ脳筋の実力はよく知られているようで周囲もざわめいていた。
素人が見ても重いと感じさせる攻撃が延々と続いている。
ボルトが相手だったなら防戦一方に追い込まれていたであろう激しさと変化に富んだ攻撃だ。
忘れた頃に突きを入れてくるかと思えば急に石突きの側を振り回してきたりもする。
槍と違ってバランスの悪いハルバードでそれだけのことをしてのけているのだ。
騎士や兵士たちにしてみれば見取り稽古をしているようなもので誰も彼もが見入っている。
長年の努力が実を結んだ結果と言えるだろう。
称賛に値するのはそこだけだがね。
実力だけはあるパワハラ上司みたいなものか。
「せあぁっ!」
苛立ちが頂点に達したのか禿げ脳筋が気合いの乗った大上段を振り下ろしてきた。
そんな大振り当たるわけないだろうが、と思ったら。
振り下ろしの最中に突きへと切り替えてきた。
力技で強引に軌道を変えているから、かなり意表を突いている。
が、それもシノビマスターは今までのリズムを変えぬままスルリと躱した。
「あれを易々と躱すかよ」
ガンフォールが唸るだけはある攻撃だったようだ。
「馬鹿なっ!?」
禿げ脳筋が驚愕している。
もしかして奥の手だったのか?
強引に軌道を変えた攻撃だから鋭さもキレも速さもない上に単発の突きなんだが。
格上の相手に使うにはギャンブル性が高い決闘用の決め技ってところか。
互角の相手なら虚を突かれてまともに入っていたかもしれないけど相手が悪い。
禿げ脳筋はそれが理解できないらしく完全に動きを止めてしまっていた。
多少、息は荒げているが精根尽き果てた感じではないところを見ると相当ショックだったようだ。
ここが戦場なら致命的な隙だぞ。
そうでなくても突きの終わった直後は無防備になっていたけどね。
通用しなかった時のことを考えておけっての。
まあ、それを教えてやる義理はないし続ける義理も道理ない。
だから終わらせる。
「ソノ程度カ」
「なにっ!?」
シノビマスターはハルバードの柄を片手で掴むと禿げ脳筋ごと軽い所作で振り上げた。
「う、うわぁぁぁっ!」
直上近くまで振り上げたハルバードが無造作に振り下ろされると、禿げ脳筋が石畳に叩きつけられた。
ズダン!
「ぐあっ!」
禿げ脳筋の口から血が吐き出された。
骨折だけでなく内臓にもダメージが入ったな。
ほとんど受け身が取れぬままハルバードの柄の長さが加わった高さから投げ落とされれば当然か。
鍛えているだけあって死ぬことはないのだけど。
「お、お……のれっ……」
気力だけは萎えていないようなので、それもへし折る必要があるな。
奴の手がハルバードから離れているから再び叩きつけることはできないのだが。
それをすれば死んでしまうから問題がある。
あんな奴でもこれから交渉する相手の国の人間だし俺が守られた格好になっているからなぁ。
あ、俺が止めればいいのか。
「それくらいにしておけ。禿げ脳筋のダメージは浅くないぞ」
俺の言葉に場の空気が凍り付いた。
どういうこと?
あ、禿げ脳筋の顔が茹で蛸みたいに真っ赤になっている。
こんな状況なのに両隣から笑いが漏れてきた。
「クックック、禿げ脳筋か。ハルトよ、それはまた上手いことを言うのう」
ガンフォールめ、俺がデリケートな状況に立たされているのに笑いやがって。
「笑ってないで止めろよな」
「大丈夫じゃろ。もはやアレもまともに動けまい」
「ですね」
忍び笑いでどうにか止めようというエリスも同意していた。
そのうちなんとか我慢しようとしていた騎士や兵士からも耐えきれなくなったのか失笑する者が出始めた。
禿げ脳筋の顔が赤を通り越してドス黒くなってきているのを見て笑いが止まる奴もいるようだけど。
どうやら禿げ脳筋は、禿げという単語に敏感なようだ。
そんなに禿げを気にするなら引きこもってろ、とは全国の禿げた御仁たちを敵に回しそうな発言になりそうなのでストップだ。
とにかく引きこもって二度と出てくんなと言ってやりたい。
想像するだけで嫌になる引きこもりだな。
とにかく二度と出てこないでほしい。
さて、どうしてくれようか。
俺が禿げ脳筋の処分をどう要求しようか考え始めた所で奴が動き始めた。
全身をブルブル震わせながら立ち上がっていく。
その表情は頭から湯気が出そうな勢いで血を沸き立たせているかのようだ。
そんなに禿げという言葉が気にくわなかったのかね。
「うぉおがぁあああああああああぁぁぁぁっ!」
両拳を腰だめに構えて意味のない咆哮を上げると、もはや武器など不要とばかりに素手状態で殴りかかってきた。
全身を骨折してるのによくやるわ。
ダッシュでこちらに向かってくる様は周囲の文官たちが腰を抜かしてしまうほど鬼気迫るものがあった。
練度が高そうな兵士たちは気圧されながらも何とか耐えている。
とはいえ、禿げ脳筋を恐れて手出しできないらしく、それが精一杯のようだ。
だったら完全に隠居させるのが正解か。
「手を出すな。俺がやる」
前に出て護衛らしいことをしようとしていたうちの子たちを下がらせた。
「おい、ハルト」
ガンフォールが声を掛けてくるが前に出ることで、それ以上は何も言わせない。
そのまま奴との距離を詰める。
「まずは挨拶代わりのジャブだ」
ペチッとな。
触れるだけのパンチとも言えないようなジャブを当てる。
決してどくろ型スイッチを押す時の掛け声ではない。
「きぃかぁぬぅうっ!」
とか言いながら大振りで右ストレートを放ってくるけど、声を出すのも気力を振り絞らなきゃならん奴の戯言に付き合うつもりはないよ。
スルッと右に回り込んで左の追撃を封じつつペチッと2撃目。
「ぬうぅあぁっ!」
巻き込むような左フックが来た。
だが、更に左へ回り込んでペチッと3撃目。
打ち終わりに4・5・6のペチッと3連弾。
すべて顔面を捉えている。
捉えるというか本当に触れるだけなので威力は子供でも怪我をしないレベルだ。
「うぅぉりゃぁあああぁぁぁぁっ!」
今度は上段から両手を組み合わせて打ち下ろし。
そういうのは相手が完全に動きを止めた時にやるもんだ。
今度は左側に回り込みながらペチペチ入れておく。
「ホラホラどうした。禿げと言われて腹が立ったなら黙らせてみろ」
奴が動き出すタイミングを見計らってあおってやった。
「ぬぅおぉぅがぁあああぁぁぁぁぁっ!」
怒声を発するも追撃がない。
「おいおい、子供でも耐えられるような攻撃で効いてしまってるのか?」
そんな訳はない。
禿げ脳筋に入れたジャブは少しも効いてなどいないのだから。
効いているのは挑発の方だ。
最初から奴の頭に血を上らせるのが目的だったからな。
読んでくれてありがとう。




